医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


最新の消化器病学を一望

キーワードを読む 消化器 北島正樹,織田正也 編集

《書 評》小林健一(金沢大教授・内科学)

エキスパートにより最新の知識を

 分子生物学の目覚しい進歩は,基礎と臨床との垣根を取り払いつつある。相並行してCTにはじまる各種の画像機器が次々と登場し,性能が格段に向上した結果,医療の現場は大きく塗り代えられた。当然の帰結として,昨日耳にしなかった医学用語が,今日はキーワードとして確かな位置を占めている。またすでに教科書に記載されている疾患,病態,診断,治療の概念や内容も急速に変化しつつある。この傾向は医学のあらゆる分野においてみられるが,とくに消化器病学において顕著である。
 このような時期に『キーワードを読む 消化器』なる魅力的な書名が冠せられた本書の刊行は正にタイムリーと言えよう。外科,内科の息の合った両編者が該博な知識を駆使して157個のキーワードを取り上げ,93名のこの分野のエキスパートの協力を得て,本書が上梓された。
 キーワードは「癌遺伝子・癌抑制遺伝子」にはじまって,「サイトカイン」,「増殖因子」,「CD・免疫細胞」等の基礎的な9項目と「ヘリコバクター・ピロリ」,「肝炎」,「虚血―再灌流障害」,「疾患・病態」,「診断」,「治療」,「人工臓器」等の臨床的な7項目,「その他」を合わせて17項目に手際よく振り分けられている。「疾患・病態」の項に最も多い35個のキーワードが載っている。巻末の欧文・和文索引も適切である。

各キーワードを見開き1頁で

 各キーワードは見開き一頁ずつにコンパクトに収められており,ちょうどよい長さである。特に感じ入ったのは,その記載形式である。すべてのキーワードが,「キーポイント」,「概念」,「研究の動向」,「臨床的意義」,「将来の展望」と「重要な文献」の6つの見出しで統一されている。なかでも「キーポイント」,「研究の動向」,「将来の展望」は斬新な切り口であり,一気に読ませてしまう。各キーワードを担当した筆者の推敲の跡が伺われる。
 日常の多忙な臨床の合い間に,論文,研究会や学会等で,見知らぬキーワードに接した際,あるいは知っている用語であっても,これまでとは異なった概念で用いられている場合,読者諸賢は如何に対処されるであろうか。教科書に載っていたとしても物足りない時,さりとて専門書や数多くある特集号をひもとくのもいささか億劫といった場合である。
 そのような際に本書は誠に至便である。その項目を通読すれば目からウロコが落ちる思いがするであろう。さらに詳しく知りたい場合には「重要な文献」の項を参照されるとよい。
 わが国の臨床の現場では,消化管を専門とする医師であっても,肝臓の最新の業績を知らねばならない。その逆もまた真なりである。本書に集録された“キーワード”を避けて通ることは許されない時代である。むしろ本書を座右の書として大いに活用されて,編者も「序」で述べているように,楽しく最新の消化器病学のスピーチとディベートに積極的に加わっていただきたいものである。
B5・頁168 定価(本体3,500円+税) 医学書院


広範な医学と食品化学研究の現状示す

蛋白の糖化 AGEの基礎と臨床 繁田幸男,谷口直之 編集

《書 評》飯田静夫(東医歯大教授・分子医化学)

蛋白の糖化の臨床的意義

 生体中での糖蛋白質の存在はよく知られているが,糖が生体中で糖転移酵素によってグリコシド結合で蛋白質に結合するのではなく,非酵素的に蛋白質と結合するものもあることが知られてきたのはそう古いことではない。もちろんMaillard反応,Amadoli転移などは有機化学的な反応として知られていたが,生体外の化学反応として理解されており,生体中での生成,その臨床的な意義などについての研究が始められたのは比較的最近のことである。現在では血中蛋白質の糖化は臨床検査でも測定されるように一般的に広く知られてきている。
 しかしその臨床的な意義は糖尿病とその合併症を中心に,研究の初期に考えられていたよりもはるかに広範囲で深く及んでいる。また臨床面ばかりでなく食品の風味や食品の品質劣化などの分野での研究も進められている。この本は書名に示されているように,蛋白質の糖化について基礎から臨床まで広範な医学的研究と食品化学の研究の現状をまとめた本である。

