医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護の科学的根拠を求めて

〈臨床看護学エッセンス〉心臓ナーシング 寺町優子 著

《書 評》荒川唱子(福島県立大・整備室)

 本書の冒頭で,著者は「患者に提供する看護に関し,なぜ,そのような援助が必要なのかについて,科学的な根拠を明示し,また,看護の本質を考えられるように記述したつもりである」と述べている。一読した感想は,まさに著者が意図した通りの本ということであった。

意識的な看護実践の蓄積

 1つひとつの看護行為が,科学的根拠に基づいたものであるべきことは,看護婦であれば誰しも周知のことであろう。しかし現実には,自らの看護経験に基づいて試行錯誤を繰り返しながら,看護実践家としての技量を身につけていく場合が多いのではないか。このような状況にあって,著者は「漫然と臨床経験を積むのではなく,意識的な看護実践を積み重ねることが何よりも大切である」と述べ,その具体例をわかりやすく提示している。ここに,心臓病患者の看護に長年携わり,実践を通してのみならず,研究を通してもその科学的根拠を追求し,蓄積してこられた著者の姿勢や努力が反映されている。
 筆者が看護婦になりたての頃,心臓内科病棟に勤務したことがある。かれこれ20年以上も前の話になるが,患者の病状を理解するためには,心電図が読めなければならないと学習会を開いたりしていた。しかし,具体的な看護援助に関しては,例えば体位交換1つにしても,何をどのようにといった科学的根拠に乏しい状況の中で,半ば手探り状態でそれとなく実施していたように思う。本書を通して,心臓病に関する医学的診断や治療の急速な発展に目を見張る思いであったが,それ以上に,本書のように疾病を有する患者の生活を援助するという看護の視点から本質を問いつつ,その根拠を提示した書は,これまであまり類を見ないのではないかと思った。
 専門的看護を実践する上で,単に医学的知識が豊富であればよいというのではない。その中で何を知らなければならないのか,どこをどう押さえていけばよいのかについて,事例を通して丁寧に説明されている。  

看護の視点から系統的に知識を整理

 わが国の看護の実践や教育において,疾患や診断治療に関する医学的知識を多く学習するわりには,患者のケアをする際にそれらをどのように活用すればよいかについての理解は十分とは言えず,この観点から系統的な知識の整理が必要であり,それが今後の課題でもあると考えている筆者にとって,この点は特に重要であるように思える。
 本書を通して読者は,単に心臓病看護の知識を得るにとどまらず,それぞれの立場から多くを学び,さまざまな刺激を受けるであろう。臨床看護婦にとっては,意識的な看護実践とはどのようなことかを学び,それを積み重ねる上で,また,看護研究者にとっては,心臓病の看護に関する研究で何が明らかにされ,何が残されている課題であるかを知る上で,教育者にとっては,心臓病看護の実践や研究について教授する上で,示唆に富んだ有意義な書である。
B5・頁166 定価(本体2,800円+税) 医学書院


子どもへの関わりの基本を示す

子どもの看護 こんなときどうするの 成嶋澄子,他 編集

《書 評》三輪百合子(長野県立こども病院・看護部)

 本書の全体の骨組みは,小児看護心理を根幹として3部構成で書かれている。
 第1部「子どもと看護婦」では,子どもにとって入院するということを子どもの成長発達に合わせ,安全・安楽な生活の場としての入院環境の調整に看護婦がどのような配慮をする事が大切かが具体的に述べられている。また,入院を生活・療養上の教育の場と位置づけ,基本的生活様式と社会的行動様式に加え,子ども自身が病気を受けとめ,病気と共存しながら生活することへの教育的援助についても述べられている。「子どもとの人間関係」の項に示されている“子どもの成長発達に合わせた関わり”の中で,子どもに嫌われる看護婦・好かれる看護婦について記述されているが,子どもへの関わりの基本を示唆しており,また実際の場面を示して解説してあるため,よりわかりやすい内容になっている。

対応する際のポイント示す

 第2部「子どもの看護 こんなときどうするの」は,本書の中核をなす部分である。こども病院の各病棟で体験した27事例について,それぞれ質問,状況,対応,解説の形で述べられている。“泣きやまない赤ちゃん”“関わりを拒否する”“薬を飲もうとしない”“「私死ぬの」と尋ねられ”……。 日常の臨床でいつも看護婦を悩ます子どもたちの行動や訴えにどのように対応したらよいか,その基本原理は何かが明らかにされている。読み進むうちに,状況の部分では「うん,あるあるこんなこと」,対応の部分では「あっそうか」,解説の部分では「そういうことだったんだ」と納得しながら読むことができる。
 看護婦を困らせる行動をとるときの子どもの心理,それに対応する看護婦の行動や心の動きが自分のことのように実感できる内容となっている。

