はしがき
少子高齢社会のなか,保健師活動では予防の重要性が強くうたわれ,健康な地域づくりが重要な課題となっています。さらに,在宅看護の需要の拡大から療養支援には生活の視点が重要になっています。公衆衛生看護学は,保健師だけでなく看護師にとっても必要不可欠なものです。多くの看護職が公衆衛生看護の志向をもつことが求められています。
いま保健師教育の場は,これまでの3年制の看護学に1年制の保健師教育を付加する養成所や短期大学専攻科における養成に加え,看護学に統合された4年制大学および大学院修士課程など多様化しつつあります。なかでも多くの4年制大学では,公衆衛生看護学について限られた時間内で講義や臨地実習をしており,教員が信頼して学生に読ませることのできるテキストが必要とされています。また,大学生には看護師と保健師の2つの国家試験を受験するため,保健師国家試験にむけて短時間で効率よく,自己学習できるテキストが求められています。
本講座は,教員や学生のニーズにこたえ標準的な保健師教育のための教科書として,保健師に求められる基本的な知識と技術を習得することを目ざし企画されました。
本講座の特色は,改定された保健師国家試験出題基準の項目をすべて網羅したかたちで,保健師として押さえておくべき内容をコンパクトにまとめたことです。
本来,保健師の仕事は,応用が必要で創造的なものですが,基本がおろそかでは,応用的な課題に対応できないといえます。「理念や理論を押さえたうえでの基本の理解と,実践能力豊かな専門職の教育」を本講座のねらいとしました。
本講座の構成は,『公衆衛生看護学概論』『公衆衛生看護技術』『対象別公衆衛生看護活動』の3巻と,『保健医療福祉行政論』『疫学・保健統計学』の別巻2巻の全5巻からなります。
本巻の3冊は保健師の基本として理念や考え方を述べた1巻『公衆衛生看護学概論』,保健師にとって公衆衛生看護を実践するうえで必要とされる技術をまとめた2巻『公衆衛生看護技術』,対象別・課題別の活動を展開する3巻『対象別公衆衛生看護活動』です。
さらに,保健師の習得しておくべき基本的知識として,主たる活動の場の理解を深める『保健医療福祉行政論』,保健活動をデータで方向づける『疫学・保健統計』を,別巻の2冊としてコンパクトにまとめました。
本講座の執筆者は保健師として現場経験豊富な看護大学教員や,地域保健に詳しい公衆衛生医師らで構成しました。
本書は,「保健師国家試験出題基準(平成30年版)」における「対象別公衆衛生看護活動論」の各項目(1.母子保健活動,女性の健康支援 2.成人保健活動,生活習慣病対策 3.高齢者保健活動 4.精神保健活動 5.障害者(児)保健活動 6.難病保健活動 7.感染症の保健活動 8.歯科保健活動),「学校保健・産業保健」および「健康危機管理」に対応しています。
本書は,対象別保健師活動・機関別保健師活動とよばれている内容にあたり,公衆衛生看護活動を実際に進めていく対人援助の場面とその背景の施策について述べます。施策のもとになる法の内容や統計のデータなどについては,他書を準備しなくても学習の便がはかられるよう関連箇所におさめるようにしてあります。また,学生が公衆衛生看護活動を具体的にイメージして理解できるよう,事例記事「実践場面から学ぶ」を各章に適宜配置してあります。
2017年11月
著者ら