医学界新聞

「臨床研修の評価および修了認定等に関する研究報告書 」発表


 医師の臨床研修に関しては,これまで「医療関係者審議会臨床研修部会」などで検討され,その問題点の1つとして,研修施設,指導体制,プログラムおよび研修内容などに格差のあることがあげられていた。またこれらを解決するためにも臨床研修評価の確立が求められていたが,今回,「臨床研修の評価および修了認定等に関する研究班(主任研究者=慈恵医大 橋本信也氏,研究協力者=東京第二病院 青木誠,天理よろづ病院 今中孝信,川崎市立病院 入交昭一郎,東大 加我君孝,済生会中央病院 北原光夫,東海大 黒川清,東女医大 神津忠彦,川崎医大 津田司,日赤武蔵野女子短大 畑尾正彦,京大 福井次矢の各氏;50音順)」の報告書が厚生省から発表された。
 同報告書は「この評価システムは現在,医療関係者審議会臨床研修部会において検討されている臨床研修必修化の有無に関わらず可能なもの」であり,「本研究班が検討した“評価”の中には,評価の対象として研修施設,プログラム,指導医および評価の主体として,国(厚生省),第三者機関,研修病院内の研修委員会,指導医などが含まれ,これらを一体として,臨床研修の質を向上させるための評価システムが構築されることを望む」としている。報告書の概要は以下の通り。

1.臨床研修における評価の位置づけ

 現行の臨床研修病院指定基準(大学附属病院は対象とならない)にも 「評価 」の記載はあるが,評価の対象,目的,時期および方法について具体的な指針は明記されていない。臨床研修の充実改善を図るためには, 「評価 」をさらに重要なものとして位置づけ,次のことを念頭に置くべきである。
(a)公表されたプログラムの中で 「評価 」の位置づけを明記する。
(b)研修責任者および研修委員会は,プログラムの円滑な運営と改善に努めるが,その一環として 「評価 」が十分に機能しているか否かをチェックする。
(c)評価の時期についても考慮する。研修医の評価に際して,指導医は形成的評価も重視する。各診療科修了時には適切な総括的評価を行なう。
(d)2年間の臨床研修のすべてを終了した時に総括的評価を行ない,修了と判定された者には修了証明書が交付される。

 これに基づいて適切な評価を行なう場合,次の事項については具体的な基準やガイドラインを定め,周知徹底する。
(1)臨床研修病院指定基準
(2)プログラムに記載すべき事項および審査基準
(3)プログラム自己評価表
(4)指導医評価表
(5)研修医評価ガイドライン
(6)研修医手帳に記載すべき事項
(7)研修委員会が保持すべき研修指導記録

2.臨床研修病院および研修プログラムに対する評価

(1)評価の基準
 臨床研修病院の施設としての基準である臨床研修指定基準については見直しの必要性が指摘されているが,本研究班ではこの問題は扱わない。研修プログラムについては,従来から臨床研修病院指定基準の一部として,研修プログラムに記載すべき事項があげられているが,完全なものとはいえない。また,すでに「臨床研修モデルプログラム作成等検討委員会報告書(平成5年)」,「臨床研修プログラム自己評価方法等検討委員会報告書(平成6年)」(いずれも医学教育振興財団)が作成され,臨床研修プログラム作成者の手引きとして活用されてきた。本研究班では,プログラムに基づく臨床研修を今後一層発展させるために,他者によるプログラム評価を導入する必要があると考え,研修プログラムに必須と思われる事項を整理した。(略)
(2)臨床研修病院新規指定時の評価
 新規指定時の審査については,医療関係者審議会臨床研修部会の意見をもとに,厚生大臣が指定を行なうという現在の枠組みの変更は必ずしも必要でない。しかし,審査の内容をより公平にかつきめ細かなものとするためには,前記の研修プログラムの評価基準の導入,および後述する第三者機関の関与が必要と考える。
(3)フォローアップ
 研修内容の実質的な改善を図るためには,新規指定時に承認されたプログラムが着実に実行され,また臨床研修病院としての機能が維持されているかを定期的に評価する必要がある。しかも,プログラムを常時点検し,不適切な点があれば改善するという取り組みを続けることが重要である。
 このような活動は,臨床研修病院の自主的な努力のみに任せず,わが国の臨床研修全体に関わる問題として捉え,支援する仕組みを作ることが重要である。このフォローアップの具体的な方法とその効果については,様々な考え方があるが,本研究班は他者による評価をフォローアップの基本とするべきであると考える。後述する第三者機関が中心となって定期的に書面および実地による調査を行ない,その結果が著しく不良,あるいは再三の勧告にもかわわらず,状況が改善されないような臨床研修病院については,指定取り消しを含めた対応がなされるような仕組みが望ましい。

