医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床心電図を学ぶ人のための入門ドリル

症例から学ぶ不整脈カンファレンス 山科 章 著

《書 評》山口 徹(東邦大大橋病院教授・内科学,日本心臓病学会理事長)

 著者の山科博士は,名著の誉れ高い五十嵐正男博士の『不整脈の診かたと治療』(医学書院刊)の共著者であり,私の三井記念病院時代からの知人でもある。その縁で書評を,との依頼を受けたと思うが,多少は戸惑っている。心電図にはあまりいい思い出はないからだ。
 思い出が2つある。1つは,筆者がまだ中学生の頃,開業医であった父が心電計を購入し,私から撮った心電図にディバイダーを当てて本と首っ引きで勉強していた図である。医者って大変なんだなあと思った。もう1つは,卒業した頃に心電図が嫌いで(正直に言えばよくわからなかった),循環器だけは専門にしまいと決心していたことである。おそらく今日でも,学生に循環器の授業の中で何が最も難しいか,あるいは嫌いかと問えば間違いなく「心電図」という答えが返ってこよう。理由は簡単である。わからないからである。もう一歩踏み込んで言えば,1本の線が描き出す不思議を機序も含めてわかりやすく教えてくれる先生に出会わなかったからである。私も例外ではなかったわけである。
 私にはもう1つ心電図が嫌いなわけがあった。循環器疾患のすべてが心電図でわかるような話についていけなかったからである。1枚の心電図にそれほどうんちくを傾けてどれだけの患者の治療に役立つというのか(当時はまともな抗不整脈薬などなかった),1枚の心電図のみから何だかんだと言う見てきたような話は本当なのか,などなどである。今や検査らしい検査は胸部レントゲン写真と心電図という時代ではなくなったが,こと不整脈に関しては現在も心電図に勝る検査法はない。不幸なことに(?)不整脈に有効な薬も次々と登場している。正しい診断が正しい治療につながると言われれば,心電図は嫌いと逃げているわけにはいかない。

心電図がわからない人や嫌いな人向き

 本書は心電図がわからない人や嫌いな人のための本である。この本を通してあなたは山科医長(当時)が主催する心電図カンファレンスに出席することができる。山科医長と4人のレジデントの会話を通じて不整脈解読の基本とその根拠となる電気生理学の基本を学ぶことができる。まぐれ当たりは許されない。所見を述べ,それに基づいた心電図診断,診断根拠,鑑別診断を要求される。あなたと同じように,登場するレジデント諸君が間違えてくれるので,読み進むうちに正しい診断へとたどり着くという筋書きである。
 本書の目次には興味があった。診断がわからない人にはどの項を読むべきかわからないのではないかと思ったからだ。目次には心電図記録が並んでいた。「VII 章 頻脈になったら」として9症例分が並んでおり,本文ではディバイダーで計るべく原寸大の心電図が提示されているという寸法である。「症例から学ぶ」とはそういう意味である。

不整脈解読の基礎を頭に叩き込む

 本書は学生から研修医,臨床検査技師,看護婦などのための臨床心電図の入門ドリルである。初めから読み進めれば繰り返し不整脈解読の基礎が頭に叩き込まれるようになっているので,拾い読みするのではなく気軽に読み進めていただきたい。読み終えたときには(実質は120頁くらい),心電図が好きにはならないまでも嫌いではなくなるほどの自信は十分つくことを請け合っておこう。
B5・頁160 定価(本体3,400円+税) 医学書院


整形外科の実用書として新たな方向を示す書

今日の整形外科治療指針 第4版
二ノ宮節夫,富士川恭輔,越智隆弘,国分正一 編集

《書 評》平澤泰介(京府医大教授・整形外科学)

整形外科の臨床エンサイクロペディア 改訂第4版

 1987年に初版が出版されて13年が経った。この間,本書は第一線の臨床家にとって,即座に参照できて最新の知識が得られる本としてベストセラーを保ってきた。診療机の上に,研修医の本棚に,と整形外科医にとって最も便利で身近な本であり続けてきた。
 このたび,第4版が発行された。これまで編集にあたられていた山内,真角,辻,桜井の4先生が引退され,この第4版から二ノ宮,冨士川,越智,国分の4先生が替わって編集を担当されている。初版から確立されてきた“整形外科臨床エンサイクロペディア”的性格は本版にも踏襲されているが,さらに検討が加えられて,まったく新たな本ができあがっている。これは,本書の編集方針の特徴でもある,同じ項目は同一の筆者が再び執筆しない,という原則に負うところも大きい。ポイントは外さず,しかし,筆者の個性がよく出ている記述を読んで,本書を単なる事典として利用する他に,読み物としてとらえてもおもしろいのではないか,と感じるほどである。

