医学界新聞

 

発生と生殖
技術の進歩を社会に適合できるか

レクチャーシリーズ「出生前診断・着床前診断とその問題点」


 「発生と生殖」部門のレクチャーシリーズでは,永田行博氏(鹿児島大:写真)が「出生前診断・着床前診断とその問題点」(座長=九大 中野仁雄氏)を口演した。

出生前診断

 出生前診断について永田氏は,「高齢出産の増加や周産期医療の進歩によって必要性が高まり,年間約4000件の診断が行なわれている。方法としては,非侵襲的な超音波検査と,侵襲的な羊水(遺伝子・染色体)検査が行なわれている」と解説。その上で,最近注目されているトリプルマーカーによるスクリーニングついては,「非侵襲的で,安価で手軽なため,広く行なわれるようになってきた。ただ,これには個人差もあり,検査としての情報を十分含んでいない。また,インフォームドコンセントも不十分になる恐れがある」と指摘した。また,「最近は,胎児由来細胞を検査に利用する非侵襲的な方法もあるが,まだ実験段階である」と述べるとともに,診断技術を治療へ回帰させることが重要であることも訴え,さらに選択的中絶という問題(異常が認められた胎児の中絶は,障害者排除につながる)があることを語った。

着床前診断

 この「選択的中絶」という問題の解決にもなると期待されている着床前診断に関して,「選択的中絶を回避できる上,DNA異常による遺伝子病や,性別,染色体異常なども診断できる。再生検が不可能な上,短時間で高い診断精度が求められるが,PCR法や,FISH法といった診断法が開発され,精度も向上してきている」と説明した上で,「結局は障害者排除にもなりかねない」という意見も紹介。「日本産婦人科学会でも,昨年(1998年),筋ジストロフィーなど15の重篤な疾患に限って着床前診断を認可。自己決定権も認めた」と慎重な対応を示し,課題として,(1)精度の向上,(2)対象拡大への歯止め,(3)障害者への理解,をあげた。そして永田氏は,「医学医療にも社会的な制約が必要であるが,着床前診断が社会的に容認されている部分は大きいだろう。今後は遺伝子操作などにも注目すべきだ」と,口演をまとめた。