医学界新聞

 

DDW-Japan1999(第7回日本消化器関連週間)の話題から

HGV,TTV感染の実態


 肝炎ウイルス(hepatitis virus)として,流行性肝炎型のA型肝炎ウイルス(HAV)とE型肝炎ウイルス(HEV),血清肝炎型のB型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV),およびHBVをヘルパーとするD型(デルタ)肝炎ウイルスが知られている。その後1995-1996年のG型肝炎ウイルス(GBV-C/HGV),1997年のTTウイルス(TTV)の発見が話題になったが,日本肝臓学会はワークショップ「HGV,TTV感染の実態(司会=自治医大・真弓忠氏,信州大・清澤研道氏)」を企画した。
 周知のように,TTVは真弓氏らが原因不明の輸血後肝炎の患者の血清から肝炎発症前の血清中には存在せず,肝炎急性期の血清中にのみ存在する500塩基長の特異遺伝子クローン(N22クローン)を釣り上げることに成功し,患者のイニシャルにちなんで「TTV」と命名。発見から現在までの約2年間で,全遺伝子構造が解明され,遺伝子変異が顕著で,数多くの遺伝子型が認められることが明らかになってきた。


小児におけるTTV感染と輸血にともなうTTV感染

 C型肝炎多発と非多発地域の住民を対象として,小児および家族内における感染を検討した折井幸司氏(信州大)は,「(1)小児のTTV感染率は,C型肝炎多発地域と非多発地域ともに20-30%であり,成人に比較して低率。(2)TTV感染と肝機能異常の間に関連は見られない。(3)小児のTTV感染では,自然消失が高頻度で観察され,特に誘因なく新規感染が見られる。(4)親子での感染は,父子間よりも母子間で強い関連がある。(5)TTVの家族内感染が示唆されたが,家族内で核酸配列の明らかに異なる例も存在した」と報告。
 また,藤原俊文氏(自治医大)は,TTVの中のgenotype1に注目し,同大大宮医療センターの手術時輸血施行症例のうち,術前肝機能正常(ALT3≦0IU/L),HBsAg,HCVAb,TTV DNA陰性の97症例を,術後4週間以上24週まで経過観察し,その結果を,「(1)手術時輸血にともなうTTV1型感染については,97例中27例(28%)に輸血後TTV1感染が見られた。(2)TTV1型感染群では,非感染群に比べて有意に輸血後肝障害(ALT,ALP上昇)が見られた。(3)TTV1型感染による肝障害では,C型肝炎例と比較してALPの上昇がより顕著。(4)輸血パイロットの分析では,TTV1型ウイルス濃度の高い輸血血液からの感染成立が多く観察された」と報告した。

HGVおよびTTV感染の実態

 健常者と肝疾患患者のHGVとTTV感染頻度を検討した馬場俊文氏(昭和大)は,「(1)急性肝疾患では,HGV RNAは8%,TTV DNAは46%に陽性であり,いずれにおいても健常者よりも有意に高率である。(2)慢性肝疾患では,HGV RNAは5%,HGV E2Abは20%に陽性で,健常者よりも有意に高率。TTV DNAは31%に陽性であったが,健常者との間に有意差は認められない。(3)HGVおよびTTV感染は,慢性肝疾患の病態に影響を及ぼしていない。(4)HGVとTTVの重複感染は低率で,また慢性肝疾患の病態に影響を及ぼしていない」と報告。

TTV感染別に見たアルコール性肝障害の病態

 時田元氏(国立療養所東京病院)は,アルコール性肝障害(ALD)と診断されている患者の中に,TTV(特にgenotype1)感染をともなった例が存在するか,またTTV感染によってALDの病態に差が見られるかを検討。
 ALDの診断基準を,(1)常習飲酒家または大酒家。(2)禁酒により,ASTとALT値がともに明らかに改善を示し,4週間以内にほぼ正常値にまで下降。(3)肝炎ウイルスマーカー(HBV,HCV)陰性。(4)禁酒によるγ-GPT値の明らかな低下(4週後の値が,正常上限の1.5倍以下,または禁酒前の値の40%以下までの下降を目安とする)として検討した結果,「(1)ALD例には,N22PCR法で検出される特定の遺伝子型のTTV感染をともなう例が存在し,これらの例では,TTVが禁酒後のALT値の改善に悪影響を及ぼしていると考えられた。(2)特にgenotype1のTTVは,ALT値に加えて,γ-GPT値とALP値の改善にも悪影響を及ぼしている可能性が示唆された」と報告した。

肝細胞癌と各種肝疾患におけるTTV感染の関与

 肝細胞癌とTTV感染の関係を検討した柴山隆男氏(都立駒込病院)は,非B非C型肝細胞癌46例,C型肝細胞癌136例を対象にして検討した結果,「非B非C型およびC型の両型の肝細胞癌においてTTV DNA陽性群では,肝細胞癌発生時に非癌部に肝硬変に至っていない症例が有意に多かった。TTV持続感染が特定の肝細胞癌の発生機序に関与している可能性が示唆された」と報告。
 また川中美和氏(川崎医大)は,各種肝疾患におけるTTV陽性率を検討検討。
 総数301例の各種肝疾患患者301例(非B非C型36例,B型38例,C型176例,AIH(自己免疫性肝炎)13例,PBC(原発性胆汁性肝硬変)・PSC(原発性硬化性胆管炎)12例,アルコール12例,その他11例)を検討した結果,「(1)TTV陽性率は非B非C型46.9%,B型26.3%,C型29.5%,AIH,PBC17.9%,アルコール41.7%,その他45.5%。(2)TTV陽性に寄与する要因は年齢,性別,γ-GPT値であったが,C型肝疾患患者におけるTTV陽性に寄与する要因は明らかでなかった。(3)C型肝疾患患者の肝組織像の検討では,TTV陽性と陰性の症例間では,明らかな差は認められなかった。しかし,TTV陽性例をTTV DNA量によって層別すると,繊維化との間に有意の関連が認められた。(4)TTV陽性慢性肝炎(C型1例,B型1例)の肝組織中に増殖型TTV DNAが検出された」と報告した。