医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


脳卒中をユニークなイラストで解説

脳卒中ことはじめ 山口武典 編集

《書 評》藤島正敏(九大教授・内科学)

 脳卒中は1995年以降,再びわが国の死因第2位に浮上し,日本人の国民病といっても過言ではない。また脳卒中は患者のQOLを極端に損ない,家族にとってもきわめて厄介な病気であり,寝たきりや老年期痴呆の最大の原因でもある。しかし,この病気に対して意外に医療従事者,国民の関心が薄い。従来から脳卒中は治らない,治せない病気と一般にとらえられている。さらに脳卒中は心筋梗塞と同様に急を要する血管病(通常,神経疾患とみなされている)であるとの理解が十分に得られていない。脳卒中は超急性期から適切な治療を行なえば,治せる疾病であることを再認識しなくてはならない。
 本書は,ある朝突然に右上下肢麻痺と失語症が出現した会社員,58歳の「小丸呑平(こまるのんべい)」氏が,専門病院へ移送され,そこで診断,治療,リハビリテーションを受けたのち退院,自宅療養に至る過程が詳しく述べられている。この臨床経過が,各頁にユーモアに富んだイラストで図示され,解説されている。本例は心原性脳塞栓症であるが,その原因,病態,臨床症候等が詳しく述べられ,さらに脳卒中の治療,とくに看護,リハビリテーション,介護についても具体的に解説されている。
 この症例をもとに,脳卒中の一般について,脳卒中の発症機序にはじまり,病型分類,病態生理,臨床・画像診断,薬物治療,急性期のリハビリテーション,言語治療,慢性期のリハビリテーション(理学・作業療法),再発予防が図解され,かつ最新の知見も加えられている。全頁にわたるイラスト(マンガチック)はみるだけでも楽しく,きわめて読みやすく,内容も平易でわかりやすい。

脳卒中の看護とリハの重要性

 本書のいまひとつ特筆すべき点は,脳卒中の看護とリハビリテーションの重要性を述べていることで,多くのページがこれに割かれている。とくに慢性期における日常動作,作業療法,言語訓練を具体的に図解し,さらに退院後の生活習慣,食生活,家庭での看護,福祉サービス,にまでふれられている。
 国立循環器病センター脳血管内科病棟勤務の医師,ナース,そして理学・作業療法士,言語治療士によって執筆されただけに,内容は実践的で,日常診療にただちに応用,利用できる点が多々あり,それが本書の特徴でもある。さらに,脳卒中診療の最新の情報も網羅され,長年,脳卒中の診療,研究に従事された山口武典先生の編集によることが,随所に伺える。
 研修医,ナース,リハビリテーション従事者はもちろん,医学生,看護学生にもお勧めしたい。さらに脳卒中に悩んでおられる患者さん,その家族,介護者の方々にもぜひ一読いただきたい。『脳卒中ことはじめ』とは本書にぴったりのタイトルで,しかもイラストを見ているだけで脳卒中を知ることができる。
A5・頁202 定価(本体2,800円+税) 医学書院


HIV感染症診療の理想的な形態

HIV感染症診療マニュアル 木村哲 監訳

《書 評》山田兼雄(聖マリアンナ医大難治研センター客員教授)

プライマリケアにも適切

 本書はHIV感染症の診療マニュアルとして,得難い書物といえる。
 この著書は,HIV感染症の専門家にも有用であるが,むしろ第一線でプライマリケアに取り組む一般臨床家に与えるのに適切な診療マニュアルである。HIV感染症の診療を特殊なものと考えずに,一般の臨床の中に自然に組み込まれていくのが理想であるといわれているが,この書はそのような意味からHIV感染症の診療の最も理想的な形態を考えた上での参考書といえる。
 HIV感染症の疫学,HIV感染症の各時期の症状,兆候,診療の方法などが親切に記されている。また各時期にどのような臨床検査をすべきか,日和見感染の予防法,HIV感染症という重圧に耐えながら生きていく患者のサポートの方法などが記されている。日和見感染,日和見腫瘍について身体の部位別にみた各疾患,症状別にみた各疾患が記載され,さらにこれらに加えて無症候期のHIV感染症の診療指針が加えられている。またさらにAIDSの特徴的症状(疾患)に入らない小合併症である口腔カンジダ症,アフタ性口内炎,副鼻腔炎,脂漏性皮膚炎等々の診断と対策の項目が加えられている。初めてHIV感染症の患者を診る医師もこれを頼りに診療していくことができるであろう。

