医学界新聞

【座談会】

カルバペネム系抗菌薬の臨床的位置づけ

小林芳夫氏
慶應義塾大学講師
中央検査部
河野 茂氏
長崎大学教授
第2内科
相川直樹氏
慶應義塾大学教授
救急部
公文裕巳氏
岡山大学教授
泌尿器科


カルバペネム系抗菌薬の臨床的位置づけ

重症,難治性感染症に対する切り札的存在

相川<司会> 本日は,「カルバペネム系抗菌薬の臨床的位置づけ」というテーマで座談会を企画いたしました。わが国の医療用抗菌薬は,抗結核薬を含めて1977年末の時点で188種類が承認されています。実際に使われなくなった薬剤もありますが,実際に臨床現場で抗菌薬を使われる場合,患者さんの病態に応じ,多くの抗菌薬の中から,各抗菌薬の特徴を考えて何種類かの薬剤を使い分けておられるのが現状ではないかと思います。
 いろいろな抗菌薬がありますが,β-ラクタム系薬の中の1つの系統としてカルバペネム系抗菌薬(以下:カルバペネム)があり,現在,わが国ではイミペネム/シラスタチン(Imipenem/Cilastatin,IPM/CS),パニペネム/ベタミプロン(Panipenem/Betamipron, PAPM/BP),メロペネム(Meropenem,MEPM)の3種類の薬剤が実際に臨床の場で使用されております(図1)。
 カルバペネム系薬の中で,抗菌特性,製剤学的特徴あるいは体内での安定性など,この3種類の薬剤にはそれぞれに異なる特徴があろうかと思いますが,本日は,このようなことも含めてカルバペネムの臨床的位置づけについて,感染症ならびに化学療法をご専門とする先生方をお招きして,実際の臨床現場ではどのようにお考えになっておられるかについてお聞きしてみたいと思います。
 まず河野先生は,カルバペネムの臨床的位置づけについてどのように考えておられますでしょうか。
河野 カルバペネムが登場してから約10年になりましたが,私たちは重症の感染症の切り札的存在というような捉え方をしています。スペクトルが広く,なおかつ抗菌活性が優れているので,特に重篤な基礎疾患を持っている症例で,難治性の感染症に使うべきだと考えています。もちろんいろいろな考え方があって,カルバペネムは強力な抗菌薬であるのだから最初から使ったほうが,患者さんのQOLや医療経済学的な面からいいのではないかとおっしゃる先生もおられますし,実際そのような議論がつい先日の日本化学療法学会でもなされました。ただ私個人としましては,カルバペネムは難治性の感染症に切り札的に使ったほうがいいだろう。しかし,重要なことはその適用,つまり適正な抗菌薬療法をどう考えるかということだろうと思います。

