医学界新聞

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日本地域看護学会に期待して

金川克子(東京大学医学部地域看護学教授)


日本地域看護学会の発足の経緯

 昨年の10月15日に,日本地域看護学会が70余名の学会設立発起人の賛同のもとに発足した。
 学会設立の趣旨は次の通りである。地域では,保健所や市町村保健センターを基盤にした公衆衛生看護活動や,訪問看護ステーション・病院・施設等からの在宅看護サービス等,さまざまな看護活動が展開されている。
 また,地域保健法の実施に伴い,地域での保健活動の再編成が進行しつつあり,保健所と市町村の役割も明確にされた。さらに,企業や学校でも保健活動が活発に行なわれている。
 このような地域での保健活動に対して,地域看護活動の基盤になる理論や方法の確立および発展のために,関係者が研究成果や情報を交換できる場が必要であった。
 1つの学会が設立されるためには,必然性が求められるため,看護系大学が増加する中で地域看護学の学問体系を確立させる必要性があった。

地域看護学が めざすもの

 人口構成や疾病構造の変化,人々の保健・医療行動の多様性等により,地域で生活している人々に対しては,健康増進や疾病予防から医療・看護・介護までの幅広い活動が求められている。また,増大する医療費に対し保健医療制度の改革が重要な課題ともなっており,地域での看護活動にもその真価が問われている。
 2000年には公的介護保険制度の実施が予定されており,地域で働く看護職にとって新たな課題に直面することがさらに多くなると思う。地域看護学は,地域で生活している人々の健康とQOLの向上をめざしたサイエンスであり,アートであると考える。
 障害や疾病を持ちながらでも,できるだけ自立した生活が維持できるように在宅療養者や要介護高齢者に看護の手をさしのべ,生活環境を整える。また,地域の保健問題を明らかにし,効果的な看護プログラムを開発し,適用していくことである。
 実践の場では,保健婦や看護婦らが日頃訪問指導や訪問看護で接する事例や,健康診査・健康相談・集団指導に訪れる人々の健康問題を通して,人々の健康についての考え方や,健康レベル,生活環境に目を配り,地域全体の健康増進に連なる方策の提言や実践に移していくことである。
 この日本地域看護学会が,現場での実践活動と教育・研究者の活動とを有機的に連携させ,さらに実践活動の理論化へ,また理論が実践の場で実証や応用が可能になるような場にしたいものである。