診療に携わる医師に有効な情報

 この書の中で特記すべきことは(1)抗体検査のカウンセリングについて,ていねいに記載していること。(2)HIV告知に伴う患者の対応の評価について論じていること。ならびに(3)初診の患者からよく尋ねられる質問例を記し,各々に解答が記載されていることなどである。これはHIV感染症の診療をする医師にとって大変重要な項目である。つぎに(4)全体では,1章から15章に分けられているが,その中の13章までに各々BOXが挿入されている。この各BOXをコピーして集録しておけば,日常の診療の際に便利であるし,また院内あるいは小集談会などでの教育用のスライド原図として利用できると思う。
 治療についていえば,日和見感染症,日和見腫瘍については十分である。しかし抗HIV薬の種類とその併用療法については1996年の原著の段階を1年有余を経た現在からみれば物足りないことは致し方ない。監修者,各翻訳者によって補足され,さらに付録がつけられている。しかしこれでも本訳本の発刊の1997年9月の段階でのコンセンサスはさらに変わってきている。これは抗HIV薬とその併用療法がいかに日進月歩であるかを物語り,またさらに改変,補足が必要なことは致し方のないことであろう。
 またこれに加えて本書は世界,とくに米国中心の感染の疫学について記してあるが,わが国の感染について補足が必要となってくる。しかしこのようになってくるとわが国独自のマニュアルということになる。わが国の厚生省,各県のマニュアルも立派ではあるが,HIV感染症を多数経験している第1線の医師が記したマニュアルをみると1日の長を感じさせる次第である。
A5変・頁376 定価(本体5,500円+税) 医学書院MYW


WPW症候群の最新の知見をまとめた好著

WPW症候群 細田瑳一 監修/笠貫宏 編集

《書 評》渡部良夫(豊田地域医療センター院長)

診断手技を丁寧に解説

 今回本書の書評を依頼された私は,まずその目次を,私の編集で1984年に金原出版から刊行された内科Mook『副伝導路症候群』のそれと比較対照してみた。それは日進月歩の医学分野における13年の差は,分担執筆者の顔触れを一新させるのはもとより,ある疾患の診断または治療の記載を完全に書き換えさせてしまうことさえあるからである。その結果,最初の数章にはWPW症候群の歴史,房室副伝導路の病理,WPW症候群の疫学といった前回と同様の表題が並んでおり,これらは本症候群の歴史に最近の進歩が付け加えられた点などを除けば,その性質上,以前の内科Mookとそれほど大きく変わったところはない。
 一方,「4.心電図および体表面電位図による副伝導路部位診断」,「5.WPW症候群の臨床電気生理検査」と続く次の2つの章では,ACC/AHAのガイドラインにも触れながら診断手技が具体的かつ懇切丁寧に解説されており,これらは実際にそれらの方法を用いて本症候群の診断に取り組もうとする臨床医にとって大変役立つ記述である。また,私が編集したMookでそれぞれ1章として取り上げられていた題目の中で,例えば運動負荷心電図,Holter心電図,ベクトル心電図,心エコー図などの項目が見られなくなったのは,診断面における最近の進歩をうかがわせてくれる。

実地臨床家に参考になる内容

 しかしこうした時代の変遷を如実に反映しているのは,何といっても治療面に関する記述であろう。すなわち前回のMookにおいては,本症候群の治療を治療の基礎,内科的治療の実際,外科的治療という2つの章に分けていたのに対し,本書では「6.WPW症候群の薬物療法において,臨床電気生理検査による有効薬剤の選定に基づくいわゆるEP guided drug therapyの長期成績などをも取り上げている点が注目され,内科Mookで触れていた電気的ペーシングによる頻拍発作の停止などは扱われていない。さらに「WPW症候群の手術療法:その回顧的考察」という第7章の表題は,本症候群の根治療法として1980年代まで広く行なわれた副伝導路切断手術が,「カテーテルアブレーション」(第8章)にとって代わられた最近の発展を象徴して,誠に感慨深いものがある。後者については,「9.カテーテルアブレーションの合併症」という記載もあり,これも実地臨床家にとって大変参考になるものと思われる。
 これらの後には無症候性・軽症候性WPW症候群の取り扱い,WPW症候群と失神発作,WPW症候群と突然死,心肺蘇生例とその特徴といった各章が続いているが,そこでも症状のない例での臨床電気生理学的検査やカテーテルアブレーションの必要性とか,WPW症候群における突然死の予防策などが具体的に論じられている。そして最後にいろいろの問題点を含む10の症例が提示されているといった具合で,本書は副伝導路症候群の診断と治療に関する最新の知見を見事にまとめた好著と言える。循環器診療に携わる臨床家に広く推薦したい。
B5・頁220 定価(本体7,800円+税) 医学書院