(図1)カルバペネム

緑膿菌感染症にはカルバペネム

相川 河野先生は重症あるいは難治性感染症に対する切り札的存在と言われましたが,小林先生は特に敗血症のご専門家ですし,また大学病院の中央検査部では分離される菌についてたくさん情報をお持ちですが,どのように考えておられますか。
小林 やはり河野先生と同様,重症の難治性感染症に主として使うべきと考えています。カルバペネムはいろいろ特徴があると思いますが,その中で最大の特徴として評価している点は,緑膿菌に対する強い抗菌力で,これまでの抗菌薬の中で最も優れたものではないだろうかということです。
 敗血症に対し,以前はアミノ配糖体とぺニシリンやセフェムとの併用療法が主でしたが,カルバペネム単独でも併用療法と同等以上の効果が期待できますし,副作用の面からも比較的使用しやすく,特に緑膿菌に関しては第1選択剤としていいだろうと思います。それから慢性の呼吸器感染症ではやはり緑膿菌の可能性が高いわけですから,カルバペネムということになると思います。緑膿菌以外の細菌に対しても強い抗菌活性を有していますが,原因菌の面から「特にこれを」と言うと緑膿菌感染症だと思います。
相川 緑膿菌についてはまた後ほどお話していただきたいと思います。
 今,monotherapyのことを言われましたが,hospital-acquiredの下気道感染症に対する,メロペネム単独群とセフタジジム(Ceftazidime,CAZ)とトブラマイシン(Tobramycin,TOB)の併用群との比較試験の報告が1997年の“Critical Care Medicine”に掲載されていましたが,メロペネム単独群のほうが優れているという結果でした(表1)。カルバペネムの特徴として,小林先生が言われたように,monotherapyでいけることが大きな特徴の1つと思います。
小林 それから,β-ラクタマーゼ抵抗性ペニシリンのクロキサシリンが今度発売中止になりました。アンピシリンとクロキサシリンの合剤は売られていますが,日本ではペニシリナーゼ産生のブドウ球菌属に使えるペニシリン系薬剤の単剤がなくなり,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin resistant Staphylococcus aureus,MRSA)は別として,メチシリン感性黄色ブドウ球菌(Methicillin sensitive S. aureus,MSSA)にもカルバペネムを使わなければならない状況になっています。
相川 公文先生は泌尿器がご専門ですが,泌尿器科領域の感染症の治療として,カルバペネムをどのように位置づけておられますか。
公文 尿路感染症全般で捉えますと,いわゆる単純性,すなわち尿路に基礎疾患のない膀胱炎に続発するような腎盂腎炎が多いわけですが,泌尿器科では,尿路系に基礎疾患のある複雑性尿路感染症で難治性の感染症が現実には多くあります。
 この難治性の複雑性尿路感染症で,中心となるのが緑膿菌です。この緑膿菌に最も強い抗菌力を示す点は重要であり,特に,併用療法ではなく,カルバペネム単独で泌尿器科領域感染症のすべての菌をカバーできる点は評価すべきです。
相川 外科領域では,特に術後の感染症が進展すると命取りになる,あるいは吻合部位がだめになってしまうということもあって,どうしても菌が分離される前,またはその感受性検査が戻ってくる前に,抗菌特性のよいカルバペネム系薬を使わざるを得ない状況があります。カルバペネムは,先ほど重症の難治性感染症あるいは緑膿菌感染症が適用としてあがりましたが,もう1つは特にコンプロマイズド・ホストで感染が重症化しやすい,あるいは人工血管など異物を留置した手術後の感染症などにはempiricに使うこともあると思います。

(表1)Outcome of antibiotic therapy in evaluable patients
               Number of Patients with Satisfactory Outcome/
Number of Evaluable Patients(%)
Response Type/Time of EvalutionMeropenemCeftazidime-Tobramycin
Clinical
 End of treatment
 Follow-up
Bacteriologic
 End of treatment
 Follow-up

56/63(89)a
16/19(84)
 
56/63(89)b
7/11(64)

42/58(72)a
12/13(92)
 
39/58(67)
7/ 9(78)
ap=.04vs ceftazidime-tobramycin; bp=.006vs ceftazidime-tobramycin.
Crit. Care Med, 25(10): 1663-1670, 1997

カルバペネム系3剤のプロフィール

強力かつ幅広いスペクトル

相川 カルバペネムのおおよその臨床的位置づけがわかってきました。
 次に抗菌活性についてですが,カルバペネムはグラム陽性菌からブドウ糖非醗酵菌を含むグラム陰性菌,嫌性菌まで強力かつ幅広い抗菌スペクトルを有しています。カルバペネム系3剤を比べた場合,私はグラム陽性菌には3剤ほぼ同等,グラム陰性菌にはメロペネムが他の2剤よりやや優れているという印象を持っています。
 まず,呼吸器感染症の原因菌として分離頻度の高い菌について,それぞれのカルバペネムの抗菌プロフィールについて河野先生にお伺いします。

呼吸器科医の立場から

河野 今言われたように,カルバペネムはβ-ラクタム系の中で最も強い抗菌力と広いスペクトルを持っていますが,呼吸器感染症で分離頻度の高いインフルエンザ菌に対しては,イミペネムやパニペネムは第3世代セフェムなどに比べ少し抗菌力が劣ります。しかし,メロペネムはこのインフルエンザ菌に対して抗菌活性が改善され,非常に強い抗菌力を持っています。呼吸器領域でこの3剤を比べた場合,このインフルエンザ菌に対するメロペネムの抗菌力が最も異なる点だと思います。

