第2275号 1998年2月2日


座談会

外国人医療の実態と支援体制

医療現場における実態は?

文化や習慣の違いによって生じる問題は?

 医療制度の違いによって生じる問題は?

外国人医療に今後必要なこと

倉辻忠俊氏
(国立国際医療センター
小児科医長)
片山道弘氏
(片山こどもクリニック院長)
小林米幸氏
(小林国際クリニック院長)


医療現場における外国人患者の実態

外国人医療は地域医療の一部

本紙 今回は,外国人の患者さんの医療現場における実態や,支援体制についてお話をうかがいたいと思います。
 まず,自己紹介をかねまして,先生方の各病院の外国人の患者数と現状についてお話しいただきたいと思います。小林先生からお願いします。
小林 開院してほぼ8年になりますが,外国人の患者さんは,ここ3年ぐらいは横ばい状態が続いているものの,前年度に比較し常に増え続けています。月平均の延べ人数は180-250人ほどで,全体の患者さんに占める割合が,だいたい10%-15%の間だと思います。
 開院以来,約3100人の新規の患者さんがみえました。延べ人数にしますと1万4000人ぐらいです。国籍ではタイ,フィリピン,ベトナム,カンボジア,ペルー,アルゼンチンが突出して多いです。外国人の患者さんが1人もいらっしゃらない日は,本当にまれですね。
 また外国人の患者さんの約8割は,私どもの病院がある大和市から車で30分ほどの比較的近隣からやってきます。これは,外国人医療は特別な医療ではなく,本当に地域の医療として考える必要があるということの何よりの証拠だと思います。
本紙 片山先生はいかがでしょうか。
片山 私どものところでは,統計をとっておりませんので詳しいことはわかりませんが,小林先生のところほど外国人の患者さんの数は多くありません。それでも外国人の方がみえない日はまずないですね。
 いらっしゃるのは,中国系,フィリピン系,それにブラジルの方が多いです。かたこと程度なら日本語が話せる場合が多いのですが,月に1-2人くらい,最近日本にきた方や,領事館の紹介などで来院される日本語がまったくできない患者さんがおりまして,その対応に苦慮しています。
本紙 倉辻先生はいかがでしょうか。
倉辻 私のところの新生児科と産科で協力して,分娩件数を調べたデータがありますが,過去3年間では徐々に増えてきているようで,94年には7.4%ぐらいだったものが,現在では15%を超えてきているということです。
 内訳は韓国,中国が50%を占め,フィリピン,タイと続きますが,アジアの方が95%を占めます。

言語と言葉:専門用語でなくわかりやすく噛み砕いて

本紙 外国人医療はもはや地域医療の一部になりつつあるというお話ですが,やはり言葉の問題はかなり大きいと思います。
 それに対して具体的にどのように対応されていますか。
小林 おっしゃるように,「目と目が合えばわかりあえる」ということは,外国人医療の世界ではありえないと思います。
 私のクリニックには,事務員の中にインドシナ難民として日本に来た中国系のカンボジア人がいます。この人に,英語,フランス語,北京語,広東語,潮州語,ベトナム語,カンボジア語の通訳をお願いしています。
本紙 お一人でなさっているのですか。
小林 ええ,すべて同時通訳をしてもらっています。ですから,患者さんのほうを見てベトナム語を話して,私のほうを見てカンボジア語で話しかけるというような間違いがよくありますが。(笑)
 その他に,やはり中国系のカンボジア人で,日本に来てから看護婦の免許をとったという人がいて,先ほどの事務員と同程度の通訳はできますし,あとは日本語が話せる患者さんをつかまえて,通訳に早変わりさせてしまうこともあります。
 また私の家内が韓国の延世大学の医学部を出ているものですから,英語と韓国語が話せますし,私も英語のほか,ごく簡単なスペイン語やタイ語であれば何とかこなせます。今のところ本当にお手あげというのはイランなどのペルシア語圏の方ですね。幸いなことに,そういう方はあまりいらっしゃらないので助かっています。
片山 うちの場合,自分で作ったパソコンのソフトと本で,大抵のことは解決できるようになっています。しかし,少し込み入ってくるとだめな場合もありますので,そのときにはソフトの制作のときに翻訳していただいた方に通訳をお願いしています。対応できる言語はタガログ語,英語,スペイン語,中国語,ポルトガル語の5か国語くらいですね。
倉辻 私どもの外来では,かたことの日本語と英語でなんとかなるという患者さんが多いです。そうでない方に関しては,国立国際医療センターには国際医療協力局というものがあるのですが,下痢症対策,ワクチンプログラム,母子保健協力などに長期に携わったことのある,中国語やスペイン語など外国語に堪能な方に手伝っていただいたり,ソーシャルワーカーを通して通訳をお願いしています。
 最近では,インフォームドコンセントがやかましく言われておりまして,ただ一方的に学術専門用語を使って説明するのではなく,わかやりすく噛み砕いてお話をすることが日本語でも求められております。こういう点は外国語の場合も同様で,外国人の患者さんに対しては,テクニカルタームを並べて説明するのではなく,わかりやすい言葉に言い換えて説明するように努力しています。

