第2378号 2000年3月6日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ステント再狭窄解決の新たな可能性を探る1冊

ステント再狭窄
光藤和明 編集/門田一繁 編集協力

《書 評》斉藤太郎(熊本中央病院・循環器科医長)

 ステントがPTCAのアキレス腱と言われてきた再狭窄を減少させることが報告されて以来,急性期の仕上がりの良さと急性冠閉塞に対する防止効果とが相俟って,ステント植え込み術は広く冠動脈疾患の治療に応用されるようになってきた。一方,冠動脈ステントの適応が拡大するにつれてステント内再狭窄がそれほど少ないものでなく,またいったん生じた再狭窄はPTCA後の再狭窄と比較して治療が困難であることも明らかになってきた。冠動脈疾患に対するカテーテル治療におけるステント使用の頻度が50%を越える現在,ステント再狭窄に対する対策はきわめて重要であり急務でもある。

ステント再狭窄の機序を示唆

 本書はステント再狭窄の問題を包括的に解説しており,その全体像を把握しやすく編まれている。まずステント再狭窄の病理は秀逸である。ここで紹介されている症例は1例1例がわれわれ臨床家にとって貴重な症例であり,再狭窄の機序を考える上で有用な示唆を与えている。
 今日用いられているステントの種類も増加しており,それぞれに構造や素材に違いがある。これらのステントの違いが再狭窄率とどのように関わるのか興味のあるところであり,その意味からも血管内エコーや血管内視鏡を用いた観察所見も重要であり,本書において専門的立場から非常にわかりやすく,また見事な画像とともに示されている。
 また病変形態や病変部位も再狭窄を予測する上で大切な因子であるが,本書では入口部病変,分岐部病変,びまん性病変など病変別の再狭窄予測因子が述べられており,複雑病変に対するステント治療の技術的解説書としての側面も網羅されている。
 ステント再狭窄の機序はステント内に増殖した新生内膜による血管内径縮小(late lumen loss)である。ステント再狭窄を解決しようとする試みは多岐にわたっており,まだその端緒についたばかりである。ステントのデザイン,あるいは材質の変更,薬物療法,遺伝子療法,放射線治療などがあげられるが,わが国における独自の試みとして吸収素材を使用した新しいステントの開発(滋賀県立成人病センター 玉井先生)は特筆すべき挑戦である。
 本書は冠動脈疾患に対するステント治療が一般的になり,それほど特殊な技能も必要とせず使用できるようになった現在こそ,若いドクターにとって必読の書であると言えよう。
B5・頁182 定価(本体6,200円+税) 医学書院


腫瘍マーカーを臨床医の手掌に

腫瘍マーカー臨床マニュアル
大倉久直・石井 勝・高橋 豊,他 著/伊藤 仁,永井利正 執筆協力

《書 評》末舛惠一(済生会中央病院長)

 国立がんセンター時代を長くともにすごした畏友,大倉久直博士を筆頭者に,腫瘍マーカーの研究のはしりの頃からこの問題に取り組んでこられた研究者七人の侍による,『腫瘍マーカー臨床マニュアル』が世に出た。大倉氏の他,石井勝,高橋豊,有吉寛,加藤紘,長村義之,栗山学の諸氏の頭脳と経験によるものである。加えて,執筆協力者として,伊藤仁,永井利正の両氏が加わって完成した。

