第2265号 1997年11月17日
Vol.12 No.9 for Students & Residents
医学生・研修医版[9]1997. NOV.
必修問題の導入 禁忌肢の導入 | 〔対談〕 | 新しい出題形式の導入 合格基準の見直し |
改定された 第91回医師国家試験を考える |
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橋本信也氏 (東京慈恵会医科大学教授・第3内科) | | 植村研一氏 (浜松医科大学教授・脳神経外科) |
今年の医師国家試験を振り返って
全体的な印象は
橋本 今年の第91回医師国家試験の合格率は88.1%で,ここ10年間では第87回(1993年)の90.0%,昨年の第90回の89.3%に次ぐ成績でした。第1回からの累計合格率は83.3%ですから,最近の国家試験合格率は比較的よくなってきたと言えると思います。また,医師国家試験は4年に1度,出題基準を改定していますが,今年はちょうどその年にあたっていました。
今回の改定点をまとめますと,1番目は,必修問題の導入で,今回はD問題として30問新設されました。2番目は,禁忌肢の導入です。3番目は,新たにX2, X3タイプという出題形式を導入し,これまでのK'タイプを廃止したことです。ただし,今年の場合はX2だけがC問題に出題されました(
表1)。4番目は,合否判定に関して必修問題と禁忌肢問題を別の扱いにしたことです。
以上の背景を踏まえて,今年の国家試験を振り返ってみたいのですが,まず全体的な印象という点ではいかがでしょうか。
植村 毎年感じることですが,よい方向に向かっていると思います。今年の問題も,プライマリ・ケアや救急などが必修問題に入っていて,重箱の底をほじくるような問題は減ってきています。中にはおかしな問題もありますが,全体的なバランスからはそういう印象を持ちました。
橋本 全体的によくなったというご指摘ですが,日本医学教育学会の国家試験検討委員会が毎年行なっている修正イーベル法(
表2)による出題分類別の合格水準の評価からも(
表3),また,全国医学部長病院長会議の国試に関する専門委員会が行なった各大学へのアンケート調査の結果からもそれが伺えます(
表4)。

必修問題について
橋本 具体的な問題として,まず必修問題についてはいかがですか。
植村 必修問題というのは,英語でいうマスタリーテストですね。シカゴの医学教育開発センターにいた時に,その妥当性について大いに議論したのですが,教育心理学者の間では,マスタリーテストは80点以上が常識らしいです。
ただし,医師は他の職業とは違って生命に関わる仕事であるので,パイロットと同様80点というのでは少し甘いのではないか。少なくとも85%は必要ではあるが,90%以上を望むのは酷ではないか,などと議論していました。ですから,今回も厚生省が必修問題の合格基準をどこに置いたのかは興味深いところです。
橋本 そうですね。ただマスタリーテストとすると,内容と同時に質が当然問題になってきますが,やさしすぎるという意見も出されました。
植村 出題する側からみると,必修問題として出題するのですから,やさしい問題になりやすいのかもしれません。最初の試みだからいいのではないでしょうか。
橋本 そうですね。質という面では,今年は内科診断学的問題が多く,よい傾向だと思います。
植村 インフォームドコンセントも出ていますし,バイタルサインや検査やイレウスなど内科診断学の常識が出ています。
橋本 症候から診断へ,また病態生理学的な知識を問う問題,身体診察所見などの内科診断学的な問題が約半分です。
それから,救急処置を問う問題が多く出題されていました。これも医師にとって最低限必要な知識ですから,よい傾向と言えると思います。
禁忌肢について:指摘すべきか
橋本 次に禁忌肢の問題について何かご意見はありますか。
植村 どれが禁忌肢であるかが書いてないのですが,常識的な点でおそらくこれを選ぶとまずいなという匂いはします。
橋本 確かにどれが禁忌肢であるのかわかりません。この点について,医学教育学会国家試験検討委員会も全国医学部長病院長会議の要望書も,禁忌肢はどれかを言うべきではないかと指摘しています。
しかし,問題をよく分析してみますと,やはり必修問題であるD問題の中に多く入っているように思われます。つまり,「次に行なうべきことはどれか」という設問に,生命に関わることや,臓器の不可逆的機能廃絶に関連する選択肢が入っているのでしょう。
