医学界新聞

 

第58回日本脳神経外科学会開催


 第58回日本脳神経外科学会が,桐野高明会長(東大)のもと,さる10月27-29日の3日間,東京国際フォーラムで開催された。今年の学会では2題の特別シンポジウム(「遺伝子科学と脳神経外科の未来」,「Debate:わが国の脳神経外科医は多すぎるか?」)や特別ワークショップ「脳死臓器移植の問題点と対策」の他,5題の招待講演,13題の口演シンポジウムや6題のビデオシンポジウムなど,多彩な演題が企画された。本紙では,その中から高い関心を集めた,特別シンポジウム「Debate:わが国の脳神経外科医は多すぎるか?」(司会=岩手医大 小川彰氏,北大 阿部弘氏)での討論を紹介する。

脳神経外科医数は過剰か?

 現在,日本には約5000人の脳神経外科医(以下,脳外医)がいると言われている。これに対して,米国には約3200人,欧州諸国は数百の脳外医しかおらず,日本の医師数の過剰が指摘されてきた。本シンポジウムでは日本の脳外医は「過剰」,「過剰ではない」それぞれの立場の論者が登壇した。
 はじめに大井静雄氏(東海大)は国際共同調査の結果の結果から,「日本の脳外医は,他国と比較して症例経験数が著しく少なく,十分な能力を持つ専門医の育成に支障をきたしている」と指摘し,「各施設で十分な訓練が行なわれているか,評価する仕組みが必要だ」と主張した。また,「日本にはSubspecialtyの発達が遅れている」と述べ,その充実を訴えた。
 小嶋康弘氏(金沢病院)は「過剰ではない」との立場で口演。「経験不足からくる手術のトラブルを防ぐには手術のできる専門医と診断や保存治療をする専門医に分けるべき」との考えを示し,その上で,「小病院では適切な診断を行ない,疾患の種類に応じて基幹病院や中病院に紹介できる人材が必要。その意味で専門医はまだ不足している」と指摘した。
 山上達人氏(京都きづ川病院)は「過剰」との立場から,「症例数の少ない教育施設が増えている」などの問題点を示し,「症例の少ない施設は教育指定からはずすべき。また,脳神経外科医は対象疾患を,脊髄損傷やパーキンソン病などへ広げていくべきだ」との考えを述べた。
 澤村豊氏(北大)も「過剰」の立場。「どれだけの脳外医が必要かではなく,どれだけのレジデント数なら十分に教育することができるかを基準に考えるべき」と主張し,レジデントに入る前の適正検査を重視(Gate Control)すること,優れた研修プログラムの供給などを提言した。
 一方,松村明氏(筑波大)は「過剰ではない」との立場から,「単純な医師数の国際比較は危険」と指摘。ドイツを例にあげ考察し,日本の外科医がドイツに比べ,多くの手術以外の診療業務をこなしている状況を説明した。
 嘉山孝正氏(山形大)も「過剰ではない」の立場。学会員へのアンケート調査の結果を検討し,「脳外医の抱える不満と手術件数には明らかな相関がなく,手術件数減少を防ぐための手段としてのBirth Controlはコンセンサスが得られないのではないか」との考えを述べると同時に,「当直やon call当番の多さを指摘する学会員も少なくない」と述べ,「現場レベルでは過剰感はない」との見解を示した。

今後の脳神経外科医のあり方

 最後に指定発言を行なった吉本高志氏(東北大)は,「脳神経外科専門医認定制度」について,「日本全体の医師の過剰問題」や「1999年より診療科として認定されたことからくる,果たすべき責任」の2点から十分な検討が必要と指摘したうえで,「現場では,脳外医の不足感が未だにあるものの,経験を積んでもポジション獲得が難しくなっている現状を見ると,対応が難しい」と,正直な胸の内をさらした。
 その後,フロアを交え「過剰かどうか」積極的な討論が行なわれたが,最後に,司会者の小川氏からは「脳卒中を誰が診るのか?脳卒中だけでも活躍の場はたくさんある」,阿部氏からは「扱う領域を広げるべき」,「手術から離れて活躍する専門医があってもいい」などの進むべき方向を示唆する発言があり,「今後も継続してこのテーマを考えていかなければならない」との言葉で討論を終えた。