ユニークな「患者説明のポイント」

 新たに加えられた項目について,特筆しておかなければならない。各疾患について「患者説明のポイント」という項目が設けられた。インフォームドコンセントが重要視されるようになってきた,ここ数年の時代の流れに対応するものと考えられるが,他の本にはないユニークな企画である。一例をあげると,「特発性側弯症」のところで「患者・両親・教師への説明のポイント」として「姿勢が悪いために側弯が生じるのではなく,側弯症は姿勢異常を引き起こす疾患であることを説明する。不用意に『姿勢をよくしなさい』というような注意をすると,患児は精神的負担が大きくなる……」と書かれている。筆者の豊富な経験に基づいた記述であるが,他の教科書や論文では知ることができない内容である。若いドクターにはぜひ参考にしていただきたいと思う。
 また,「ナース・PT・OTへの指示」という項目も新たに加えられた。これからの整形外科の治療にはコメディカルとの緊密なコミュニケーションが不可欠であることを踏まえて設けられた項であろうが,これも興味深い試みである。「大腿骨頭すべり症」の中のこの項目のところで「……患者は術後の免荷が守れない場合が多い。愛情と優しさを持った指導とケアが大事である」と書かれている。患者は悩みを医師に話さなくとも,ナースやPT,OTに打ち明けることがしばしばある。これをコメディカルとの協力の上ですくいあげていく,というのもこれからの医療に必要な姿勢であろう。医師はもちろんのことナースやPT,OTにも読んでほしい項目である。
 本書は,up-to-dateな内容を盛り込んであるばかりでなく,整形外科の実用書としての新しい方向を示す本としても注目に値する,と言えよう。編者の先生方の新鮮なアイデアとご見識に敬意を表したい。事典としてとりあえず買っておこうという人もいるだろうが,ぜひ,興味のあるところから頁を開いてみることをお勧めする。きっと,新鮮な発見があるだろう。
B5・頁864 定価(本体17,000円+税) 医学書院


費用効果分析の研究者から医療関係者まで必読の書

医療の経済評価
Marthe R.Gold 編集/池上直己,池田俊也,土屋有紀 監訳

《書 評》橋本英樹(帝京大・公衆衛生学)

「費用対効果」検討の理論から手法論まで

 昨今Evidence-based Medicineが流行り言葉となっているが,Evidenceがどのような理論的前提に基づいて生み出されるのか,という本質的議論をなおざりにしている感が強い。そうした中,本書は強力なEvidenceの1つである「費用対効果」を検討するための理論から手法論まで一貫して取り扱っている点で,費用効果分析を研究する者のみならず,研究結果の聴衆である医療関係者,医療政策立案者にとっても必読の書である,といって差し支えないだろう。
 蛇足ながら,費用効果分析とは,医療行為や保健政策の実行にかかる費用と,それが生み出す効果(いわゆる質調整生存年数Quality Adjusted Life Yearsで表される)をそれぞれ求め,単位効果あたり費用の少ないものを効率が高いと判断する医療経済の分析法である。

