第2202号 1996年8月5日


「分化と連携」をテーマに

第21回日本外科系連合学会開催



 第21回日本外科系連合学会が,冲永功太会長(帝京大教授)のもとで,さる6月19-21日,東京のホテルセンチュリーハイアットにおいて開催された。外科系に限っても専門化・細分化が進んでいる現在,「“分化”された現実を受け入れてそれぞれの領分を活かしながら,互いによく“連携”することによって一層の飛躍ができるものと考えた」との冲永会長の意図から,今回のテーマは「分化と連携」。会議は,招待講演6題,特別講演2題,シンポジウム16題,ワークショップ21題,ビデオシンポジウム7題,ラウンドテーブルディスカッション3題,International session4題の他,ビデオセッション,フィルムライブラリーなど一般演題200題を含めて630題にのぼる多彩な学術発表が行なわれた。
 本号では,会議の中からいくつかの話題を拾ってみた。


多科共同手術("co‐work" surgery)の現状と問題点

 きわめて多岐な領域にわたるこの学会の特徴と,今回のテーマでもある「分化と連携」を反映させて,シンポジウム「多科共同手術("co-work" surgery)の現状と問題点」(司会=兵庫医大 豊坂昭弘氏,東邦大 炭山嘉伸氏)では,近年増加しつつある多科による共同手術が検討された。

患者・家族への説明と他科領域への理解を

 まず八杉巧氏(愛媛大)は,3年間の他科との共同手術症例のうち,八杉氏の科が参助した31例(産婦人科16例,整形外科6例,泌尿器科6例,耳鼻咽喉科2例),また他科の援助を仰いだ11例(形成外科4例,産婦人科3例,泌尿器科2例,耳鼻咽喉科1例,口腔外科1例)を検討。その結果,救命率・切除率・予後などは確実に向上し,予定手術においては各科が合同で入念に術前検討して双方の立場から患者・家族への説明も十分に行なえた。また,緊急手術や不測の事態にもより迅速に対応でき,「手術成績の向上,手術適応の拡大や高度な医療を行なうためには他科との共同手術を推進すべき」と報告した。
 一方橋本哲夫氏(金沢大)は,(1)依頼手術症例(他科に入院中に手術し,術前後は主に他科で管理),(2)共同手術症例(他科で手術する際に対象疾患を手術し他科との共同で術前後を管理),(3)狭義の共同手術症例(手術時には複数の科が共同で手術し,術前後ともに他科と共同で管理)に分けて分析。問題点として「いずれの群も術前に患者に対する十分な説明と同意が必要で,他科領域の疾患・治療に対する十分な理解と協力が必要である」と指摘した。
 耳鼻咽喉科との共同による咽喉・食道癌の切除・再建術については土生秀作氏(兵庫医大)と梅本敬夫氏(岐阜大)が報告。土生氏は,数多くのメリットは認められるものの,中に咽頭-胃管間の遊離空腸移植が必要になった症例での,血管吻合も含めて大幅な手術時間の延長や余剰な手術侵襲を与える結果となった例もみられたことから,「より入念な術前共同検討ならびに迅速な術中対応が必要で,共同手術は手術適応の拡大,より質の高い医療が可能となるが,そのためには各科の相互の理解,チームワークが重要」と指摘。また,泌尿器科との共同による上腹部手術を検討した杉浦芳章氏(防衛医大)は,「共同科で適応・術式を検討し,難症例に対してもできるだけ根治術を行なうべきである」と述べた。

他施設との共同による移植と脳外科・産婦人科との共同手術

 次いで,大浜用克氏(神奈川県立こども医療センター)は,異なった施設が協力し合って生体部分肝移植を行なうKanagawa Liver Transplantationの包括医療の現状を報告。このシステムは,ドナー手術とレシピエント手術をそれぞれ異なった施設で分担し,肝グラフトを搬送する方法をとるが,大浜氏は「3例の先天性肝道閉鎖症例に対して生体部分肝移植を行ない,すべて成功した」と報告した。
 心臓外科と脳外科との共同手術に関しては,岡林均氏(小倉記念病院)が“頭蓋外脳血管病変を合併する冠動脈バイパス術症例”の手術成績,周術期の問題点,合併症について検討を加え,「手術死亡,入院死亡はともに認められず,この症例に対して脳外科と協力して積極的に同時手術を施行することは,周術期における脳血管障害の発生を防ぐためには効果的である」と強調。また,寺内文敏氏(東邦大)は原発性および転移性卵巣癌における産婦人科との共同手術について述べた。

