精神看護学[1]
精神看護の基礎 第5版

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本巻では、精神看護の基礎として、現代社会におけるメンタルヘルスや精神医療の現状、精神保健・精神看護のニーズ、人間のこころを理解するために必要な理論、集団の心理のとらえ方、主要な精神障害とその治療、精神障害と医療の歴史、精神障害に関連する主要な法律を学びます。 精神看護の実践においては、人間のこころや人間関係についての深い理解が欠かせません。単なる知識の提供ではない系統的な解説により、学生に“深い理解”の基盤を育むことができるでしょう。 学生が具体的なイメージを持ちやすいよう、随所に、事例やエピソードを盛り込んでいます。通常、なかなか想像しにくい精神症状や精神疾患についても、多くの事例を掲載しており、効果的な学習が行えます。 第5版では、精神保健、ストレングスモデルやリカバリーモデルの説明、各疾患の説明のDSM-5への対応を強化したほか、記述や事例の見せ方などを、さらに学生にわかりやすいように工夫しました。
*「系統看護学講座」は2018年版より新デザインとなりました。
*「系統看護学講座/系看」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 系統看護学講座-専門分野Ⅱ 1
武井 麻子 / 江口 重幸 / 末安 民生 / 小宮 敬子 / 式守 晴子 / 相田 信男 / 濱田 秀伯 / 橘田 昌也 / 長嶺 敬彦 / 吉浜 文洋
発行 2017年02月判型:B5頁:408
ISBN 978-4-260-02773-1
定価 2,420円 (本体2,200円+税)
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はしがき

第5版への序
 2009年に,現在の著者らによる最初の『系統看護学講座 精神看護学』(第3版)が発刊されてから8年が経つ。2013年に改訂を行い第4版となり,このたび第5版が刊行されることになった。
 今回のタイミングでの大改訂となったわけは,この間,日本の精神科医療をとりまく状況が急速に変化してきたということがある。多くの精神科病院が急性期治療中心の方向に舵を切り,入院期間は確実に短縮している。さらに,2013(平成25)年4月1日より障害者自立支援法が障害者総合支援法に切り替わり,その翌年には障害者権利条約が発効するなど,精神障害者支援の法制度も次々と更新され,訪問看護も広がってきた。
 だが,精神科病院では長期入院患者は相変わらず多く,高齢化による身体合併症や認知症の増加という新たな問題が出現している。さらに,社会全体としてみても,うつ病をはじめとする職場におけるメンタルヘルス上の問題をもつ労働者の増加,アディクションや発達障害への対応といった新たな課題が浮かび上がってきた。
 また,東日本大震災以後も相次ぐ大規模災害がもたらすメンタルヘルスの問題も無視できない。本書では第3版から心的外傷(トラウマ)の問題に注目してきたが,最近では災害だけでなく,さまざまな心的外傷体験が人間の身体・精神そして人間関係に深刻な影響をおよぼすことが科学的にも実証されてきた。
 第5版では,こうしたことをふまえ,入院か地域かにかかわらず,精神障害をもつ人びとや家族の「回復(リカバリー)」ということを援助の中心にすえ,病理や問題より当事者のもつ力(ストレングス)あるいはレジリエンスといった,ポジティブな可能性に注目する看護のありかたをより前面に打ち出すことにした。そのための事例も増やした。
 さらに,新たな制度についての記述を加えると同時に,心の機能や人格の発達に関する新たな知見をふくめて記述を更新した(第3章)。とくに愛着理論のあらたな展開は注目してもらいたい。それは,新しい章である第12章「サバイバーとしての患者のケア」ともつながっている。加えて,災害時のケアについて,援助者のメンタルヘルスも含めて病院(第10章)と地域(第13章)とにわけて記述した。
 心だけでなく身体にも注目する点は変わっていない。精神科における身体ケアに,新たに「排便のケア」の項をもうけ,排泄ケアの資格をもつ看護師が執筆した。また,一般診療科でもメンタルヘルスに対するニーズが高まっていることから,リエゾンにかかわる精神看護専門看護師の活動を独立した章とした(第14章)。
 最後に,精神医学の領域ではDSM-IVがDSM-5に改訂されるという大きなできごとがあった。これについては専門家の間でも評価が定まっていないため,本書においてそれをどう反映させるべきか,大いに悩んだところである。「症状・疾患」を扱う第5章では,従来の診断名とDSM-5における新しい診断名を併記したり,疾患概念の変遷や最新の動向などを記述することによって,新しい診断名についても学べ,かつ読者の混乱が少ないように工夫したつもりである。
 そのほかにも本書では,できる限り現状に即した考え方や知識がえられるよう,いろいろと工夫をこらした。このテキストで学んだ学生たちがやがて看護師として働くようになってからも,つねに患者への関心と希望を失うことなく,自分らしくクリエイティブなケアを追求していくことを期待してやまない。
 2016年12月
 著者を代表して
 武井麻子