植村 必修問題や禁忌肢を出題するという考えの背景には,絶対できなければならない問題には2種類あるという考え方があるのでしょう。
まず何をすべきか,次に何をしてはいけないのか,ということです。ですからD問題のネガティブ・クエスチョンはすべて禁忌肢と考えてもいいことになりますね。
橋本 それを選ぶようでは,医師にはさせられないというのが本来の禁忌肢ですね。
植村 そうですね。正しい選択肢に〇をつけなければいけないけれども,同時に禁忌肢を選択すると落とす。1つの問題で両方からチェックできることになります。
禁忌肢の採点と配点:「危険人物の排除」という論理
橋本 それからMPL[
注1]を考える時に,解答コードのa,b,c,d,eについてそれぞれ点をつけますが,その中に禁忌肢を入れると配点が難しくなります。出題委員は作問の時に禁忌肢をきちんと把握しておく必要があるでしょう。
また今回は,(1)全体の合否判定,(2)必修問題がどの程度取れたか,(3)禁忌肢をどの程度選択していたか,の3点から合否判定をしていたように思います。
植村 ご指摘のように,まず2つの条件を満たしてければいけません。必修問題を一定程度正解している。それから,禁忌肢をいくつ選択してしまったかという基準があると思います。おそらくそれにパスした上で総合点で判定したのでしょうね。
私がシカゴにいた時の卒業試験の話ですが,選択肢の中にマイナス点がついている問題を作っていました。つまり,正しい選択肢は1点ですが,誤ってある選択肢を選ぶとマイナス5点とか,マイナス10点になることがあるわけです。受験生もそれを知っていますから,正答できない問題には手を出しません。鉛筆を倒して選択肢を選ぶようなことをなくすための措置で,その際もどの選択肢がマイナス点なのかは言いません。
禁忌肢の出し方にもそういう形があると思います。自信のない問題には,手を出さずに白紙で回答させる。昔から国家試験は偶然に当たることもある,あるいは選択肢を2つ知っていれば解けてしまうという批判がありました。しかし,どこかに禁忌肢があるとなると,自信がなかったら手を出せません。むしろ0点のほうがまだいいですからね。
橋本 アメリカのスペシャル・ボードの試験には禁忌肢があるのですか。
植村 ありません。ただ,脳外科の専門医試験ですが,「危険人物の排除」という考えがあります。
つまり,脳外科医であったら,これだけはやってはまずいという内容が質問の中に出てきて,それに引っ掛かると落とします。要するに,安全な医師を世に送り出すという考え方です。
禁忌肢はすべての問題から出題すべきか?
橋本 もう1つ,教育学的な観点から言いますと,禁忌肢をA問題からF問題に散在させる場合と,D問題の必修問題の中だけに入っている場合とでは,受験生に及ぼす影響が異なるのではないかと思いますが,いかがですか。
植村 禁忌肢が出されると,学生は反対にやってはいけないことも勉強するでしょう。そういう点で,教育学的にはプライマリ・ケアの教育に役立つかもしれません。
橋本 医療の現場に出た時に,してはいけないことはやはり知っていなければいけないですね。
植村 わからなかったら専門家に依頼すればいいものを,自分のひとり勝手な判断で誤ちをおかしてしまうことも現実には起こりえます。知らない問題には手を出さないというマナーを身につけるために,禁忌肢を勉強する必要があるのかもしれません。
しかし,おそらくAからF問題まで散りばめると,今度は,禁忌肢の問題集などができてしまって,それがまた常識になってしまうでしょう。そういう面では,必修問題で出題するよりも,禁忌肢を隠すほうが教育的な効果があるのかもしれません。
橋本 そうですね。ただ5本の選択肢がありますから,その中に明らかな禁忌肢と,どちらとも取れるような選択肢が入り交じる場合は困ることになります。ですから,選択肢の質をよほど吟味しないといけませんね。
出題形式:X2とX3の導入
橋本 もう1つのトピックは,X2とX3という出題形式が導入されたことです。その結果,K'がなくなりましたが,実際にはX3は導入されておりません。C問題にのみX2が10題入りました(
表1)。
植村 従来から出題形式はいろいろ議論されてきましたが,今回の出題形式の改定も大きな影響を与えると思います。