すべての分野を網羅

 構成としては,I.蛋白糖化反応の生体における意義,A.初期反応について,B.後期段階反応について,II.3-DGとAGEの生化学,A.3-DG(3-デオキシグルコソン)の代謝とアルデヒドレダクターゼ,B.ポリオール代謝異常と蛋白糖化反応,C.AGE(Advanced glycation endproducts)の化学構造,定量法およびAGEレセプター,III.糖化による蛋白質とDNAの切断およびアポトーシス,IV.アマドリ化合物分解酵素,V.蛋白糖化反応の臨床的意義,A.糖尿病と蛋白糖化反応:この中には糖尿病の病態生理,マーカーとしての3―DG,糖尿病のコントロール指標,毛髪蛋白の糖化反応と臨床的意義,糖尿病性腎症の発症・伸展,形態異常,糖尿病性神経障害の発症・伸展,形態,糖尿病性大血管症の発症・伸展などと蛋白糖化反応との関連が取り上げられている。B.老化現象と蛋白糖化反応,C.神経変性疾患と蛋白糖化反応,D.透析療法と蛋白糖化反応,VI.蛋白糖化反応の医薬への応用,A.輸液と蛋白糖化反応,B.茶葉中の蛋白糖化反応抑制物質,C.蛋白糖化反応阻害薬,VII.食品と蛋白糖化反応との関係,A.食品におけるメラノイジン生成の意義,B.蛋白糖化反応と食品の色調,C.蛋白糖化反応と香りの章と節からなり,ほとんどすべての分野を網羅している。それぞれの節はその分野の専門家によって分担して書かれており,4~5ページにまとめられていて読みやすく,また文献も豊富にあげてありさらに深く知りたい読者にとって有用である。
B5・頁172 定価(本体14,000円+税) 医学書院


WPW症候群の最新の知見をまとめた好著

WPW症候群 細田瑳一 監修/笠貫宏 編集

《書 評》渡部良夫(豊田地域医療センター院長)

臨床医に役立つ内容

 今回本書の書評を依頼された私は,まずその目次を,私の編集で1984年に金原出版から刊行された内科Mook『副伝導路症候群』のそれと比較対照してみた。それは日進月歩の医学分野における13年の差は,分担執筆者の顔触れを一新させるのはもとより,ある疾患の診断または治療の記載を完全に書き換えさせてしまうことさえあるからである。その結果,最初の数章にはWPW症候群の歴史,房室副伝導路の病理,WPW症候群の疫学といった前回と同様の表題が並んでおり,これらは本症候群の歴史に最近の進歩がつけ加えられた点などを除けば,その性質上,以前の内科Mookとそれほど大きく変わったところはない。
 一方,「4.心電図および体表面電位図による副伝導路部位診断」,「5.WPW症候群の臨床電気生理検査」と続く次の2つの章では,ACC/AHAのガイドラインにも触れながら診断手技が具体的かつ懇切丁寧に解説されており,これらは実際にそれらの方法を用いて本症候群の診断に取り組もうとする臨床医にとって大変役立つ記述である。また,私が編集したMookでそれぞれ1章として取り上げられていた題目の中で,例えば運動負荷心電図,Holter心電図,ベクトル心電図,心エコー図などの項目が見られなくなったのは,診断面における最近の進歩をうかがわせてくれる。

治療面の進歩をもれなく記載

 しかしこうした時代の変遷を如実に反映しているのは,何といっても治療面に関する記述であろう。すなわち前回のMookにおいては,本症候群の治療を治療の基礎,内科的治療の実際,外科的治療という2つの章に分けていたのに対し,本書では「6.WPW症候群の薬物療法において,臨床電気生理検査による有効薬剤の選定に基づくいわゆるEP guided drug therapyの長期成績などをも取り上げている点が注目され,内科Mookで触れていた電気的ペーシングによる頻拍発作の停止などは扱われていない。さらに「WPW症候群の手術療法:その回顧的考察」という第7章の表題は,本症候群の根治療法として1980年代まで広く行なわれた副伝導路切断手術が,「カテーテルアブレーション」(第8章)にとって代わられた最近の発展を象徴して,誠に感慨深いものがある。後者については,「9.カテーテルアブレーションの合併症」という記載もあり,これも実地臨床家にとって大変参考になるものと思われる。
 これらの後には無症候性・軽症候性WPW症候群の取り扱い,WPW症候群と失神発作,WPW症候群と突然死,心肺蘇生例とその特徴といった各章が続いているが,そこでも症状のない例での臨床電気生理学的検査やカテーテルアブレーションの必要性とか,WPW症候群における突然死の予防策などが具体的に論じられている。そして最後にいろいろの問題点を含む10の症例が提示されているといった具合で,本書は副伝導路症候群の診断と治療に関する最新の知見を見事にまとめた好著と言え,循環器診療に携わる臨床家に広く推薦したい。
B5・頁220 定価(本体7,800円+税) 医学書院