総合診療 Vol.32 No.11
2022年 11月号

ISSN 2188-8051
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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本当にmedically unexplained?

片岡仁美(岡山大学病院 総合内科・総合診療科)

 「不定愁訴」という言葉が好きではなかった。「いろいろと訴えが多い(…大変だ)」といったニュアンスが、どことなく含まれている気がするからである。「不定愁訴」というラベルを貼った時点で、実は隠れているかもしれない器質的疾患を明らかにする可能性を自ら閉じてしまうような気がして、私自身は不定愁訴という言葉は使ってこなかった。自分への戒め、といった気持ちであった。そのことは、多くの診断がつかない患者さんが「どこへ行っても異常がないと言われた」「気のせい、年のせいと言われた」「でも本当に症状があるんです。つらいんです」と時には泣きながら訴えられるのを、大学病院で何度も目にしてきたことも影響していると思われる。
 最近では「MUS(medically unexplained symptoms)」という概念も浸透してきたが、これについても明確な診断基準はなく、他の病態との重なりもある概念である。なかでも「機能性身体症候群(functional somatic syndromes:FSS)」は、特に重要な概念である。本特集を企画している時にちょうど発表された西山順滋先生の論文1)は、まさに自分が言語化したかったことが綿密なデータで示されたもので、膝を打つ思いで今回の総論(p.1300)をご執筆いただいた次第である。FSSを明確に診断することによって、混沌として見えるMUSの中に、一連の共通性をもった疾患群が浮かび上がるように思われる。FSSの疾患群は互いに合併することも多く、「中枢性感作症候群(central sensitization syndromes:CSS)」の概念とも重なることから、共通のメカニズムを有している可能性があるのではないかと感じる。MUSを少しでも可視化できたらという思いで、岡田宏基先生(宇多津病院 心療内科、p.1328)が提唱された概念図を、岡田先生とともにアップデートして掲載させていただいた(p.1298)。
 また、従来FSSに含まれ、具体的な病名がつかなかったような病態にも、明確な臨床診断基準が提唱され、biologicalな解明が進んできたものもある(p.1298)。MUSの概念は定期的に見直され、アップデートされることが必須であろう。本特集はあくまで2022年時点での考え方の整理であり、将来的にさらなる解明が進めば変化していく概念であると考える。私たちは、「本当に不定愁訴なのか?」「本当にmedically unexplainedなのか?」ということを常に自身に問いかけながら、1人1人の声に耳を傾ける必要があり、それは“自分との戦い”(p.1307)なのでもあろう。一方で、「disease」を突き詰めすぎると、「illness」の視点や「精神疾患」として対処すべき見方から離れていく懸念もあり、本特集では「患者のwell-being」という視点(p.1304)や、「身体症状症」(p.1358〜)についても深めることができるご執筆もいただいた。
 MUSは、コモンでありながら未知な部分が残されている、可能性に満ちた領域である。本特集が、日々の“MUS”診療に少しでもお役に立つことができたら幸いである。

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価格については医書.jpをご覧ください。

特集 不定愁訴にしない“MUS”診療──病態からマネジメントまで

■総論
①ひと目でわかるMUS
片岡仁美

②MUSの概念──それは本当にMUSなのか?
西山順滋

③MUSの診方──診断・治療から「患者のwell-being」へ
加藤光樹

④MUSと器質的疾患──“自分との戦い”:自分を制御する技法
國松淳和

■各論I 「症状」から診るMUS Q&A
①倦怠感──鑑別のポイントは? 病的な倦怠感とは?
片岡仁美

②慢性疼痛──どんな評価で鑑別するか? 専門家へのコンサルが必要なのは?
鉄永倫子│鉄永智紀

③めまい・ふらつき──慢性めまいは心因性? 見落としてはならない疾患は?
鋪野紀好

④胃腸症状──内視鏡や画像検査で診断できない疾患群は? その鑑別のポイントは?
笹平百世│三澤 拓│塩谷昭子

⑤頭痛──一次性頭痛の鑑別のポイントは? 稀な一次性頭痛は?
伊藤康男│荒木信夫

⑥動悸・胸痛──診断の進め方のポイントは?
樗木晶子

⑦息切れ──診断・鑑別のポイントは?
岡田宏基

■各論II 「FSS」の病態とマネジメント Caseつき
①機能性身体症候群(FSS)とは
村上正人

②筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)
佐藤元紀│伴 信太郎

③線維筋痛症
松本美富士

④過敏性腸症候群(IBS)/機能性ディスペプシア(FD)
三澤 拓│笹平百世│塩谷昭子

⑤筋・筋膜性疼痛症候群
鉄永倫子│鉄永智紀

⑥レストレスレッグス症候群/周期性四肢運動障害
中村真樹

⑦PTSD
加茂登志子

⑧化学物質過敏症
坂部 貢

■各論III 「身体症状症」を見定める
①身体症状症の診断・治療──原因不明の身体症状に“伴走”する
太田大介

②原因不明の身体症状について精神科医が総合診療医に伝えたいこと
宮岡 等

■コラム
①COVID-19罹患後症状とMUS
大塚勇輝│徳増一樹│大塚文男

②マインドフルネス
佐渡充洋

③総合診療医のMUS診療トレーニングプログラム
太田大介

今月のQuestions
今月の「めざせ!総合診療専門医!」問題


●Editorial
本当にmedically unexplained?
片岡仁美

●What’s your diagnosis?|239
秋のマナー
猪飼浩樹|村井由香里|岩崎慶太|滝澤直歩|山本真理|国領和佳|渡邉剛史|藤田芳郎

●アスクレピオスの杖|想い出の診療録|31
君といつまでも
松村真司

●オール沖縄! カンファレンス Ver.2.0|レジデントの対応と指導医の考え|70
見逃していませんか、その貧血
長嶺さつき|上間貴仁|知花なおみ|徳田安春(監修)

●Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!|医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?|32
発酵食品は身体に良いですか?
上田剛士

●フィジカル・ラウンド・オンライン|6|最終回
嵐の前の静けさ
河野 勲|矢吹 拓|平島 修

●効率も質も高める超・時短術|高齢者診療スピードアップ塾|11
その業務、「タスク・シフト」で30分時短せよ!
増井伸高

●臨床小説|後悔しない医者|今と未来をつなぐもの|31
よくならない患者を診る医者
國松淳和

●投稿 GM Clinical Pictures
考えど考えど診断は浮かび難し。じっと手を見る。
若林崇雄|スフィ・ノルハニ|石立尚路|須藤大智|渡邉智之

頭を捻っても答えは出ない
若林崇雄|石立尚路|須藤大智|渡邉智之|スフィ・ノルハニ

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