脳神経外科の専門医認定試験では国家試験を先取りして去年から導入しました。K2やK3のように,2つ知ってたら答えがわかるような出題形式では,専門医の資格を認定する試験としてはふさわしくない。5つの選択肢をすべてわかっていないといけないという考えから,今年も含めて2回行ないました。K2もK3もありません。私は国家試験でもなくなるものと期待していたのですが,結局出題されたのはX2だけで,しかも依然としてK2,K3が出ています。これは試しに出題したのでしょうが,将来的にはK2,K3はすべてなくさなければいけないと思います。
実際に今年の国家試験を調べてみると,従来からAタイプが一番よいと言われていたのですが,50%を満たしていなかったのはまずいですね。もっとも,今回はX2とAで初めて50%を超えた,という観点から見ればよかったと言えるのかもしれません。
橋本 今回改定された「医師国家試験出題基準」には,K2, K3もなくす方向であると書いてあるので,私も今年はもう出ないのかと思っていたのですが。もっとも,将来的には減っていくのでしょう。
出題分野についての分析
橋本 そこで植村先生に出題分野についての分析をお願いしたいと思います。
植村 まず,今年の国家試験問題を内科系と外科系に分けて,さらに各々必修,総論,各論的な問題に分けてみました(
表5)。必修問題が30問になります。それから,総論的な問題が内科系86問,外科系34問で120問になります。かなり総論的な問題が増えていることがわかります。
腎臓内科に対する外科を泌尿器科とし,神経内科に対する外科を脳外科として分類しましたが,救急がもう少し出題されてもいいのかなという気がします。
それから,アメリカに留学するための試験は,内科系の試験が通ればまず合格と言われていますが,今年の国家試験にこれをあてはめてみました。この表の太線で囲った部分です。
内科領域を知っていれば必ず解ける問題が138問で,全体の43.1%です。それから,開業してプライマリ・ケア医になる場合,内科と小児科が多いのですが,小児科が31問で9.7%,合計169問で52.8%になります。また,アメリカやイギリスのプライマリ・ケア医は分娩ができなくては開業できませんので,これに産婦人科の33問を加えますと202問で63%になります。つまり,今年の国家試験ではプライマリ・ケア医になるためには,最低63点はとれなくてはいけないことになります。
橋本 分類の仕方によると思いますが,従来の方法ですと内科は156題,48.8%になります。同様に外科は26題,産婦人科はまったく同じで33題,小児科も31題です。
この表の整形外科から下に記載のある科目の出題傾向について,何かご意見はございますか。
植村 少しずつよくなってきていると思います。ただ眼科の問題で,眼科の方以外は絶対使わない機器で診断する設問がありました。ああいう専門的な問題はあまりいただけません。このマイナー問題では,将来どの科に行ってもこれだけは知っていておいてほしいことを出題しなければいけないと思います。そういう点では,まだ超専門的な設問がありますね。出題者はいったい誰のために出題しているのかを考えるべきです。そういう問題はプライマリ・ケアからあまりにも逸脱しているし,難問・奇問の部類に入ります。
Taxonomy(分類法)について:III 型をさらに分類して
橋本 次にTaxonomyの問題に移らせていただきます。先生は以前からこの点について強調されていますが,今年の国家試験についてはどのように分析なさいますか。
植村 簡単に言いますと,I 型は丸暗記していれば答えられる問題,II 型とIII が応用能力を問われる問題です(
表6)。
I' 型というのは私独自の分類ですが,丸暗記といっても2種類あります。知らなければ何も答えられない問題が純粋のI 型になりますが,一方,I' 型(推論型)というのは常識があれば推定できる問題で,1987年から分類を始めました。去年は14.1%,今年は18.4%と増えています。つまり,丸暗記ではなく,基本的な病態生理や解剖学・生化学を知っていれば自然に答えが出る,いわば医師としての常識を問う問題であるI' 型がI 型の中で増えています。
付け加えますと,私はI 型を半分以下にすべきだと思うのですが,一番よかったのが1989年の54.1%で,また盛り返してきて6割弱になっています。それから,II 型はデータの解釈能力,つまり患者さんの症例を出して診断は何かを問う問題です。