3.第三者機関

 既述のように,新規指定時の審査は医療関係者審議会臨床研修部会および厚生省で行なわれている。しかし,臨床研修の改善,充実を図るためには,行政的規制を強化するよりも,むしろ臨床研修病院など関係者の自主的な取り組みを進めることが望ましい。今後,新規指定を希望する病院の増加が予想され,さらに前述のフォローアップ体制を充実させるにあたり,業務量も必然的に増大する。また諸外国の例をみてもイギリス,アメリカ,カナダにおいては,医師の専門職としての社会的使命に基づく自立的な非政府組織が,臨床研修の質の向上に大きな役割を果している。
 以上を勘案すると,わが国においても学術団体,大学,行政等の代表で構成する第三者機関を設置し,これが厚生大臣の委託を受けて,臨床研修病院新規指定時の審査(立ち入り調査を含む)および既指定病院の定期的フォローアップや改善指導を行なうことが望ましいと考えられる。また,プログラム・ディレクトリを作成するなどの情報提供を行なうことも望ましい。
 第三者機関自体は許認可権限を持たないが,その調査結果は厚生大臣および医療関係者審議会臨床研修部会に報告され,審査の重要資料として扱われる必要がある。例えば,第三者機関が不適切と判断した施設は臨床研修病院の指定を受けられない,あるいは再三の勧告に関わらず研修内容の改善されない施設は指定を取り消す対象となる,などの仕組みが必要である。

4.指導医の資格および評価

(1)指導医の資格
 臨床研修の指導医については,現行の臨床研修指定基準では経験年数,学会認定医保有などの条件が示されている。この基準には,2つの問題があると考えられる。
(1)指導医については数や診療歴のみが研修病院指定にあたっての対象となっているが,リストアップされた指導医が実際に研修医の指導を行なうのかどうか等,臨床研修においてどのような責任を果たすのかが不明確である。
(2)経験年数と学会認定医ということは,臨床医としての知識・技能のみを論じている。指導医には,同時に教育者としての見識が求められる。しかし,医師の教育活動に対する社会的評価が低く,教育技法の重要性が十分認識されていない現状では,個々の指導医に教育者としての教育歴や資格を求めるのはまだ時期尚早である。
 こうした問題点を解決するために,施設基準とプログラム基準の整合性を図ることが必要であり,単に指導医数の記載だけでなく,各指導医の研修指導における役割を明記するようにする。また,各施設において臨床医としての知識・技能・態度のみならず,教育者としての資質を備えた医師を指導医として選任すべきである。さらに「医学教育者のためのワークショップ」や「臨床研修指導医養成講習会」の受講者による院内ミニワークショップの開催など教育技法の研修機会を積極的に設け,指導医の質の向上のために,施設内の体制作りを進めることが必要である。そして将来的には,教育者としての側面に着目した指導医の資格認定の仕組みも考慮すべきである。
 なお,各施設において指定基準を越える要件を指導医の資格として,独自に定める場合にはプログラムを明記する。
(2)指導医に対する評価
 指導医に対する評価は,臨床研修の充実のためには不可欠である。この評価は研修責任者などの上級医と,直接指導を受けた研修医から行なわれるのが適当で,評価者の責任を明確にすることは評価の質を高めるために必要であるから,研修医による指導医評価表は記名とし,臨床医としての知識・技能・態度と,教育者としての指導内容・方法・熱意などを評価の対象とする。