泌尿器科医の立場から

相川 泌尿器科領域ではどのように評価されますか。
公文 尿路感染症は主としてグラム陰性菌によるものが多く,最も問題となるのが先ほども申しましたが緑膿菌です。教室で臨床分離菌のカルバペネム系3剤とセフェムに対する感受性を比較したデータがありますが,緑膿菌に関して言えば,やはりメロペネムの抗菌力が最も優れており,MIC90が6.25 μg/mlでした。
相川 つまり緑膿菌に対しメロペネムが,他のカルバペネムに比べ抗菌力が強いということですね。
公文 そうです。イミペネムとパニペネムのMIC90がそれぞれ12.5,25μg/mlでした。緑膿菌について言えば,教室のデータもそうでしたが,国内外の報告をみても,やはりメロペネムが緑膿菌によいというのは確かなようです(図2)。
 次に問題になるのが腸球菌で,個人的に最近どうもこの菌は少し病原性が強くなっている,つまり腸球菌単独で有熱性感染を起こす例が頻度として上昇してきているという印象があります。そうでなくても腸球菌の分離頻度がかなり高いですから,コンプロマイズド・ホストで腸球菌が分離され,かつ発熱をしているケースですと,やはり腸球菌を原因菌として否定していいのかどうかというのはなかなか難しいところです。
 泌尿器科領域感染症で問題となる菌で唯一,メロペネムが他のカルバペネムと比べて劣っているのがこの腸球菌です。メロペネムのMIC90は6.25μg/mlでイミペネムの1.56μg/ml,パニペネムの3.13μg/mlと比べ,確かに抗菌力では1-2管ほど劣りますが,この程度では臨床効果の面で差は出ません。それよりも緑膿菌に最も強い抗菌力を持っていることのほうが評価できます。

(図2)In vitro antimicrobial activity of meropenem against Pseudomonas aerugisa selected for resistance to comparator antibiotics.

メロペネムの抗緑膿菌活性

相川 公文先生から緑膿菌の話が出ましたが,耐性機構の上からも緑膿菌についてはメロペネムがいいのではないかというデータもあるようですが,小林先生,いかがでしょうか。
小林 メロペネムは大腸菌やクレブシェーラーニューモニア(Klebsiella pneumoniae)は抗菌力が強力すぎますね(笑)。セフェムでわれわれは今まで治してきたわけですから,そこにあえてこの薬をいつも使わなければいけないだろうかという問題があります。メロペネムの位置づけをしてどういう菌が対象となるのだといった時,やはり緑膿菌になると思います。
 この緑膿菌について,血中から分離されたものですが,去年から今年にかけてMICを測ってみました。MIC90がメロペネムで2μg/mlでパニペネムは16μg/ml,イミペネムはその中間です。このメロペネムの緑膿菌に対する感受性は開発時とあまり変わっていません。その理由として,緑膿菌のカルバペネム薬に対する主要耐性機構の1つであるD2透過孔欠損株においても,メロペネムは感受性がそれほど低下しないことが知られていますが,このことが関係しているかも知れません。
 私も公文先生と同様にカルバペネム系3剤を比べた場合の相違点として,メロペネムの抗緑膿菌活性をあげます。つまり,緑膿菌による敗血症に対してメロペネムは最も強力なカルバペネムと言えます。
相川 以前セフタジジムが出た時,セフェム系薬の中では抜きん出て緑膿菌に強かったわけです。その開発の時に私もお手伝いをしましたが,緑膿菌に対するセフタジジムのMICをみて,これはもうMICがアミノ配糖体に近いセフェムで,かつ1gを投与できるということで大変驚いたことがありました。メロペネムはセフタジジムと比べてどうでしょう。
小林 メロペネムはセフタジジムよりも強いです。新しく出たセフェム系のセフォゾプラン(Cefozopran,CZOP)やセフェピム(Cefepime,CFPM)よりも強いですから,やはり緑膿菌にはメロペネムだと思います。
公文 先ほどの教室のデータでは,緑膿菌に対するセフタジジム,セフォゾプランのMIC90はそれぞれ50 μg/mlでした。メロペネムのMIC90が6.25μg/mlであったのと比べ,やはりセフェムより強いですね。
相川 小林先生は,先ほど緑膿菌感染症はカルバペネムと言われましたが,例えば熱傷創感染症などの場合,緑膿菌が原因菌として多いわけで,感受性検査のデータが出てくるまでに2-3日かかりますので,empiricに抗菌薬を投与する場合,他の薬剤よりもカルバペネムを選ぶわけですか。
小林 やはりカルバペネムを使います。この場合,抗菌力もさることながら,その患者さんの状態もありますから,なるべく単剤でいきたいので,配合剤の含まないメロペネムということになりますね。
相川 呼吸器感染症,特に慢性気道感染症ではやはり緑膿菌が問題になると思いますが,いかがでしょうか。
河野 慢性の気道感染症では,通常は抗菌薬の適応となりません。そこで,びまん性汎細気管支炎を中心とする緑膿菌慢性気道感染症では,マクロライドの少量長期投与で,病態自体が非常に改善します。逆に言いますと,緑膿菌が除菌されようがされまいが,患者さんの症状,そして呼吸不全の状態が改善します。ところが,患者さんが急性増悪の状態になりますと,軽症であればニューキノロンなどの経口剤が第1選択肢になりますが,重症例では緑膿菌感染症を含め注射剤が選択され,メロペネムなどのカルバペネムの点滴静注を第1選択肢にします。

