理論と感性が融合した手術指導書
書評者:二宮 基樹(広島記念病院消化器センター長)
金谷誠一郎先生が『大阪日赤ラパロ教室 イラストで学ぶ腹腔鏡下胃切除』を上梓された。DVD付きである。
個人の名で,さらに施設名まで冠して手術書を世に問うことは大変勇気の要ることである。論議,時に批判に耐え得る自信がなくてはならないし,DVD映像では言葉ではない手術の真実がさらされる。“本物...
理論と感性が融合した手術指導書
書評者:二宮 基樹(広島記念病院消化器センター長)
金谷誠一郎先生が『大阪日赤ラパロ教室 イラストで学ぶ腹腔鏡下胃切除』を上梓された。DVD付きである。
個人の名で,さらに施設名まで冠して手術書を世に問うことは大変勇気の要ることである。論議,時に批判に耐え得る自信がなくてはならないし,DVD映像では言葉ではない手術の真実がさらされる。“本物”にしかできないことである。
金谷先生といえば,再建で機能的端端吻合であるデルタ吻合を,また郭清でも左胃動脈を先に切離した後にNo.8a,No.11p郭清を行う内側アプローチを提唱された腹腔鏡下胃切除術の先駆者であり革命児である。わが国の腹腔鏡下胃切除術の進歩に大きく貢献し,またし続けているこの領域のリーダーのお一人である。
本書には術式ごとに郭清と再建を分けて記載してある。そして,見開きの左ページに文章を,右ページに図を載せ視覚的な理解に重点を置いており大変読みやすいし,知りたい項目を容易にひもとけるようになっている。
また,術者目線で実際に手術を行うに際しての細かなコツや注意点が豊富なイラストとともに簡潔に記述してある。Pointでは,手術の実際に際して役に立つ解説が添えられている。まるで,金谷先生の声が聞こえてきそうである。
金谷先生の手術は電気メスを多用し膜構造,層構造を重要視している。そして,「待ちの攻め」とでも表現しようか,膜を1枚ずつ切離しながら徐々に郭清対象の軟部組織が浮かび上がってくるのを待ちながら操作を進めている。結果として,郭清は正確で安全となっている。
また,主要動脈の直線化や膵の軸回転などの著者のアイデアが随所に散りばめられており大変興味深い。
また,DVDが付いており実際の映像を繰り返し見ることができる。膜および層構造を意識したリンパ節郭清がどのようなものであるかを理解できると思う。
さらに,助手の場の展開,保存の実際も学ぶことができる。決して垂直に面を作るという単純なものではない。わずかに横に,あるいは奥に傾けたりして,術者に優しい場が展開されている。結果として,全ての操作を開腹と同じ患者右側から行えている。
コラムに金谷先生の美しい手術へのこだわりが記されている。私も美しいものが正しいと固く信じている。
本書を手にした読者は大阪日赤病院で主催するラパロ教室に参加して金谷先生直々に腹腔鏡下胃切除術を学んだ気になること請け合いである。かく言う私もその一人である。
理論に走り過ぎることもなく,感性で訴えるだけでもない読みやすい手術指導書である。経験を問わず,外科医にお薦めしたい良書である。