費用効果分析とは何か

 本書は,米国公衆衛生総局(Public Health Service)が1993年に召集した「保健医療の費用対効果に関する専門家委員会」の討議を勧告としてまとめたものである。費用効果分析の生みの親である,ハーバード大学Weinstein教授やマクマスター大学Torrance教授も参加し,90年代段階での総括を行なっている。
 本書は決して入門書ではない。少なくとも臨床疫学(FletcherらやSacketの翻訳),臨床決断分析(Weinstein&Feinbergの翻訳),そしてすでに紹介されている費用効果分析(Drummondらの第1版は翻訳あり)の教科書にまずあたり,基本的知識を得てから取り組むことをお勧めする。また,本書は単なるマニュアルではない。賛成・反対論を比較的公正な立場から両論併記し,費用効果分析の長所短所を見事なまでに明らかにしている。特に第2章(費用-効果分析の理論的基礎)では,厚生経済学,功利主義・自由主義倫理など,これまでの教科書では明らかにされていなかった費用効果分析の理論的・倫理的「前提」が徹底検証されており,費用効果分析とは何かを「批判的吟味(Critical Appraisal)」する上で重要な情報をもたらしてくれている。各章末の参照文献も,医療経済を勉強するものにとって大変貴重なリストとなっている。
 最後に原書発刊から3年の時間差で,正確かつ明解な翻訳をもたらしてくれた監訳者一同に敬意を表したい。監訳筆頭の慶大池上教授は言わずとしれた本邦医療経済学の第一人者の1人である。また中心的な労をとられた池田氏と土屋氏はそれぞれ医療と哲学という異なるバックグラウンドを持ちながら,医療経済学の世界に入られた。まさに本書翻訳に最適の人材であろう。
A5・頁352 定価(本体3,700円+税) 医学書院


実地における緩和医療の技術に主眼を置いた解説書

〈総合診療ブックス〉誰でもできる緩和医療
武田文和,石垣靖子 監修/林 章敏 編集

《書 評》柏木哲夫(阪大人間科学部教授,日本緩和医療学会理事長)

 タイトルに「緩和医療」がつく書物や雑誌がここ数年かなり出版されるようになった。この分野の重要性が認識されるようになってきた1つの証拠であろうと,うれしく思っている。それぞれの書物に特色があるが,本書の特徴を一言で言えば,「緩和医療(palliative medicine)を日常診療で活用するための,実地の医療技術に主眼を置いた解説書」である。さらに言えば,本書は緩和医療の専門家向けにではなく,医療の最前線の一般医やナースに向けて,癌患者の症状緩和や工夫を,最新のトピックスを含めて平易に解説しているということである。

拡大する「緩和医療」の概念

 「緩和医療」という概念が広がりつつあるというのが今世界の流れである。まず緩和医療の対象となる疾患が癌のみならず,エイズや進行性の神経筋疾患,慢性の呼吸器疾患や循環器疾患,老年期の慢性疾患など,広い範囲に広がってきた。さらに,病期のあらゆる段階に適用されるようになってきた。例えば,癌の場合,診断の直後,積極的な治療の最中,再発の時期,末期の時期,患者の死後の家族のケアなど,あらゆる時期に緩和医療の基本的な考え方と具体的な技術が適用される。それゆえ,緩和医療に関する知識はホスピスや,緩和ケア病棟で働いている医師やナースのみならず,癌治療に従事しているスタッフや一般医にとっても,一般病棟のナースにとっても必要なのである。
 一般医やナースのための実践書であるという本書の特徴は,収められている20の論文によって十分示されている。比較的若手の著者が多く,最新の知見が盛り込まれている。さらにイラストや写真がうまく配置されており,とても読みやすい。ホスピス,緩和ケア病棟のスタッフや癌の治療に従事しているスタッフのみならず,一般医,ナースにもぜひ読んでいただきたい好著である。
A5・頁200 定価(本体3,700円+税) 医学書院


肝疾患診療に必要な知識と情報をぎっしりと盛り込む

これからの肝疾患診療マニュアル
柴田 実,関山和彦 編集

《書 評》戸田剛太郎(慈大教授・内科学)

 11cm×18cmの小冊子である。ちょうど,白衣のポケットに納まる程度の大きさである。しかし,肝疾患の診療に必要な知識と情報がぎっしりと盛り込まれている。肝疾患患者の問診と身体所見の採取にあたっての注意事項,得られた情報の解釈,血液生化学検査,血液学検査,免疫学検査における項目の選び方と得られた結果の解釈,肝炎ウイルス感染マーカー検査結果の解釈,画像検査の選択と読み方,肝生検の際の注意事項,病理組織所見の読み方など肝疾患診療に必要な総論的な知識がまず述べられている。各論では肝疾患それぞれについて診断,治療が要領よくまとめられている。そして最後に「新しい臨床医学のテクノロジー」と題する章が設けられている。なぜ,これが本書に必要になったかは全体を通読するとわかる。

