第2245号 1997年6月23日


多領域の専門家を集め医学の行方を考える

第24回日本集中治療医学会が開催


 第24回日本集中治療医学会が,さる5月15-17日の3日間,平盛勝彦会長(岩手医大教授)のもと,盛岡市の盛岡グランドホテルを主会場に開催された。

「死は政治家が決めるものではない」

 「集中治療の科学と非科学:医学の行方を考える」をメインテーマとした今学会では,医学医療の各専門領域から構成される学会の特性をいかし,医療従事者以外から講演者やパネリストを招聘。「集中治療医学の臨床の知」と題した基調講演を哲学者の中村雄二郎氏が行なった他,7題のパネルディスカッションでも,(1)「歴史に学ぶ集中治療;次の一歩を考える」で酒井シヅ氏(順大教授)が「集中治療を医療の歴史的視点から考える」を,(2)「集中治療の科学;その光と影を見定める」では日野啓三氏(作家)が「生と死」を,(3)「集中治療室での生と死-治療する側と受ける側;それぞれの思いと応接」では梅原猛氏(哲学者,国際日本文化研究センター顧問)が「医学と死」を,さらに(4)「集中治療室でのインフォームドコンセント;こころに問題はないか」では河合隼雄氏(臨床心理学者,国際日本文化研究センター所長)が「集中治療室におけるこころの問題」をそれぞれ講演した。また,その後にはこれらの講演を基に,演者も参加しての討論会が各パネリスト間で行なわれた。
 このうち(3)(座長=福島医大教授 奥秋晟氏)の梅原氏の講演では,「医学はデカルト思想から生まれたもの。医学の中でも外科は花形であり,特に移植医はかっこいいもの。脳死を法律で決めるのは,臓器移植をしたいからでしかない。死は政治家が決めるものではなく,坊さんや哲学者に任せておけばよい」と発言。また,「移植そのものには賛成であるが,脳死判定が確実に行なわれるとは思わない。人間を物質と見て,機械を直すがごとく扱うのは医ではない」と,衆議院を通過した臓器移植法案について触れ,法制化については今後とも反対の姿勢をとり続けることを表明した。
 また,その他に行なわれたパネルディスカッションのテーマは,(5)「経験と類推と直感が頼りの集中治療;科学的根拠の行為を整理してみよう」,(6)「医療をめぐる政治経済状況;医療費がもっとあれば集中治療はこんなによくなる」,(7)「医療の行方を考える」で,さまざまな角度からの集中治療をとらえる企画となった。

脳低温・低体温療法に注目

 医師部門の一般演題466題の発表はすべてポスターにて行なわれたが,応募演題の中からテーマごとに採択された演題を中心にシンポジウムが8セッション組まれた。また看護部門ではワークショップ2題の他,一般演題142題が口演およびポスターでの発表が行なわれた(看護部門については次週2246号にて詳細を報告)。
 一般演題の中では,重症脳損傷治療法に有効例が示され,再び注目をされ始めた低体温療法に関する事例が,東邦大脳外科をはじめ香川医大病院集中治療部,総合会津中央病院救急救命センターなどから報告された。また,臓器移植法案の成立に関連し,脳死問題などで話題となっている脳低温療法については,日大救急医学部(林成之教授ら)や旭川日赤病院麻酔科が報告。旭川日赤病院では,心肺停止等により生じた低酸素脳症の5例に施行した脳低温療法を検討,林氏らによる療法の有効性が示唆されたと発表。日大グループからは,脳低温療法中の組織酸素代謝と管理目標やエネルギー代謝動態,生体侵襲反応の基礎病態などが報告されたが,「脳低温療法中といえども,予後の改善には脳組織への十分な酸素供給が必要」と全身酸素運搬量の管理目標を700~800ml/分に,血圧は90~100以上に保つことなどをあげた。ともに「今後の検討が必要」としているが,参加者の関心を集めた。

医療の中の科学的根拠

 一方,現在医療界の中で注目されている“Evidence―based Medicine(EBM)"についてはRoman Jaeshke氏(マクマスター大準教授)が招請講演を行なったのに続き,ランチョンセミナーでは福井次矢氏(京大教授)が講演し,またその後のワークショップ「科学的論拠と臨床の現場;個々の患者さんへの対処法を学ぶ」(座長=福井次矢氏,帝京大教授 多治見公高氏)で討論された。この討論にはJaeshke氏もコメンテーターとして参加し,招請講演に引き続きマクマスター大の実情を紹介しながらEBMとは何か,またどのように有効性が示されるのかを述べた。
 なお,次回は窪田達也会長(自治医大教授)のもと,東京の東京国際フォーラムで,明年3月5-7日の3日間開催される。