通訳の問題:正しく翻訳されているか

本紙 外国人医療においては,必然的に通訳の方が重要な役割を果たしていると思いますが,通訳に関してはなにか問題などありませんでしょうか。
小林 通訳の方を使うということは,医療スタッフではない第三者を医療の現場に入れることですので,当然患者さんのプライバシーが問題になってきます。
 特にエイズのような病気の場合は,特別に注意しなければなりません。そういう場合は患者さんと顔見知りだったりする可能性のある近所の通訳の方は使わず,私が所長を務めているAMDA国際医療情報センターに常駐している通訳の方にやむをえずお願いしています。ただこれは,AMDAのボランティアを自分の仕事に利用していると言われたくないので,必要最小限にしています。
 また,私のところでは,開業以来同じ通訳の方を雇用していますが,時々,私の言ったことが本当にそのまま訳されているのだろうか,と不安になる時があります。
 英語なら何を言っているかわかりますが,ベトナム語などで言われてしまうと,間違ったことを言っていても私にはわかりません。ですから,通訳の方に日本語を伝えるときには,なるべく医学用語を使わず,できるだけ平易な言葉を使うように心がけています。
本紙 曖昧な日本語的表現になってしまった場合に,ただ直訳をされてしまうと,本当にお聞きになりたいことと内容が異なってくることもあるかもしれないですね。
小林 うっかり曖昧な表現をしてしまった瞬間,失敗したと思うことがよくあります。
 曖昧な表現は,通訳をする人が間違う可能性が特に高いですから,とてもこわいですね。
倉辻 小林先生がおっしゃったように,正しく翻訳してくれているのかという不安は私どもも感じています。そういう時は,絵などを描きながら説明したり,中国の方などですと,ポイントを漢字で箇条書きにして通訳をお願いするようにして,なるべく行き違いのないように努力しています。しかし,実際問題として本当に伝わっているのかどうかはわからないですね。
片山 通訳のレベルは大事だと思います。よくボランティア団体に通訳をお願いすると,あたりはずれが大きいですね。
小林 日常会話と医療の現場における会話とでは,使われる言葉の質が明らかに違います。
 ですから,本当は医師が中心になって,医学用語に通じた医療の通訳を養成するコースを作る必要があります。現実にそういうことをやっているボランティア団体が山形にあります。

文化や習慣の違いによって生じる諸問題

宗教の違いによって生じる問題

本紙 言語のこともさることながら,先生方と患者さんとの診療の慣習の違いなどで戸惑われることはありませんか。
小林 外国人医療の現場において,まっ先に出てくるのは言葉の問題ですが,仮に言葉が通じても困るのは,患者さんの母国と日本の医療体制・宗教・習慣などの違いからくる,考え方の違いですね。
 この違いの中にはさまざまなタブーや,してはいけないことが含まれています。特にモスリム(イスラム教徒)の患者さんの場合は,男性の医師が女性の患者さんを拝見するのは非常に難しい。また,モスリムほどではなくても,東南アジアなどの,小乗仏教の信者の方などは恥ずかしがって,なかなか肌を見せてくれない。ですから私も,聴診するのに,服の上から聴診器を滑り込ませて診察したりします。
 こんなこともありました。あるカンボジアの女性の乳房を診察した時のことです。私は乳房を診察する時は,男1人で女性の患者さんを診るのはいろんな意味で危険を伴いますので,必ず看護婦さんにそばにいてもらうようにしていました。しかし,患者さんがひと言ふた言何か言うと,通訳の方が看護婦を連れて診察室から出ていってしまいました。なにごとかと思っていると,その患者さんは「お医者さんに見られるのはしかたない。けれども,同性である女性の看護婦さんや通訳に見られるのは耐えられない」と言ったそうです。カンボジアではこれは一般的な考えとのことです。
 このように,国が違うと考え方もまったく違うので,本当に悩みの連続ですね。私の場合は,患者さんと信頼関係ができたなと思ったときに,こういうことを言っては失礼なのかとか,こういうことをやったらあなたの国では失礼ですかということを尋ね,情報を仕入れておくことにしています。

