医学界新聞

第11回精神研国際シンポジウム

「アルツハイマー病とモデル動物の分子生物学:
新治療薬の開発への道程」を開催するにあたって

黒川正則 〔第11回精神研国際シンポジウム会長,東京都精神医学総合研究所長〕


 (財)東京都精神医学総合研究所は1985年以来,精神医学研究の発展と国際交流を推進するために,内外の第一線の研究者の参加を求めて毎年公開の「精神研国際シンポジウム」を開催してきました。
 第11回を迎えた今年も,きたる3月4日から5日まで,東京のアルカディア市ヶ谷において,別記の内容と要綱のもとに開かれます。

「痴呆の程度」が深刻な問題に

 21世紀を迎えるあたって,精神疾患と高齢者問題は全世界の医療および社会的問題であることは広く認識されています。また,加えてこの問題は,QOL(Quality of Life)の向上という現在の方向性と合致しています。
 そこで,今回は「アルツハイマー病とモデル動物の分子生物学:新治療薬の開発への道程(The molecular biology of Alzheimer's disease and animal models:routes to the development of new therapies)」をテーマとして,内外の専門家による最新の研究成果の発表,および活発な討論の場を提供することにしました。
 周知のように,アルツハイマー型痴呆はこの10年で50%の増加を示し,従来痴呆の主流であった血管性痴呆をおさえて主要痴呆疾患となりました。しかし,さらに深刻な問題は「痴呆の程度」にあります。最近の調査結果から,重度あるいは寝たきり状態を呈する痴呆症状にある人口比率が,10年前に比べて約2倍になっていることがわかりました。つまり,アルツハイマー病の比率が上昇しただけでなく,その重篤度が切迫するという,欧米型への接近傾向があらためて示されたわけです。
 こうした現象の進行に合わせて,医療施設ばかりでなく,在宅介護や訪問看護システムの充実,特別養護老人ホームの慢性的不足,老人保健施設への要求が年々高まり,医療・福祉の財政負担は右肩上がりになっている現状を軽減する目的からも,アルツハイマー病の原因解明と治療薬開発は必須の研究として求められています。

欧米3か国から専門家を招く

 本シンポジウムでは,医療先進国を代表する欧米3か国から専門家を招き,わが国の最先端にある研究者との間で,「アルツハイマー病原因遺伝子プレセニリンとその機能」,「アミロイド蛋白と神経毒性」,「アルツハイマー病モデル動物」,「発症危険因子と神経病理」を主なテーマとして討論を行ないます。
 なお,本シンポジウムの記録は,学術雑誌「Neurobiology of Aging」(Elsevier,USA)に掲載されます。
 アルツハイマー病に代表される老年痴呆,老化問題などに関する幅広い議論や問題点の整理は,基礎医学研究に携わる研究者のみでなく,臨床医学から医薬・治療薬開発に関係する研究者にとって,今後の痴呆研究の展望を開くうえで重要な意義を持つものと考えます。

プログラム
〈3月4日(火)〉
[講演]長谷川和夫氏(聖マリアンナ医大学長):How to cope with Alzheimer's disease
[第1セッション]「危険因子とタウ神経病理-(1)」(座長=甲子園大教授 西村健氏,ロチェスター大教授 P.D.コールマン氏)(1)アルツハイマー病;危険因子・突然変異から病理像へ(デューク大教授 A.D.ローゼス氏),(2)アルツハイマー病の遺伝性危険因子(新潟大教授 辻省次氏)
[第2セッション]「危険因子とタウ神経病理-(2)」(座長=自治医大教授 中野今治氏,A.D.ローゼス氏)(1)神経変性疾患における神経細胞とグリア細胞のタウ(都精神研参事 池田研二氏,P.D.コールマン氏),(3)アルツハイマー病におけるタウキナーゼの役割(三菱化学生命科学研名誉所長 今掘和友氏)
[第3セッション]「プレセニリン-(1)」(座長=国立精神神経センター部長 田平武氏,トロント大教授 P.H.セントジョージヒスロップ氏)(1)アミロイド沈着におよぼすプレセニリンの効果(都精神研副参事 森 啓氏),(2)プレセニリン蛋白の生物学(ハイデルベルグ大教授 C.ハース氏),(3)細胞外アミロイドにおよぼす家族性アルツハイマー病関連APP,PS-1,PS-2突然変異の役割(メイヨクリニック教授 S.G.ヤンキン氏)
[第4セッション]「プレセニリン-(2)」(座長=阪大教授 武田雅俊氏,C.ハース氏)(1)プレセニリン;突然変異の意義(P.H.セントジョージヒスロップ氏),(2)アルツハイマー病におけるプレセニリンの免疫組織学(田平武氏),(3)PS-2遺伝子クローニングとその機能(ワシントン大教授G.シェレンバーグ氏)

〈3月5日(水)〉
[第5セッション]「モデル動物」(座長=広島大教授 中村重信氏,カリフォルニア大 C.コットマン氏)(1)トランスジェニックマウスにおけるアミロイド沈着(群大東海林幹夫氏),(2)アルツハイマー病アミロイド蓄積抑制にたつ治療的戦略(アテナニューロサイエンス研副所長 D.シェンク氏),(3)プレセニリン機能の分子分析(ジョンズホプキンス大 S.シソーディア氏)
[第6セッション]「Aβとその細胞生物学」(座長=D.シェンク氏,信州大 池田修一氏)(1)GM1結合Aβ(長寿医療研究センター部長 柳澤勝彦氏),(2)細胞内Aβ(東大教授 井原康夫氏)
[第7セッション]「Aβ神経毒性-(1)」(座長=南フロリダ大教授 M.ムラン氏,群馬大教授 岡本幸市氏)(1)Aβの生成と沈着(東大助教授 岩坪威氏),(2)生成物分析とペプチダーゼ阻害による分泌後Aβの代謝(都臨床研究研主事 西道隆臣氏),(3)Aβ神経毒性(C.コットマン氏)
[第8セッション]「Aβ神経毒性-(2)」(座長=S.G.ヤンキン氏,井原康夫氏)(1)プレセニリン:点突然変異(M.ムラン氏),(2)家族性アルツハイマー病のAPPV6421突然変異の細胞毒性機構(慶大教授西本育夫氏),(3)Aβ神経毒性におけるスカベンジャー受容体の役割(コロンビア大J.エイコーリー氏)

〔用語〕英語
〔参加費〕5,150円(懇親会費7,000円)
〔申込み方法〕はがきまたはFAXで「第11回精神研国際シンポジウム参加希望」と明記の上,氏名,所属,連絡先(電話・FAXも)を下記事務局まで連絡のこと。折り返し振り込み用紙を送付。参加費支払いをもって参加登録にかえる。なお会場の都合上先着200名まで
連絡先:〒156 東京都世田谷区上北沢2-1-8 (財)東京都精神医学総合研究所 第11回精神研国際シンポジウム事務局 (担当:森 啓)
TEL(03)3304-5701(内線341)
FAX(03)3304-9396