臨床医に必要な知識を1冊に

 序文は大倉博士によるが,“臨床医と研修医を対象に,腫瘍マーカーの使い方のエッセンスをマニュアルとしてまとめた”と自負をもって世に出した気概がにじみ出ている。
 構成は次の如くである。すなわち,まず大きく2つの総論と,2つの各論に分かれる。末尾に「腫瘍マーカーの基準値と異常値」「主な臓器癌での腫瘍マーカーの病期別陽性率」「臓器別・目的別の腫瘍マーカーの組み合わせ」という,臨床に利便性の大きい3つの附表がまとめてある。
 総論1は「腫瘍マーカーとは」である。内容はその意義,歴史,測定原理,精度管理,カットオフ値とグレイゾーン,検体取扱いについて,であり,腫瘍マーカーの臨床上の概念が上手にまとめられている。
 総論2は「臨床検査としての腫瘍マーカーの使い方」で,21の項目に分けて述べられる。その目的,類似の抗原が多くある中で,その選択,組み合わせ,早期がんと腫瘍マーカー,手術や化学療法などの治療時の使用目的などが要領よく記される。さらに,加齢,喫煙の影響も取り上げられ,特に保険診療での制約は臨床医にとって見逃せない。
 そして2つの各論がある。1つは「臓器別腫瘍マーカーの使い方」10項目である。もう1つはCEA,AFPなどの主な腫瘍マーカー22種類について,その臓器癌特異性,病期,治療効果との相関等を項目立てして解説している。
 そして前述のように,利便性の高い附表をもって完結している。
 本書は臨床医にとって必要な多種多数の腫瘍マーカーをとりあげ,起源,特異性,測定法,その精度,生体内での代謝,消長について,さらには血液,体液,分泌物,排泄物,体腔液,ホルモン,遺伝子関連蛋白についても簡潔に明示している。そして,腫瘍に必ずしも特異的でない感染症,諸臓器の血流障害,免疫反応,さらには放射線被爆等とともに変動する物質等のいわゆる非特異的マーカーについても,忘れられていない。
 総論2の末尾の項目に,遺伝子異常と腫瘍マーカー,そしてこれからの腫瘍マーカーの方向について触れられている。血中の腫瘍関連遺伝子のPCRを用いた遺伝子増幅による検出の試みが現実性を増し,これは例えば早期癌の検出に有望である。また,p53やc-mycに対する自己抗体の追求も進められているという。
 書評の結語として,本体はもちろん,動態,測定等について,その輪郭のかなり不明瞭なところのあった腫瘍マーカーが,本書の出現によって臨床医の手掌に乗ったことを強調したいと思う。
B5・頁198 定価(本体6,000円+税) 医学書院


ポケットに入れておきたい外来診療マニュアル

外来診療実践ガイド
Tom J.Wachtel,Michael D.Stein 著/津田 司,伴 信太郎 監訳

《書 評》小泉俊三(佐賀医大教授・総合診療部)

アメリカの研修医に最もポピュラーなシリーズ

 本書は1995年,Mosby社から出た“Practical Guide to the Care of the Ambulatory Patient”の日本語訳で,同社から同じ年に出版されたFred F. Ferri監修の“The Care of the Medical Patient第3版”の姉妹版である。ちなみに,この“Practical Guide to the Care of(診療実践ガイド)”シリーズにはこの他,集中治療,老年医学,産婦人科,小児科,精神科,外科編がある。本書(外来編)は,ブラウン大学教育病院Rhode Island Hospitalのスタッフによって執筆されているが,同病院は創立1863年,病床数719の伝統ある病院で,赤津晴子先生の『アメリカの医学教育-アイビーリーグ医学部日記』の舞台となったところでもある。
 ところで,今アメリカの研修医の間で最もポピュラーなマニュアルが実はこのシリーズであることをご存じだろうか? 評者自身,最近カリフォルニアで家庭医療学専攻の研修医に「『ワシントン・マニュアル』じゃないの?」とけげんな顔で聞いたところ,「本当にポケットに入れておきたいコンパクトな情報は,“Practical Guide to the Care of”シリーズで十分,『ワシントン・マニュアル』まで参照したい時は,思い切ってHarrisonやCecilを辞書代わりに使う」との返事が帰ってきた。実際,本書(日本語版)をひも解いてみるとそのことが実感できる。
 まず第1,2章では,予防医学や緩和ケアを含む外来診療の基本と医療費の高騰,医療過誤,保険制度など,米国医療事情が現場の医師の観点から手際よくまとめられていて日本語訳も読みやすい。
 補助的検査(第3章)に続く第4章「一般の外来患者の健康問題」(約70頁)には,外来診療で遭遇するほとんどの症状が網羅されていて大変重宝する。第5章以下は,各Subspecialty領域の主要問題に当てられている。ちなみにLyme病(感染症の項参照)が発見されたLymeの町はRhode Islandからほど近い。
 そして本書一番の値打ちが,監訳者津田司先生ご自身の訳になる「社会心理的問題」を扱った第15章である。心身医学的アプローチに慣れない外来担当医にとって貴重な情報が,55頁にわたってぎっしり詰まっている。この章が精神科医ではなく原著監修者の1人でもあるMichael Stein医師をはじめ,総合内科(General Internal Medicine)医の執筆であることも記述がわかかりやすい理由の1つであろう。
 マニュアル類を翻訳していて頭の痛いのは,日常的処置,薬剤の用法・用量などが日米で違うことである。各章の訳者は,労を厭わず本邦での標準用量を「訳者注」として付け加えてくれている。7000円と少し高いが日本人読者にとってプラスアルファの価値のある好著である。
A5変・頁536 定価(本体7,000円+税) MEDSi


