医学界新聞

日本救急看護学会設立に際して

高橋章子(日本救急看護学会理事長・大阪大学医学部保健学科)


診療の補助にあきたらない看護婦たち

 1981年に日本救急医学会に看護部会が発足し,わが国で「救急看護」という概念が認識される契機となった。その背景には救急領域における有能な看護婦の必要性を認識した医師たちによる支援があったが,それまでは,現在の半数にも満たない救命救急センターで働く看護婦たちに期待されるものといえば,高度先進医療の現場で,特に初療外来やICUにおける「診療の補助を中心とした業務」を越えていなかった。
 また,救命を大前提とする医療のアクティビティやチームワークは,他領域では経験できない魅力をもって多くの看護婦をひきつけはしたが,単に病態の知識や技術は上達しても,それらを基礎にした救急看護学の構築が進まないままに,看護婦としてのアイデンティティを見失って職場を去っていく看護婦も少なくなかった。さらに,看護部門のローテーションにより他部門のリーダーに配置替えされるなど,有能な看護婦を失うという繰り返しが続いていた。

専門性の確立へ向けて

 日本救急医学会における発足当初の看護部会の大きな目標は,救急患者に最適の看護ケアを提供することにあり,そのためには,(1)救急看護の専門性の確立,(2)救急看護婦の教育体制の整備,さらに(3)救急看護学の構築が必要であった。
 過去17年間に,看護部会はこれらの目標を達成するためにまず教育を第1に取り上げ,学術集会や看護セミナーを通して研鑚の機会を提供してきた。そのかいあって,現在では全国的に一定レベルの採用時教育・継続教育が行なわれるようになった。次いで専門性の確立については,当初から独自の認定制度をめざしてきたが,結果的には,日本看護協会の認定看護師制度に発展した形で具現された。すなわち,(1),(2)の課題をほぼ達成し,その結果救急看護をライフワークとする看護婦が増加した。これを機に,(3)の課題を実現するためにも独立した学会を持つ必要性が強調された。

看護の原点を踏まえた学会の設立

 一方,日本救急医学会では,よりアカデミズムを追求する組織への発展が提唱され,従来の協力会員を含めた救急医療人のために「日本臨床救急医学会」を発足させた。救急看護もこの改革を受け入れ,看護部会を発展的に解消し,救急看護を学問として追求する「日本救急看護学会」を創設するに至り,第26回日本救急医学会(昨年11月12-14日,高松市で開催)の折りに正式表明した。今後は,独自の知識や技術を,他の救急医療人と交換し救急医療の発展に寄与するために,日本臨床救急医学会にも所属する立場をとることとなった。
 また,救急看護学は,CriticalでEmergencyな状況におかれた「人」を対象とするのであることから,必ずしも高度先進医療だけでなく,初期,2次の施設においても発展させるべきものであると考え,多くの施設にも参加を呼びかけている。その上で,救急医療現場で行なわれるケアの中から発見した看護の原則や理論を学会の場で報告し,批判しあうことで,さらにその結果を現場に持ち帰って日常のケアに活用する,そんな看護の原点を踏まえた学会をめざして努力していきたいと考えている。
 なお,第1回日本救急看護学会学術集会は,きたる11月26-27日の両日,大阪府吹田市のオオサカサンパレスで開催するが,本学会では会員を募集するとともに学術集会の参加者も募っている。下記まで問合せいただければ幸いである。
・学術集会事務局:〒565-0871 吹田市山田丘1-7 大阪大学医学部保健学科(高橋)
 TEL&FAX(06)6879-2541