視能訓練学

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日本視能訓練士協会監修による新時代の視能訓練士(C.O)向け専門書シリーズの1冊。視覚発達や視覚生理などの基礎理論から、弱視・斜視の視能訓練の実際、視能訓練以外の治療までを詳細に解説。臨床症例を数多く掲載し、具体的な訓練や検査の進め方を提示した。卒後のC.Oはもとより、視能訓練学生・眼科医・視覚研究者も必携のスタンダードな教科書。日本視能訓練士協会推奨の「生涯教育プログラム参考テキスト」。
シリーズ 視能学エキスパート
シリーズ監修 公益社団法人 日本視能訓練士協会
編集 若山 暁美 / 長谷部 佳世子 / 松本 富美子 / 保沢 こずえ / 梅田 千賀子
発行 2018年03月判型:B5頁:440
ISBN 978-4-260-03223-0
定価 16,500円 (本体15,000円+税)
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視能学エキスパートシリーズ 刊行にあたって(南雲 幹)/

視能学エキスパートシリーズ
刊行にあたって


 1971年に視能訓練士法が制定され,視能訓練士は視能矯正分野を専門とする医療職として誕生しました.その後,医療の変遷と眼科診療の目覚しい進歩により,現在では視能矯正のほか,多岐にわたる眼科一般視機能検査,ロービジョンケア,健診と業務範囲は広がっています.
 視機能を評価し管理するわれわれ視能訓練士は,多様化・専門分化する眼科領域や国民の高まるニーズに対応するため基礎知識の習得に加え,自らの能力を向上させるため自己研鑽し続けることは必須です.そこで日本視能訓練士協会では,今後もさらに進歩するであろう眼科領域や社会からの要請に応え,歩んでいくために道しるべとなる必携の専門書を企画いたしました.
 《視能学エキスパート》シリーズでは,視能訓練士に必要とされる視能検査学,視能訓練学,光学・眼鏡に関する様々な知識を集積するだけでなく,エビデンスを踏まえた視能訓練や多岐にわたる視機能検査の方法,留意点,結果の評価などをわかりやすく系統立ててまとめています.すでに臨床で活躍している方々が日常業務を行ううえで熟思する際の参考に,またこれから視能訓練士を目指す学生のための教育にもぜひ,役立てていただければ幸いです.
 本シリーズでは,臨床・研究の一線で活躍されている方々に執筆していただきました.日々ご多忙の中,ご執筆を引き受けていただいた多くの先生,視能訓練士の方々,また企画から刊行まで親身にお力添えくださった編集担当の方々に心より御礼申し上げます.
 日本の医療は国民の健康寿命延伸に取り組んでおり,眼科医療には生活の質(quality of life)とともに視覚の質(quality of vision)を高めることが求められています.この《視能学エキスパート》シリーズのすべての巻が視能の専門職である視能訓練士の皆様の道標となること,また日本の国民がその長寿な人生においてできる限り快適な視生活を送るため貢献できることを念願いたします.

 2018年1月
 公益社団法人 日本視能訓練士協会
 会長 南雲 幹




 《視能学エキスパート》シリーズは,2006年4月から開始された公益社団法人 日本視能訓練士協会の生涯教育制度の教育内容に対応できる,視能訓練士に必要な専門性の高い専門書として作成されました.シリーズの中でも『視能訓練学』は,視能訓練士の原点であり根幹をなす領域です.企画は視能訓練士が行い,視能訓練士による視能訓練士のための本になるように検討し,今日実現いたしました.
 本書を企画するにあたり,編集者皆の心には1冊の本がありました.それは1973年に初版が出版された『視能矯正─理論と実際』(金原出版)です.この本は書名のように視能訓練士として行うべきことが理論に基づいて書かれています.序文で編集代表者である弓削経一先生は,本書を読まれて大変難しいと感じられるかもと述べられたうえで,「むずかしさは,読めば読むほど増してくるにちがいない」「むずかしくしたのは日本の視能訓練士の世界の中でのレベルを確立したい」と述べられています.
 『視能訓練学』の編集を担当するにあたり,『視能矯正─理論と実際』に委ねられた思いは熱いまま今も変わらず,理論に基づく視能訓練を実施するために,常に考え最善の方法を選択できる視能訓練士の育成を目指しました.このため,本書の特色として可能な限り多くの臨床症例を提示しました.症例を通して,臨床での検査のポイントや視能訓練の実際について具体的にわかりやすく示されています.読者の皆様には,まず各章の総論,各論を読んでいただき,その内容に対応する臨床症例をみていただくことで理解が深まると思います.さらに,視覚感受性を含めた視覚発達や視覚生理学については,眼科領域を超えて基礎研究者の先生方にも執筆をお願いしました.本書は,卒前や卒後を通して皆様の自己研鑽に欠かせない,いつも傍らに必携する一生涯の専門書になると思っております.
 執筆者の先生方には,編集者の思いをご理解いただき,無理なお願いにもご対応いただきましたことに深謝いたします.日本の視能訓練学のさらなる発展を願い,寄与する本であることを願います.