III 型は問題解決能力を問う問題で,これはさらに,III R,III L,III F,III Pに分類でき,これを1989年と今年にあてはめて分類するとこのようになります(
表7)。
一番多い問題はIII R型,「患者さんにどのような対応をすべきか」,つまり入院させるのか退院させるのか,あるいは経過観察なのかを問う問題で,1989年は55.3%。2番目に多いのがIII L型の「つぎにやるべき診察や検査を問う問題」で23.3%。それから「他のデータとのマッチング」を問うIII F型が19.4%。そして,「将来どうなるか」というIII P型が3.9%でした。これを今年の国家試験にあてはめると,III Rが42.9%。III Lが減って13.3%。III Fが抜群に増えて34.7%。そしてIII Pが1%でした。
問うているのは治療か,検査か,それとも所見なのか
植村 この分類から,今年の国家試験で評価の理論からやってはいけない問題がいくつかあります。
例えば,「次に何をしますか」という選択肢の中に検査と治療が両方入っている問題です(L/R型)。こうなると,受験生は治療を求めているのか,検査を求めているのかわからなくなります。この問題が6題,6.1%もありました。それから所見と治療法を求める問題(F/R)が2題,2%ありました。これは,1989年の国家試験にはなかったことです。
どうしてこういう問題が出るのか調べてみますと,「この患者さんに対する処置は何か」という時の「処置」という言葉を間違えて使っているからなのです。英語でいうとtreatmentですから治療しか聞いてない。しかし,「処置」を問いながら,「検査」であるCTの撮影を「処置」の中に入れて考え,選択肢に出しています。これは大変にまずいことです。
それからTaxonomyという観点から,今年の試験にめずらしいミスがありました。「次に何をしますか」という設問の選択肢に診断名と治療名がありました。択一ですから,受験生は治療を聞いているのか,検査を聞いているのかわからない。こういう問題がEとFに各1問ありました。
X2,X3導入に伴って生ずる問題
植村 もう1つ,これからはX2やX3が多く出題されるでしょうが,将来生じるであろう問題もあります。
脳神経外科の専門医試験で今年実際に起こったことですが,正しい答えを2つ選べという設問に,慣れない試験官が選択肢の中に治療を2つと検査を3つ入れてしまったのです。そうすると,受験者は5肢択一ではないので,パッと見ると検査に関する選択肢が3つで,治療の選択肢が2つある。この中から2つを選べということは,3つの選択肢の中から1肢だけ検査を選び,2つの選択肢の中から治療を1肢選ぶことになると,3分の1対2分の1の割合になってしまうのですね。こういう問題がかなりありました。
試験の前にワークショップをしましたが,まさかこうなるとは考えなかったので,そこまで教示しませんでした。これは反省点です。将来,医師国家試験をX2,X3の問題にした場合,治療を問うのなら治療だけを,検査を問うのなら検査だけを問う,というように焦点を1本に絞ることは守っていただきたいと思います。
橋本 大変重要なご指摘をいただきました。III 型をR, L, F, Pの4種に分けられたのは大変興味深いことですが,これはどのくらいの比率が望ましいのでしょうか。
植村 わかりませんが,最初III 型を出題し始めた時は治療を聞いたと思います。ところが治療というのはコンセンサスの問題があって,本当にそれがベストかどうかという議論になりますと,結論が出ない場合もあります。それで次にどのような検査をするのか,という方向に流れてしまったのではないでしょうか。
橋本 このIII R型とIII L型は,出題者からしますと作りやすいですね。それからIII P型は臨床的には大事なことですが少ないですね。それと,III F型も大変重要だと思いますが,出題者は大変ですね。しかし,今後はこのへんのバランスをよく考えていただくことも必要です。
植村 やはり治療とか検査は,1つだけ正解ですと問題が残ることが多いので,将来はIII F型が増えるでしょう。そうなると,学生は細かく症候論をきちんと頭の中に入れて,検査データをたたき込み,隠された数少ないデータで他のことを推定できなければいけないのかもしれません。
橋本 これは本当に重要なことですね。
植村 本当の臨床能力をテストするのならば,III F型がいいですね。
視覚素材,不適当問題について
