医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


薬の氾濫する現在における臨床医の福音書

内科医の薬100 Minimum Requirement 第2版
北原光夫,上野文昭 編集

《書 評》日比紀文(慶大教授・内科学)

臨床医に本当に必要な薬を厳選

 内科医として診療を始めてから約25年になったが,研修医時代から薬の名前を覚えることに苦しんできた。特に最近は記憶力の低下が著しく新しい薬の名前が出てこない。同じ悩みを持つ内科医はたくさんいると思うが,その人たちにとって本書『内科医の薬100-Minumun Requirement 第2版』は福音である。薬の新旧で選ぶのでなく,内科医が日常診療に本当に必要な薬100を厳選し,かつその内容は病態に応じた使い方を具体的に示してくれ,かつ使用する際の注意点が懇切丁寧に書かれている。世に普及しているいくつかの治療薬集は,薬を羅列し,用量・用法・副作用を漠然と述べているものが多いが,本書は内科医として知っておくべきことに重点を置き,一切の無駄を省いて書かれている実用の書といえる。
 編集および執筆を担当される方々はいずれも第一線で活躍中の臨床医であり,診療で気づいた注意すべき点が多く記述されている点がありがたい。特に,若い研修医には当直や救急の場で常に携帯し,すぐに検討できるよう小さく軽い書に仕上がっている。もちろん,熟練した医師にも,特に専門外の疾患に対する治療薬の選択にも非常に簡便となっているアイデアの書といえる。

疾患・病態名から薬を選べる

 索引も画期的なアイデアがとり入れられており,種々の疾患・病態名から薬を選べることである。疾患・病態から薬を引き,その頁をみるとまず何を目的とする薬剤かが,見出しとして記されるとともに,要を得た簡単な説明が記されている。次に,剤形,病態に応じた使い方,代謝・排泄,薬物相互作用,副作用,同種薬剤,文献の順に簡明に述べられており,いずれの薬もなるほどと思わせる記述である。病態に応じた使い方では使用法・効果・注意点の順に,代謝・排泄では単にその時間や経路のみでなく,そこから考えられる投与した場合の臨床上の注意まで具体的に,薬物相互作用では併用する場合に注意すべき薬剤とその理由が簡明に,副作用では日常の診療で大事なポイントがはっきりと記されている。同種薬剤の項もユニークで単に羅列するのではなく,ある時は各々を説明したり,ある時は優劣を説明したりと,何度も繰り返すが実用の書としてすばらしいものに仕上がっている。
 他の治療薬集は薬の辞書という感じで,書棚に並べておきわからない時に引き出すとすれば,本書は薬の要点のみを記したメモ集というか,いつも白衣のポケットに入れておきたくなる。様々な薬の氾濫する砂漠のような現在にあって,臨床内科医が必要とする水を補給でき,かつほっとできるオアシスのような書である。
B6・頁254 定価(本体3,800円+税) 医学書院


Problem basedの原則に立って処方を学ぶ

P-drugマニュアル WHOのすすめる医薬品適正使用
津谷喜一郎,別府宏圀,佐久間昭 訳

《書 評》上田慶二(都多摩老人センター病院長)

 近年の度重なる薬害の発生を契機として,医薬品の安全性の確認と臨床の現場における医薬品の適正使用の重要性が強調されている。しかしわが国の卒前医学教育においては,医薬品の処方の実際について十分な教育がなされていないのが現状である。

医薬品適正使用の考え方を学ぶ入門書

 本書はオランダGroningen大学における医学生に対する10年余の教育経験をもとに編集され,WHOから全世界に向けて発信された医薬品の適正使用に関する入門書として貴重な書物であり,医学生にはもちろんのこと,研修医や実地医家にとって有益な考え方を示す価値あるガイドブックと言えよう。
 本書のタイトルのP-drugはpersonal drugの略で,日本語訳はないが,「使いやすい,使い慣れた薬」,いわば自家薬籠中の薬とも言うべきであろう。訳者の方々に適切な日本語を創りだしていただくことをお願いしたい。

