京都ERポケットブック

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多くの研修医がERで経験すること――救急車で搬送された患者の緊急対応についていけず置いてけぼり。ウォークイン患者の問診に時間がかかり、検査治療計画が立たずあっという間に1時間。イライラする看護師、患者、家族――。ところが上級医はごく短時間でそれらを組み立て解決し、その上系統だったフィードバックまでこなす。本書は研修医時代の荒隆紀医師の問題意識から生まれた書。上級医は頭の中でこう考えこうアプローチしている!

編集 洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER
責任編集 宮前 伸啓
執筆 荒 隆紀
発行 2018年06月判型:A6頁:416
ISBN 978-4-260-03454-8
定価 3,850円 (本体3,500円+税)
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推薦の序(松村理司)/(宮前伸啓)


推薦の序

 医学部卒業直後から呼吸器外科を専攻した筆者が,研修教育において日本と大きく異なる方法と戦略をもつ米国式臨床医学に初めて触れたのは,卒後10年も経ってからである.それは1983年,沖縄県立中部病院の見学研修を通してであった.「H & P(病歴聴取と身体診察)を重視した診断推論,文献(エビデンス)による裏付け,チーム医療下での屋根瓦式教育体制」は,「目から鱗が落ちる」代物であった.
 救急医療の圧倒的な量とそれを支える質にも驚かされた.救急車もwalk in患者も決して「断らない救急」の迫力を見せつけられた.内科診療部長(当時)の宮里不二彦先生の次のような文言は,実に刺激的であった.「本土の医療は,癌の診断だけなんだよね」「水分がとれて,食事ができて,話せて,座れて,立位になれて,歩けて,排尿・排便があって,体重が変わらず,仕事もできれば,BUNが200 mg/dLを超えても,緊急入院させる必要なんてないよ!」.その後すぐに渡米遊学し,あちこちの本場のERを視察する機会があったので,「北米型ER」はすっかり自明のものになってしまった.
 さて洛和会音羽病院は,「断らないER型救急」の診療実態が評価され,2012年に近畿圏の民間病院では初めて「救命救急センター」に指定された.「京都ER」も冠しているが,これは,米国でドラマ『ER』の放映が始まるといち早く取り入れられたと聞く.「問題は中身だな」と感じながらも,現場から離れ,洛和会音羽病院院長から弊会全体の医局をまとめる立場(総長)になりしばらく経った頃,他院で後期研修中の荒 隆紀医師の来訪を受けた.「2年間の初期研修と1年間の呼吸器内科研修中の3年間のER経験を基に,研修医用救急実践書をまとめました.ついては,正式にERでの屋根瓦式教育の補完材料にしてもらえないでしょうか?」という要件である.散見するに,内容は濃く,京都ERで働く若手医師にとても便利である.ひょっとすると,他院のERでも役立つかも?
 というわけで,出版の可能性も俎上に載り,いっそうの普遍化を図るべく,京都ERを代表して若手の宮前伸啓医師にも応援してもらうことになった.「ポケットサイズ,ボックス内まとめ,箇条書き,mnemonic(ネモニック)の使用,イラスト・写真や図表の多用」などの方針も確認された.荒・宮前両君の原稿は,弊会臨床の主砲である酒見英太医師の綿密な点検を受けることになった.
 本書は,研修医がERでまごつかないために創出された.彼・彼女らの琴線に触れることを願う.