手術適応の拡大,QOL,保険制度

 また,麻酔科の立場からは,菊田好則氏(帝京大)が第1の問題点として“長時間手術に伴う長時間麻酔”を指摘し,それに伴う神経麻痺・褥瘡・体温低下への対策は,交代の時間的損失を最小限にし,体位固定・体温保持に注意することを指摘。また“大きな侵襲,多量の出血”を第2の問題点とし,「術前から当該科を中心に計画を練り,麻酔科も含めた症例に対する情報の交換が大切である」と述べた。さらに,フロアとの討議の後には司会の豊坂氏が「多科共同手術の共通した問題点は,(1)手術適応の拡大,(2)QOL,(3)保険制度である」とまとめてシポジウムを締めくくった。

シンポ「輸血後GVHDの現状と対策」

 わが国では輸血後GVHD(移植片対宿主病)は輸血による急性死亡の最大原因であるが,シンポジウム「輸血後GVHDの現状と対策」(司会=日赤中央血液センター十字猛夫氏,東大 柴田洋一氏)では,輸血後GVHDが取り上げられた。

「マイクロサテライト多型」を用いた診断とその臨床像

 まず,日赤中央血液センターから内田茂治氏が輸血後GVHDの診断を,続いて田所憲治氏がその臨床像と発生状況を報告した。 内田氏は臨床経過からは診断が困難な発症初期や非典型例の輸血後GVHDの確定診断検査法として,マイクロサテライト多型を指標とした検査法を開発。この方法は,輸血前に患者から採取した患者本来のDNAと,輸血後GVHDが疑われてからの末梢血DNAを,5種類の高多型マイクロサテライト特異的プライマーにより増幅し,ポリアクリルアミド電気泳動によりその移動度を比較するもので,内田氏は,「通常の検査では約8時間で結果を出せることや,ホルマリン固定臓器やパラフィンブロック片からも検査ができることから輸血後GVHDの確定診断検査法として有益である」と述べた。また,この方法で平成5年から111例の検査を行ない,30例の確診例を得た田所氏は,「これらの症例について検討を加えたところ,ほぼ全例において発熱,紅斑,肝機能障害等の症状が見られ,大多数が30日以内に死亡することがわかった」と指摘した。

病態,治療,予防

 病態に関しては,早川智氏(日大)がサイトカイン発現とTCR(T-cell Receptor)レパトアの解析を試みた後,小林英司氏(自治医大)が,輸血後GVHDの重要な因子であるホスト側の免疫能状態との関係について所見を述べた。小林氏の報告によれば,(1)臨床例の検討では,ホルモン系の変化よりサイトカイン(IL-6,IL-10)が手術侵襲度によく反映するとともに,末梢リンパ球の低下(アポトーシス)率は侵襲度に対応し,(2)開腹,開胸でもGVHD発生率は上昇するが,臓器阻血の加える操作で最も著しく,(3)エンドトキシン上昇がGVHD症状の増悪を助長している。また,小林氏は「周術期の輸血後GVHDに関しては,ドナーのリンパ球の活性化もさることながら,ホスト側の免疫機能の変化-サイトカインのdisregulationが重要であることを強調したい」と述べた。
 安川正貴氏(愛媛大)は,免疫不全を認めなかった妊婦に発症した輸血後GVHDを,OKT3とシクロスポリンAを併用し治療した症例を報告し,輸血後GVHDの治療の可能性を論じた。
 続いて対策と予防については高橋孝喜氏(虎の門病院)が,自己血輸血による同種血輸血の回避と,輸血血液に対する1500cGY以上の事前放射線照射の有効性を指摘。前者は他の輸血副作用も防ぎ得る有用な方法だが,やむを得ず同種血輸血が必要な場合は,リスクの高い新鮮血や患者とHLA(組織適合抗原)が近似した血縁者などの組み合わせを回避するべき。高橋氏は,「手術例で特に新鮮な同種血輸血を使用する際の放射線照射と待機手術例における自己血輸血の推進が重要で,その前提として臨床医が病態を正しく理解し,同種血輸血の有用性と危険性を正しく認識することが肝要」と述べ,自己血輸血の推進には,輸血血液の検査,放射線照射,自己血採血,保管など一括して管理する輸血部門の整備や,コンセンサスを得るための委員会の設置など輸血システムの見直しが必要であると強調した。