医学界新聞

がん検診をめぐる話題


癌集団検診を行なうための8条件

 久道氏は,近著『大腸がん検診-その考え方と実際』(編集=京都がん協会 多田正大氏,東北大 樋渡信夫氏:医学書院刊)の中で,癌集団検診の条件として以下の8点を指摘している。
(1)罹患率,有病率,死亡率の高い癌であること(重要性):1万人に一人ぐらいしか見つからないような稀な癌の検診は重要とはいえない。死亡率の高い癌こそ重要。
(2)検診に適したスクリーニングであること(効率性):一人の検診に1時間以上もかかるような手間暇のかかるやり方では効率的とは言えず,従って,多くの人にできにくくなる。簡便な方式が必要。
(3)早期発見による早期治療効果があること(治療効果):当然で,早期に発見してもなかなか治らない,いわゆる難治癌は集団検診にはなじまない。
(4)検診方法は危険がなく安全であること(安全性):大多数の受診者は健常人であるので,検査によって病気ができたり事故が発生してはいけない。安全であるべき。
(5)検診精度が高いこと(測定能力):検診の精度がある程度高くなくてはならない。感度と特異度の両方が高くなければならない。測定能力は受信者動作特性(receiver operating characteristic;ROC)分析による。もちろん完璧な検査法というものはないので,どのあたりが許される精度なのか,また,発見精度の限界を受診者に知らせる必要がある。
(6)検診の目的にかなった有効性があること(有効性):がん検診を行なうことによって,検診を受けた集団全体の当該癌死亡率の減少効果が期待され,種々の疫学研究によって科学的に証明する必要がある。
(7)費用が安いこと(経済性):医療経済学的にみて,費用と効果のバランスがとれていることが必要。
(8)総合的にみてメリットがデメリットを上回ること(総合純利益):なにごとにもメリット(利益)があれば,デメリット(不利益)もある。不利益の分を差し引いても利益が大きいかをみる正味(ネット)の利益,限界効果がなければならない。

転換期を迎えたがん検診

 さらに久道氏は,「がん検診が今転換期にきていると言っても過言ではない。癌の早期発見が重要であることは論をまたないが,このことを一般の人たちに正しく理解してもらうためには,専門家であるわれわれにもするべき仕事がある。それは,がん検診についての科学的,論理的方法を用いた有効性評価の研究と,情報提供への努力ではなかろうか。しかも,一般の人の言葉でわかるようにしなければならない。政策決定に至る判断の過程でも,わかりやすい形の医学判断分析が必要だし,リスクアセスメントとリスクマネージメントについても倫理上の問題に配慮しながら情報公開を積極的に進める必要がある」と強調してその論を結んでいる。

老健法からの除外は晴天霹靂,真価が問われる段階に

 一方,編者の多田氏は同書の“序”で,「晴天霹靂,編集作業の途中で,平成10年度からがん検診が老健法から除外される旨の知らせが舞い込んできた」と述べ,「この決定を聞いて,一部には今後のがん検診に対して悲観的な受け止め方がなされたであろう。しかし編者らはまったく逆の捉え方をしている。すなわち,わが国のがん検診はすでに定着しており,あえて厚生省の指導と補助がなくなっても,自治体や検診機関が主体になり精度の高い検診を実行できるだけの実力は育成されている。(略)検診のあり方をめぐってさらに活発な議論が沸き上がることは必然であろう。上意下達の時代は終わり,自らの立場で最適な検診法を選択できる余地が生まれてきたのである。その意味でも,大腸がん検診の真価が問われる段階になったと痛感している」と指摘している。