医学界新聞

20年目を迎えた日本死の臨床研究会

「21世紀への飛翔」をテーマに年次大会を開催


 第20回日本死の臨床研究会が,佐藤禮子(千葉大教授),松岡寿夫(国立西埼玉中央病院医長)両会長のもと,さる11月23-24日の両日,東京の国立教育会館で開催された。同研究会は1977年の第1回大会に始まり,今回が20年目の開催となった。また,会の成り立ちから現在を踏まえ,そしてこれからの研究会の進むべき道を考え,将来へつなげるべく「21世紀への飛翔」をテーマに掲げた。

「看護学雑誌」が設立のきっかけに

 開会直後に行なわれた鼎談では,歴代の世話人代表3名が出席し,会の成り立ちなどを語った。その中で,河野博臣氏(第1回大会長,第3代世話人代表)は,死の臨床研究会の設立について,「1972年に行なわれた『看護学雑誌』でのターミナルケアの座談会や,同誌での連載が設立のきっかけになった。『死の臨床』という言葉もこの中から生まれたもの」と述べた。また,死にゆく人のケアなどを職種を越えて話し合うことを目的に,1976年に開かれた日本心身医学会に参集した金子仁郎氏(初代世話人代表)らと会の発足を相談,翌年大阪大学講堂で第1回を開催し,演題発表は8題であったことなどの経過を解説。「医療者が中心ではなく,患者が中心となる研究会であり,参加資格を問わずに誰でもが参加できることは,今でも基本となっており,学会としないのもここに理由がある」ことを強調した。
 岡安大仁氏(第4回大会長,第2代世話人代表)は,「1人の内科医としては『死の臨床』という言葉には当初抵抗があった。この『死』という言葉を巡っては,大会の会場を借りる際にも様々な弊害があり,20年の歴史は言葉を乗り越える克服の道でもあった」ことを振り返った。さらに水口公信氏(現・第4代世話人代表)は,「1980年代から生命倫理やインフォームドコンセントがテーマとなりはじめ,時代の流れの中で研究会の役割も変化してきた」と語った。
 同研究会がこの20年間に果たしてきた功績は医療界のみならず一般社会にも及び,「これからはホームホスピス(在宅ホスピス)が原点となると考えている」(河野氏)との発言もあったように,死のとらえ方は施設から在宅へと向かっていることを示唆していることが,その後の一般演題などでも示された。
 大会では,鼎談の他に特別講演2題や学会テーマに沿った両会長の司会によるシンポジウム「21世紀の死の迎え方」(シンポジスト=北里大名誉教授 立川昭二氏,作家 柳田邦男氏,乳癌体験者の会「あけぼの会」会長 ワット隆子氏,特別発言=ホスピスケア研究会代表 季羽倭文子氏,水口公信氏)や143題の一般演題および事例検討8題の発表が行なわれ,それぞれの会場で熱い討論が交わされた。中でも,在宅ケアに関する発表が行なわれた会場には参加者が押し寄せる盛況ぶりであった。

これからの在宅ホスピスのあり方

 一般演題の中で特筆できるものとして,「在宅ホスピスケア」(座長=ライフケアシステム 佐藤智氏)のセッションがあげられる。ここでは研究会初の有床診療所ホスピスに関する4題の発表が行なわれた。
 橋本真紀氏(岡山県かとう内科)は,「診療所が併設する緩和ケア施設 家庭医の連携による在宅ホスピスを求めて」を発表。この中で,かとう内科が全国で初めて有床診療所併設型の緩和ケア施設「並木通り病院」を本年8月に開設することを公表。同病院は,地域医師など150名によるネットワークの拠点,ボランティア組織と連携する患者と家族の自立支援の拠点,大学教育と連携した卒前卒後教育,市民への緩和ケアと「生と死」の教育の場として機能することなどを運営の特色にあげている。橋本氏は,「末期癌在宅ケアを推進していくためには,緩和ケア施設をより地域社会に開かれた存在として病院とは分離して展開する必要がある」と強調した。また,かとう内科で実習を行なった内海亜希子氏(岡山大医学部)は,癌患者の在宅ホスピスに関する演題を発表。癌患者が主治医(専門医)とコミュニケーションを図ることにより,精神的サポートが得られることを述べた。
 一方,中島美知子氏は「在宅ホスピス」中島医院を1995年10月に開院。近隣の医療機関と連携をとっており,医院は24時間対応している。中島氏はこれまでの実績と現状を分析した結果を報告。「スタッフ,ボランティア,訪問看護ステーションとの連携が運営上重要。痛みと症状のコントロール,家族教育,地域医療連携が十分にできれば在宅死は可能」と,在宅でのホスピス医療の今後の可能性を示した。
 また,都内でターミナルケアを実践している鈴木内科医院の鈴木荘一氏は,「家族を含めたデスエデュケーションやチームアプローチ,FAXを利用した医療機関の連携により,地域に根ざした医療の実践ができる」と,その実績から述べた。
 在宅における疼痛緩和,症状コントロールは,鎮痛薬の進歩やそれに付随する簡易型注入ポンプなどの機器類の開発によりますます進むと思われる。一方では,在宅療養を望む患者も増えてきている。今後の末期癌患者の在宅療養の可能性が裏づけられた20年目の研究会であった。