医学界新聞

「医学から医療への展開」をテーマに

第47回日本消化器外科学会開催



 第47回日本消化器外科学会が安富正幸会長(近大教授)のもと,さる2月22-23日, 大阪市のアジア太平洋トレードセンターにおいて開催された。
 今回のテーマは「医学から医療への展開」。会議は,海外からの3氏の招聘者を含めた招待講演 10題の他,4題のシンポジウム(高齢者癌手術における拡大切除の限界,消化器癌におけるインフォーム ド・コンセントの実際,異時性多発癌のサーベイランスと対策,分子生物学の消化器外科への臨床応用), 4題のパネルディスカッション(Survival benefitからみた転移性肝癌の治療,大規模災害における消化器外 科,合併症を有する患者の食道癌手術の限界とその対策,機能温存胃癌手術),3題のワークショップ (腹腔鏡下手術のpitfall-胆道・消化管,新しい腫瘍関連抗原の消化器外科臨床への寄与,保険医療下の 消化器外科が直面する諸問題と対策),および6題のビデオシンポジウムが開かれた。
 本号では,シンポジウム「分子生物学の消化器外科への臨床応用」からいくつかの話題を拾って みた。


分子生物学の消化器外科への臨床応用

 分子生物学の研究の進歩により,発癌機構が次第に明らかにされ,癌は遺伝子異常の蓄積による疾患, つまり遺伝子病であるという認識が定着し,臨床の場の対応に変化が生じていることは周知の事実である。 これを反映して,シンポジウム 「分子生物学の消化器外科への臨床応用」(司会=浜松医大教授 馬塲 昭三氏,熊本大教授 小川道雄氏)では11演題が発表され,活発な討議・質疑が展開された。

術前悪性度評価・予後評価・発癌リスク評価

 中村光成氏(佐賀医大)は術前に得た生検材料を使って,増殖関連因子・浸潤関連因子・血管新生関 連因子・免疫抑制関連因子・癌関連因子などの生物学的悪性度因子mRNA発現を解析して,胃癌の術前悪 性度評価の可能性を検討。「RT-PCR法によって得た微小生検材料から生物学的悪性度因子mRNA発現 を解析することは十分可能で,これらの組み合わせによって術後病理学的診断に匹敵する術前悪性度評価 の可能性も期待される」と指摘した。
 肝細胞癌の分子生物学的予後評価について横井一氏(三重大)は,染色体欠失や癌転移抑制遺伝 子nm23H1や転移との関連が注目されているCAR遺伝子やEC遺伝子は,腫瘍の進展や悪性度を反映し,予 後評価にも有用で,特に16q染色体における遺伝子異常が肝癌の進行度へ深く関与することを示唆した。 冨田尚裕氏(阪大)は,DNA複製系の異常から発癌リスクを評価し,DNA複製系の異常は一般の胃癌, 大腸癌の15~30%に認められたが,HNPCC(hereditary non‐polyposis colorectal cancer)症例や重複癌にお ける頻度が高く,発癌素因との関連が考えられると報告。また,その標的の1つとしてTGFβ-RII遺伝子 の変異が重要であり,腫瘍性病変のRER(replication error)の解析によって発癌リスクの評価や術後の予 後評価が可能であることを指摘した。

消化器癌の浸潤・転移

 今野弘之氏(浜松医大)は,消化器癌におけるPA(plasminogen activator)の意義について,その浸潤 や転移にはuPA(urokinase PA),tPA(tissue typePA),PAI(PA inhibitor)-1が促進的に働き,PAI-2 が抑制的に働くことと,PAI-2投与による治療の可能性を述べた。また,細胞間接着因子ECD(E型カド ヘニン)とCAT(βカテニン)の発現性から食道癌の予後と治療法を検討した田村茂行氏(阪大)は, ECDの発現性の評価は予後因子として,特に血行性再発の予測因子として有用であり,さらに,表在癌に おけるECDとCATの同時評価はm3やsm1癌に対するEMR(内視鏡的粘膜切除術)の適応決定の一指標に なり得ることを指摘。次いで有井滋樹氏(京大)は,消化器癌の浸潤・転移に関する分子機構における血 管新生因子と細胞外マトリックス分解酵素の相関を解析。大腸癌や肝癌では血管新生因子VEGF,bFGEお よびマトリックス分解酵素MMP-9,MT-MMPが浸潤・転移に関与していることから,これを抑制する ためにRCR(MMPs活性阻害剤)の臨床応用への期待を指摘した。

特異的腫瘍関連抗原・免疫療法遺伝子治療

 澤田鉄二氏(阪市大)は,キメラNd2(キメラ化モノクローナル抗体Nd2)による膵癌の画像診断と 治療応用について検討を加え,キメラNd2はマウスNd2と同様に強い膵癌特異性,腫瘍集積性を保持して おり,111In標識Nd2による臨床膵癌の免疫画像診断は高い感受性を示すことから,膵癌の局在および質的 診断に有用であることを示唆。赤木純児氏(熊本大)は,膜タンパクMUC-1に対してrVMUC1 (recombinant vaccinia virus)を作製し,MUC-1特異的CTL(cytotoxic T cell)の誘導とMUC-1特異的抗 腫瘍効果を検討した結果,rVMUC1の免疫によってMUC-1(DF-3epitope)を発現している腫瘍に対し て顕著な腫瘍抑制効果が認められ,これはMUC-1特異的CTLによるものと考えられる,と報告した。
 遺伝子治療に関しては,松原久裕氏(千葉大)がサイトカイン遺伝子による免疫療法,VDEPT (virus directed enzyme/prodrug therapy),癌抑制遺伝子療法などのアプローチが食道癌に対して有用であ ること,また小川誠之氏(岡山大)が大腸癌に対してはp53遺伝子発現アデノウイルスとDNA障害性抗癌 剤を用いた遺伝子治療が応用可能であることを示唆した。