眼球運動の神経学の進歩に貢献

眼球運動の3次元解析からみた平衡機能とその異常 八木聰明著

《書 評》鈴木淳一(帝京大教授・耳鼻咽喉科学)

3次元記録時代の到来を告げる

 30年間,斯界の研究と臨床に貢献し支配してきた2次元記録の電気眼振計(ENG)の時代が終わり,3次元記録の時代の訪れを告げたのが本書である。
 活発な眼球運動は,注視・読字に関係するヒトの大変重要な機能である。眼球運動の神経学は,神経耳科学者の30年余の努力により,今日までその地歩を固めてきたのであるが,この間ENGの研究や臨床への貢献は,絶大なものがあった。ENGで可能なのは左右・上下の2次元記録であるが,正確かつ容易に眼球運動が記録できることが何にもまさるENGの利点である。
 しかし,ヒトの眼球運動は,左右・上下・回旋の3次元に活発に起こるため,回旋運動が記録できないENGでは2次元記録に終始し,重要な所見を見逃してきたと思われる。
 現在,臨床に利用できそうな眼球運動の3次元記録には,2つの方法がある。1つは,コンタクトレンズに2つの小さなコイルを仕込み,磁場の中で,正確に眼球の3次元記録を行なう方法である。これは,実は30年以上も前のアイディアであるが,今日のエレクトロニクスの進歩をもってしても,いまだ日常臨床に使える所までにはいっていない。
 もう1つは,八木聰明教授と彼の研究グループが開発した方法で,目の像をビデオ画面に捕え,エレクトロニクス,コンピュータを駆使して解析,正確な眼球運動の3次元分析がオンラインで行なえることを示した。コンピュータ,エレクトロニクス,ソフトの進歩により,近い将来3次元の眼球運動記録が,多くの臨床に日常使われるであろうことを示された。カメラで像を捕らえるのであるから目はパッチリと開いていなくてはならないが,十分に開いていない目を写しても3次元記録と分析がある程度可能なことを示したことには,臨床家らしい努力がうかがえる。

症例を用いて日常臨床に活用

 眼球運動の3次元記録が,近い将来,それぞれの欠点を補いつつ,日常臨床に活用されるであろうこと,それが,神経耳科学の進歩に大きく貢献するであろうことを症例について示した功績は大きいと思う。
 著者八木聰明君は,帝京大学医学部耳鼻咽喉科学教室の創設に参画,その後,母校日本医科大学に戻って今日まで25年間の努力の集積を,日本耳鼻咽喉科学会総会の宿題報告にまとめられた。80大学の耳鼻咽喉科の若手教授のホープ,平衡神経科学の中心人物の1人である
 この方面に興味を持たれる方々が本書を一読,さらに精読され,このガイドラインをめぐって,眼球運動の神経学のさらなる進歩に寄与されることを期待する。
B5・頁136 定価(本体7,500円+税) 医学書院


国際社会に対応

検査技師のための英語(CD付) 第2版 河合忠,鈴木伝次 著

《書 評》無江季次(仙台大教授)

要求される英語力

 わが国に存在する外国人が増加し,地方病院においても日本語を十分理解できない方々が受診するケースが増えている。しかし英語圏以外の国から来日している外国人の多くも,程度の差はあっても英語は理解できるので,医療の現場では英語による会話の必要性が増している。このような状況で検査技師にも英会話は必要であり,海外協力隊への参加などにも必須となってきている。