カルバペネムの適応外菌種

相川 昔,最初のカルバペネムであるイミペネムの臨床試験が行なわれていた時,私は主に外科系の感染症を扱っていたのですが,イミペネムを使用するとほとんど菌が消失してしまい,残ってくるのはステノトロフォモナス・マルトフィリア〔StenotrophomonasXanthomonasmaltophilia〕と真菌というような状態で,大変驚いた経験がありました。
 このカルバペネムが効かない菌にはどのようなものがあるでしょうか。
河野 カルバペネムの弱点といえば,今お話のありましたステノトロフォモナス・マルトフィリアとMRSAで,その他にセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens),エンテロコッカス・フェシューム(Enterococcus faecium)に対しても抗菌力はそれほど強くありません。このように,一般の細菌でいうと本当に数種類のものだけに限られます。もちろん真菌などの抗生物質が適用範囲外のものは別として,非常に幅広くカバーしています。
 ただ,今言った菌は弱毒菌で,抵抗力が非常に減弱した易感染患者にまれに日和見感染として起こる可能性があるわけで,ほとんどが菌交代症として残った菌が分離されるにすぎません。確かに私たちの施設でも,ステノトロフォモナス・マルトフィリアの分離率は全体で見ますと徐々に増加していますが,それでもその感染症で困っているかというとそうではありません。
小林 河野先生がご指摘のステノトロフォモナス・マルトフィリアですが,カルバペネム系を使っていますと確かに最終的に残ってきます。病原性があるかどうかはともかくとして,ステノトロフォモナス・マルトフィリアの分離頻度の増加が,今後問題になると考えられます。