 2018年4月
 医療法人社団洛和会 総長 松村理司




 ER初療に出始めたばかりのとき,多くの研修医には立ちはだかる様々な壁があります.
 救急車で搬送された患者の緊急対応についていけず置いていかれる.一方,walk in患者を診はじめると,問診に時間がかかり検査治療計画が立たず30分,1時間と経過してゆく.いらいらする看護師,患者,家族.たまっていく患者リスト.
 ところが上級医に相談すると,短時間で組み立てて解決する.そのうえで,系統だったフィードバックをしてくれる.
 「なぜその頭の中を言語化してまとめないんだ!」
 当時の当院研修医,荒 隆紀先生の問題意識から生まれたのが,この『京都ERポケットブック』です.
 この本では,救急車でくる蘇生レベルからwalk inでくる低緊急レベルまで,症候別に記載し,診察前に短時間で確認しておく外せないポイントを「アタマの中」として表現しています.また内科だけでなくERとして対応が必須な眼科,耳鼻咽喉科,皮膚科,泌尿器科,形成外科,整形外科,婦人科,小児科といったマイナーエマージェンシーの内容も網羅しており,それ以外にも,救急での情報収集ツール,覚えきれないけれど必要時にすぐに参照したい表やフローチャートも「使える! ERの覚え書き」としてまとめて盛り込まれています.
 後進教育のため3年前に院内自主制作されて以来,当院の研修医にとってはなくてはならないバイブルとなりました.今回,そのコンセプトを継承しながら,現時点での当院ERでのマネジメントや研修医へのフィードバックの内容と突き合わせて刷新し,発刊に至りました.そして常に持ち歩けるようにできる限り小さく書籍化をお願いしました.
 ERは診断のついていない患者が緊急度,内容,時間を問わず様々にやってきます.限られた時間で患者や家族とラポールを作り,ニーズを汲みとりながら,医療スタッフと一丸となってトリアージ,蘇生,次の治療への引き継ぎを次々と行うことが求められます.
 研修医がER研修で培うこうした患者・看護師・医師との対話力,様々な疾患,緊急度に対する初期対応力,瞬間瞬間の状況判断力は,どの診療科に進むにせよ必ず役に立つ能力だと信じています.
 本書がER研修の壁を乗り越えるための一助となることを願っています.

 2018年春
 宮前伸啓

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I 原則編
 ER診療の大原則
 ER診療の流れ
 ER診療におけるプレゼンテーション
 ER診療におけるリスクマネジメント
 ER研修での学習方略(1) 成人学習理論を利用して
 ER研修での学習方略(2) 検査の判定や日々の学習にEBMを利用する

II 検査編
 (1)血液ガス分析
 (2)心電図
 (3)救急エコー
 (4)胸部X線
 (5)グラム染色
 (6)CT読影
 (7)頭部MRI
  COLUMN 脳梗塞局在診断の手引き

III トリアージで考える 主訴別アプローチ編
 トリアージ赤
  心肺停止
  多発外傷
  ショック
  呼吸困難
  胸痛
  けいれん
  喀血
  吐血,下血
 トリアージ黄
  意識障害
  めまい
   COLUMN 徹底分析! 中枢性めまい
  頭痛
  腹痛
  腰背部痛
  失神
  麻痺,脱力,しびれ
  嘔気・嘔吐
  発熱
  風邪
   COLUMN インフルエンザ
  咽頭痛
  陰嚢痛
  血尿
  分類困難愁訴
  【ERでの電解質異常対応(1)】高K血症
  【ERでの電解質異常対応(2)】低K血症
  【ERでの電解質異常対応(3)】低Na血症
  【ERでの電解質異常対応(4)】高Ca血症
 トリアージ緑
  咳
  下痢
  下腿浮腫

IV 治療編
 ERでの気管挿管
 ERでの人工呼吸器管理
 ERでのNPPV
 ERでの抗菌薬

V 特殊分野編
 薬物中毒
 創傷処置
 熱傷
 皮膚科救急
 整形外科救急
 眼科救急
 耳鼻咽喉科救急
 妊婦,婦人科救急
 透析患者救急
 トラブル患者対応

VI 使える! ERの覚え書き
 一般
 循環器
 呼吸器
 消化器
 血液
 腎臓
 神経
 小児
 感染症
 薬剤

あとがき
索引

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素早く的確な対応が必要な病態を網羅
書評者: 草場 鉄周 (北海道家庭医療学センター理事長)
 大都市の総合病院の救急外来はもちろんのこと,中小病院の外来さらには病棟での急変対応,また,郡部やへき地の診療所において遭遇する準救急的な健康問題など,われわれプライマリ・ケアに携わる医師は多様な健康問題に対し,病歴,身体診察,簡単な検査で対応する基礎体力を身につける必要がある。評者も,患者でごった返す総合病院の救急外来を一人でさばく経験,北海道の郡部で一人救急搬送される患者に対応する経験,訪問診療を行う在宅患者に想定外の急変があり慌てて往診する経験などを持ち,これまで数多くの救急に対応してきた。大事なのは,救急対応において一定のパターンを体得しつつ,例外的状況に対する鋭敏な感覚を養うことだと思う。そのために,経験ある指導医から学ぶことの価値は計り知れないが,そうした指導医が在籍する医療機関はそう多くないのが現実である。