42の症例を呈示しながら説明

 本書では,P-drugを設定するstepを下記のように示している。即ち,診断確定-治療目標の特定-有効な薬物群リストの作成-P-drugの選定-治療のモニターの各stepがあることを示し,また42例の症例を呈示しながら,わかりやすく説明されており,理解しやすい構成となっている。このように問題例を前にproblem basedの原則に立って,自ら考えながら処方の方法を学ぶことができるのが本書の大きな利点であろう。
 また今までわが国においてあまり問題とされなかった以下のような点についても記述がなされているのは特筆すべきである。その第1は特効薬を常に要求するような患者の心理的依存に対する対処方法についてであり,患者との対話に時間をかけ,注意深く説明すべきであると説いており,尊重すべき指導である。
 また,第2に薬剤による治療期間を定め,その効果をモニターすべきことを指示している。薬効の明確でない医薬品を漫然と使用することが不適切であることを説いていることは傾聴に価する。
 第3にP-drugの選択に際しては,その費用についても配慮すべきことを示していることも重要なポイントである。今までわが国では医薬品についてのコスト意識が十分ではなかったが,今後薬価制度の改訂も予定されており,かかる視点も重要となることは申すまでもない。
 以上のように,本書は従来の薬理学教科書とは異なる視点より,problem basedの原則に立って医薬品の適正使用の具体策を教えるガイドブックであり,日本語訳も適切で読みやすく,広く医学生や臨床医に一読を勧めたい。
A5・頁176 定価(本体2,000円+税) 医学書院


整形外科疾患リハビリテーション 待望の書

リハビリテーションプロトコール 整形外科疾患へのアプローチ
S.B.ブロウツマン 編著/木村彰男 監訳

《書 評》冨士川恭輔(防衛医大教授・整形外科学)

日常多忙な医療従事者の臨床に有用

 近年の整形外科領域の飛躍的発展はリハビリテーション医学の進歩によるところが大きいにもかかわらず,整形外科医のリハビリテーション離れが目立つようになってきた。われわれの若い時には,自分がリハビリテーション科に依頼した患者がどのような療法を受けているのか現場を訪れ,自分の眼でみて,その場でリハビリテーション科の医師や療法士と具体的に治療法を検討する機会が多かった。しかし今日では大部分の整形外科医が,十分な情報も提供せずに,たった1枚の依頼表で患者をリハビリテーション科に送り,自分の患者がどのような訓練を受けているのか知らないこともありがちである。
 当然依頼する整形外科医はリハビリテーションのプロトコールに対する十分な知識を備えているべきであるが,多くの現場では直接依頼するのは研修医,専修医が多いので必ずしもそうとは限らない。術後カンファレンスなどで研修医,専修医にリハビリテーションプロトコールを質すと,十分な答が返ってこないことが少なくない。
 一方,依頼を受けた側も,整形外科的疾患,特に術後患者に対する標準的リハビリテーションプロトコールを理解していないと手をつけることができない。これらのことが重なるとリハビリテーションは進まないばかりか医療事故が発生することもありうる。
 このたび医学書院MYWより発刊された慶応義塾大学医学部リハビリテーション医学教室助教授である木村彰男先生ご監訳『リハビリテーションプロトコール(原著 “Handbook of Orthopaedic Rehabilitation”SB Brotzman編著)』は,まさに日常多忙なこれらの医療従事者の臨床の現場においてきわめて有用な書である。

チャートを中心に具体的に解説

 本書は日常遭遇することの多い整形外科的疾患を部位別に分類し,まずリハビリテーションの原理,病態などを解説した後,主に各疾患の術後リハビリテーションプロトコールをチャートを中心に,具体的にコンパクトにまとめてあり,同一手術でも患者の状態によりいくつかのコースが記載されているなど実用に即している。さらに必要に応じて図が豊富に挿入されているので,きわめて理解しやすい。常に携帯できるハンディな体裁にもかかわらず大きな成書にも匹敵する内容となっている。
 本書の翻訳は慶応義塾大学医学部リハビリテーション科,慶応義塾大学月が瀬リハビリテーションセンターのスタッフが担当しているが,全体を通じて文章が統一されているので読みやすく,分担翻訳の欠点である文章の不整合性がまったく感じられないのは特筆すべきである。
 本書のプロトコールは原著者の序文にあるとおり,もちろんすべての患者にそのまま使用できるとは限らない。しかし,これらの例ではこのプロトコールを枠組みとして各症例に応じたプログラムを作ることは,われわれにとってきわめてよい勉強の機会ともなる。
 待望の書である,といっても過言ではない。
A5変・頁408 定価(本体6,000円+税) 医学書院MYW