診療における総合性を身につけて実践するための羅針盤

〈総合診療ブックス〉
妊婦・更年期患者が一般外来に来たとき
20の診療ナビゲーション
 青木誠,松原茂樹 編集

《書 評》梶井英治(自治医大教授・地域医療学)

日常診療に「使う本」

 本書は,第一線の実地医家が,日常の診療において悩むことの多い妊娠と更年期に関連した女性特有の疾患,病態を取り上げ,明解な解説と診療指針を示してくれています。内容的には,妊娠女性,更年期女性の診療における診察のポイント,コンサルトのしかた,診察医が見逃してはならない疾患,そしてプライマリ・ケアの守備範囲などに対する明確な見解とアドバイスが盛り込まれ,編集のことばにもありますように「読む本」というより「使う本」へと仕上がっています。
 本書を手にし頁をめくったとき,簡潔な文体とポイントのつかみやすい構成についつい引き込まれ,一挙に最後まで読破してしまいました。そして,本書を読み終えたとき,自らの診療のチェックと知識の整理もできており,大いなる満足感に浸るとともに,明日からの診療への力強い味方を得た思いでした。同時に編者の慧眼に裏打ちされたすばらしい書であることも実感することができました。程よいボリュームの中に厳選された20の項目(診療ナビゲーション)が配され,そのタイトルの隣には各著者からのショート・メッセージが載せられています。著者間の連携もよく取れており,全体を通して本書のポリシーが伝わってきます。さらに,日常接するであろうケースの紹介,当を得た用語の解説,各文献ごとに付された内容紹介文など,随所に読者への心配りがなされています。
 医療の高度専門化が進む中,総合診療の必要性が今改めて問われてきています。しかし,診療において総合性を身につけ,それを実践し,維持していくことは決して容易なことではありません。座右にそのめざすべき方向性をしっかりと示してくれる羅針盤の存在が待望されています。本書はまさにその1冊と言えましょう。
 総合的な診療に関わる医師,そしてナースの方々に本書をお勧めいたします。
A5・頁208 定価(本体3,700円+税) 医学書院


内視鏡外科に携わるすべての医療従事者に

内視鏡外科用語集
日本内視鏡外科学会用語委員会 編集

《書 評》比企能樹(北里大名誉教授)

 このたび『内視鏡外科用語集』が完成した。
 内視鏡外科は,セム教授,ムレー教授により婦人科・外科領域で1980年の後半に行なわれたのが事始めであるから,現在までその歴史は,ようやく十年そこそこが経過したところである。この新しい手法はあっという間に世界的な規模で広く普及をとげた。それはわれわれ古い世代に育った外科医にとって予想をはるかに上回る速度であった。
 その理由の第一は,従来法による手術に比べて,この新機軸の内視鏡外科は視野が誠によいことである。直視下に従来の手術を進める際にも手術野を凝視するのだが,通常見えてこないはずの視野が,この手法によると実によく展開する。局所解剖学が,誠によく見えるのである。
 次に考えられるのは,この外科に関わる人々へのメリットであろう。つまり,手術を受ける患者側にとって手術侵襲の減少など負担が少なくなったこと,術者にとってはよく見える手術ができること,被教育期間の医師にとって机上の解剖学がそっくり目の前に展開されたところで手術法を理解できることなどである。