 ショック,喀血,頭痛,陰嚢痛,高Ca血症,創傷処置,皮膚疾患への外用,肘内障の整復……。多彩かつ素早く的確な対応が必要な病態が広く網羅されている本書を手に取ると,その簡潔ながらも要点をしっかり押さえた内容が印象的である。特に「はじめの5分でやることリスト」は,次から次へと受診するER外来でオリエンテーションをつけるための一助となり,「検査」「鑑別診断」と一歩深めた評価がわかりやすい図表で示される。そして,「Q&A」では「そう,そこがいつも悩ましいところだよな」と感じる論点が詳しく説明されており爽快さを覚える。音羽病院という北米型ERのメッカで培われた指導医の知識と技術がふんだんに網羅された本書をポケットに入れて診療に臨めば,診療に臨む不安のかなりが解消されるだろう。あたかも,すぐそばに熟練の指導医が付き添ってくれているような感を覚える。

 本書は,初期研修医を主たる読者と想定しつつも,臨床実習に臨む医学生,総合内科や総合診療の専門研修を受ける専攻医,そして日々診療にあたるベテラン医師にとってもすぐに役立つマニュアルである。日本全国津々浦々で日々救急診療に取り組む医療者にとって,本書がかけがえのない友となることを期待する。
上級医の頭の中が言語化された,研修医のバイブル
書評者: 池上 徹則 (倉敷中央病院救命救急センター救急科主任部長)
 本書は洛和会音羽病院救命救急センター・京都ERで「バイブル」とされてきた院内向けマニュアルを書籍化したものです。臨床教育病院の雄として名をはせる音羽病院由来のものだけあり,随所に秀逸なエッセンスが詰め込まれています。

 まずは冒頭数十ページの「原則編」にお目通しください。多くの医師にとってERという特殊な環境と特別な時間軸の中で診療することは容易ではなく,またその特殊性を研修医の先生方に伝えることも困難ですが,ここでは患者さんの臨床像の変化に対する時間経過とその考え方,救急外来での診療の流れにおける時間とその考え方が非常に明快に記述されています。そして,これら「時間」についての考え方は,以下「検査編」を経て「トリアージで考える 主訴別アプローチ編」では,さらに緊急度を付与して整理されるなど,本書を通して幹のように貫かれています。

 また,勤務先が変わった時などにしばしば経験することですが,従来の自身の診療スタンスと,変わった先の医療機関で目の前の患者さんに対峙する際の診療およびその結果における微妙なずれを「自分の置かれた病院のセッティングにも注目すべきである」と説明されている箇所など,多くの臨床医の納得するところでしょう。著者らは「上級医の頭の中を言語化する」ことを目標として執筆に臨んだと記されていますが,その試みの成功が見て取れます。

 加えて,総論的に書かれた書籍を忙しい救急外来で有効に使うには索引の充実度が重要になりますが,ここにも十分な配慮がなされ,例えばサ行に「死の下痢」,ハ行に「昼ドラ」など,一見すると「えっ?」というようなキーワードまで盛り込まれています。

 「ああ,もう当直の時間がやってくる……」と憂鬱な気持ちで救急外来に向かった経験が執筆の動機であったと,著者の荒隆紀先生は「あとがき」に記されていますが,今日も同じような気持ちでトボトボと救急外来に向かう全国の研修医の先生方のみならず,そんな彼らを指導する立場の先生方にも,お薦めします。
優れた指導医が側にいるかのような心強いパートナー
書評者: 舩越 拓 (東京ベイ・浦安市川医療センター救急外来部門長)
 ERを受診する患者は多様である。また,同時に多くの患者を診療しなければならない。インターネット環境が整備された病院が珍しくない現在において,スマートフォンさえ持っていればある程度の調べ物もできる。そうした中で,わざわざポケットに忍ばせておく意味のある書籍とはどのようなものだろうか。

