医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


楽しみながら読影力を養える1冊

フィルムリーディング(1) 脳・脊髄 宮坂和男 編集

《書 評》前原忠行(順大教授・放射線医学)

Film Reading Sessionを紙上化

 この度,医学書院から北海道大学放射線科の宮坂和男教授編集による『フィルムリーディング 脳・脊髄』が上梓された。最近の画像診断関係の学会などでは,症例の臨床情報と画像所見とを呈示して,その場で適当な医師に読影をさせたうえで解説を加える形のFilm Reading Sessionが人気を博している。本書は,これを紙上化したもので,胸部,肝・胆・膵・脾・小児,骨などシリーズ全10冊の中の1つである。
 編者が序文の中で述べているように,一般的に画像診断の教科書では疾患別あるいは検査法別に記載されているものが多いが,実際の診療に際しては患者の臨床症状から疾患の部位や種類を類推したうえで画像所見の読影に臨むわけで,はじめから疾患名がわかっているわけではない。そのような意味で,症状や画像所見に視点を据えて病態や診断を考えさせる本書の構成は,読影力を養う点できわめて有用である。

独創的な症例提示

 脳・脊髄画像の基本的読影法を9頁にまとめた総論も,部位別や増強パターンなどの表を多用して簡潔にまとめられているが,なんと言っても本書の特長は各論の症例検討にある。全体で73症例が掲載されているが,各症例は見開き2頁で構成されており,読者ははじめに左頁の臨床経過と画像とを見て診断を試みたうえで,右頁の画像所見,鑑別診断の進め方,最終診断名などに読み進むことになっている。ここでも,病態を簡単にまとめた病気の豆知識,診断のポイントなど知識の整理がしやすいような心配りが見られるが,さらに3段階評価の診断難易度が☆印で呈示されている点が独創的である。☆は日常診療で比較的よく遭遇する基礎的疾患で医学部卒業レベル,☆☆は画像所見や病態の解釈がやや複雑な研修医レベル,☆☆☆は比較的稀な疾患で難解であるが,知っていて損はない専門医レベルと,広範囲の疾患が読者のレベルによって選べるように区分されている。当然のことながら☆☆が35例と最も多く,☆☆☆は17例と少ないが,自分ではこの領域の診断を専門としているつもりである私が,左頁のみの情報から診断を試みた結果,☆☆の症例も含めて7例が誤診であった。
 いずれにしても,楽しみながら読むことができ,結果的に読影力を養え,おもしろくて教育効果も高く,放射線科,脳神経外科,神経内科,精神科などの研修医には心からお勧めしたい1冊である。
B5・頁168 定価(本体6,500円+税) 医学書院


アミロイドーシス研究から内科学全般まで

アミロイドーシス 磯部敬 著

《書 評》谷内 昭(前札幌医大学長)

 敬愛する磯部敬教授の『アミロイドーシス』が出版されて約1年になる。昨年暮れに書評をと依頼されてもう半年が過ぎようとしている。言い訳になるが,この間本書を愛読するうち,読破するまでは軽卒に評は書けないと幾度か思った。
 まず総論では,これまでのアミロイドーシス研究の歴史が詳述されているが,1850年代Virchowの命名以来,アミロイド沈着物質の解析が行なわれてきたが,1960年代になりPrasらの蒸留水抽出法により生化学的研究に新天地が拓かれた。1970年代に入り,Glennerらによりアミロイドのアミノ酸配列の一次構造が免疫グロブリンのL鎖のN末端と一致していることが見出された。これにより,それまで論争が絶えなかったアミロイドと免疫グロブリンの関連を予言していたOssermanらの説が確証された。
 その後1990年代に至るまで種々のアミロイド蛋白が発見された。続発性アミロイドーシスのアミロイド蛋白として,Bendittら,FranklinらのAA蛋白,血清アミロイドA(SAA)の同定,家族性アミロイドポリニューロパチー(FAPアミロイドーシス)のアミロイド物質,脳アミロイド線維蛋白,透析アミロイドーシスのβ2マクログロブリン,内分泌アミロイド等のほか,最近話題になっているプリオン蛋白にまで言及されている。