 2018年1月
 編集者一同

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第1部 総論
 第1章 視能訓練学総論
  I 視能訓練学とは
  II 弱視視能訓練の歴史
  III 斜視視能訓練の歴史
  IV 脳の可塑性と視能訓練
  V 視能訓練学におけるリハビリテーション
 第2章 視覚発達
  I 視覚発達
  II 視覚系の臨界期
  III 感覚適応(両眼視機能の異常)
 第3章 視覚生理学
  I 入力系
  II 統合系
  III 出力系
 第4章 視覚認知学
  I 視覚認知総論
  II 錯視
  III 高次脳機能障害
 第5章 検査学
  I 問診(病歴聴取)
  II 入力系
  III 統合系
  IV 出力系
  V 問題指向型診療記録(POMR)
  VI 臨床症例

第2部 弱視の視能訓練
 第6章 弱視概論
  I 弱視
  II 弱視の視能特性
  III 弱視の神経回路の再編成
  IV 視機能検査とその評価
 第7章 弱視の視能訓練
  I 総論
  II 方法
  III 訓練評価
  IV 臨床症例

第3部 斜視の視能訓練
 第8章 斜視概論
  I 斜視とは
  II 斜視各論
  III 視機能検査とその評価
  IV 斜視視能訓練総論
 第9章 内斜視の視能訓練
  I 総論
  II プリズム療法
  III 抑制除去訓練
  IV 網膜対応異常の矯正訓練
  V 臨床症例
 第10章 間欠性外斜視の視能訓練
  I 総論
  II 抑制除去訓練
  III 輻湊訓練
  IV 融像訓練
  V 臨床症例
 第11章 後天眼球運動障害の視能訓練
  I 総論
  II 眼球運動訓練
  III 輻湊訓練
  IV 融像野拡大訓練
  V fusion lock training
  VI 臨床症例
 第12章 光学的視能矯正
  I 光学的視能訓練
  II プリズムの光学的働き,種類
  III プリズム療法
  IV 臨床症例

第4部 視能訓練以外の治療
 第13章 観血療法
  I 術式
  II 合併症
  III 手術の適応と臨床症例
 第14章 再生医療と視能訓練
  I 再生医療学
  II 人工網膜における視能訓練士の役割

索引

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視能訓練のコツがふんだんに盛り込まれた至れり尽くせりの書
書評者: 大鹿 哲郎 (筑波大病院教授・眼科)
 このたび,《視能学エキスパートシリーズ》として,『視能検査学』『視能訓練学』『光学・眼鏡』の3部作が刊行された。公益社団法人日本視能訓練士協会の監修である。これは大げさではなく,快挙と言ってよい。量的にも質的にも驚くばかりである。日本の視能学,特にその臨床教育が達した高みに,ひとしきり感心した。

 3部作のうちの1つである本書が扱うのは,視能訓練士の業務のうち,彼ら/彼女らが最も“腕を振るう”フェーズであろう視能訓練である。視能訓練とは,斜視や弱視の回復を主な目的として,医師の指導のもと専門の視能訓練士が行うリハビリテーション訓練と定義されており,わが国におけるその歴史は未だ半世紀ほどにすぎない。したがってこれまでは,眼科医が眼科学書を微修正する形で編さんしたテキストブックが教育に使用されてきた。実際,国家試験合格が目的であれば,そういった教科書で十分であった。本書はそれらと異なり,視能訓練士が自らの視点から企画したものである。

 一読してまず感じたのは,基礎から臨床までの振り幅が非常に大きいことである。前半の基礎知識の部分は,大学の基礎医学系の教官が執筆を担当されているだけあり,生理学,光学から心理学まで実に詳細な記述がなされている。率直に言って内容がオーバースペックと感じるところも少なくない。編者も少し肩に力が入ったか。まあ,これらの部分は実地に生かす知識というよりも,何かの時に調べる資料的な使い方がされるものであろう。ついでに記すと,全体の最後に収められた再生医療と人工網膜は,はやりの分野ではあるものの,本書の本来の目的との関係は希薄で,また刻々と変化していく研究分野であることを考えると,長く使われるスタンダードな教科書をめざすべき本書に含めるのが適当かどうか疑問を感じた。

 一方,後半の臨床部分に入ると,一転して実臨床に即した記述となる。検査や治療に関する実践的な記述に加え,それぞれの要点が“ポイント”として箇条書きで要領よくまとめられている。また,ケーススタディとして臨床例が豊富に提示され,検査や治療の過程でどのような点に留意すべきか,考える道しるべが示されている。視能訓練のコツがふんだんに盛り込まれており,学習者にとって至れり尽くせりである。初級者のみならず,熟練者にも多くの発見と学びをもたらすであろう。実地に即した書でありながら,引用文献が充実していることにも感心した。この部分はぜひとも通読をお薦めしたい。