 一つは迅速性である。慌ただしいERにおいて落ち着いて調べ物をする時間は確保しにくい。インターネット上の情報は質が保証されず,必要な情報にアクセスしにくい。有名な二次資料のサイトも,どちらかというと治療に重きが置かれており,かつ患者到着までの5分で読むには過剰である。もう一つは網羅性である。特定の診療科に偏らない患者に対応するために広い分野をカバーしなければならない。内科のみ,外傷のみ,マイナーのみではERの患者をカバーするには足りないのである。

 迅速性を優先すれば内容は希薄になりがちであるし,広い分野を徹底的に網羅しようとすれば容量が多くなる。そうすると常に持ち歩きながら調べ物をするという迅速性は失われる。その二つを両立するのはなかなか難しいのである。

 その二点を良いバランスで実現させたのが本書である。

 『京都ERポケットブック』は洛和会音羽病院で後進教育のために院内で受け継がれてきた内容をコンパクトに書籍化したものである。症候別にまとめられた項目では最初の見開きで最低限の知識を得られる工夫がなされており,患者を呼び入れる前,もしくは救急車が到着する前の3分で読み切れる。一方でカバーする領域は広く,救急外来で遭遇する一般的な症候別のアプローチに留まらず,問診技法,画像読影,心電図や超音波,抗菌薬やグラム染色,コミュニケーション技法にわたる。

 そうした充実した内容がコンパクトに持ち運べるサイズでまとまっており非常に見やすい。また,根拠となる文献も明示されており,時間が空いたときのさらなる自己学習の入り口にもなってくれる。

 救急外来研修を初めて研修する医学生や初期研修にとって,優れた指導医が常に側にいてくれるような心強いパートナーになってくれるであろう。

 屈指の人気研修病院の看板に偽りなく充実した内容である。
山椒は小粒でもぴりりと辛い!
書評者: 佐藤 信宏 (新潟市民病院救急科医長)
 「山椒は小粒でもぴりりと辛い」は,小さくても才能や力量が優れていて侮れないことを例えることわざです。『京都ERポケットブック』はまさにそのものです。

 ポケットに入る大きさにもかかわらず,主訴別アプローチ,診断の参考になるclinical prediction ruleに加えて,ABC-VOMITアプローチ,問診の大動脈AORTAやTUNA FISHなど数多くのmnemonic(このmnemonicが何を意味するのか気になる方は,ぜひ手に取ってみてください)など膨大な内容が収まっています。各情報に参考文献も載っていて,ただのマニュアル本でもありません。しかも,カラー,図表が多く,読みやすい!

 主訴別アプローチ編では,ERでの時間の流れを意識した構成になっており,救急搬送前のチェックポイント,診療開始後すぐにやるべきことがリストとしてまとまり,非常に実践的です。頭痛,けいれんなどの項目では,原因疾患の頻度をグラフで示していて,医師だけでなく,看護師や救急隊にも役立つと思われます。また,研修医が普段疑問に思うようなことをQ&Aとして取り上げています。例えば,「上部消化管出血の緊急内視鏡適応って何ですか?」といった質問では,Glasgow-Blatchford bleeding Scoreを用いて,短時間で理解できるようになっています。

 『京都ERポケットブック』が,他の救急外来の本と異なるのは,著者が救急医ではなく,家庭医の荒隆紀先生だということです。著者があとがきで述べていますが,救急医では持ちえない視点から,救急外来診療で生き残るために作られた本です。この視点により,研修医や救急外来診療にかかわらざるを得ない他科の先生方,看護師,救急隊員にとって,より利用しやすくなっているのではないかと思います。もちろん救急医が読んでも,実践的EBM活用法や救急外来で知っておくべき法律など,あらためて勉強させられる内容ばかりです。

 こんな本が,自分の研修医時代にあったら良かったのにと思わされた一冊でした。研修医,救急医だけでなく,救急外来にかかわる全ての医療者にお薦めしたいと思います。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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