子どもの心の動きが理解できる

 第3部「子どもの病気」は,子どもが病気になったときに示すさまざまな心理的反応が,成長発達とともにどのように変化するかが示されている。また,子どもにとって親は切り離して考えることができない存在であり,親の心理状態を踏まえた親子関係への援助についても考えることができる内容となっている。中でも興味深かったのは,“子どもの死の理解と療養指導上のポイント”についてである。幼い子どもが,また思春期の若者が,自分自身の死が近づいたことを自覚したとき,その恐れや不安を乗り越える過程で看護婦が念頭に置くべきポイントが示されている。子どもの死に関わる看護婦もまたその死を看取る恐れや不安を抱くものであるが,医療者の立場として現状をみつめ,死を迎える子どもと親をきちんと受けとめなければならないことが理解できる。
 本書は全体的に読みやすく,具体的な事例を通して解説されており,病気を持つ子どもたちの心の動きが自分自身体験したかのように理解できる。これから小児看護をめざす新人ナースは入門書として,小児看護において一人前のナースは自分の看護をそっと振り返るときの参考書としてぜひ読んでほしい1冊である。
A5・頁238 定価(本体2,600円+税) 医学書院


目をみはる写真と具体的記述

写真で見るフィジカル・アセスメント 福井次矢 監訳/前川宗隆 訳

《書 評》野地有子(東医歯大客員研究員)

 この本を手にされた方は,まず写真の多さとその具体性に目をみはり,そのおもしろさに何度もページをめくられることと思います。

実践的な工夫が随所に

 本書は,研究成果を基本に,看護学,医学,法学の専門家による検討がなされており,基本を押さえた優れた内容です。翻訳も簡潔でわかりやすくなっています。「臨床のコツ」には心憎いポイントが解説されています。ただ,体型の違いや,日本のナースが実際にはここまで実践する現状にない項目もありますが,この点も写真とイラストによりアセスメントのポイントがわかるので,大変参考になります。
 原著にあった生殖器のアセスメントの項が削除されたのは残念なことです。看護婦への生殖器に関する相談や,臨床での日常生活の援助においての観察の機会は意外と多く,看護専門職として重要な観察項目となるからです。
 本書は400枚以上の写真を使って構成されており,段階的に読者を案内しているので安心して読み進められます。アメリカらしくステップ・バイ・ステップですので,看護学生,臨床ナースや訪問看護婦,看護教員等,どなたにもアプローチしやすく,フィジカル・アセスメントの世界に引き込まれます。地域で保健婦が出会う健康意識の高い人々にとっても,乳房のアセスメントなどは,自分の身体を理解するよい手引書となるでしょう。第1部の入門編に続いて第2部では,頭の先から足の先まで(head to toe)を12分野に分けて,そのアセスメントの実際が展開され,どこからでも見ていけるのも便利にできています。また,フィジカル・アセスメントにあたっては,問診により必要な情報の80%は得られると言われていますが,本書ではインタビューガイドや問診のチェックリストが解剖生理の解説とともに項目ごとに整理されているので実践的です。
 今後,フィジカル・アセスメントは,ますますわが国の看護教育のカリキュラムに取り入れられることでしょう。先駆的に始められた看護大学でも,時間数には限りがあり,自己学習に本書のような教材は必要となってきています。

全体と部分をつなげる

 ナースの行なうフィジカル・アセスメントの醍醐味は,患者の抱えている問題点を全人的に明らかにすることであり,常に全体と部分をつなげてアセスメントするパフォーマンスにあります。これがすばらしい看護診断につながるのです。総合的なフィジカル・アセスメントの技術を持つことにより,(1)看護実践に自信が持て,患者の所見がよく把握できるようになる,(2)患者との関わりが深められる,(3)他職種とのコミュニケーション,看護記録が充実するなどがあげられます。
 来る21世紀は,技術至上主義の反省から「ヒューマニティ(人間性)」の時代と言われ,ますます人間に関心が集められる時代となります。わが国のナースも系統的なフィジカル・アセスメントを身近なところから始めることにより,人間への理解を深め,新しいパラダイムの転換への貢献ができれば素晴らしいと思います。1人ひとりのナースの実践と相互援助により,はじめの1歩をあゆみ始めましょう。
A4・頁178 定価(本体3,600円+税) 医学書院