カルバペネムの製剤学的特徴

配合剤について

相川 先ほど小林先生は,抗菌薬を選ぶ場合,患者さんの状態からなるべく配合剤を含まないほうがよいと言われましたが,カルバペネム系3剤をみた場合,大きな違いとして,メロペネムは他のカルバペネムとは異なり,配合剤でないということがあると思います。
 この点については先生方はどのように評価されておられるでしょうか。
小林 最近相談を受けるのは,実は敗血症よりも長期臥床患者の嚥下性肺炎が多いのですね。そうした場合に,口腔内の嫌気性菌の問題も含めると,カルバペネムは非常に使いやすい薬剤です。
 それともう1つ現実的な問題としては,そういう方は肝機能,腎機能がある程度低下していますし,高齢者の場合も多い。そういうことを考えますと,基本的に投薬というものはなるべく数少なくしたいという意味で,カルバペネムの中でメロペネムが合剤でないという点を私は最も評価しています。ペニシリン系やセフェム系の抗生物質でβ-ラクタマーゼ阻害剤が配合されている薬剤もありますが,このような患者さんのempiric therapyにおいては,抗菌力でこっちが優れているから選ぶというよりも,合剤でないということを中心に選ぶことが私自身は多いです。
公文 小林先生が言われるように,抗菌薬に限らず薬剤は,配合剤を必要とせず単剤でいろいろなことができるということが一番評価すべき点だろうと思いますが,この点ついては後ほど詳しく述べたいと思います。
河野 先生方のご指摘のように,メロペネムは腎毒性が低減されていて,尿細管上皮細胞に取り込まれても,そこであまり影響を与えないということで,シラスタチンやベタミプロンのように,尿細管上皮細胞へアップテイクされることをブロックするような薬剤の配合を必要としないわけですから,やはりこの点がカルバペネムの中でメロペネムの大きな特徴と思います。

溶解性と安定性について

相川 抗菌薬に限らず注射用の薬剤は溶けやすいことも,使いやすさの点で重要と思われますが,パニペネム/ベタミプロンとメロペネムはイミペネムより溶解性に優れていると言われてます。この点について,小林先生お願いします。
小林 少量の輸液に溶けるということは,シリンジポンプなどで投与する場合に,臨床の場では使いやすいと思います。それと,イミペメム/シラスタチンは乳酸塩を含む輸液には配合禁忌となっていますが,パニペネム/ベタミプロンとメロペネムは配合可能です。そういう意味でこの2剤は使いやすいカルバペネム系薬と言えます。

安全性

中枢作用

相川 カルバペネムの副作用となると痙攣に代表される中枢作用がありますが,いかがでしょうか。
河野 初期のカルバペネムは痙攣の副作用という点から,特に高齢者などでの投与が懸念されていましたが,徐々にこの中枢作用も改善されてきました。
 中でもメロペネムは動物実験あるいは欧米における髄膜炎に対する開発試験でセフォタキシム(Cefotaxime,CTX)と同等の安全性が確認されています(表2)。この点で高齢者でも比較的使いやすくなったカルバペネムですが,このメロペネムでもまったく安全というわけではありませんので,中枢神経系に障害のある患者さんや腎機能障害者,あるいは高齢者には投与量を減ずるか,または間隔をあけるかして慎重に投与する必要があると思います。
相川 メロペネムのこのような特徴から,さきほど小林先生が,単剤であることも言われましたが,高齢者などにも使いやすいということなのかもしれません。

(表2)Children with bacterial meningitis(Randomized trial)
 MeropenemCefotaxime
No. of patients
Median age(yrs)
Dose
Seizure, before therapy
CNS abnormarity

Seizure, During therapy
Seizure, Drug related
Neurological sequelae
Clinical outcme(Cure)

98
1.00
40mg/kg/8hr
16
24

6
0
3
100%(75/75)

92
1.04
75-100mg/kg/8hr
6
11

3
0
4
97%(62/64)

