第2388号 2000年5月22日


OSCEなんてこわくない

-医学生・研修医のための診察教室  編集:松岡 健(東京医科大学第5内科教授)


第4回 脳神経の診察

内海 裕也(東京医科大学第3内科)


≪診察のポイント≫

 神経診察は一般診察とは別に独立した診察手技であり,神経系の局所診断を行なうための重要なステップです。神経診察は,精神機能,脳神経系,運動・反射,知覚系,髄膜刺激症状,自律神経系の各系統に分かれており,それぞれチェックすべきですが,忙しい臨床現場では患者さんの症状により各項目は取捨選択されています。
 学生諸君は,卒業までに各系統の最低限の診察手技と,その所見から導き出される局所診断ができることを求められます。今回は,OSCEで採用されることが多く,しかも最も多数の診察手技からなりたっている脳神経系の診察について述べます。

■手順

神経系の診察をする旨を告げ,了承を得ます

(1)視神経(II 神経)
  (a)対光反射
   ペンライトを用い,直接・間接反応の有無を確認します
  (b)視野
   対坐法により視野の範囲を確認します

(2)眼球運動(III,IV,VI 神経)
  上下・左右方向,斜上,下方向の眼球運動および輻輳反応を確認します

(3)顔面の知覚(V 神経)
  三叉神経の3枝領域の触覚について左右差の有無を含め確認します

(4)顔面神経(VII 神経)
  額のシワ寄せ,閉眼(眼輪筋),口輪筋の動きを確認します

(5)聴力(VIII 神経)
  聴力(会話の声,指こすり,音叉など)を確認し,Weberテスト,Rinneテストを実施します

(6)舌咽,迷走神経(IX,X 神経)
  開口位で軟口蓋,咽頭後壁の動きを確認します

(7)副神経(XI神経)
  胸鎖乳突筋,僧帽筋における筋力の左右差を確認します

(8)舌下神経(XII神経)
  開口位で舌の萎縮を観察し,挺舌で偏位の有無を確認します

■解説

(1)視神経のチェック

対光反射は,ペンライトを被験者の目元まで持っていき,視野に入らないところから素早く瞳孔に光を入れるようにします。2-3回行なううちに,光を入れた瞳孔の反応(直接対光反射)と,対側の瞳孔の反応(間接対光反射)を観察します
 
視野の検査では,固視が大切です。被験者に検者の鼻のあたりをしっかり見ていてもらうか,検者がさし示したペンや指を注視してもらいながら視野の確認をします

(2)眼球運動のチェック

眼球運動は,注視してもらう指標(指,ペン)をゆっくり動かして観察してください。一番先で一旦指標を止めて指標が二重に見えないか確認してください。次いで指標を被験者の鼻先までもっていって輻輳反射を観察します

(3)顔面の知覚のチェック

顔面の知覚は,左右の三叉神経三枝領域を1つひとつ筆で触って確認してください

(4)顔面神経のチェック

上方を見るよう促し,額はシワ寄せをしてもらいます。次いで強く閉眼してもらい,最後に口をとがらせてもらったり,「イー」と口角を左右に引いてもらいます。顔面の動きをみる際,言葉だけでの指示では患者さんは何をしていいのか戸惑うことが少なくありません。検者が自ら顔面を動かして示し,同様のことをするように促してください

(5)聴覚のチェック

聴覚では,左右の聴力を確認した後にWeberテストを行ないます。額に振動した音叉をあて左右に音が偏位していないか確認します。その際「右か左に偏って聞こえますか」とわかりやすくたずねてください
 
Rinneテストでは耳介後部錐体骨に振動した音叉をあて「振動を感じなくなったら『すぐに』教えてください」と指示します。患者さんが「ハイ」と答えた時点で素早く外耳道に音叉を近づけ振動音が聞えるか確認します

(6)舌咽・迷走神経のチェック

舌咽・迷走神経では,開口位で「アー」と声を出してもらい軟口蓋・咽頭後壁の動きを観察します

(7)副神経のチェック

胸鎖乳突筋は,顔を左右に向けてもらい検者は患者さんの顎部に手をあてそれに抵抗するように力をいれて筋力を観察します
 
僧帽筋は肩をそびやかしてもらい検者は両手でこれを押さえるようにして筋力を観察します

(8)舌下神経のチェック

舌は開口位で舌の萎縮・線維性れん縮の有無を確認し,まっすぐに舌を出してもらい偏位の有無を確認します。その際もできれば検者が率先して挺舌をデモンストレーションしてください

・OSCEでは
1)所見を声に出して診察していく
 脳神経系診察では観察する項目が多いのですが,何を観察したのか声を出して正確な医学用語を用いて,テンポよく診察していくことです。
2)何をしてもらいたいのか自演して示す
 脳神経系診察では,患者さん(模擬患者)に実際にやってもらわなくてはいけないことが多く,検者自らが率先してデモンストレーションを行なってください。例えば,まつ毛微候をみるために,まずきつく自らが眼を閉じて患者さんに何をしてもらいたいかを示し,同様にしてもらってください。限られた時間内に正しく診察をしていくためにも,自らが実践して示し,リードしていくことが大切です。

●先輩からのアドバイス

■VTRを作ろう
 百聞は一見にしかずという言葉があります。一度自分たちで学んだことを模範手技としてVTRを作製してはいかがでしょうか。作製過程でいろいろな疑問が湧いてきます。それらを含めて誤りをチェックしてもらうために必ず神経内科医に見せてください。

■手技1つひとつの意味を理解しよう
 単に形だけを真似ているだけでは誤りも多くなります。1つひとつの手技には目的・異常を見つけるポイントがあります。それを押さえておけば自然にスムースに診察できます。

●調べておこう
 -今回のチェック項目

□同名半盲
□両耳側半盲
□黄斑回避
□外眼筋の作用
□共同偏視
□Horner症候
□Argyll Robertson徴候
□Adie徴候
□MLF症候群
□Onion peel分布(三叉神経)
□まつ毛徴候
□伝音性・感音性障害
□仮性球麻痺・球麻痺
□咽頭反射
□カーテン徴候

OSCE-落とし穴はここだ

どこからでもできるように

 OSCEで時間が足りなくなる場合,評価者から次の診察手技に移るよう指示されることがあります。そのような時に,筆記試験と同様に一夜漬けで対応しようとした学生の中には混乱して何をしてよいかわからなくなってしまう人がいます。通り一遍の形式だけの手技ではいけません。十分に訓練を積んでどこからでもできるようにしておいてください。

自己流はだめ

 OSCEではしばしば,限られた時間内に終えようと自分で勝手な工夫をした診察手技が見受けられます。神経診察は長い年月日を経てそれなりに洗練された手技です。1つひとつの動作に合理的な目的がはっきりあります。それらをよく理解して診察手技を身につけてください。誤った診察手技を見せられると評価者の心証は非常に悪くなります。