医学書院

検索
HOME書籍・電子メディア > 書籍詳細

AO法骨折治療 頭蓋顎顔面骨の内固定

外傷と顎矯正手術

監訳:下郷 和雄
訳者代表:近藤 壽郎/前川 二郎/楠本 健司

  • 判型 A4
  • 頁 408
  • 発行 2017年07月
  • 定価 30,240円 (本体28,000円+税8%)
  • ISBN978-4-260-02869-1
AOCMFのノウハウが詰まった、頭蓋顎顔面骨折治療のバイブル
骨折治療に関する研究開発を行い世界的な教育・普及活動を行っているAOグループのうち、頭蓋顎顔面領域を専門としたAOCMFがまとめた、顔面骨折治療と顎矯正手術のテキストの日本語版。多数の美麗なイラストと写真を用いてAOCMFの骨折治療における理念とノウハウを余すところなく解説しており、口腔外科医・形成外科医・耳鼻咽喉科医など、頭蓋顎顔面骨折治療に携わるすべての医師・歯科医師のバイブルとなる1冊。
序 文
日本語版の序はじめに謝辞

日本語版の序

 世界的にきわめてユニークなAOCMFのマニュアル第2版,Michael Ehrenfeld,Paul N Manson,Joachim Prein編集『Principl...
日本語版の序はじめに謝辞

日本語版の序

 世界的にきわめてユニークなAOCMFのマニュアル第2版,Michael Ehrenfeld,Paul N Manson,Joachim Prein編集『Principles of Internal Fixation of the Craniomaxillofacial Skeleton-Trauma and Orthognathic Surgery』(Thieme,2012)の日本語版をやっと皆さまの元に届けることができることを,日本語版の訳者を代表し,監訳者として大いなる喜びとするところである.
 これを機に,本書のなかでも詳しく述べられているAO財団の形成過程やわが国におけるAOCMFグループの形成過程と歩み* について簡略にお示しするとともに,第2版の日本語版の出版に至る経緯についても簡略に記しておきたい.

 現在のAOCMF(AO CranioMaxilloFacial)グループを生み出した母体は,1958年に形成された骨折に対する治療法を研究する目的で一般外科医,整形外科医,口腔外科医を含めた医師と精密加工を行う技師からなる,スイスで形成された非営利のスタディグループ(NPO法人である)で,ドイツ語でAO(Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen)と呼称された(英語ではASIF;Association for the Study of Internal Fixation).このAOグループは1959年にDavosに小さな研究所を開き,それ以前の歴史的な内固定法と固定材料に関する知見を再整理,再定義して,その論理体系を構築して世界的に広めるため,様々な教育研修会の開催に力を入れてきた.
 AOグループの第1回の教育研修会は1974年にDavosで行われ,CMFグループはAO発足当初からの臨床3グループの1つであった(現在は4大グループに加えていくつかのサブグループがある).1984年からはAO財団が発足してその目的を骨外科の全面的な支援に移し,「教育と臨床使用材料の開発を通じて治療法の向上を目指し患者に貢献すること」と定めた.1992年にはDavosにAO Centerが建設されたのを機に,AOグループは手術手技研修会を全世界的に展開することとし,知識,経験の共有をさらに推し進めてきた.
 この運動と内容を早期にわが国に伝えたのは当時ドイツ語圏への留学から帰朝した,鶴見大学口腔外科の瀬戸,京都大学口腔外科の飯塚,すこし遅れて九州歯科大学の福田らのパイオニアであった.このなかでは当時の,四肢の長管骨へのAOグループのメインコンセプトである,即時荷重と早期の全機能回復と社会復帰を可能にする「強固な組織内固定」を下顎骨に援用して開発された,ステンレススチール製の圧迫骨接合プレートシステムが注目された.顎間固定による保存的な下顎骨折の治療が全盛であった当時にあってこのシステムは,内固定の1つであるワイヤによる固定に比べて,はるかに「強固な」固定が得られることが伝えられた.しかし,一方ではこのシステムのもつ強固さゆえの手術手技上の許容の幅の少なさとあいまって,下顎の生体力学的な解析から,応力線に沿ったキーポイントに最小限のハードウェア(インプラント)を置くことで良好な結果が得られるという,顎顔面領域の他のグループから提出されたコンセプトとの間で激しい論争を巻き起こした.その結果としてAOCMFグループ内でも多くの臨床経験が世界的に集積され,ハードウェアの材質も現在のチタンに戻り,多くの改良が進められた結果,現在では「適度に強固な」固定が求められるように変遷してきている.

