医学界新聞

病院が抱えるリスク管理を論議

第27回日本病院設備学会開催


 第27回日本病院設備学会が,さる10月21-22日の両日,渡辺敏会長(北里大教授)のもと,「病院設備のリスク管理-いま病院は安全か?」をメインテーマに,東京・有明の東京ビッグサイト・国際会議場で開催された。
 病院管理者,医師,看護婦をはじめとする医療スタッフの他に,建築・設計,医療機器・設備の技術者なども数多く参集した今学会では,会長講演「病院設備のリスク管理」(渡辺敏氏),特別講演「医療におけるリスク管理」(東女医大医用工学研究施設長 桜井靖久氏)の他,シンポジウム(1)「医療情報のリスク管理」,(2)「医療機器・設備におけるリスク管理」,(3)「病院感染のリスクマネジメント」など,メインテーマに沿った企画を実施。また,ケーススタディとして,「夜間停電時における防災訓練」(誠和会白髭橋病院長 石原哲氏)が行なわれた。本紙では,この中からいくつかの話題を紹介する(2318号に続報掲載)。

緊迫感が伝わった停電時の病院対応

 特別講演で桜井靖久氏は,「日本でも医療訴訟が増加している」として,その背景には「医療における希薄なリスク管理の意識」があることを指摘。また,「1つの大事故の背景には,29の小事故があり,300のニアミスがある」との「ハインリヒの法則」を紹介し,「平時のリスク管理を恒常的に行なうことが重要」と述べた。さらに,アメリカでは,各医療施設には「病院リスク管理者」が専門職として存在していることも紹介。日本においても「ヘルスケアのリスク管理についてのインフラストラクチャーの構築が不可欠」として,「基盤構築に取りかかる時期である」ことを強調した。
 一方,ケーススタディを行なった石原哲氏は,「大災害時での病院機能を著しく妨げる要因として,ライフラインの途絶,マンパワー不足があげられる」として,「阪神淡路大震災」以降,地域行政と共同で総合病院防災訓練を実施していることを紹介。3回目となった本年1月の訓練では,ライフライン途絶の中での電力の確保に重点を置くべく,90分にわたる夜間停電を想定し,停電時の病院対応の検討を行なった。
 石原氏は,午後8時に東京都区部の直下型マグニチュード7.2,震度6の地震が発生,東京・墨田区内に相当数の被害をもたらし,白髭橋病院にも被害が発生,自家発電に切り替えた,と想定された訓練の模様をビデオで提示。模擬訓練ながら,実際に停電を発生,自家発電に切り替えてから電力復旧までの院内外の経過が生々しく映し出され,会場にも緊張感が伝った。
 全国で初めての「停電時」訓練を振り返り石原氏は,「トリアージ体制,給水確保」などを今回の問題点にあげつつ,病院災害(防災)対策マニュアルの必要性を説いた。

医療情報のリスク管理

 シンポジウム(1)(司会=名城大教授 酒井順哉氏)は,(1)医療情報管理の重要性と今後の動向,(2)電子カルテシステム導入の現状と課題,(3)医薬品情報リスク管理の必要性,(4)医療材料物流分析から見た病院経営管理,(5)医療効率から見た医療情報管理の5つの視点から,情報化時代を迎える病院での医療情報のリスク管理について議論することを目的に開催された。
 (1)では里村洋一氏(千葉大教授)が登壇。情報インフラストラクチャーの必要条件として,「情報公開・開示,ソフトウェアの開発,セキュリティ技術,標準化・法則化」をあげ,予想される驚異としてデータ破壊,盗用を指摘し,セキュリティ対策の必要性を強調。「安全確保に王道はない。危険が存在しているという認識が必要」と述べた。
 (2)に関しては亀田省吾氏(亀田クリニック院長)が,医療の質の向上に対する取り組みとしての,1989年から進めている亀田病院の「マスタープランプロジェクト」を語るとともに,明年から導入される「クリニカルナビゲーションシステム」を紹介。さらに,地域連携システムの構築,情報システムネットワークの必要性を説いた。
 (3)では,土屋文人氏(帝京大市原病院薬剤部長)が,「ソリブジン事件」「HIV事件」での教訓から,医薬品の適正管理,適正使用について,(4)は松山文治氏(甲南病院事務長)が担当し,院内物流管理システム運用のメリット,デメリットを論じた。
 (5)については,二木立氏(日本福祉大教授)が口演。「医療効率と医療費抑制は異なる。医療情報化によって,医療効率は高まるものの,医療費抑制は困難である」と強調し,それらの根拠を示した。
 なお総合討論の場では,セキュリティに関して「国家的なレベルで考える必要性」などが論議されるとともに,薬剤の標準化バーコード管理は可能か,介護保険および介護保険下でのデータ管理の問題などが検討されたが,酒井氏は最後に「設備投資の増大とともに,リスクも増えることになる」と指摘し,シンポジウムを終えた。