食習慣の違いによって生じる問題

本紙 倉辻先生はいかがですか。
倉辻 私の専門の小児科で問題になるのは,育児相談と乳幼児の消化器の病気です。これは国によっては離乳食という概念がないことが原因です。WHOやユニセフでもそのことに気がついて,母乳の後にそれを補充する食品を,1日何回,どの程度与えたらいいかを現在,各国の専門家が集まって検討しています。その勧告がもうすぐ出される予定になっています。
 それができますと,各国のユニセフの職員が,各途上国で指導しますので,そういう考え方は浸透していくはずですが,それまでにはまだ数年かかると思います。特に食事療法などでは,指導をしてもなかなかそれができないという問題,そういうことも1つの習慣の違いからくる難しさだと思います。
片山 私も小児科ですので,倉辻先生と同じく,育児や栄養指導で苦労しています。日本では栄養士の方がきちんと栄養指導を行ないますが,食習慣の違う外国の方に対しては,思うようにいきません。
 離乳食については,外国の方に聞くと乳幼児にも大人と同じものを食べさせていると言われますが,どうしてそれがいけないのか,なぜ日本のやり方のほうがよいのかを,どうやって説明してよいのかまったくわからなくて,結局そのままにしてしまっています。ただ,日本のやり方を一方的に押しつけてよいのかわかりませんし,結局のところ子どもが栄養失調にならずに,元気に育てば特に問題はないと思います。
小林 日本のやり方がよいか,母国のやり方がよいかということを議論し始めるときりがなくなってしまいます。ですから,私は「日本ではこういう理由でこうやる」という説明しかせず,母国のやり方との比較などについては,あまりうるさく言うのは控えるようにしています。

医療制度の違いによって生じる諸問題

予防接種と輸入感染症について

片山 生活習慣だけではなく,医療のシステムの違いから生じる問題もあります。その顕著な例として予防接種ですね。
倉辻 そうですね,予防接種に関しては,日本はほとんどの国で採用されているWHO,ユニセフの推薦する方法を採っていませんので,日本が特殊な状況にあると言えるケースです。
 例えば麻疹の予防接種。これはまだ母親からもらった抗体が少しでも残っている状態で接種すると,10万人に0.3人の割合で,現在治療法のないSSPEという脳炎の副作用が出ます。日本では極力副作用が起こるのを避けようという考え方なので,生後12か月ないし15か月以降に接種を行なうように推奨されています。一方,途上国では,12か月まで待ってしまったら,その間に何100万人の子どもが麻疹そのもので死んでしまいますので,WHOやユニセフでは,生後9か月から予防接種を行なっています。
 ですから,私どもでは,外国人の患者さんが来た場合は,全部ユニセフ方式で,日本人の患者さんには日本の方式でやっております。
小林 ポリオはどうなさっていますか。
倉辻 ポリオは外国人に対しては,回数を増やしてやるよう指導しております。ポリオはもともと生ワクチンですから,本来は1回でいいわけです。
 ところが,人によってつきにくい場合があるので,日本では1回追加して2回行なっているわけです。アメリカではそれでも足りないということで4回行なっています。途上国でも4-5回行なっています。それだけガッチリつけないとポリオになってしまうということもあります。
小林 先日,子連れのお母さんが,自分の国のお医者さんに聞いたら,絶対に3回でなければだめだと言われたが,日本の病院では,3回目はできないと言われたためパニックになってしまって,私どものところに泣きついてきたということがありました。
片山 ポリオに対しては,ちょっとまだ不備が多いですね。愛知県で3回以上の接種をしているのは,私が行っている病院ともう1か所あるかないかですね。
倉辻 予防接種センターなどでやってもらえます。ただ,接種を受ける保健所,あるいは予防接種センターによく説明して,さらに手紙を持たせないと,やってもらえないことが多いです。
小林 入院や薬剤の使用に対する考えかたも国によってまったく違いますので,それに関する問題は数多くありますし,医療制度の話からは外れますが,日本ではめったに目にすることのない疾患,いわゆる輸入感染症の問題もあります。
 マラリアや顎口虫症などは最近それほどめずらしい病気ではなくなってきましたが,もっとマイナーな疾患だと,その疾患に対する基礎知識がないと,誤診する可能性が非常に高いですね。ですから,外国人の患者さんに対しては,その人の国ではどういう疾患,特に感染症はどのようなものが多いかを十分に調べる必要があります。