 わが国では,1993年に第1回のAOCMF Courseが横浜で瀬戸教授をChairmanとして開催されたのちは,しばらく教育研修会は開かれなかった.1997年になって再び,AOグループ認定の国際講師が組織的に来日し,名古屋,東京,京都,東京と,わが国の著名な口腔外科の教授をChairmanにして数人の日本人講師とともに2日半を費やすPrinciples Courseを開くようになった.2000年9月に開催された第5回の横浜でのPrinciples Courseでは,ドイツ,スイス,米国とわが国からの4人をScientific Chairmanとし,加えてもう1名の米国からのInternational Faculty(IF)と韓国からのRegional Faculty(RF),さらにわが国と韓国の口腔外科医を核として当時発足したばかりのAOFEAC(AO Far-East Advisory Committee)のわが国の委員を中心に,9名のLocal Faculty(LF)を加えた正式な構成で開催されるようになった.
 こののちは,世界的に見るとCMFグループの基本的な構成員である,形成外科医や耳鼻咽喉科医を積極的にLFとして招聘し,毎年AOグループの世界基準に合致したPrinciples Courseを開くようになった(残念なことに,ENTからのLFは1回のみであったが).
 現在のAOCMF Japan(AOFEACから改名)では,Principles Courseをはじめとして,Navigation, Digital surgeryなどの最先端技術をとりあげるAdvances CourseやWorkshopなどの教育研修会を年に4回開催している.CourseのChairmanは口腔外科または形成外科からのFacultyが担当し,両領域からの熱心なLFに加えて必ずIFやRFを招聘して,毎回熱い議論が交わされている.

 さて,本書の成立と日本語版の出版にかかわる話に移ろう.AO財団の活動の重点項目の1つが「教育」と並んで「記録と出版」である(AOには現在わが国で盛んに導入が進んでいる教育技法,教育者向けの最近話題のCoachingやWebinarなどを使ったe-learningの先駆けであるという側面もある).
 世界のAOCMF Principles Courseでの教育内容に反映すべく,AOCMFの理論,知識,経験を総括することを目指して,AOCMFの総力を挙げて成書の編纂が精力的に行われた結果,1998年に『Manual of Internal Fixation in the Cranio-Facial Skelton-Techniques Recommended by the AO/ASIF Maxillofacial Group』と題するきわめてユニークなマニュアルが出版された.この初版は,Basel大学顎顔面外科のJoachim Prein教授を編者としてSpringer-Verlagから上梓された.この本の著者はL. Asael,D. Clotch,P. Manson,J. Prein,B. Rahn,W. Schilliの各教授らを中心とした,この領域を取り扱う顎顔面外科,形成外科,耳鼻咽喉科などを牽引する錚々たる執筆陣であった(全7章,図198,イラスト565葉からなっている).AO法によるこの教科書が出版されるまで,これほどまでに論理体系の整った頭蓋顎顔面領域の骨外科の成書は他に類をみなかったといっていいだろう.
 わが国でもこの教科書の日本語版の出版が企画され,2002年に翻訳が試みられ作業が進んだが,公式にAO Internationalからの承認を得る機会を逃すうちに,2008年頃には第2版が発刊される予定があるとのことから,この出版を待つこととなり残念ながら中断することになった.
 第2版はMichael Ehrenfeld,Paul N Manson,Joachim Preinの3教授が編者となり,加えて39名の執筆者により,初版よりさらに内容が充実して刊行された.原著の序文にあるように,今回の翻訳関係者にとっても,まさしく「こんな教科書が研修時代に欲しかった」と思う内容である.読み進むにつれもっと先を知りたくなるように系統的に書かれてもいるし,辞典を引くようにも使える,頭蓋顎顔面外科医の座右の書たりうる1冊である.
 2012年の出版前後からAOCMF International Board会議において第2版の全世界向けの提供が話題にのぼり,AOの公用語ではないものの,頭蓋顎顔面外科医の母語として利用者が多く,要望の強いスペイン語,フランス語,中国語に並んで日本語化も討議され,AOCMF International Boardの内諾を得た.これを受けて,AOCMF Japan Board Chairmanで訳者代表の一人である近藤が2015年に具体的に進行の引き金を引いた.

 長年にわたってわが国でのAOCMF Courseのたびに,あるいは折に触れて,頭蓋顎顔面の骨外科の教科書を日本語で気楽に読みたいという要望を多く寄せていただいた.整形外科ではこのシリーズの様々な訳本がすでに出ているのに…,という怨嗟の声が届くほどであった.
 日本語版の出版が初版からみて,こんなにもあとになった責めの一部は,AOCMF Asia Pacific ChairmanとしてInternational Committeeに属していながら,実行に移す了解を得るのに手間取った者も負うべきであろう.前回の第1版の訳出に当たって精力を傾けていただいた方のなかにはすでに泉下にある方もある.本書の出版にこぎつけたことをもって,どうか諒としていただけるよう祈るばかりである.