Antimicrob. Agents Chemother., 39: 1140-1146, 1995

DHP-Iに対する安定性

DHP-I阻害剤について

相川 カルバペネム系は細菌の出すβ-ラクタマーゼに安定性が高く,このことにより強い抗菌力を持っているわけですが,皮肉なことに,ペニシリンやセフェムとは異なり,ヒトのもつデヒドロペプチダーゼ-I(DHP-I)には分解されます。
 カルバペネムで尿中での活性体の回収率をあげるために,DHP-Iの阻害剤を配合したものもありますが,メロペネムは比較的この酵素に安定であるためにDHP-Iを阻害しなくとも活性体の尿中回収率はかなりいいですね。分解されないで多く出てくるということですから,尿路感染症は尿路系を殺菌するという意味も含めて,このDHP-Iに安定性が高いということはどのような意味があるのでしょうか。
公文 シラスタチンは尿細上皮細胞へのイミペネムの吸収を阻害するという形で腎毒性を軽減したと同時にDHP-Iの阻害剤でもあります。
 このDHP-I阻害については,イミペネム/シラスタチンの開発の時,この酵素に類似のプロリダーゼ(Prolidase)の先天性の欠損症を学位論文に研究している友人がいまして,このプロリダーゼが欠損することでイミノペプチドウリア(Iminopeptiduria),それとコラーゲンの代謝異常を伴う症例があることを聞かされていました。そうしたことから,この天然酵素であるDHP-Iというものを阻害することが本当に大丈夫なのかどうか,イミペネム/シラスタチンを投与した後に尿中のディペプチド(Dipeptides)にどういうことが起こるのかを検討したことがあります。
 その結果,正常の腎機能の時にはそれほど問題はないのですが,中等度以上の腎機能障害がある場合には,アスパラギン酸,グルタミン酸,それとグリシン,アラニンなどから構成されますペプチドの尿中排泄の増加が明らかに認められました。その傾向は,腎機能が悪化すればするほど強くなることがわかりました。
 そうした経験を基に,当時論文を書いて,そこにいみじくも「Ccr50以下の患者では,投与間隔を12時間以上とすることがすすめられる」と記しました。これはその後,腎毒性であるとか中枢神経系の毒性が出てきた症例に腎機能障害患者が非常に多かったこともあり,注意すべき事項だと思います。

活性体の尿中回収率

公文 活性体の尿中回収率がこの3剤の中ではイミペネム/シラスタチンが最も高く,70%を超えています。通常,抗菌薬の排泄を腎排泄型,肝排泄型という分け方をしますが,現実に臨床的には尿中回収率が大体70%を超えますと,かなりCcrの影響を受けるようになります。
 そういった意味で,逆に尿中濃度が高くなるのはよろしいのですが,可能性として腎機能障害の影響を受けて,血中濃度が遷延するといった問題も同時に出てきます。
相川 配合剤ですと,両薬が同じ血中濃度を推移することが前提となると思いますが,イミペネムの血中濃度とシラスタチンの血中濃度はほぼパラレルにいくのでしょうか。
公文 というよりも,シラスタチンは過剰量の設定になっているからこそ,ディペプチドやペプチドが余計に尿中に排泄されるわけで,要するに他の作用もあるということになります。
相川 DHP-Iに比較的安定と言われているメロペネムの活性体の回収率はどれくらいですか。
公文 約60%です。逆にパニペネム/ベタミプロンでは20-30%くらいです。治療上大きな問題はありませんが,尿路感染症の場合には10%を切ると明らかに不利ですので,もう少し高くてもいいのではないかと言えます。

カルバペネムの適正使用

適正使用はいかにあるべきか

相川 ところで,実際に各分野でカルバペネムがどのように使われているのでしょうか。適用についてまとめていただきたいと思います。内科の領域ではいかがですか。
河野 内科の中でも特に呼吸器感染症では,最初に言いました適正使用をどうするかだと思います。非常にシンプルに言えば,やはり軽症の感染症に対してはむしろスペクトルの狭いもので,極力ターゲットを絞るようにすべきだと思います。
 一方,中等症以上の場合には最初から広く強いものということになり,カルバペネムを用いることが多くなるでしょう。ですから,適正使用ということでカルバペネムを考えますと,基礎疾患や感染症の重篤度が高い場合は,やはり第1選択肢として使うということになると思います。
 呼吸器感染症で最近感じていることは,日本では軽症の場合,外来治療でセフェムの経口剤が多く使われています。例えば,市中肺炎では肺炎球菌がもちろん一番多いわけですから,そうしますともう6割近くがペニシリン低感受性あるいは耐性(Penicillin insensitive or resistant Streptcoccus pneumoniae,PISPあるいはPRSP)ということで,経口剤で失敗する例を経験することが多くなっているわけです。
 PRSPによる中耳炎とか髄膜炎はもちろんですが,肺炎においても,カルバペネムはPRSPに耐性がないので,グラム染色で肺炎球菌を認めますとペニシリンやセフェムよりもカルバペネムを使うことになります。
相川 PRSPの可能性を考えてですね。通常の健康人ではどうでしょうか。
河野 若い人の肺炎球菌には使いません。しかし,高齢者で何らかの基礎疾患を持っている場合には,カルバペネムを使うことが多くなってきていると思います。それはやはりPRSPの経験からそのような傾向になっているのだろうと思います。
相川 外来患者ではどうですか。
河野 外来では最近のグラム陽性菌に強いキノロンです。PRSPを考えてグラム陽性菌に強いニューキノロンを使います。それで失敗した時,そしてまた基礎疾患が重篤な時にはカルバペネムを使います。セフェムは副作用が少ないからどうしても高齢者に使いますが,PRSPですと治療に失敗する可能性があります。