アミロイドーシスの発生機序や診断考察に役立つ

 磯部教授はこのアミロイドーシス研究の黎明期に留学し,高名なOsserman教授に師事され臨床・研究両面でのこの分野の研究進展を体験され,それに基づいて記述されているので,複雑な研究の発展史を容易に理解することができる。この総論を読むとアミロイドーシスの発生機序や診断を考察するのに役立つ。
 各論においてはALアミロイドーシス,AAアミロイドーシス,FAPをはじめ諸種臓器のアミロイドーシス等について,豊富な臨床経験に基づいて,主として自験例を多数掲示され,臨床検査所見,組織像,画像を示し診断に至る道筋が解説されている。免疫電気泳動所見等はおそらく著者自身が検査した労作であろう。また,随所に「まとめ」の表があり要を得ている。
 記述された症例を読むと,おそらく読者の中には(小生はその1人であるが),自分の経験例で,臨床所見や診断困難な場合などについて思い当たるふしがあるかもしれない。また,最近注目されているクロイツフェルト・ヤコブ病やヒツジのscrapie病など伝染性アミロイドーシスも章にまとめられ,プリオンアミロイドについても解説されている。
 本書は著者のライフワークであるアミロイドーシス研究の集大成であるといえようが,本書を通じてアミロイドーシスから派生して広く内科学全般あるいは医学全般に及び広く学ぶことができる。このような意味からも本書を高く評価し,一般臨床医のみならず,研修医,学生諸君にも必読の書として推奨する。
A5・頁240 定価(本体6,000円+税) 医学書院


第一線の研究者の注目したトピックスを一覧

専門医のための皮膚科学レビュー'98 最新主要文献と解説
宮地良樹 編集

《書 評》田上八朗(東北大教授・皮膚科学)

皮膚科医の興味を持つポイントを先取り

 皮膚科の分野で,私たちの興味をそそる新しいかたちの本の出版が続いている。それら多くの企画・編集に関係して,成功に導いている少壮学者,宮地良樹教授に専門書づくりのこつを尋ね,自分自身がもっとも知りたいと思っていることを根幹にして構想を練り上げていく,という答えが返ってきて納得させられた記憶がある。要するに,彼に備わった学問へのジャーナリスティックな鋭い感覚が,その時点で,多くの皮膚科医の興味を持つポイントを先取りキャッチして,上手に編集にまでもっていき,ちょうど,いつも皆の食欲の方向を察知し料理してくれる料理の達人のように,私たちの前に出してくれるのである。その彼の編集により,興味をかきたてられる本が新たに登場した。
 米国のYear Bookは1900年の初頭から,毎年,医学分野での注目すべき論文を集積し,出版してきた。皮膚科学の場合,独立した冊子は1922年以来,過去75年の長きにわたって,論文の集積が連綿と続けられている。編者の好みと興味によるため,そこに集められた論文には多少の偏りがあるにしても,個人としては,たくさんの雑誌を購入する必要もなく,最近の学問の動きをたどっていけるため,世界中にファンは多い。このたび本邦でも出版された『皮膚科学レビュー』は,このようなYear Bookに似た形式をとっている。
 その時の自分の興味に惹かれて,好きな項目のところを開き,読み出すように組み立てられてはいるが,内容的には米国のYear Bookと違い,大きく基礎と臨床とに分かれた配列がとられている。臨床皮膚科学のほうは疾患中心に構成されており,それぞれに関する進歩を追うことができる。

基礎分野を臨床医の視点から

 一方,Year Bookにはみられない切り口がされている基礎皮膚科学も,そのテーマは,皮膚のバリア,かゆみ,皮膚免疫学,アレルギー学と続き,臨床医学者の視点から構成されており,この分野の文献に普段ふれる機会の少ない臨床医に,基礎科学の進歩をたどる貴重な場を提供している。索引も完備しており,こちらから,知らなかった新しい事項を辿ることも可能である。
 それぞれの項目は宮地教授によって選ばれた少壮学者が執筆しており,なにより,その著者が語るべく選んだトピックスの関連論文が,すぐ脇に掲げられるように紙面の配置がされており,読んでいて臨場感的な印象が強い。ちょうど学会で,「……の最近の進歩」を聴く趣きを持つ。しかも,現在その分野で盛んに研究に従事している第一線の研究者たちが注目した論文の話を聞ける点で,視点の新しさにも,興味が持てる。
 本書の表題には「専門医のための」と銘打ってあるが,専門医,レジデントはもちろん,医学生のセミナーの教材としての利用価値も高い本として推賞したい。しかもYear Bookに比べれば手が出る,わずか医学雑誌3冊分程の値段である。
A4変・頁176 定価(本体6,600円+税) 総合医学社


研修医から勤務医まで必須の実践マニュアル

産婦人科ベッドサイドマニュアル 第3版 青野敏博 編集

《書 評》野澤志朗(慶大教授・産婦人科学)