 本書の翻訳に当たって,長い期間に渡って多大な時間と努力を割いて翻訳に当たっていただいた口腔外科医,形成外科医のExpertである諸先生に感謝申し上げ,出版に当たっては詳細綿密な準備と校正に当たっていただいた医学書院の飯村祐二氏,片山智博氏をはじめ関係の諸氏に感謝申し上げる.

 2017年のかつてない暑さ寒さと激しい気候現象が続く紫陽花の時期に
 監訳者 下郷和雄
 訳者代表 近藤壽郎
       前川二郎
       楠本健司

* AOとAOCMFグループの歴史的な流れの詳細は『Manual of Internal Fixation in the Cranio-Facial Skelton-Techniques Recommended by the AO/ASIF Maxillofacial Group』のProf. Bernd SpiesslとProf. Joachim Preinによる序文を参照していただきたい.なお,同序文はSpringer社のHPより無料閲覧が可能である(https://link.springer.com/book/10.1007%2F978-3-642-58789-4).




 頭蓋顎顔面骨の内固定の原則に関しての入門書的な内容を,その外傷と顎矯正手術に関し,これほど詳細にわたって記述した書籍はこれまで存在しない.本書は,頭蓋顎顔面骨格を対象としている様々な専門分野の専門知識と能力を融合させ,包括的に取り扱っているという点で画期的なものである.
 本書は,過去50年間にAO CourseやAOシンポジウムで講師を務めてきた多くの方々への感謝のしるしでもある.この皆さんの努力と成果がこの1冊にまとめられている.彼らは,臨床外科解剖と手術手技の原則を記述し,顔面骨格と関連軟組織の複雑さについて考察を加えてきた.
 われわれは,外傷,先天奇形,および腫瘍切除後の顔面の効果的な再建を成功に導くための術式とその教育法のアルゴリズムを開発することに生涯を費やしてきた.その結果としてのこのマニュアルが,頭蓋顎顔面外科に大きく貢献し,われわれの労力,努力と外科的経験をはっきり提示するものになっていることを誇りに思う.われわれの専門医としての修練の初めの段階にこのような教科書があったらどんなによかっただろう!
 新しいCMFマニュアルの編集を務め,この教科書に示した見事なアートワークを示すことができたことは光栄なことであった.われわれは,本書が現在と将来の頭蓋顎顔面外科医の知の助けとなり,複雑な解剖の詳細と模範的な手術結果につながる技術を習得する助けになることを願っている.

 Michael Ehrenfeld
 Paul N Manson
 Joachim Prein


はじめに

 頭蓋顎顔面骨の内固定マニュアル* の発行後14年が経過して改訂版が発行された.AOCMFの学際的観点から,外傷と顎変形症手術に関する頭蓋顎顔面骨格の内固定の原理について,口腔顎顔面外科医,形成外科医,耳鼻咽喉科医だけでなく,研究者にも執筆いただいた.この41章の執筆者は,3大陸にまたがる真の国際共同執筆陣である.
 本マニュアルは,頭蓋顎顔面外傷治療や顎矯正手術の現在の概念を提示するだけでなく,世界中の研修医や初学者の教育の重要な部分をなすAOCMF Principles Courseのための教科書でもある.
 本マニュアルは,7つのセクションに分かれ,Chapter 1は,骨に関する全般的情報,インプラントの種類と材質,頭蓋顎顔面の外傷治療の原則をカバーしている.Chapter 2からChapter 6は頭蓋顎顔面骨格のすべての部分での骨折の治療について述べており,Chapter 7では顔面骨格の標準的な骨切り術での固定法を述べている.この教科書に記載されている原則は,過去60年間にわたる,頭蓋顎顔面のバットレス再建に関する“進化”を表しているものである.標準的な手順に加えて,最近の外科の進歩と新たな展開も示されている.
 原理と手術手技は,美しく正確なイラストや写真,図表によって強調されている.文章と図を組み合わせることで,読者が解剖と手術による再構成の原理の関係を理解し,常により優れた結果を得るための困難な挑戦をする際に役立つようにしている.キーになる参考文献と推奨図書はセクションごとに示してある.
 この頭蓋顎顔面新マニュアルでは,内容の重複を避けて統一性のある本にするために多大な努力が払われた.これが成功しているか否かの判定は,今後,読者にゆだねたい.