検査室の中での英会話

 医療の現場では,ドイツ語由来のカタカナ術語や和製英語が多いことに加え,発音やイントネーションを習得する機会の少ないことが英会話習得を一層困難にしている。本書は特に臨床検査に関して簡単な構文や平易な表現の会話から始まって,後半は英文による症例や研究の英文のまとめにも応用できる,小冊子のわりには豊富な内容を持っている一冊である。CDを利用すれば検査室内の英語の会話が可能となる。
B5・頁110 定価(本体2,200円+税) 医学書院


新時代の整形外科,スポーツ医学画像診断の書

Magnetic Resonance Imaging in Orthopaedics and Sports Medicine 第2版 D.W. Stoller 著

《書 評》守屋秀繁(千葉大教授・整形外科学)

 Magnetic resonance(MR)画像は整形外科やスポーツ医学の分野において,現在最も重要な診断技術の1つとなった。1985年に膝関節のMR画像が初めて登場した以前には,治療方針を決定したのは臨床徒手検査であり,関節造影であった。近年のMR画像器機の性能向上や,それぞれの検査部位別に最適化されたコイルテクニックの進歩によって,今日ではMR画像は膝関節や肩関節疾患の診断においては欠かせないツールとなった。特にスポーツ選手にとっては,時間がかからず非侵襲的な診断法は,早期の競技復帰にとってきわめて重要な要素である。
 膝半月板損傷,前十字靱帯損傷のMR画像による診断率(accuracy)はすでに90%を越え,肩関節においても関節唇損傷やSLAP損傷はMR画像により診断可能であり,侵襲を伴う検査や不要なレントゲン被曝を避けることができる。さらにガドリニウムの関節内注入や静脈内注入を行なえば,関節軟骨表層の詳細な観察や組織内の血流をも観察することができる。今や整形外科領域におけるMR画像の診断意義はすべての関節,骨,骨髄そして軟部病変にまで及んでいる。

治療方針など臨床知識にも言及

 本書はそのような目的の手技をふんだんに盛り込んだ書物であり,全17章から構成されている。第1章のMR画像診断装置の原理からはじまり,これに,MR画像診断装置の生理作用と安全性,3-DMR画像診断装置,EPイメージング,関節軟骨,股関節,膝,足関節ならびに足,肩関節,肘関節,手関節ならびに手,顎関節,運動学,脊椎,脊髄,骨と軟部組織,そして筋肉損傷が続く。それぞれの章は整形外科医9名,放射線科医8名,MR画像診断装置の専門家4名,そして病理学者1名よりなる共著者たちの手により,それぞれの労作に編集者のDavid W. Stoller氏は見事なまでのハーモニーを与えている。1400ページを越える本書には8400枚以上のMR画像写真が載せられており,さらに多数の関節鏡視の所見,屍体標本による肉眼所見を加え,最後には治療方針等の臨床知識にまで言及されている。
 整形外科医にとってありがたいことは,MR画像診断装置に対する基礎的,科学的な知識を常にMR画像診断装置の専門家以外にもわかりやすく解説してくれていることである。たとえば第3章に述べられている3-DMR画像診断装置を用いた半月板などの体内の部分の容量計測法は,整形外科領域の基礎的,臨床的なさまざまな研究への応用が可能であると感心させられる。この方法を用いれば骨軟骨移殖に際して,あらかじめ移殖片の大きさを決定し,計測することも可能であろう。また,MR画像診断装置を用いた運動学的解析は,整形外科バイオメカニクスに対する理解をいっそう容易にするであろう。

「見て」「調べる」本

 1993年の初版からすでに,本書は整形外科,スポーツ医学のすべての分野にわたる画像診断学書として新時代を画したものであった。第2版においてはふんだんに,関節鏡写真や,肉眼解剖写真などのカラー写真を含む多数の写真や図版を使ってMR画像と比較してあり,英語の本であることを気にせず「見て」「調べる」本であり,気楽に勉強のできる本である。また,最近とみに話題を集めている関節軟骨損傷についても,新たにMR画像診断装置による最新の知見が述べられていることもまさにup-dateと思われる。本書は一般整形外科医はもちろんのこと,特にスポーツ医学に携わる医師にとっては座右の書として,必要欠くべかざる1冊になると思われる。
頁1379 27,600円 Lippincott-Raven刊 医学書院洋書部販売