多専門領域の人々の共通言語

 ところで,このように発展する内視鏡外科のこれからの課題は,これほどしっかりと観察できる手術野を正確にかつ普遍的に記録することであろう。ひいては,それがこれからの世代の医療従事者にとって最も必要なことであり,正確な情報開示が求められる現代においては,医療の基本として課せられた使命といえる。
 すなわち内視鏡外科に携わる者の責務は,すべからく正確な知識をもってこれに当り,その上正確な記述を,正確な言葉をもって書き残さなければならない,という点に凝縮される。そこで内視鏡外科用語の正しい解釈と使い方が必要不可欠となってくる。今回世に出た『内視鏡外科用語集』こそ,内視鏡外科医にとっての待望の書となる所以である。
 中を開いて感心したことが3つある。
 第1に,扱う用語の範囲が実に広汎にわたっていること。第2に,この書の企画から完成までが実に迅速で,医学の速い時代の流れに対応できたこと。第3には,これほど多数の用語の検索が和文でも欧文でも,即座にできるようになっていることである。
 それらをさらに分析すると,第1の点では,この本を使用する科は実に多く,消化器外科,胸部外科,産婦人科,泌尿器科,整形外科,そして麻酔科,形成外科,乳腺外科,甲状腺外科,心臓血管外科と多岐にわたっている。この多専門領域の人々にとって共通な言葉で記述し,お互いに理解をはかることができる書となっていることに驚嘆する。その広い分野で使われる用語が実によく調べられ,その上すでに世に出ている各学会による用語集や,診断・治療で用いられている取扱い規約とも疎漏なく照合されている点が,素晴らしい。
 第2の点の本の完成までの迅速さは,この内視鏡外科学会用語委員会のメンバーをみると納得できる。いずれも若さとその精力的な仕事が売りの学者たちによって構成され,想像した通りのでき具合いに脱帽である。

左頁にスタンダードな用語,右頁に用語の使い方

 第3の使いやすさの点は,左頁に手術手技・器具・所見・診断・解剖の分野のスタンダードな用語を載せ,右頁にそれらの用語の使い方や類語を註の形で載せるなど,索引の正確さとも相俟って,みごとな企画となった。
 委員各位の努力と,出版元の編集委員との息がぴったり合った傑出の書と言えるのではなかろうか。
B6・頁248 定価(本体3,500円+税) 医学書院


すべての診療科で心身医学的アプローチを

心身医学用語事典 日本心身医学会用語委員会 編集

《書 評》荒川正昭(新潟大学長)

 内科の分化と統合,これは古くて新しい永遠のテーマであります。米国では,専門分化のいきすぎが反省され,一般内科,家庭医学の重要性が問われ,その教育に力を入れています。わが国でも,大学病院では専門分化が徹底され(いわゆるナンバー内科でも,個々の医師は自分の専門領域にしか興味を持たないのではないでしょうか?),若い医師は病変のある臓器にのみ眼を奪われ,人間全体を診ていないという批判があります。最近,総合診療部を設置する大学病院が増えつつありますが,これこそ病院診療の中枢,臨床医学教育の出発点であり,健全な姿で発展することを願っています。

医療に心身医学的な考えは必須

 診療の基本は,身体全体に目を向けることですが,一歩進んで心身両面から綜合的に把握することが最も重要であります。私は,心身医学という専門領域の必要性は十分認識していますが,心身医学的なアプローチこそ一般内科に必須であると考えています。このたび,日本心身医学会用語委員会が編集された『心身医学用語事典』は,通読しますと,単なる用語の解説集に止まらず,若い医師,とりわけ内科を志す人たちには,医療において心身医学的な考えが絶対に必要であることを教える入門書であると言えます。Organ-oriented, disease-orientedではなく,patient-orientedの医療が,すべての診療科で実践されることを願って,医師のみでなく,看護婦(士),臨床心理士をはじめとするコメディカル・スタッフ,医学生,看護学生に読んでほしい1冊であります。
B6変・頁290 定価(本体2,200円+税) 医学書院