橋本 Taxonomy全体から見ますと,先生がおっしゃったようにI が減ってきてI' や問題解決型のIII が増えてきたことは大変よい傾向ですね。出題委員の先生方もだいぶ勉強されたのでしょう。ところで,今年の国家試験の視覚素材や,不適当問題などでお気づきの点がありましたか。
植村 視覚素材は心電図にしても,レントゲンにしても,MRIにしてもまあまあではないかなと感じています。
橋本 最近は学生もベッドサイドで画像を見る機会も多いと思います。
それから不適当問題について,何かお気づきですか。これも医学教育学会の国家試験検討委員会や医学部長病院長会議などで検討されていますね。例えばA-6「1995年度の国民総医療費はおおよそいくらか」,A-9「医療法に規定されているのはどれか」,それからA-10「国家試験で認定される資格」などが指摘されました。
植村 厚生省は以前から医事紛争や医療過誤の多くは医師が法律を知らなすぎるからだと言っています。ですから,医師法に関連した事項を出題する精神はいいと思うのですが,出題するのでしたらもっと医療に直結する問題を出すべきで,重箱の底をほじくるたぐいの問題ではないかという感じがします。
公衆衛生を担当される方はいつも数値を出すでしょう。あそこまで暗記しなくてはいけないのかと疑問に思います。全体の傾向を知ることは重要でしょうが,記憶している必要があるのかどうか疑問です。常識としてそれを知らなければならないのかどうかということですね。
よく問題になるのは潜伏期で,潜伏期は診断に直結するので何日ぐらいかは知っていなければならないというのはわかりますが,1日違っても落とす考えはどうでしょうか。幅があってもいいと思いますが。
橋本 それから,B-41やB-43もそうですが,B-76の「Perthes病について正しいのはどれか」という設問の選択肢に,「発生頻度に性差はない」という否定文が入っています。また,B-63「膀胱腫瘍について正しいのはどれか」で,「有用でない」と「有用である」という両方の選択肢が入っています。こういう問題はもう少し検討したほうがよいと思いますが。
植村 これは形式の問題ですよね。先生が言われる,以下の選択肢で正しいのはどれで間違っているのはどれか,という設問に対して適当に選択肢を作るのは,やはりピンボケと言ってもいいでしょうね。
組み合わせ問題と人名の問題
植村 それから,もう1つは組み合わせ問題です。例えばB-62など,順列で組み合わせをしておいて,ともかくあてさせる典型的なI 型になってしまいます。こういう問題を初めから省いて,きちんと文章を作って選ばせるべきです。いろいろなものをわざと組み合わせると,何を聞きたいのかわからなくなってしまいます。焦点をはっきりして,このことについて聞くというやり方で素直に試験問題を作っていただければと思います。
橋本 似たようなことですが,だいぶ減りましたが人名のついた症候群の羅列が今年もまだあります。その典型がF-40で,しかもNelson症候群とSchmidt症候群はおとりとして置いただけです。こういう問題はナンセンスですね。
植村 私がアメリカに1960年に行ってベッドサイドで学生を教えた時,神経科の患者さんを診ながら,Babinski,Chaddock,Rossolimo,Mendel-Bechterev,Gordon,Shaefferと名前を上げて,「お前ら知らんのか」ってしごいたんです。そうしたら翌日院長に呼ばれて,「君はなぜこんなことを教えたのか。患者さんを診る上で,大事なことが他にたくさんあるだろう。君はそういうくだらんことをカルテにたくさん書いているけれども,患者さんを診る上で必要なことはもっとたくさんあるだろう。バランスが悪い」と叱られました。しかし,私が卒業した頃はそういうことを神経内科の先生が教えました。そして「全部覚えろ,知らないと卒業試験に受からない」とまで言われたものです。そこで質問したら,「アメリカではBabinskiという言葉すら使わない。toe sign, up, down。これだけでいい」と言うのです。診療がきちんとできればいいというわけです。
正解割れについて
橋本 ところで,今年の試験で正解割れがどのくらいあったかお気づきになりましたか。調べてみますとわりと少なく6題で,A-13, A-3, C-15, D-8, F-38, F-43でした。しかし,D問題は必修問題ですから正解割れが出るのは困りますね。