心臓の聴診の重要性を再考させるテキスト

症例から学ぶ心臓の聴診 CD付 堀江俊伸,他 著

《書 評》大木 崇(徳島大助教授・内科学)

 大学の教官も含めた,最近の若いcardiologistの中で,日本心臓病学会の前身が臨床心音図研究会であった事実を知る人は意外と少ないのではないだろうか。その経緯については,心音図をテーマとした演題が,全国あるいは世界の主要学会で採択されることが困難になったことなども原因の1つとしてあげられ,このこと自体は,研究の分野における時代の趨勢として仕方のないことである。
 現在,大学において学生の教育に直面しているほとんどの教官は,研究および診療の遂行をも義務づけられているが,これらの仕事の中で比較的手を抜きやすい部門は学生の教育であろう。なぜならば,わが国の教官にとって,学生に対する講義の充実度が,学会および論文発表ほど自己の業績に影響することはほとんどないからである。このような大学教育の現状と,最近における学生の心臓の聴診能力の低下は決して無関係とは言えず,一方では年間約7000人にも及ぶわが国の医学部の卒業生が,将来どのような臨床医学についての基礎知識を得て患者を診療するのであろうかと考えた場合,そう簡単でかつ現実的な解決策が見当たるとは思えない。
 さてこの度,堀江俊伸先生らの執筆により,医学書院から『症例から学ぶ心臓の聴診』と題したテキストブックが上梓された。私自身は,堀江先生とはあまり面識もなく,主として臨床病理学の分野で活躍されている先生としての印象が深いため,今回,本書を贈呈していただいて,内心いささかとまどいを感じたのも事実である。しかしながら,いざ序文を読んでみると,東京女子医大に在職中から常に学生の講義に対して心を砕かれていた姿勢が垣間見え,本書の出版の意図に対してもなるほどと納得した次第である

教育に重要な「謎解き」の過程

 私見であるが,学生に講義をする際に,最も充実感のあるのは聴診・心音の分野である。例えば,心房中隔欠損症について講義をするにしても,心エコー所見であれば,カラードプラ断層法により心房間レベルで短絡血流シグナルを認めるスライドを1枚見せればすべて終ってしまう。しかしながら聴診に関しては,II音の分裂(すべてが固定性ではない!)や三尖弁開放音,相対的三尖弁狭窄ランブル(本症の短絡量を評価する場合,最も重要である),駆出性収縮期雑音の発生機序について理解しやすく説明すれば,循環器診断学に対して興味を持ちはじめようとする学生の鼓動が伝わってくるのを実感できる。換言すれば,学生の教育にとって重要なのは,「証拠」そのものではなく「謎解き」の過程なのであり,したがって臨床医学に初めて足を踏み入れる学生に対して刺激を与えるのは,ハイテク機器による診断技術ではなく,病態診断に対してその背景を正しく理解させることのできる,ごくありふれたアプローチなのである。
 本書は,あるい程度以上のレベルの循環器専門医からみてもその内容は豊富であるが,著者らが序文で述べられているように,あくまで学生や循環器の分野を志そうとする若手医師を対象としていることから考えると,簡潔,かつ非常によくまとめられている。特に各症例に対して,胸部X線写真,心電図,心音図・心機図,心エコー・ドプラ所見,心臓カテーテル所見をそろえ,さらには堀江先生の専門である肉眼病理所見を呈示してある点は,病態や心雑音の特徴を把握する上で理解しやすく,まさに最近重視されているEvidence Based Medicineにも合致する内容である。また同一疾患であっても,症例によっては種々の異なる臨床像を呈することの注意点も,本書から読み取れる(このことは臨床医学で最も重要な点である)ように配慮されているのもありがたい。