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第1章 精神看護学で学ぶこと (武井麻子)
 A 「心のケア」と現代社会
  1 災害と「心のケア」
  2 日本における自殺問題とメンタルヘルス
  3 地域医療の主要課題としての精神疾患
  4 世界的な課題としてのメンタルヘルス
 B 精神看護学とその課題
  1 精神看護学の名称が示すもの
  2 世界からみた日本の精神科医療の現状
  3 多様化する精神科医療のニーズ
  4 入院治療から,地域生活の支援へ
 C 精神障害の体験と精神看護
  1 想像を絶する病的体験の苦痛
  2 病いの苦しみと環境の不寛容
  3 精神障害者がかかえる「現実の問題」と「生きにくさ」
 D 精神看護学でなにを学ぶのか
  1 個別性と不偏性
  2 人と人との関係性の理解
  3 精神看護学の基本的な考え方
  4 「看護過程」について
第2章 精神保健の考え方 (武井麻子)
 A 精神の健康とは
  1 「ふつう」というものさし
  2 統一された診断基準の必要性
  3 精神の健康と障害の3つの側面
  4 精神の健康の基準
 B 精神障害のとらえ方
  1 「精神疾患」と「精神障害」
  2 精神障害者の法律的定義
  3 疾患モデルと障害モデル
  4 国際生活機能分類(ICF)の考え方
 C ストレスと健康の危機
  1 生体システムとしてのストレス反応
  2 ストレスの社会分化的側面
  3 精神保健における「危機」というとらえ方
  4 精神保健における3つの予防概念
  5 危機への対処(コーピング)
 D 心的外傷が精神の健康に及ぼす影響
  1 心的外傷(トラウマ)体験と生存者(サバイバー)の心理
  2 日常生活のなかの心的外傷体験が人格に及ぼす影響
  3 喪失と悲嘆
 E 回復(リカバリー)を支える力「レジリエンス」
  1 トラウマが生み出す強さ
  2 ソーシャルインクルージョンの考え方
第3章 人間の心のはたらきとパーソナリティ (式守晴子・武井麻子)
 A 人間の心の諸活動
  1 意識と認知機能
  2 感情
  3 学習と行動
  4 知能
  5 心の理論
 B 心のしくみと人格の発達
  1 人格と気質
  2 ライフサイクルとアイデンティティ
  3 無意識と精神分析:フロイトの精神力動理論
  4 対象関係論
  5 ボウルビーの愛着理論
  6 コフートの自己心理学
  7 土居健郎の「甘え」理論
第4章 関係のなかの人間 (武井麻子)
 A 全体としての家族
  1 家族の多様性
  2 家族と精神の健康
  3 家族内のコミュニケーションのゆがみ
  4 家族のなかの役割関係
  5 システムとしての家族
  6 家族療法の考え方と技法
  7 家族のストレスと感情表出
  8 治療的関係と家族
 B 人間と集団
  1 集団のなかの自己
  2 グループプロセス
  3 グループの歴史
  4 全体としてのグループ
  5 グループの方法
  6 グループとしての病棟
第5章 精神科で出会う人々 (江口重幸)
 A 精神を病むことと生きること
  1 「病いの経験」の理解への手がかり
  2 さまざまな病気の説明の仕方をさぐる
  3 看護と精神医学の広がり
 B 精神症状論と状態像
  1 症状とはなにか
  2 さまざまな精神症状
 C 精神障害の診断と分類
  1 診断と疾病分類
  2 統合失調症
  3 気分[感情]障害[双極性障害および関連障害群,抑うつ障害群]
  4 神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害
  5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
  6 パーソナリティ障害
  7 器質性精神障害[神経認知障害群]
  8 精神作用物質使用による精神および行動の障害
  9 てんかん
  10 神経発達障害群
  11 秩序破壊的・衝動制御・素行障害群
  12 心身症
第6章 精神科での治療 (濱田秀伯・橘田昌也・相田信男・長嶺敬彦・江口重幸)
 A 精神科における治療
 B 薬物療法・電気けいれん療法
  1 薬物療法
  2 電気けいれん療法(ECT)
 C 精神療法
  1 個人療法
  2 集団精神療法
  3 家族療法
 D 環境療法・社会療法
  1 環境療法・社会療法の歴史
  2 治療共同体の実践
  3 日本における社会療法の歴史
  4 作業療法(OT)
  5 精神科リハビリテーション
第7章 社会のなかの精神障害 (江口重幸・末安民生・小宮敬子・吉浜文洋)
 A 精神障害と治療の歴史
  1 精神障害と宗教治療
  2 岩倉保養所とゲールコロニー
  3 ギリシャ時代の精神医学
  4 アラビア医学と中世以降の魔女裁判
  5 ピネル,エスキロールと,フランスにおける近代精神医学の夜明け
  6 モラル療法と精神病者の人権擁護運動
  7 モラル療法から近代精神医学へ
  8 クレペリン,ブロイラー,そして統合失調症
  9 ショック療法と積極的身体療法
  10 病院精神医学から地域・社会精神医学へ
 B 日本における精神医学・精神医療の流れ
  1 第二次世界大戦までの精神障害者の処遇
  2 呉秀三の松沢病院改革と精神科看護
  3 戦後日本の精神保健福祉
  4 1980年代以降の人権擁護に関する動き
  5 2000年以降の長期入院者の地域移行の動き
  6 精神保健医療福祉のこれまでの流れ
 C 精神障害と文化
  1 国際化と地球規模の人々の移動
  2 文化的感受性と文化的能力
  3 文化接触や文化変容と精神医学的問題
  4 特定の文化と結びついた精神障害
  5 精神障害の診断は世界的な普遍性をもつのだろうか
  6 移民や移住者のメンタルヘルス
 D 精神障害と社会学
  1 逸脱とスティグマ
  2 精神病院の社会学的研究
  3 ソーシャルインクルージョン
 E 精神障害と法制度
  1 精神科看護と法律
  2 精神科領域で必要な法律と制度
  3 法律・制度における課題
  4 主要な精神保健医療福祉対策

資料1 精神保健ケアに関する法:基本10原則
資料2 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(抄)
資料3 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(抄)
資料4 平均在院日数の数え方
資料5 精神医療史年表

索引

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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