内容の大幅な刷新

 『産婦人科ベッドサイドマニュアル』の改訂第3版がついに刊行された。  本マニュアルは,本邦の生殖医学の第一人者である青野敏博教授を筆頭に,徳島大学産婦人科学教室を中心とした専門家集団が総力をあげて執筆した良書として,初版以来,全国の産婦人科医に広く支持されてきたことは周知の通りである。
 今回の改訂では,婦人科腫瘍学,周産期学,生殖医学のそれぞれの領域で,内容の大幅な刷新と追加が行なわれた。
 婦人科腫瘍学の分野では,「妊孕性の温存と根治的治療の両立」,「乳癌検診」,「残存卵巣症候群」が新たに加わり,生殖医学では,「月経前緊張症と月経困難症」,「過多月経の治療」,そして周産期医学では「AIDS感染妊婦の取り扱い」「パルスドプラによる胎児評価法」などの項目が追加されている。
 これらに関する知識は臨床の現場において必須でありながら,他のマニュアルに十分な記載を見なかったものであり,時宜を得た改訂であると思われる。

臨床的「センスのよさ」

 テーマ選択にあたっては執筆陣が徹底的に討議して,産婦人科研修医から病棟勤務医までに必須の実践的項目のみを最終的に選択したと聞く。その選択の臨床的センスのよさには強い感銘を受けた。この「センスのよさ」は臨床医にとって非常に大切なものであり,本書を良書たらしめている主要因の1つとも言えよう。
 ともすれば改訂の度に頁数が増えて総花的な内容に陥りがちなマニュアルの多い中で,あくまで白衣のポケットに入る大きさを忠実に守りながら,みごとな内容刷新を実現した青野敏博教授の指導力,そしてスタッフ全員の意気込みが本書を手にした瞬間に伝わってきた。
 この春から臨床医としての研修をスタートした若き世代はもちろんのこと,すでに初版以来本マニュアルを活用しているドクターにも今回の改訂版を推薦したい。また,臨床の第一線で後輩の指導に当たる先生方にとっても本書は実践的知識の再整理に役立つであろう。
 21世紀を目前にして,近未来の医療の質的向上を図るには臨床医のさらなる研鑽が必要である。本書が実践書の域を越え,自己啓発の契機となることを期待したい。
B6変・頁504 定価(本体6,600円+税) 医学書院


最新情報を盛り込んだアメリカ留学ガイド

医師・看護婦・歯科医師・薬剤師・医療技術者のための
アメリカ医学留学の手引 第6版
 大石実,大石加代子 著

《書 評》泉 義雄(東海大・神経内科学)

 アメリカは,世界中から頭脳を集めることに熱心で,医師に対しても医師留学試験USMLEを東京で実施し,アメリカ人と外国人とを区別することなく臨床レジデント研修を受け入れる仕組みが整っています。また研究者として留学を希望する場合でも,アメリカ人は日本人慣れしていて,給料などの支払いも当たり前のように手軽にしてくれます。医師にとってアメリカ留学は1つの特権のようなものです。企業の駐在員派遣と異なり,指導教授の厳しい監視の目を逃れて,自由奔放な留学生活を楽しむことができます。また留学業績は,晩年に至れば自分の人生を讃歌するほどの思い出の1頁として刻まれることになります。

充実した留学生活を送るために

 このような恵まれた環境にある医師が充実した留学生活を送るためには,先人の知恵を拝借した留学情報が不可欠となります。『アメリカ医学留学の手引』は,これらの要望に答えてくれる好書といえます。大石先生は慶応大学医学部が誇る出色の逸材で,ニューヨーク州立大学で3年間のレジデント研修を終了したあと,アイオワ大学にて米国医師免許証・神経内科専門医資格・脳波専門医資格を取得された語学の達人です。
 本書の最大の特徴は,単なる留学手続の解説書ではなく,大石先生ご自身のアメリカ留学の実体験に基づいて書かれている点にあります。昭和55年当時,まだこのような手引書のない時代に留学され,暗中模索のなかでいろいろな失敗を繰り返しながら体得した,そして後輩のためにぜひこれだけは伝えたいと思うものをえりすぐって,第1版が出版されました。好評に応えて版を重ね,その後のアメリカの医療制度の変遷に即応しながら,第6版では1998年7月から実行される最新情報までが満載されています。

