医学界新聞

Endoscopic Surgery towards the 21st Century ”をテーマに

第9回日本内視鏡外科学会総会開催


 第9回日本内視鏡外科学会総会が,北島政樹会長(慶大教授)のもとで,さる12月4-5日,東京の京王プラザホテルにおいて開催された。
 腹腔鏡下胆嚢摘出術がわが国に初めて導入されたのは1990年。腹腔鏡や胸腔鏡などの体腔鏡を使って行なわれる内視鏡外科手術は,その歴史が比較的浅いにもかかわらず,手術手技の進歩や光学・手術・ディスポーザブル機器の急速な開発・発展によって日々進化し続けている。
 学会では,今回の壮大なテーマ「Endoscopic Surgery towards the21st Century」に沿って,同時二元中継によるハイビジョン・ライブ・デモ「Advanced Laparoscopic Surgery」,ハイテクノロジーの専門家(非医療従事者)による特別シンポジウム「未来技術との遭遇」,また,Virtual Realityや音声認識システム,3-D Head Mount Display,インターネットが直接体験できる展示「FUTURE PARK」など,趣向と工夫を凝らした多くの催しが企画された。(関連記事「特別シンポジウム 未来技術との遭遇」


招待講演,多岐にわたる一般演題, 悪性疾患に対する5題のシンポ

 海外からの招待講演は,R.M.Satava氏(Walter Reed Army Medical Center,アメリカ)による「Virtual Reality and Robotics for Endoscopic Surgery」と,E.H.Phillips氏(Cedars-Sinai Medical Center,アメリカ)による「Video-Assisted Surgery;State of the Art」の2題。
 Savata氏はVirtual Reality, Robotics,tele-surgeryなどの外科領域における研究の草分け的存在。またPhillips氏は,アメリカを代表する内視鏡外科医の1人で,世界で初めて腹腔鏡下の総胆管結石切石術や脾臓摘出術を手掛けたことで知られる。
 同学会の1994年末のアンケート調査では,腹腔鏡下胆嚢摘出術は4万件を超えているが(表参照),出月康夫同学会理事長によれば,現在はおそらくその2倍近くになっていると推測される。

 また,これまでは主に一般消化器外科,呼吸器外科,産婦人科,泌尿器科領域の手術に応用されていたが,最近はそれに加えて整形外科,脳神経外科,心血管外科などの領域への普及が目覚ましい。400題を超える一般演題はそれを反映し,広範な領域への適用例が報告された。
 一方,教育シンポジウムでは,近年応用が始まっている悪性疾患に対する手術として,「食道癌に対する内視鏡下外科手術」,「胃癌に対する腹腔鏡下手術」,「大腸癌に対する腹腔鏡下手術」,「肺癌に対する胸腔鏡下手術」,「腎癌に対する内視鏡下外科手術」の5題が取り上げられた。


ライブ・デモ:
「Advanced Laparoscopic Surgery」

 学会初日のハイライトとして企画されたライブ・デモ「Advanced Laparoscopic Surgery」では,慶大病院中央手術室と会場を光ファイバーケーブルで結び,招待講演の演者を交えて胃と脾臓の腹腔鏡下切除術を供覧し,将来のtele-education(tele-mentor)のための技術として,画面上双方向対話システムの実際を提示した。
 これは,会場側から手術室画面に,また逆に手術室から会場側画面上にコンピュータによる画像を表示し,双方でリアルタイムのコミュニケーションを行なうことを可能にする企画。さらに,腹腔鏡下胃切除術では音声認識システムを応用したロボットカメラを実際に使い,tele-surgeryの初歩段階として,会場側からの遠隔操作でロボットカメラを移動して術野を変える試みも行なわれた。


会長講演:
「21世紀における内視鏡外科の可能性」

 内視鏡外科手術は,患者へのQOLの向上と相まって,(1)胸壁・腹壁の機能障害が少ない,(2)術後疼痛が少ない,(3)美容的に優れる,(4)通常生活への復帰が早い,など数多くの利点が普及を促している要因になっている。しかし,その一方でいくつかの制約,特に「直視下でなく,モニターを通して行なう鏡視下手術」であること,および「直接臓器に触れずに遠隔操作で行なう手術」であるという2大特性を持っており,そのための不自由さを免れえない。

期待される新しいテクノロジー

 この点について北島氏は,会長講演「21世紀における内視鏡外科の可能性」で,「これらを克服するためには,まず新たな手術法の開発や,手術手技のより一層の向上が必要であるが,それのみではおのずから限界がある。今後,内視鏡外科の適応を拡大し,より安全で容易な手術手技を確立するためには,新しく,かつ高度な様々なテクノロジーのさらなる導入が不可欠である」と強調。そして,慶大理工学部やマサチューセッツ工科大学,および企業との協同研究の成果を踏まえ,21世紀に向けて期待される新しいテクノロジーとして,3-D, high vision映像,Robotics, Virtual Reality,音声認識技術,tele-surgeryなどの可能性を指摘した。
 北島氏によれば,映像の進化という点ではより高画質な3-D scopeの開発が進むであろうし,high vision CCD チップの小型化が進むと200万画素を超えるような驚異の画像が出現する可能性もまた十分にあり,さらに縫合など特に不自由を感じる手術操作には,意のままに自在にコントロールできる自動操縦装置(ロボット)の開発も期待される。その例として,今学会のライブ・デモでも実演されたvoice control system(術者が自分の見たい手術視野を自分でコントロールするために,腹腔鏡をロボットに保持させ,自身の音声でコントロールするシステム)を紹介した。

トレーニング・システム

 内視鏡下手術には特殊なトレーニングが必要となる。ライブ・デモでも提示されたように,欧米では伝送されてきたリアルタイムの映像を見ながら,指導医が内視鏡手術を指導する試みが始まっているが,北島氏が期待を寄せるのは,Virtual Realityによる手術トレーニング・システム。手術シミュレーション・システムの実例と実演を示しながら,「画像がより精密で複雑な動きに対応可能なシステムが開発されれば,近い将来,内視鏡下外科手術の基礎的なトレーニングに,臨床や動物実験を行なう必要がなくなる日がくるかもしれない」と将来への明るい見通しを示した。