カルバペネムとニューキノロンの注射剤

相川 先生方のご専門分野の臨床の機微を聞かせていただきましたが,欧米ではキノロンの注射薬がかなり使われて,マーケットも非常に大きくなっています。日本でもそろそろその市場が出きてくる可能性があります。肺炎の場合ですが,将来的に考えてカルバペネムと注射用のキノロンを比べるとどういう位置づけになるのでしょうか。
河野 キノロンはマイコプラズマ,クラミジア,レジオネラ,非定型抗酸菌などを含めて,呼吸器感染症の原因菌を非常に広くカバーしますから,スペクトルという点では,カルバペネム以上のものがあります。
 ただ,日本ではキノロンの注射の開発にもう10年近くかかっていると思いますが,開発中に重篤な副作用が出たことによって遅れています。感染症の化学療法を行なう場合,効力も当然ですが,副作用も考えて薬剤を選択します。中等症以上の感染症で,カルバペネムの注射を使うかキノロンの注射を使うかという時に,効果と副作用の両面から評価が行なわれると思います。
公文 その件に限って言えば,尿路感染症ではそうではないと思います。というのも,緑膿菌に対するキノロンの感受性の低下は非常に顕著です。泌尿器領域の重症感染症では緑膿菌を想定しなければいけないので,現在はキノロンが使えないと言っても言い過ぎではない状態です。
 そういった意味からは,尿路の場合のempiric therapyで,注射薬のキノロンが出たからカルバペネムはどうかといった場合には,やはりカルバペネムを選ぶようになると思います。

MRSEとカルバペネム

小林 ペニシリンでペニシリナーゼ抵抗性の単剤のものがなくなりましたよね。実際にブドウ球菌による敗血症や心内膜炎が現在もかなりあります。それでセフェムを最初に使って私のところに相談に来るのですが,基礎疾患がある重症なブドウ球菌による敗血症には効果はなかなか認められませんから,それにはカルバペネムがいいと思います。
相川 クロキサシリンの代わりということですか。
小林 ええ。クロキサシリンの単剤が発売中止になるという考えもつかないようなことが日本で起きてしまったわけです。
 狭域のペニシリンでいける疾患にわざわざカルバペネムという言葉を言わなければならなくなったのはある意味では残念ですが,逆にカルバペネムがあるからなんとかなるということもあります。実際に,今のところ表皮ブドウ球菌やその他のコアグラーゼ陰性のブドウ球菌,それからMSSAによる心内膜炎にメロペネムやパニペネム/ベタミプロンを軸に使って治しています。現実問題として,重症の心内膜炎ではない敗血症が遷延して長引き,セフェム系では効かないから,本来ならペニシリンを使いたいのですがありませんので,カルバペネムを使っています。カルバペネムの位置づけとしては本当はよくないと思いますが,やむをえない選択肢です。
相川 MRSAの場合,バンコマイシン(Vancomycin,VCM),テイコプラニン(Teicoplanin,TEIC),アルベカシン(Arbekacin,ABK)が選択肢になります。カルバペネムは万能のような印象がありますが,MRSAには使うべきではないと思います。メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(Methicillin resistant Staphrococcus epidermidis,MRSE)ではどうですか。
小林 カルバペネムが,どの程度MRSEをカバーしているかが問題になります。
相川 外科の領域などでも,特にカテーテルを留置している患者さんのCatheter related sepsis(CRS)で,MRSEが検出されてきています。シドニーの国際化学療法学会でも発表したのですが,かなりカルバペネムが効きますね。
小林 確かに効きますね。カテーテルを抜去するせいもあるのでしょうが,表皮ブドウ球菌だと深部に膿瘍を作る可能性は非常に少ないと思います。ただ,MRSAのほうは黄色ブドウ球菌ですので,深部膿瘍を作るために強力な抗菌剤が必要です。その差があるから,カルバペネムはMRSEにはある程度は効くのかもしれません。