 いずれにせよ編集者の長年の苦労がしのばれる力作である。日本の視能学の練度が反映された書であるが,その逆もまた真で,本書が広く活用されることによってわが国の視能学の臨床レベルがさらに向上することを確信する。
症例を数多く挙げて具体的に解説した実践書
書評者: 仁科 幸子 (国立成育医療研究センター眼科)
 本書は視能学エキスパートシリーズの一冊として出版された,日本視能訓練士協会による視能訓練士のための実用書である。検査や光学・眼鏡に関する書籍は多数出版されているので,“視能訓練”にスポットを当てた本書はシリーズの最高峰として編集されたものに相違ない。

 小児眼科や弱視斜視を専門とする眼科医にとって,日々の診療に視能訓練士による詳細かつ的確な検査が不可欠である。われわれの施設では,一人ひとりの患児がよりよい視力と両眼視機能を獲得し維持していけるように,手術治療や訓練について医師同士,視能訓練士共に意見を交わして進めていくのが常である。しかし多くの眼科診療の場では,理想的な環境で診療に従事できる者は少なく,医師は外来や手術に,視能訓練士は新しいさまざまな検査に追われ,視能訓練について十分に検討できる時間を持てないのではないか。本書をひもとくことによって,視能訓練士のみならず眼科医も,初心に戻って視能訓練の分野を学び,実践的な知識を得ることが可能であると思う。もちろん,弱視斜視の指導者がいない施設の視能訓練士にとっては,検査や訓練の方法について症例を数多く挙げて具体的に解説している本書が大変に役立つことであろう。

 本書を開いて初めに目に飛び込んでくるのは,懐かしい弓削経一先生の名著『視能矯正――理論と実際』の文字である。わが国の視能矯正の開祖の理念を受け継ぎ,さらに新しい概念や科学的根拠を加えて本分野を発展させたいという編集者の思いが伝わってきた。第1部の視能矯正の歴史の章は,若い視能訓練士にもぜひ目を通していただきたい。次章から視覚の発達,視覚生理学,視覚認知学の基礎がわかりやすく記載されており,科学的な探求心を養い,理論を理解した上で訓練に取り組むべきであるという根本的な理念が示されている。検査の章では,入力系,統合系,出力系に分けて,弱視斜視患者に対して必要不可欠な検査の方法が詳しく解説されており,“検査のポイント”のコラムを見ると,さらに実践的なアドバイスが受けられるように工夫されている。指導者がそばで指示を出しているような構成となっており,どのように検査を進め,どう記載するかの子細は,現場の指導者(書き手)の流儀が反映されていると思う。さらに臨床症例として小児,成人に起こるさまざまな内斜視,外斜視に対し,検査の結果と注意点が解説されており大変参考になる。しかし,全て入力系,統合系,出力系の順に記述されているが,実際には視力検査・屈折検査から始めることはないので,本来の検査手順とは異なることを明記したほうがよいと思う。先天内斜視の小児例にも就学までプリズム治療を継続する例をはじめ,全編を通して臨床症例は書き手の流儀に沿っていることも明記されたい。また検査を進める上で,視能訓練士であっても忘れてはならない重要なことは,医師と連携して器質疾患を早期発見することであると思う。検査の際に器質疾患が疑われる症例の解説も改訂の際にはぜひ含めていただきたい。

 第2部は弱視治療(視能訓練)である。近年,EBMに基づく治療をめざしたPEDIG(北米の小児眼科医グループ)による多施設共同前向き研究の結果を受けて,治療のスタンダードが提示された。本邦では依然として施設間で治療方針に多少の差異はあるが,重要なことは眼鏡や訓練のコンプライアンスを把握し,治療経過を評価して新たな方針を立てることである。特に微小斜視を鑑別して不同視弱視の訓練を進める症例の提示など,現場で遭遇する頻度が高い弱視に対する訓練のエッセンスが組み込まれている。

 第3部には,いよいよ斜視の視能訓練について,内斜視,間欠性外斜視,さらには後天眼球運動障害に分けて詳しく記述されており,本書の真骨頂がいかんなく発揮されている。視能訓練士には必須の知識が満載で,実践的な解説が秀逸である。われわれ眼科医は,視能訓練の適応と方法を十分に理解し,内斜視に対するプリズム療法,間欠性外斜視の抑制除去,輻湊,融像訓練など,手術と組み合わせて最良の両眼視機能を獲得し維持していけるように個々の治療計画を立てるべきである。

 本書の特徴として,視能訓練以外の手術治療を概説した第4部は必要最小限にとどめられている。2015年から本邦にも導入された斜視のボツリヌス毒素注射についてはほとんど触れられていないが,今後はボツリヌス療法と視能訓練をどう組み合わせていくか,興味深い課題と考える。

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