5.研修医の評価

(1)日常研修における評価(評価のシステムと評価機関)
 従来から,研修の場においては日常的に指導医による研修医の評価,指導医間での研修医の目標達成状況,指導方針等についての意見交換が随時行なわれているが,これを系統的にかつ公的に行なうために,臨床研修病院内に評価のシステムとそれを遂行する組織を確立することが必要である。そのためには研修委員会,またはその下部組織に研修医評価の機能を付与する。この委員会は,少なくとも3か月に1回程度開催することとし,各科指導医などから報告される研修医の状況について検討し,研修内容の調整などを行なう必要がある。特に,ローテート研修では各診療科終了時など研修の節目ごとに,研修医の臨床的知識・技能の状況,行動・態度・意欲などの状況,経験した症例などについて文書による記録を残す必要がある。
(2)修了認定
 臨床研修において,目標とする知識・技能・態度を習得したか否かを判定する方法として,全国規模で各研修医に対して経験記録の提出,筆記試験(MCQ等)や実技試験(OSCE等)等に基づく審査を行なうことが考えられ,現に各学会が行なう専門医等の認定には試験が採用されている。また,アメリカ,カナダでは一定期間の研修修了後に試験により,医師免許を与えている。しかし,試験実施のためには,また別の問題も新たに生じることが考えられるので,現段階では研修修了試験の実施には慎重にならざるを得ない。
 そこで本研究班では修了認定は,基本的にはプログラムの責任において行なわれるべきであると考える。研修医が所定の研修課程を修了した時,研修委員会は修了認定の可否について判断を行なう。ここで修了と判断された者には,必ず研修責任者(病院長)から修了証明書が交付されることが必要である。現状では,施設によって修了認定のレベルに差が生じることが懸念されるので,先に述べたようなシステムにより,評価体制を含めたプログラムの質が第三者機関によって保証されていることが必要となる。しかし念のために付け加えれば,第三者機関は施設の体制の評価を行なうが,個々の研修医の修了認定には関与せず,個々の研修医の修了認定は研修責任者(病院長)に委ねる。
 また,研修態度不良などで研修の継続が困難な研修医に対する対応や処罰規定が適切に定められ,運用されていることを前提にすれば,研修期間の途中での解雇や研修課程の修了を認定しないことを,病院長の責任において可能とするのは適当である。さらに,やむをえない事情によってプログラムの移動を希望する研修医に対しては,移動前プログラムの評価資料をもとに移動後プログラムの相当部分を修了しているとみなすことを可能とするのが適当である。

6.研修記録

 研修プログラムを確実に実行し,合わせて研修医の評価を適切に行なうために,研修に関する記録を作成する必要がある。
(1)研修医手帳
 研修医手帳は,施設としての研修プログラムが個々の研修医にどのように運用されているかを示すとともに,研修医がどのように研修を進めて達成したのかの記録となるものである。研修医手帳には,以下の事項が記載される必要がある。なお,施設としての研修プログラムは予め各研修医に周知されていることを前提としている。
(1)個人ごとの研修期間割りと各科における指導医氏名
(2)臨床的知識・技能および意欲,態度,行動などに関する研修目標達成状況
●自己評価の記録(ローテーション終了ごと,または3か月ごと)
(3)経験記録
●受け持ち患者の退院サマリーおよび症例リスト
●担当した外来・救急患者の記録
●実施に関わった手技・検査の記録
●手術患者の記録
●剖検の記録
(4)教育事業への参加記録
●教育事業における発表,報告の記録
(5)前項(2)-(4)についての指導医の評価
(2)施設の保有する研修記録
 施設においても,研修が適切に運営されたこと,研修医が適切に評価されたことを示す記録がなければならない。
(1)研修委員会名簿および議事録
(2)研修医個人ごとの研修期間割りと各科における指導医氏名
(3)ローテーション終了時または3か月ごとの研修医による評価資料
(4)研修期間終了時,修了認定に関する記録

(以上)