各施設ごとに分離菌のデータの検討を

河野 耐性の問題についてですが,うちでもいわゆるカルバペネム系を分解するメタロβ-ラクタマーゼ,つまりカルバペネマーゼ産生菌を検出する目的で,カルバペネム薬に対するMICがある程度以上のグラム陰性菌を集めまして,その耐性遺伝子であるblaIMPをどの程度持っているかを検討しましたが,幸いなことに増えていませんでした。
 1993年ぐらいをピークに,その後は波打っているのですが,決してカルバペネムの使用量の増加とは一致しない傾向です。ですから,思ったほど耐性遺伝子を持っているものが広がっているわけではありませんでした。緑膿菌やセラチアがこの耐性遺伝子を持っており,これら耐性菌による感染症はほとんどが肺炎,しかも術後の肺炎が多いです。食道癌術後やATLなどの血液の悪性腫瘍を持っている患者さんで,緑膿菌性肺炎を併発し,治療のかいなく亡くなった症例を経験しています。しかし,ここ4-5年でも5-6例と少ない頻度であり,増加傾向は見られません。逆になぜ増えないのか不思議に思っています。
小林 私はそこまで調べていないのですが,緑膿菌の場合,多剤耐性のものが時々あるのですが,カルバペネムに耐性だとアズトレオナム(Aztreonam,AZT)に感性で,それからCZOPなどの新しいセフェムにも感性だとか,この3系統に同時に耐性を示す株はすごく少ないようです。耐性機構が異なりますから,現場ではいろいろ工夫してお使いになっているので,それがいい意味で環境をそれほど変えていないのではないかと思います。
相川 そういう点では,先ほどお話にありました術後肺炎などは当然ICUに入った重症患者に,empiricに抗菌薬を選ぶことが多いわけですから,それぞれの施設ごとに,ICU由来の分離菌にどのような特徴があるのか,そしてそれらの分離菌の各抗菌薬に対する感受性はどうかを把握しておく必要があると思います。

抗菌薬の適正使用に対する広い認識を

公文 結局,カルバペネムはある意味ではやはり大事な薬だという認識が皆さんにあって,それなりの適正使用が一番よくできている薬剤ではないかと私は思うのです。
 第3世代のセフェムの頃はやはり本当によく使われましたね。その反省が多少あるのでしょうか。これを大事にしないといけないという意識があり,第一選択薬に使っているという例についても,それぞれの施設でのクライテリアがそれなりにあって使用されているように思います。そういう意味で耐性菌もそれほど広がっていないと考えられます。
河野 やはり,MRSAが出て院内感染対策という認識が広まってきたこともあるように思います。手洗いとか消毒も十分行なわれていますし,もしその耐性菌が出たところで,それが医療従事者を通じて次の患者さんに広がるのを抑えているのではないかなと感じています。
小林 私もそう感じています。
相川 欧米の施設,特に米国などではカルバペネムを使う場合には,インフェクション・コントロール・コミッティーの許可を得るとか,カルバペネムだけでなくても幾つかの指定された薬を使う場合にはそういう許可が要るような施設もありますし,日本でもそのような考え方を導入している病院もそろそろ出てきています。このように優れた抗菌特性を持っているカルバペネムをこれからも適正に使っていただき,それによってこの特長を伸ばしていただくことが必要かもしれません。
 今日はご専門の先生方の,それぞれの現場からのご意見をお聞きすることができました。大変有意義な座談会だったと思います。どうもありがとうございました。