植村 出題者はどちらを正解としたかはわからないのですか。
橋本 わかりません。ですから,これをコンピュータで判定してしまうのは,受験生にとって気の毒なことだと思います。
植村 例えば,血液の問題を消化器の先生がチェックするようなシステムを作っておけばかなり防げるのではないでしょうか。反対に,消化器の問題に関して,呼吸器の先生がこれはおかしいと言うことができればだいぶ救われるのですけれども,実際はどうなのですか。
橋本 そういうことはないと思います。やはり,出題者は自分の専門領域を出題しています。
植村 そういう点で感心するのは,シカゴのイリノイ大学の卒業試験です。採点する時に,必ず教育開発センターの教育の専門家が入っています。そして,例えば正解率が非常に低い問題や,正解が割れてしまった問題に対しては,医学部長が出題者に,「あなたはどうしてこのような問題を出したのか」,「これはなぜ必要なのか」と聞いていました。また問題を作る際にも,眼科の問題に対して耳鼻科の先生や内科の先生がいる前で説明します。「眼科の立場からは,こういうことは知らないと将来絶対困る」とか,「こういう患者が来た時にミスをするから,これは大事な問題です」と説得をする。それを聞いた上で,無記名投票をするのです。その時,過半数をとれなかった問題は削除していきます。
医師国家試験の今後:来年に向けて
国家試験センターの設立を
橋本 医学教育学会国家試験検討委員会の今年の計画の1つに,国家試験センターの設立の検討があります。現在の医師国家試験に関する業務は厚生省健康政策局医事課の試験免許室で,他の国家試験と一緒に行なっていますので,プール問題の検討や問題の吟味もなかなか十分にできません。また,医学教育学会が修正イーベル法で事後評価をしても,医学部長病院長会議が報告してもそれをフィードバックする時間的余裕がないそうです。そういう点からも,将来に向けて大学入試センターのような,国家試験に関して調査,研究,吟味,検討する独立した機関が必要だと思います。
植村 それと,今年の問題でいろいろ反省点が出ましたが,翌年試験官が交替しても,勉強会をする時にそういうことを踏まえた上で,試験問題を作っていただきたいと思います。1年遅れでもいいですから,出題者が自分の問題のどの点が批判されたかを知るだけでなく,また医学教育学会検討委員会だけでなく,試験官全員にフィードバックされなければいけません。
OSCEの導入と予備テスト
橋本 今後の国家試験に関してはいかがでしょうか。
厚生省もOSCE(Objectives Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)やMCAT(Medical College Admission Test)Skill Analysisなど,応用力の試験の導入を検討しているようです。
植村 私は2点あると思います。1点は,先ほど先生がご指摘になった試験問題を作るセンターの設立です。去年,韓国のソウルで東部アジア地区の医学教育学会が開かれて,アメリカのNational Board of Medial Examinersの副所長がアメリカの現状を紹介しましたが,日本と違う点は,1つには本試験の前に予備テストを行なって難問・奇問を排除しているそうです。日本でできない理由は,リークの問題もあるでしょうが,厚生省が片手間にやっているからです。ですから,先生がご指摘の医師国家試験センターのような機構があれば実現可能だと思います。たまたま試験委員に任命された人が片手間にではなく,専門的な訓練を受けた人が問題を作らなければ,公平な試験にはならないと思います。
もう1点は,ペーパーテストだけではだめだということです。カナダはすでにOSCEを導入したそうで,アメリカも現在はMCQ(多肢選択問題)だけですが,先ほどの副所長の話では2002年には実行するそうです。アメリカではOSCEが一般化されて,ほとんどの医学部で現実に行なっています。やはり日本でも将来的には導入したほうがよいと思いますし,そのためにはすべての医科大学にOSCEによる内科診断学の実習を行なうレベルまでいくべきでしょう。
複数回の国家試験を
