総合診療 Vol.33 No.7
2023年 07月号

ISSN 2188-8051
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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広すぎる「安全ネット」を安全に狭めるための“消去法”
青木洋介(佐賀大学医学部附属病院 感染制御部)

 1981年、208名の判事を被験者として16件の仮想犯罪事例それぞれに量刑を下す研究が、米国で行われました1)。すると、たとえば、全判事の平均刑期「8.5年」の事例の最長刑期は「終身刑」、あるいは同「1.1年」の最長刑期は「15年」と、かなりのバラつき──ノイズ──があることが判明し、特定の犯罪に固有の量刑の範囲が定められることになりました。このようなことを背景に生まれたのが「ガイドライン」です。
 「診療ガイドライン」も、医師間の診療方針のバラつきをなくし、医療の焦点をゆるやかに絞ることを目的とした診療支援ツールです。しかし、“唯一の真実”というわけではありません。一定方向に偏移すると、ノイズが低減される代わりに「バイアス(≒偏重)」が生じます。
 抗菌薬適正使用に関しても各種指針・指標がありますが、取りこぼしがないように「安全ネット」が広めに張られている部分もあります。すべての事例を網羅して文章化することは困難なため、これは仕方のないことですが、ガイドラインには書き切れない部分については、「安全ネット」を安全に狭めようとする工夫も必要です。
 抗菌薬の場合、投与自体が「ネットを張る作業」に似る場合もあり、また、その抗菌スペクトルが「ネットの広さ」に相当します。一般に広いほど安全ですが、広さに比例した「耐性化」の弊害も生じます(p.772)。後方視的解釈になりますが、これは安全ネットの「不要な広さ」が原因です。現在利用できる抗菌薬の特性上、これをゼロにすることはできませんが、可能なかぎりネットを狭めることができる余地はあるのではないでしょうか。
 本特集では、それを“消去法”のクイズとして表現し、日常診療における抗菌薬選択のセオリーから一歩前進することを目的としています。セオリーの再考に努めることが、医療の進歩にも必要です。「リスクを冒せない」という懸念はありますが、一塁ベースから離れ、リードするリスクをとらないと二盗(進歩)ができないように、100%の安全追求には進歩を阻む弊害が付随します。リスクヘッジを確認しながら進歩に取り組むことが、「抗菌薬適正使用」にさらなる質向上をもたらすと考えます。本特集が読者のみなさんのお役に立つことができれば幸いです。また、いくぶん難しい課題にもかかわらず、各稿をご執筆いただいた先生方に、企画者として心から御礼申し上げます。

文献
1) Kahneman D, et al : Noise. A Flaw in Human Judgement. Little, Brown Spark, 2021.

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医書.jpにて、収録内容の記事単位で購入することも可能です。
価格については医書.jpをご覧ください。

特集 “消去法”で考え直す「抗菌薬選択」のセオリー ──広域に考え、狭域に始める

■総論
抗菌薬適正使用の実践に必要な「基本」──理論と行動科学
青木洋介

■[抗菌薬選択クイズI] “消去法”で絞り込む抗菌薬選択
①頭頸部感染症(鼻副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎)
伊藤 渉│笠原 敬

②肺炎(気道感染症)
青木洋介

③胆道感染症
畑 啓昭│末永尚浩

④尿路感染症
髙橋 聡

⑤皮膚・軟部組織感染症
石田景子│荒岡秀樹

⑥腸管感染症
中村(内山)ふくみ

⑦眼科感染症
佐々木香る

⑧小児感染症
石和田稔彦

■[抗菌薬選択クイズII] 緊急を要する感染症の初期抗菌薬選択
①「中枢神経感染症」を疑う患者
加藤英明

②「敗血症・敗血症性ショック」の初期治療
石井潤貴│志馬伸朗

■[抗菌薬選択クイズIII] スキルアップ! 抗菌薬の要否と選択
①「一次検査所見」を抗菌薬要否の判断に役立てる
濵田洋平

②「フォーカス不明」の感染症の抗菌薬の要否と選択
的野多加志

今月のQuestions
今月の「めざせ!総合診療専門医!」問題


●Editorial
広すぎる「安全ネット」を安全に狭めるための“消去法”
青木洋介

●What's your diagnosis?|247
理由に口無し
松島弘季|佐田竜一

●アスクレピオスの杖|想い出の診療録|39
闇の中
金城光代

●ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学|4
「異状死の届出」と「死因の種類」の関係
森田沙斗武

●オール沖縄! カンファレンス Ver.2.0|レジデントの対応と指導医の考え|78
突然の上気道閉塞! 正しい対応は?
安次嶺 裕|清水徹郎|徳田安春(監修)

●対談|医のアートを求めて|3
医療×育児・教育──不安定な大激動時代を生き抜くための教育とは?
高濱正伸|平島 修

●臨床教育お悩み相談室|どうする!?サロン|7
The 細かすぎて伝わらない指導医
木村武司|佐田竜一|長野広之

●Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!|医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?|40
鼻をかむことの弊害
上田剛士

●臨床医のためのライフハック|限りある時間を有効に使う仕事術|4
勉強法──自分の価値を高める「アウトプット主体」の勉強法
中島 啓

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