医学界新聞

「死への準備教育」をめぐって

第21回日本死の臨床研究会開催


 第21回日本死の臨床研究会が,渡辺正(藤田保衛大七栗サナトリウム院長),馬場昌子(あいちホスピス研究会)両会長のもと,さる11月8-9の両日,名古屋市の名古屋国際会議場において開催された。
 今研究会では,作家の柳田邦男氏による特別講演「私にとっての尊厳ある死」,シンポジウム「死への準備教育-よりよく生きるために」,パネルディスカッション「ターミナルケアと市民運動」の他,細谷亮太氏(聖路加国際病院)の「思春期までの子どもの死と私たち」をはじめとする6題の教育講演,140題を超える一般演題などが企画された。
 高齢化が加速する21世紀を前に,市民の終末期医療への関心が高まる中で開催された今回は,「地域に根ざした死の臨床」をテーマに定め,プログラムの一部を市民に公開。その結果,4000名を超える参加者が会場を訪れた。

よりよく生きるために

 シンポジウム「死への準備教育-よりよく生きるために」では,4人のシンポジストが,医療,看護,教育などそれぞれの立場から発言を行ない,「死への準備教育」や,死別体験者に対する「悲嘆教育」の必要性を確認するとともに,これからの生と死に関する教育のあり方が模索された。
 最初に司会も務めるアルフォンス・デーケン氏(上智大教授)が登壇。アメリカ,スウェーデン,オーストラリアなどにおける「死への準備教育」や,「悲嘆教育」の現状を紹介。また,これからのわが国の課題として,(1)中・高校における年1回の「生と死を考える日」の開催,(2)外国からの輸入ではなく,日本の実情に合わせた「死への準備教育」の教科書の作成,(3)病院における患者の家族および遺族のための悲嘆教育の実施,(4)生涯教育として,各年代に応じた「死への準備教育」や,「悲嘆教育」の普及促進など,学校,病院,一般社会などさまざまな場における生と死の教育に対する提言を行なった。
 続いて平山正実氏(東洋英和女学院大教授)は臨床精神医学の立場から,死別体験者の悲嘆と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の関係について解説。「死別体験者の悲嘆は,故人と体験者との間の人間関係,故人の死に至る過程などによって千差万別であり,悲嘆によって受けたトラウマ(心的外傷)や,それによって引き起こされる行動障害の程度や性質などもさまざまである」とし,死別体験者個人の状況に応じた対応の必要性を強調した。

死を迎える人々から学ぶ

 馬場昌子氏は,自らの臨床における経験と,13年にわたって看護婦たちとともに行なってきた「事例による死の看取りセミナー」での経験から発言。「癌に冒されながらもボランティア活動に尽力する人々からも,人間の素晴らしさを何度も教えられてきた。人間の素晴らしさを生涯をかけて発見をし続けることが最大の『死への準備教育』である」と述べた。
 最後に発言を行なった鈴木秀子氏(聖心女子大教授)は,作家の遠藤周作氏の死を通じて「人の死はさまざまで,これでよいという死はない。ただその人の死を受け入れることが大事であることを学んだ」と語った。また,「健康のように,普段われわれが当たり前と思っていることが,実は恵みであるということを死にゆく人々は教えてくれる。患者の死を医療の敗北ととらず,その教えを受けとめることも医療に携わる人間の務めである」と医療従事者に対するメッセージを贈った。
 最後にデーケン氏は「終末期医療は,医療や看護だけではなく,社会・文化全体に関わるテーマであり,死にゆく患者や,残される遺族をどれだけ温かく見守ることができるかが,われわれの社会・文化を評価する大切な基準となる」と述べ,終末期医療の重要性を改めて強調。また「この数年間で『死への準備教育』に対する関心は確実に高まっている。これからさらに一般市民も含めて生と死に関する教育が盛んになっていくことを期待する」と語り,シンポジウムを締めくくった。