保険や医療費の問題

本紙 医療費や保険の問題についてはいかがですか。
小林 私のところの患者さんはベトナム,カンボジア,ラオスといったインドシナ難民の人々が約1/3を占めており,彼らはみんな保険を持っています。しかし,それらの人々を除けば,保険を持ってない人のほうが多いと思います。
 また,保険を持っている人でも,日本に生活基盤や財産がすべてあるわけではないので,同じ金額でも日本人より重く感じられるのは紛れもない事実です。ですから,治療や検査をするにしても,無駄なことは絶対できません。
 そこで,まず患者さんに現状を詳しく説明して,薬だけで様子をみるか,あるいは検査に踏み切るかということを,金額のことまですべてを話して,本人に選んでもらうようにしています。さらに,薬を使う時も,なるべく薬価の安い薬を短期間使うようにして,経済的な負担を少なくするように心掛けています。
 このように値段に関するインフォームドコンセントをしながら治療をしますので,大学病院などで診療していらっしゃる先生方がうちのクリニックでの医療の内容を表面的に見ると,ひょっとするとおかしく見える診療内容もあるかもしれません。ただ病気というのは,単に病気というものが独り歩きしているわけではなくて,それを持っている人間がいるわけですから,その人の生活状況に合わせて医療を行なっていくことは非常に大事なことだと思います。
 どうしてもお金がない場合には,何回かに分けてお金を返してもらったこともずいぶんあります。その中で未納になってしまったというのは,いまのところは数えるほどしかありません。
本紙 片山先生はいかがですか。
片山 私の医院の患者さんも,ほとんどの方が保険を持っていらっしゃるので,大きな問題はないです。保険を持っていらっしゃらない方もたまにいますが,本当にたまになので,ついついお金はいらないと言ってしまっています。
本紙 倉辻先生はいかがですか。
倉辻 私どものところも,保険を持っていない患者さんや費用を払えない患者さんがみえることはほとんどありませんが,国立の施設ですから,費用が払えないからといって断ることはありません。そういう場合はソーシャルワーカーと協力して診療に当たっています。

“オーバーステイ”という問題

本紙 現在の外国人医療を考える上で避けて通れないのがいわゆるオーバーステイをしている人々の問題ですが,このことに関してなにかご意見はありますか。
倉辻 入国管理法が改正されたことによって,オーバーステイの人に気がついたら,入国管理事務所に通報しなければならなくなったと聞いたのですが。
小林 いや,義務はないです。
倉辻 そうですか,ところが通報してしまい患者さんが強制送還されてしまったことがあるそうです。
 いろいろな事情があってオーバーステイになってしまった場合でも,日本で病気になれば,よくなるまで日本で医療が受けられる,そのような態勢ができるように行政のほうで配慮してほしいと思います。
小林 私は,先生がいまおっしゃった,日本で病気になった場合に,最後までみるかどうかということに関して,少し意見が異なります。確かに救急医療や,急性期の治療などは必要です。しかし,慢性腎不全など慢性疾患の治療のために,オーバーステイをずっと続けて日本で治療していくべきかというと,そうではないと思います。
倉辻 そういう場合はまた別ですよね。

オーバーステイと医療制度

小林 わが国にはオーバーステイの人でも使える医療制度というものがいくつかあります。例えば結核予防法や,労災,いわゆる行き倒れた人のための行路法(行路病人および行路死亡人取扱法)。また難病に指定されている特定疾患に対しては公的な医療が施されます。
 それから,予防接種も外国人登録さえしていれば,オーバーステイであっても受けることができます。最近ではオーバーステイで在留資格がなくなっていても外国人登録書を発行する自治体が増えています。
 私は外国人の患者さんを扱うケースが多いので,このような制度についてある程度の知識を持っていますが,ふつうに診療している医師がどこまで知っているかということが問題です。中にはソーシャルワーカーでもあまりご存じではない方がたくさんいらっしゃるようです。
 また知っていても,相談が医師のほうから,ソーシャルワーカーまでいかないで終わってしまうケースも多いと思います。ですから,このような制度の運用に関して,医療機関の中で研究したり,話し合っておくことが必要だと思います。