植村 それから,私ははたして国家試験が1度でよいのか疑問に思っています。ドイツは国家試験を4回行なっていますし,アメリカは3回です。アメリカでは,専門課程の4年のうち2年,つまり基礎医学が終了した段階でパートI を受け,落ちた人には臨床実習をさせないというバリアがあります。日本と違って臨床実習の段階でかなりことを学生にやらせているのは,すでにパートI に受かっているからです。自動車の運転免許試験に譬えれば,仮免を持って路上運転をするという発想です。そして4年を終了した段階でパートII を受けます。パートII と卒業試験が卒業前に行なわれ,いずれかの試験に落ちた人は卒業を認可されません。その後インターンを1年やってからパートIII を受け,初めて単独診療を許可します。それだけ慎重にやっているわけですが,日本のように医師国家試験が1段階というのはおかしいと思います。
橋本 将来に向けて先生のご指摘は,まず現在の国家試験はペーパーテスト,しかもMCQなので技術も態度も評価できない,やはりOSCEの導入が必要である。2点目は,人の命を預かる医師の試験が1回であるのはおかしい。医師養成のプロセスの中で,何回か試験を受けて,段階的に形成していくことが必要である。3点目は,国家試験を国家試験センターのような機構を作って充実した内容にしなければいけない,ということですね。
それについては,実は先日,日本学術会議の医学教育研連が「医学教育センターの設置について」という報告書を出しました[
注2]。その中には,国家試験の調査,研究,実施も含めていますので,こうしたさまざまなご意見を取り入れて,よりよい国家試験の実現を期待したいと思います。
受験生は国家試験の変化を念頭に置いて
橋本 最後に,来年国家試験を受ける受験生に対しては何か助言がございますか。
植村 例年と変わりませんが,国家試験が変わってきたことを十分頭に入れておくことです。知識ではなく応用能力を問われるII 型やIII 型にウェートがかかってきて,その傾向がますます強くなったことです,必修問題,禁忌肢問題に対する対応です。やはり,やるべきことと,やってはいけいなことはきちんと覚えておくことが大事ではないかと思います。
橋本 そうですね。良問といわれる問題を分析してみますと,プライマリ・ケアに関連する問題や,先生がご指摘なさった内科診断学的問題,「身体診察の所見」という問題が特に今年は必修問題に多くありました。受験生はそういう基本的な問題を押さえておくことが必要でしょう。それから病態生理を問う問題,また基本的な治療方針を問う問題も良問として出題されることが多いですから,そういうことを念頭において勉強することが必要ではないかと思います。それに,例年のことですがトピックですね。
植村 そうですね。O-157などもあります。
橋本 感染症や臓器移植,それからインフォームドコンセント,医の倫理,在宅医療,災害救急医療というような問題は出題されて当然なのですから,受験生もそのへんをよく勉強をしておいたほうがいいですね。
植村 救急の比率ももう少し増やしてもいいと感じます。サリン事件や阪神大震災があったでしょう。ああいうことを頭に入れておくとよいでしょう。
橋本 先生がご指摘のように,必修問題を増やすことは私も賛成ですが,それだけに他の問題よりも慎重に吟味して出題していただきたいと思います。別の合格基準を持っているだけに,重要ではないかと思います。禁忌肢もマイナス点をつけるだけに出題者は十分検討していただきたいですね。
この新聞が出る頃は,受験生も卒業試験や国家試験の準備に入っている時期だと思います。体に気をつけて,全員が合格することを祈りたいと思います。今日はお忙しいところをありがとうございました。
| 〔注1〕MPL(minimum pass level=最低合格水準):イリノイ大学医学部教育開発センターによって開発されたもので,許容可能の最低能力の学生が正答を選ぶ可能性を推定するという理論に基づいている。卒業試験や医師国家試験のような資格認定試験では,最低限度の医学的知識と臨床能力を有しているか否かを判定することが要求される。すなわち,これだけは知っていなければならないという1つの絶対的基準をもとに合否を判定しなければならない。そのために,絶対基準では試験の前に合格点が設定されていなければならない。つまり,合格するために必要な最低点をMPL(最低合格水準)という。 |
| 〔注2〕「医学教育センターの設置について」:本年7月,日本学術会議第7部医学教育学研究連絡委員会によって発表された「医学教育センターの設置について」を指す。この報告書で,「医学教育センター(Medical Education Center)」設置の必要性が指摘されている。 |