肝疾患診療のglobalization

 本書のもう1つのコンセプトは肝疾患診療のglobalizationである。本書の各所に日本と欧米との肝疾患診療における違いについて,わが国の肝疾患診療に批判的な考えが述べられている。医療もscienceを基盤にすることは当然のことである。しかし,医学はscienceであるが,医療はcultureとしての側面もきわめて強い。医療にはそれぞれの国の文化的伝統,民俗的伝統が色濃く反映している。このことはわが国と欧米における移植医療の普及度の差をみればわかる。欧米の肝疾患の治療は肝移植なしでは語れないであろう。一方,わが国の肝疾患治療は肝移植が行なえないという前提に立って行なわざるを得ないのが現状である。
 しかし,国民が満足のいく医療を実行するためには,わが国のcultureにも配慮しなければならない。また,コーカソイドとモンゴロイドの遺伝的背景の差も考えなくてはならない。自己免疫性肝炎ではわが国ではDR4陽性者がほとんどであるのに対し,欧米ではDR3陽性者とDR4陽性者がいる。両者はその臨床像,治療に対する反応が異なっている。したがって,欧米の報告を見る際には,DR4陽性自己免疫性肝炎患者を対象とした研究か,DR3陽性自己免疫性肝炎患者を対象とした研究かを検討する必要がある。このような意味では性急な肝疾患診療のglobalizationには慎重でなくてはならないと考える。
 本書の慢性肝炎の項では,治療の考え方として「基本的には安静療法,運動制限,高蛋白食,高カロリー食,高ビタミン食などの生活指導や食事療法は不要である」と述べてある。筆者も“基本的には”賛成である。確かに,安静療法,運動制限が有効であったとする報告はないが,このように明確に述べられると反論したくなるのは筆者だけではあるまい。

肝疾患診療を考えるための警世の書

 本書にはこれ以外にも随所に肝疾患治療において行なわれている“慣習”に対する大胆な提言がみられる。筆者はいずれも肝疾患診療の第一線で活躍している若い医師である。肝疾患診療の座右の書としてのみならず,これからの肝疾患診療を考えるための警世の書として,お薦めしたい書である。
B6変・頁344 定価(本体4,500円+税) 医学書院


遺伝に関心のある医療従事者すべてに必携

遺伝カウンセリング
面接の理論と技術
 千代豪昭 著

《書 評》中込弥男(前東大教授・人類遺伝学)

 しばらく前までの医療関係者の認識は,「遺伝は日常の診療と関係がない特殊な分野」というものであった。古くから知られた遺伝病の多くは全国で年に十数人ほどの出生なので,第一線の臨床家とはあまり縁がなかったのである。

遺伝子と疾患の関係

 状況は大きく変わった。ほとんどあらゆる病気で,原因の少なくとも一部に遺伝子がからむ,という話になったのである。癌や白血病の他,糖尿病や高血圧など生活習慣病に遺伝子が関係することはご承知のとおりであるが,糖尿病のように数百万人の患者がいるものが遺伝子がらみとなると,インパクトが違うのである。ところで妊娠中毒症,アトピー性の喘息や皮膚炎,くも膜下出血,肥満,骨粗鬆症と並べると,印象はいかがであろうか。実はいずれも,昨年の日本人類遺伝学会の演題である。遺伝子と関係のない病気は,ほとんど考えられない時代になったと言えるだろう。米国では,医師免許試験に遺伝を必修にすべきか否かの議論さえ始まっている。
 遺伝子が関係するとなると,家族の発病リスクの問題,遺伝子検査により発症前に診断して生活習慣を変えることで予防する,早期発見と早期治療など,さまざまな問題,可能性が出てくる。いずれも十分な遺伝カウンセリングが欠かせない。

具体的なカウンセリング技術とモデル症例

 本書は遺伝カウンセリングについて,著者の長年にわたる経験をもとに,相談に訪れた人(クライアント)との対応やフォローなど具体的なカウンセリングの技術と,心構え,さらに倫理面にも目くばりした解説を行なっている。またモデルとなる症例をあげて,クライアントとのやり取り,家族の反応などをリアルに再現しているのも特徴である。遺伝病そのものについて解説した本は多いが,このような切り口でまとめた本を評者は知らない。臨床における遺伝の重要性が大きく高まり,遺伝子検査・診断の応用が広がりつつある状況で,遺伝にかかわる医師や遺伝カウンセラーをめざすコメディカルはもちろん,遺伝子診断に多少なりとも関係するすべての医師に,目を通してほしい1冊である。
A5・頁276 定価(本体2,800円+税) 医学書院