これからの外国人医療に必要なこと

外国人医療と医学教育:バックボーンを知ることが必要

本紙 実際に外国人医療を行なっている諸先生に,外国人医療が抱えるさまざまな問題点をご指摘いただきましたが,最後にその他にもこれからの外国人医療のために必要と思われるものがありましたら教えてください。
小林 外国人の患者さんを診るためには,当然その患者さんが持っているパーソナリティや,社会的・文化的背景を知っておかなければならないと思います。
 しかし残念ながら,現在のわが国の医学教育や看護教育には,それらのことを教えるシステムがありません。ですから,医療の持つ人文科学的な側面の教育を行なう場を設ける必要があります。
 そこで,しかるべき大きな組織が主催者になって,医学・看護学生や研修医を対象として,外国人医療に関するセミナーなどを開催してほしいですね。私どもの団体でもこのようなセミナーは何度か開催したことがあり,それなりの効果をあげたとは思いますが,名もないボランティア団体がやるのと,ネームバリューのある組織がやるのとでは信用度も普及度も違うと思います。内容としては,日本に来ていらっしゃる留学生や,外国人医師の方に海外の医療事情などについて講演していただくのがよいかもしれません。外国人の患者さんたちのバックボーンを知ることは,日常の診療の中で役に立つと思います。

行政サイドへの要望:地域差の解消を

片山 これは行政サイドに対する要望ですが,外国人に対する行政のバックアップの質や量が自治体によってかなり差があるのが気になります。
 例えば問診表1つとっても共通のフォーマットはなく,各自治体がそれぞれ独自に問診表を作っています。そのため,対応している外国語の数などは,自治体によってかなりばらつきがあり,ひどいところになると,外国語表記の問診表をいっさい作っていない自治体もあります。他のサービスに関しても同様で,きちんとしている地域とそうでない地域とではかなりの差があります。これは何とかしなければならない問題だと思います。
小林 たしかに,東京都のように外国人が多い地域では,外国人に対する医療情報の提供や,救急通訳などといった事業が,委託事業として始まっており,また問診表の翻訳などもある程度進んでいます。ただそれが末端の市町村まで行き渡っているかというとなかなか難しいですね。
本紙 倉辻先生はいかがですか。
倉辻 これから,長期滞在者ばかりでなく,オリンピックなどの国際的な競技会や万国博覧会,国際会議などが開催される機会も増え,観光客を含めた外国の方がますます増えつづけていくと思います。そういう人々が病気になった場合に,簡単に自分の国の言葉で医療に関する情報を入手できるような体制作りが必要だと思います。

『Dr.マルチ』を作り終えて:言葉の壁を少しでも低くする

本紙 そういう問題点をクリアしていくために,どのようなことをしていけばよいかのでしょうか。片山先生はこの度,外国人の患者さんの問診用ソフト『Dr.マルチ』をお出しになりましたが,ご意見をお聞かせ下さい。
片山 私のクリニックは大体年中無休で,しかもほとんど24時間診療をしている状態ですから,あまり時間がありません。その中で自分にできることといったら,ごく限られています。また,外国人医療における課題は山ほどありまして,とても私1人の手におえる問題ではありません。
 そこで私は言葉の問題だけにこだわって,言葉の壁を少しでも低くしようと取り組んできました。そして,それを何とかマルチメディアなどを活用して,多くの人が利用できるものにしたいと考えて作ったのがこのソフトです。
本紙 言葉の表現の問題でさまざまなご苦労があったとうかがっていますが,いかがでしたか。
片山 嫌になるほどありましたね。日本語の原稿を翻訳して,それを何人かにみてもらうという作業を各言語ごとにやるわけですが,みせる人ごとにみな違うことを言ってくるものがいくつかありました。
小林 先日,片山先生に『Dr.マルチ』を送っていただいて拝見しましたが,おそらく,ものすごい苦労をされただろうと思いました。
 私の知人も同じようなものを作っていますが,その方もたくさんの人に意見を聞いているうちに,あまりにもみんなが違うことを言うので,どれを採用すればよいのかわからなくなって,だんだんできなくなってきてしまったんですよ。1つ作って他の方に見てもらうとぜんぜん違ってこのほうがいいという具合で,どこかで切り上げないときりがないと言っていました。
片山 おっしゃるとおりです。おそらく地域的な問題や,教育レベルの違いによるのでしょうが,「これは方言だ」とか,「こういう言葉を医師が使うのはおかしい」という具合で,どれを使えばよいのかかなり迷いました。
 これにはつづきがあって,何とか原稿をまとめあげてナレーションを入れる段階まできたら,こんどはナレーターが「ここの表現はおかしい」と言いはじめ,また訂正することになってしまいました。