心音・心雑音をCDで学ぶ

 虚血性心疾患の病態診断に関して講義する場合,冒頭から学生に対して冠動脈造影や経皮的冠動脈形成術(PTCA)について教えるよりも,心電図所見から心筋の虚血・壊死過程を理解しやすく教えるほうが学生にとって福音であるように,弁膜疾患,心膜疾患,あるいは先天性心疾患については,何よりも聴診・心音図の講義による「謎解き」を優先させるべきである。著者らが,このような背景を考慮した上で本書を書き上げたということは,書物全体を通じて十分に感じることができ,東京女子医大における医師と検査技師との間のハイレベルで,かつ抜群のチームワークによる産物であろう。
 さらに,決してテキストブックでの記載のみでは得ることのできない,心音・心雑音の特徴を聴覚として理解させるため,巻末にCDが付録されている点も,読者にとってはうれしい贈り物である。収録されているそれぞれの心音・心雑音は,各疾患の特徴に合わせて低音と中・高音,あるいはそれぞれの記録部位に分けて録音されており,いずれも鮮明で聞きとりやすい。また,ナレーションの前後に同じ聴診記録を重複させているため,聴く側の記憶に残りやすい点も見逃せない。

「心臓の聴診」の重要性を世に問う

 いずれにしても,米国の医療システムを偏重しがちな昨今,「心臓の聴診」の重要性をあえて世に問う快挙に出た著者らに心からの拍手を送りたい。また本書の出版が,一般病院の医師はもとより,学生に臨床医学の基礎を教育する義務があり,さらには少なくとも附属病院として患者を診療する立場にある大学の医師に対して,心臓の聴診の重要性を再考させるべき出発点となることを期待したい。
B5・頁232 定価(本体7,000円+税) 医学書院


臨床医に必須の分子生物学の知識を1冊に

臨床医のための大腸癌の分子生物学入門
J.M.Church他 著/武藤徹一郎,名川弘一 監訳

《書 評》馬塲正三(浜松医大名誉教授)

 著者のDr. James Churchは,クリーブランドクリニックのDavid G. Jagleman遺伝性大腸癌センターの遺伝性大腸癌登録の解析を,Dr. Jaglemanなきあと一手に引き受け,Leed castle polyposis group meeting,ICGHNPCC meetingなどで活躍している外科医である。この領域の造詣が特に深く,昨年のAmerican Society of Colorectal Surgeonでもprogram chairmanとしてHereditary Colorectal Cancerのシンポジウムを主催している。
 私が1985年にクリーブランドクリニックのvisiting professorとして滞在していた頃にはDr. David Jaglemanがまだ健在で,その頃彼はsenior surgeonだったので以来親しくおつきあい願っている。学問的にもいろいろ彼から教えられる点が多かった。
 彼の名著“Molecular genetics and colorectal neoplasia”が東京大学の武藤徹一郎教授と名川弘一助教授により翻訳され出版の運びになったことは大変喜ばしい。
 最近の分子生物学の進歩は爆発的とさえいえる。わが国では医学部で遺伝学の講座のある大学は少なく,遺伝・遺伝子というと,何となく難しいものとして“とっつきにくい”領域として敬遠しがちである。
 癌は遺伝子の異常が多段階的に蓄積されて起こる病気であることが判明した現在,すべての医師にとって分子生物学の基礎を理解することは必須となった。

分子生物学的手法の概略を理解しやすく記述

 この点本書は,臨床医のために分子生物学的手法の概略が平易な文章と適切な図で説明されており,大変理解しやすいように工夫されている。
 大腸癌の外科は,(1)外科技術の進歩,(2)病期分類,(3)内視鏡の診断・治療技術の寄与の時代を経て,(4)分子生物学の時代に入ったといっても過言ではない。
 外科医,内視鏡医,病理学者,分子生物学者が手をとり合って大腸癌の発癌機構をさらに解明し,分子標的をターゲットとした新しい対癌戦略が構築される時代である。この領域の情報は発症前診断など癌の告知より難しい問題を含んでおり,十分な理解がないと思わぬpitfallに陥ることがある。
 今日臨床家にとって欠くことのできないinformed consent, genetic counsellingなどの問題についても1章をさき詳細に説明されている。
 本書の内容はup-dateであり,専門領域の知識も訳者の努力によりきわめて平易で,要領を得た訳文となっている。この点初学者がこの方面の知識を得る上で最適の本であると同時に,ある程度分子遺伝学の知識のある医師にも,自分の知識理解度を整理するのに大変役立つと考える。
 いずれにしても,時代的要請に応えた時宜を得た出版であるとお慶び申し上げ,広く臨床医に愛読されることを期待している。
B5・頁120 定価(本体3,500円+税) 医学書院