留学に必要な知識が必ず見つかる

 本書は臨床医研修を望む医師ばかりでなく,歯科医師,研究活動を希望する医師,アメリカで働くことを希望する看護婦,薬剤師,医療技術者等に必要な情報も記載されています。また留学に必要な手紙の書き方なども,大石先生の経験をもとに具体的に親切に記載されています。したがって読者は,留学の際必要とする知識を必ずこの本のどこかに見つけることができます。本書に記載のないことは,他の日本人の誰に聞いてもわからないというほどに充実した内容であると,私は思います。
 本書のもう1つの特徴は,主眼をアメリカ留学に置きながらも,カナダ,イギリス,ドイツ,フランスに留学する人のことに配慮して,その情報を提供している点にあります。ドイツ語,フランス語の第2外国語については例文も多く掲載されています。
 私は平成元年よりパリ大学ラリボワジエール病院ならびにフランス国立科学研究所CNRSUA 641に,3年6か月間留学しました。現在,医学雑誌「薬理と臨床」に「医学フランス語会話」を連載しています。このシリーズは読者が実際にフランスの病院を受診した際に遭遇する場面を想定して書かれています。豊富な例文のほかに診療科別の重要単語の項目を設け,さらに毎回フランス医療情報を解説しています。フランスは国際感覚性の高い国ですが,留学するとなるとアメリカのようにはいきません。フランス留学を志される方は,大石先生のアメリカ医学留学の手引と,私の医学フランス語会話を併用されれば,憧れのパリ生活が約束されます。
A5・頁312 定価(本体4,000円+税) 医学書院


MRIについて幅広く活用できる書

図解 原理からわかるMRI M.NessAiver著/押尾晃一,百島祐貴

《書 評》川上壽昭(愛媛大附属病院放射線部技師長・日本放射線技術学会会長)

 1980年代初頭に開始されたMRIの臨床応用は,画像診断の分野において大きな衝撃を与えた。しかも,その後のハードウェア,ソフトウェアの著しい進歩により飛躍的に高速化,高分解能化が達成され,17年を経た今日でも次々と新しい撮像法が考案され,その成果が報告されている。
 現在,日本国内には3000台を超えるMRI装置が稼働している。多くの診療科においてスクリーニング検査から精密検査に至るまで幅広く活用されており,画像診断に関わる者にとってMRIは避けて通れない不可欠な知識となっているが,撮像の原理や装置の構造などを十分に理解する前に画像だけが先行している傾向が感じられる。しかし,MRIはわれわれが慣れ親しんできたX線とは根本的に異なる原理に基づいており,難解な用語が多く,また複雑なパラメータの組み合わせによる撮像法は決して簡単ではない。さらに多種多様な画像の解釈が原理の理解を一層困難なものとしている。
 MRIに関する入門書や参考書は,これまでにも数多く出版されてきた。そのいずれにおいても難解なMRIの原理をいかに平易に解説するかについて,多くの著者が頭を悩ましてきたと思う。しかしその一方で読者にもある程度の物理学,数学などの知識が要求され,さらに第1章から最終章まで読み終えるにはかなりの忍耐と努力が必要とされてきた。

初心者にも理解しやすい解説

 今回,出版された本書はこれまでの専門書,解説書とはかなり違った構成となっており,ほとんどすべての項目や用語が半頁ずつの図解となっている。しかもその内容は著者が講義用として作成した教材を基につくられているため,初めての者にも理解しやすく工夫されている。文章も,あたかも講義を聴講しているかのような文体で非常に読みやすく,著者と2人の翻訳の先生方が苦労して制作された書であることがうかがわれる。また,解説文の下部には読者が自分で書き込めるスペースが設けられているなどの配慮がなされている。
 内容としてはかなり充実しており,初心者から中級者レベルにまで対応できると思われる。また,他の参考書や専門書を読むときの用語の辞書としても活用できそうである。ただ,その反面,すべてが項目,用語ごとに細分されているため,MRIの装置としての全体像や画像が作製されるまでの一連の過程を把握するには若干不十分ではないかと考える。 MRIに興味を持つすべての人に
 MRIは,まったくの初心者が1冊の本で理解できるほど簡単ではなく,またたとえ本書の内容を完全に理解できたとしても,すぐに実際の撮像ができるわけではないが,だからと言って,いつまでも躊躇していては時代の流れに取り残されないとも限らない。本書は,価格も手ごろであり,少しでもMRIに興味を持つ方が最初に手にする書として,学生諸氏の教科書,参考書としてはもちろん,現在検査に携わっている諸先生方の知識のリフレッシュや専門書を読むための辞書として等々,まさにMRI検査のように幅広く活用できる良書である。
A4変・頁158 定価(本体4,000円+税) 医学書院