医学界新聞

第61回日本循環器学会開催

国際化,教育セッションの充実,社会貢献を柱に


 第61回日本循環器学会が,細田瑳一会長(東女医大心臓血圧研)のもと,さる3月31日-4月2日の3日間,東京・千代田区の東京国際フォーラムで開催された。
 学会では,2000題以上の一般演題(演題採択率48.3%)が口演およびポスターで発表されたほか,シンポジウム((1)循環器疾患の危険因子と一次予防,(2)神経体液性調節機構と心不全,(3)QT延長症候群をめぐって,(4)循環器疾患の遺伝子診断),4題のパネルディスカッション,美甘記念講演,真下記念講演,外国人招請講演などが行なわれた。
 また,教育セッションや今回新たに設けられた国際セッション(14題),さらに市民公開講座「日本人を心臓病から守る」の開催,多くのサテライトセミナーなど,約2万人の会員を擁する学会にふさわしく様々なニーズに応える企画が展開された。



 会長講演「医療における循環器病学の貢献と展望」を行なった細田氏は,全体を(1)基礎研究の進歩,(2)臨床医学の進歩と基礎研究の応用,(3)医療評価と循環器疾患の予後,(4)日本循環器学会の現状に分け,教室の研究成果を例に最近の研究動向を概観するとともに,医療における循環器病学の役割を解説した。
 細田氏は,「循環器病学は著しい進歩をとげ,循環器病の領域を越えて,細胞学・分子生物学の原則に大きな変革をもたらしている」と評価。真理の探究とその臨床への適用に大きな貢献がなされているが,21世紀に向けてさらに「複雑系としての生体」における統合的な研究が望まれていると指摘した。
 また,進歩した科学技術の臨床への応用についても,病態の解明や予後の改善,予防において大きな貢献があり,いくつかの本質的な指標が見いだされたものの,「個々の症例の客観的評価や,社会復帰の促進については,一般への啓蒙も含めていっそうの努力が必要と考える」との期待を述べた。

循環器疾患の遺伝子診断

 シンポジウムのうち「循環器疾患の遺伝子診断」(座長=神戸大 横山光宏氏,群馬大 永井良三氏)では,永井氏の総説の後,8人のシンポジストが,遺伝子異常が関連する疾患(22q11.2欠失症候群,マルファン症候群,突発性心筋症,拡張型心筋症,心Fabry病,心筋梗塞,家族性高コレステロール血症,高血圧,心筋炎におけるウイルス感染)について発表した。また追加発言として,マウスによる実験で同定された老化関連遺伝子についても紹介された。
 このうち嶋崎幸生氏(熊本大)は,急性心筋梗塞発症機序における血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子変異の関与について研究。冠攣縮性狭心症患者のeNOS遺伝子異常を全翻訳領域において検索し,グルタミン酸298アスパラギン酸変異の存在を発見し,同遺伝子多型と冠攣縮性狭心症,また心筋梗塞との有意な関連を見いだした。嶋崎氏は,「心筋梗塞の発症に,冠攣縮に加えて血小板凝集,平滑筋細胞増殖などNOに関連する機序が含まれており,これらの機序が,心筋梗塞にeNOS遺伝子変異が認められることと関連していると考えられる」と述べた。

冠疾患治療法選択の根拠をただす

 パネルディスカッション(2)「冠疾患治療法の選択:その根拠をただす」(座長=岩手医大 平盛勝彦氏,奈良医大 北村惣一郎氏)では,施設間格差が大きいとされる冠疾患の治療法選択について,経皮的冠動脈形成術(PTCA),冠動脈バイパス手術(CABG),薬物治療の選択の根拠を考える目的で7人の演者が登壇した。
 まず西田博氏(東女医大),川田哲嗣氏(奈良医大)が,外科の立場から自施設の成績を報告。西田氏は初回・待機的CABGとPTCAのデータを比較し,生命予後には差がないが心事故回避率はCABGが有意に高いことを示した。また川田氏はCABGの成績を向上させる内胸動脈グラフト使用について,静脈グラフト単独使用と比較し有効性を示した。
 続いて主に内科の立場から,西山信一郎氏(虎の門病院),木村剛氏(小倉記念病院),住吉徹哉氏(榊原記念病院),銕寛之氏(兵庫県立姫路循環器病センター)が発表。西村氏は,内科(薬物)治療とPTCA,CABGの治療成績を比較し,病態に応じた治療選択とその根拠を提示。住吉氏は各治療法の長期予後を比較し,1枝病変では侵襲的治療が薬物治療の成績を凌駕するのは難しく,総合的判断が必要であるとした。
 一方,木村氏は,多枝病変へのPTCA実施について,1枝病変で証明されているステント植え込みによる再狭窄予防効果などを報告。長期生存率は,左心機能良好な症例において非常に良好であると述べた。また銕氏はステント導入によりPTCAが慢性完全閉塞などの複雑病変にも効果をあげていることを示した。
 最後に鈴木知己氏(岩手医大)は視点を変え,欧米の各種大規模比較試験を紹介し,治療選択の根拠をレビューした。
 その後のディスカッションではまず,欧米に比して日本のPTCA実施数がなぜ多いのかという設問を座長が提示。「他の治療の適応を検討する姿勢が足りないのでは」との指摘の他,手術リスクの回避,CABGの初期成績が不安定だったことなどの理由もあげられた。また,病態はもちろん年齢や職業など社会的背景を考慮した上での選択や,内科と外科のカンファレンスが重要であることが確認された。さらにフロアからも質問や意見が寄せられ,「現実に,経験数も少なく外科のバックアップもない体制でPTCAを行なっている施設が多数存在することが問題」「施設の成績を発表する際に“死亡率”などの定義は同一にすべき。また追跡率が95%を切る研究は学会に出すべきでない」などの発言があった。
 いずれの演者も,十分な適応検討がなされないままの治療選択や,施設間で治療選択に差がある現状を憂う点では共通の認識を持っており,今後は患者への情報開示の他,国内の信頼できる大規模試験の実施や治療の指針づくりがさらに求められよう。
 なお今学会の会期中に開かれた総会で,杉本恒明氏(関東中央病院長)の後任の理事長に矢崎義雄氏(東大)が就任した。