医学界新聞

排痰援助の肺理学療法が話題に

第24回日本集中治療医学会が開催される


 さる5月15-17日の3日間,第24回日本集中治療医学会が,平盛勝彦会長(岩手医大教授)のもと,盛岡市の盛岡グランドホテル他で開催された(2245号にて既報)。

哲学者らからみた「生と死」

 今学会では,医学医療の各専門領域から構成される学会の特性を生かし,「集中治療の科学と非科学:医学の行方を考える」をメインテーマに据え,医療従事者以外からも講演者やパネリストを招聘。主会場では,中村雄二郎氏(哲学者)が「集中治療医学の臨床の知」と題する総会基調講演を行なった他,7題のパネルディスカッション中でも日野啓三氏(作家)が「生と死」を,また梅原猛氏(哲学者)が「医学と死」を,さらに河合隼雄氏(臨床心理学者)は「集中治療室におけるこころの問題」を講演,それぞれの討議の基調となった。
 その中で,梅原氏は講演の冒頭で今国会で成立した臓器移植法に触れ,「脳死を法律で決めるのは,臓器移植をしたいからでしかない。移植そのものには賛成であるが,人間を物質と見て,機械を直すがごとく扱うのは医ではない。死は政治家が決めるものではない」と発言。法制化については,成立後も反対の姿勢を貫くことを表明した。
 また,医師部門の一般演題では,脳死問題に関連して学会開催以前から新聞等で紹介され話題となった日大救急医学部(林成之教授ら)の脳低温療法に関する事例や,同療法を検討し有効性を示した旭川日赤病院の発表などが注目を集めた。
 一方,現在医療界の中で注目されている“Evidence‐based Medicine(EBM:実証に基づいた医療)"については,海外招請講演やランチョンセミナー,ワークショップ「科学的論拠と臨床の現場;個々の患者さんへの対処法を学ぶ」などで大きく取り上げられ,EBMとは何か,どのように有効性が示せるのかなどが検討された。このEBMについては,今後看護界にも大きな影響を与える考え方として注目されよう。

基本的な援助技術を見直す

 看護部門では一般演題発表の他に,「基本的な援助技術を見直そう」をテーマとするワークショップが2題行なわれた。
 (1)口腔内ケア(座長=岩手医大病院 杉原千恵氏)では,気管内挿管患者の口腔ケアを中心に4人が演題発表。その後に講師として参加した大屋高徳氏(岩手医大歯助教授)が口腔ケアに関する講義を行ない,「鼻腔を含めた口腔洗浄が,集中治療の場における看護婦の役割」として,特に気管切開患者の口腔ケアの必要性を強調した。
 一方,(2)排痰援助(座長=横市大病院 岡田共子氏)では,より効果的な排痰をすべくさまざまな手法を用いた実践例での検討や有効例が6人から報告された。
 その後に,宮川哲夫氏(昭和大医療短大)は気管支鏡を使い,痰が気管の中でどのように移動するのかを,各種の排痰技術を実践し撮影したビデオを紹介。さらに,丸川征四郎氏(兵庫医大教授)が「肺理学療法」を講演。丸川氏は,「タッピング,スクイージングという言葉は和製英語。タッピングはパーカッションもしくはクラッピングが正しく,スクイージングは用手的肺理学療法手技と訳せる」と解説。また,喀痰を取るための基本手技として,(1)体位変換,(2)クラッピング・バイブレーション,(3)深呼吸,(4)咳嗽,(5)用手的肺理学療法手技などをあげた。さらに「看護職による排痰援助は,単に呼吸理学的効果だけではなく,タッチングによる患者とのコミュニケーションにも目的があると考えられる」と述べ,詰めかけた参加者からの共感を得た。集中治療における看護の専門性が,基本技術の見直しにより示唆される集会となった。