第4版 序
2003年に本書初版が出版されたころは介護保険制度が導入されたばかりで,地域に参入する理学療法士もほんの一握りであった.あれから十数年で高齢化率は1割程度上昇し,それを補うように急ピッチで理学療法士養成校が増加したが,地域理学療法の重要性が高まりを見せ始める一方で,その教育に関しては長年の課題であった.
現在,高齢社会がもたらす医療費の高騰を懸念した制度改正が繰り返されている.リハビリテーションに関する医療費削減のあおりが他の診療と比べて遅くゆるやかだったのは,入院期間短縮などの医療費削減に直結するリハビリテーションの効果のほどを期待されていたことと,過去にリハビリテーション専門職の人員が少なかったためである.近年は,維持期リハビリテーションを介護保険へ移行する具体的な改定が繰り返されており,地域包括ケアシステムの推進,連携重視,早期退院,退院支援…という形で医療と介護は急接近しているといえよう.
特にリハビリテーションに関しては,外来の機能強化だけでなく,介護保険の通所の併設を促すような方向づけがなされており,医療機関であっても地域をさらに意識した活動が求められている.たとえば,入院早期から在宅生活のイメージを明確にした理学療法の提供,退院後における理学療法の必要性の明確化,在宅の通所や訪問の理学療法士などに対しての親密な連携などである.
一方,全国の理学療法士数は著しく増加し,地域によっては,養成校卒業後に臨床経験を積まない新卒者が地域に就職することも稀ではなくなった.医療と介護の親密な連携,医療から介護へ移行後の集中的な理学療法などの提供方法は示されているが,これからは地域理学療法の内容をさらに充実させ,質向上,効果判定,そして他職種間の連携強化とマネジメント力も身につけていく必要がある.また,生活者としての障害児・者にも目を向けなければならない.
それらに対処するために,学校教育においても地域理学療法学についての再構築がなされる必要がある.本書では理学療法の対象が予防から障害急性期,維持期そして終末期まで広がるなかでの業務のあり方,地域連携のあり方を述べている.医療技術者となる学生に対して,対象者を患者としてだけではなく,生活する主体者として捉えるかかわり方も提示している.地域での理学療法士としてのあり方を学ぶことにより,理学療法の可能性はさらに広がると思われる.
2016年11月
牧田 光代
金谷さとみ