医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

C型肝炎の診療と基礎的知識を1冊に

C型肝炎 林 紀夫,清澤研道 編集

《書 評》矢野右人(国立長崎中央病院・臨床研究部)

 今回,医学書院より,林紀夫先生,清澤研道先生の編集による新刊書『C型肝炎』が発刊された。C型肝炎遺伝子についての最初の発表は1989年であり,その後HCV抗体測定系を用い,臨床応用が可能になって,5年程度しか経過していない。しかし,その後のC型肝炎ウイルスに関する基礎的研究あるいは臨床的研究は素晴らしいスピードで進み,ウイルス側面からの研究の進展ならびに治療という最終的目標が,IFNを用いることにより同時進行してきた。新しい知見が,文字通り日進月歩で積み重ねられてきた結果,今日に至り,効率よい研究のもと,早くも一般臨床で応用される研究成果は一応の目的を達成したと考えてよい。

最新の知見がコンセンサスとして

 この時点で刊行された本書は,最新の知見がほとんどの領域でコンセンサスとしてまとまったものと考えてよい。
 第1章では,C型肝炎ウイルス遺伝子の基礎的事項を中心に,専門的事項まで幅広く解説してあり,ややもするととりつき難い分子生物学をわかりやすく説明してある。第2章では,各種ウイルスマーカーの測定法,さらにウイルスの異変と感染様式など,臨床医にとって理解しなければならない必須項目の解説である。第3章では,C型肝炎の病態として発生機序として考えられる免疫学的側面,さらに最近変化しつつある肝組織像の解説と分類,第4章では,患者のマネージメントを中心としてC型肝炎の臨床像,そして,第5章でIFNを中心とする抗ウイルス療法が含まれている。

臨床医が患者に十分対応できる解説

 本書を通読すると,C型肝炎の臨床病態とマネージメント,そして治療法に重点が置かれ,臨床医が患者と対面した場合,十分に対応できるように解説した内容を包含している。そして,さらに理解度を深めるために,基礎的事項に関し,広く言及してあるのが特徴である。これまでにも,C型肝炎に対する成書,発表論文は多数のものが認められるが,研究の進展によりその変化も著しかった。C型肝炎をグローバルにみた面より,一応の見解に達したと考えられる現在,本書はC型肝炎の診療はもとより基礎的知見を含め,これ1冊でほとんどを網羅し,座右の書として利用価値が高いものと思われる。
(B5・頁306 税込定価11,330円 医学書院刊)


MRIの「ブラックボックス」をわかりやすく解説

MRI「超」講義 アレン・D・エルスター 著/荒木 力 監訳

《書 評》吉川宏起(東大医科研病院・放射線科)  磁気共鳴映像法(magnetic resonance imaging:MRI)ほどその映像法の原理が複雑な画像診断法は少ない。これはMRIがこれまで臨床医学ではなじみの少なかった磁場やラジオ周波数波を用いていることも原因の1つとなっているが,何と言っても撮像法が多種多様で,画像上の白黒,すなわち信号強度の強弱を決定するファクターが多いことが大きな原因となっている。
 これまでの主たる画像診断装置であるX線CTや超音波検査でもその装置の構造や映像法の原理が決してないがしろにされていたわけではないが,その構造や原理をブラックボックスとして扱っても臨床的に大きな問題が生じることが少なかったのは事実である。しかしMRIでは同一の組織や器官,臓器の信号強度が撮像法や撮像パラメータの加減によって変化し,極端な場合には白黒の逆転さえ生じるのである。さらに拍動する液体の信号強度は同一の撮像法やパラメータにおいてさえ種々に変化していくのである。

学生から出た生の質問が基本

 監訳者が序文で述べているように「目からうろことはこのことだ」が原著のすべてを言い当てている。原著の大きな特徴は先に述べたような複雑で理解することがなかなか難しいMRIのブラックボックスについて,質問とその解答(Q&A)方式で微に入り細に入り,わかりやすい模式図や数式を用いた平易な解説がなされていることである。さらにそれら1つ1つの質問が,著者による過去6年間にわたる実際のMRIの物理的原理に関する講義で,生徒たちから出された生の質問を基本にしていることも大きな特徴である。またMRI検査自体の安全性に加えて,MRIで使用される造影剤の原理や安全性,さらには今後臨床に普及していくであろうMRスペクトロスコピーなどについても言及されていることも原著の特徴である。
 本書ではこれら原著の特徴を生かして,MRIの原理について日本の医師をはじめ放射線技師や医学生に紹介するために多くの工夫がなされている。1つは理解されやすい平易な日本語による翻訳に注意が払われている。もう1つは各項目のキーワードはわかりやすく小見出しとして欄外に書き出されている。さらにMRI用語の日本語訳の統一化は進められている最中であるが,本書の中ではこの点に細心の注意が払われ,適当な日本語訳がない場合には訳語とともに原語が併記されているので,翻訳書によく起こる不必要な混乱は避けられている。さらには付録として巻末にMRI用語の略語の名称とその簡単な説明の一覧表が掲載されている。このため本書を辞書がわりに利用することも容易となっている。

複雑な物理学的原理を基本から

 MR画像に接してはいるが,多くの疑問に悶々とされている医師や放射線技師の方々にとって,またこれからMRIについて学ぼうとしている医師や医学生にとっては,まさに肝にして要を得た質問とそのわかりやすい解説に本書の中で数多く遭遇することであろう。実際,私も医学部の学生のMRIについてのいくつかの講義を受け持っているが,そのブラックボックスの解説に苦労しているし,また自分では理解しているつもりでも,学生からの唐突な鋭い質問や素朴な質問から自分の理解の浅さを痛感することも多く経験している。とくに物理学的原理についての解説には相当苦労しているが,本書では数式と図を用いてMRIで使われている物理現象や化学現象を,基本的な内容から話を進めることで理解されやすいよう工夫が施されている点が印象的である。
 MRIの領域では現時点においても新しい複雑な撮像法が生まれ出ているように,今なお新しいハードウェアやソフトウェアが開発されつつある。したがって,現在そしてこれからMRIに携わっていく方々にとっても,MRIそのものとそこに用いられている物理,化学現象の基本の理解は今なお必要とされている。このような状況下で,本書の題名にもあるようにMRIの「超」講義が授けられることはわれわれにとって大きな喜びである。原著のアレン・D・エルスター先生と本書の監訳をなさった荒木力先生に深く感謝の意を表する。
(B5・256頁 税込定価5,356円 医学書院MYW刊)