日常診療における必要最低限のマニュアル

本紙 倉辻先生にも実際にこのソフトを使っていただいていますが,いかがですか。
倉辻 このソフトのよい点は,日常の診療に関することの必要最低限のマニュアルになっていることですね。また,音声と同時に文字も画面上に表示されますので患者さんも反応しやすいです。
 これを使いこなせれば,日常の診療はかなりのところまでこのソフトだけでこなせると思います。そして,最終的に手術や,その予後の説明といった込み入った説明をするときには人間の通訳の方にお願いするという使い方が有効だと思います。
小林 ただ,難点をあえてあげさせていただくなら,値段ですね。CD-ROMで難しいのは,かなり高価だということです。片山先生のように,お一人で診療なさっているところなら,1つで十分です。しかし,倉辻先生が勤めていらっしゃる病院のように,診療科や病棟がたくさんあるというところでは,これを10も20も買わないと使えませんから,金額的にものすごく大きくなってしまいます。
 また,マニュアル通りに話が進んでいかなかった場合,それに対応できないということもありますが,あくまでもこういうものは補助手段ですので,そのことを頭に入れながら使うぶんには非常によいものだと思います。
本紙 本日は長時間にわたりありがとうございました。 (おわり)

●参考資料 外国人のための医療相談・診療等窓口
(『15カ国語診療対訳表』〔医学書院刊〕より)
名 称所在地連絡先備 考
AMDA国際医療情報センター東京TEL(03)5285-8088
FAX(03)5285-8087
英語,スペイン語,中国語,ハングル語,タイ語で対応。他に,ポルトガル語(月・水・金),ペルシャ語(月),タガログ語(水)も可
AMDA国際医療情報センター(関西)大阪TEL(06)636-2333
FAX(06)636-2340
英語,スペイン語で対応。ポルトガル語(火),中国語(火・木)も可
TILL(栃木インターナショナル・ライフ・ライン)栃木TEL(028)639-8044
FAX(028)634-8711
第1日曜にYMCA教育センターにおいて医師による医療相談を開設(要予約)
SHARE(国際保健協力市民の会)東京TEL(03)5800-4778
FAX(03)5800-4779
英語(木・金),タガログ語(水),タイ語(水)で対応。土曜日(17:30-20:30)はタイ語によるエイズ相談をTEL(050)207-6953で受け付け
早稲田奉仕園留学生緊急医療補助基金東京TEL(03)3205-5407
FAX(03)3205-5413
健康保険の自己負担分(保険適応外はカバーされない)を最長3か月まで補助する
小林国際クリニック神奈川TEL(0462)63-1380
FAX(0462)63-0910
英語,ハングル語は診療時間内の終日,北京語,広東語,潮州語,カンボジア語,ベトナム語は午前中のみ
MF-MASH
(みなとまち健康互助会)
神奈川問い合わせは各診療所へ港湾労働者福祉センター内。月2,000円の会費で下記の5診療所において3割の自己負担で医療を受けることができる
港町診療所神奈川TEL(045)453-3673 
十条通り医院神奈川TEL(0462)74-5884 
横須賀中央診療所神奈川TEL(0468)23-8691 
伊勢佐木クリニック神奈川TEL(045)251-8622完全予約制
港町歯科神奈川TEL(045)453-3858 
ハンド・イン・ハンドちば千葉TEL(043)224-2154英語,スペイン語,タイ語,タガログ語で対応可
東京都保健医療情報センター東京TEL(03)5285-8181
FAX(03)5285-8085
英語,スペイン語,中国語,ハングル語,タイ語で対応
医療機関向け救急通訳サービス:TEL(03)5285-8185
北信外国人医療ネットワーク長野TEL(026)263-2145
FAX(026)263-2145
原則は要予約。英語,スペイン語,ポルトガル語,タイ語,タガログ語で対応可
あるすの会愛知TEL(052)991-3519 
片山こどもクリニック愛知TEL(0568)51-3907要予約。英語,中国語,タガログ語,スペイン語,ポルトガル語で対応可
コムスタカ熊本TEL(096)352-3030英語,タガログ語で対応
コザ保健所沖縄TEL(098)938-9792
FAX(098)938-9779
第3水曜日(13:00-15:00)に英語,スペイン語,ポルトガル語による医療相談を受け付け