 チューリッヒにて,2012年4月

* Prein J (1998) Manual of Internal Fixation in the Cranio-Facial Skeleton. 1st ed. Berlin Heidelberg New York: Springer-Verlag.


謝辞

 編集者は,本書の各章を著した39名の著者に感謝するとともに,読者とともに著者らの知識と経験を共有できることに感謝したい.われわれは,本書が頭蓋顎顔面外科の研修医や医員の教育に大きく貢献することを確信している.また,本全体の内容の重複を避け一貫性を確保するために,編集者が元の原稿に変更をお願いした際,求めに応じていただいたことに感謝申し上げる.われわれはまた,画像や写真などの追加のアイデアや素材を提供していただいたすべての外科医に感謝申し上げる.
 本書の制作プロジェクトにおいて編集者を助けてコーディネートしてくれたAlmuth Nussbaumer氏に,特に感謝申し上げる.過去5年間にわたって彼女は,各著者との密接な連絡を絶え間なく維持してきた.
 AOの教育チームが準備してくれた素材と本作りの専門知識なしでは,本書は制作できなかったであろう.そしてわれわれは,このプロジェクトの全体的な計画と進行管理をしてくれたUrs Rüetschi,Kathrin Lüssi,Renate Ruterの各氏に感謝する.Kathrin Lüssi氏はさらに,変更や修正を全体にわたって管理してくれた.Carl Lau,Vidula Bhoyroo,Claire Jacksonの各氏は,言語に関する編集と校正を手伝ってくれた.
 バーゼルのヌガー社のStefan Auf der Maur氏をはじめとしたイラストレーター各位とJecca Reichmuth氏に感謝する.Stefan Auf der Maur氏は本の組版でも大きく貢献していただいた.
 スイス・シンセス社のSamuel Leuenberger氏はChapter 1.4.3「インプラントの設計と機能」の器械の詳細説明とイラストのための多数の画像を精力的に整えてくれた.この教科書で,イラストを含む素材の使用を許可してくれたシンセス社に感謝する.
 さらに,Chapter 1.4.3「インプラントの設計と機能」で使用した,インプラントや器械のすばらしい写真を撮影してくれたバーゼルのBorje Müller氏に感謝する.
 最後に,この本の制作にあたって,援助と支援を送ってくれた家族に感謝を捧げる.

 Michael Ehrenfeld
 Paul N Manson
 Joachim Prein
書 評
  • 頭蓋顎顔面骨の手術を行うための格好の指南書
    書評者:福田 仁一(新百合ヶ丘総合病院歯科口腔外科研究所・所長/九州歯科大名誉教授)

     AOは“Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen”の略で,日本語の適訳はなく,しいて言えば“骨接合術問題に対する労働共同体”ということであろう。骨折の治療に対して,各科の医師が臨床上の問題を提起し,スイスのDavosで基礎的研究を行い,それに...
    頭蓋顎顔面骨の手術を行うための格好の指南書
    書評者:福田 仁一(新百合ヶ丘総合病院歯科口腔外科研究所・所長/九州歯科大名誉教授)

     AOは“Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen”の略で,日本語の適訳はなく,しいて言えば“骨接合術問題に対する労働共同体”ということであろう。骨折の治療に対して,各科の医師が臨床上の問題を提起し,スイスのDavosで基礎的研究を行い,それに伴う機材の開発を行い,手術手技を向上させ,臨床に応用していく。この一貫した臨床研究を専門職の立場に応じて教育ならびに研修を毎年Davosで開催するだけでなく,世界各地域に出向いて教育をしている組織である。

     “Manual of Internal Fixation in the Cranio-Facial Skelton”はAOCMF(AO Craniomaxillofacial)グループにより1998年に初刊され,2012年にマニュアル第2版(“Principles of Internal Fixation of the Craniomaxillofacial Skeleton”)が発刊された。これを機に,このたび日本語版が刊行されたのである。

     AOグループの第1回教育研修会は1974年にDavosで開催され,私は1984年にAO Courseを受講した。当時は4日間でAOの原理,顎骨骨折の治療,顎骨腫瘍の治療,炎症に伴う外科治療などの頭蓋顎顔面骨の内固定の理論と実技が行われた。また2001年にはAOCMF Internationalからの招聘を受けてDavosでの第75回AO Courseに講師として参加した。自分の経験を踏まえてもAOの教育研修はこのマニュアル版がベースであることに疑いはない。

     顎顔面骨骨折に際してワイヤー固定で始まった観血的骨折整復術は,AOのプレートによる骨折断端の強固な内固定で急速に治療期間が短縮された。この強固な内固定こそがAO理論の原点である。AOの原理や理論は基礎的研究が確立されているため変わることなく今日まで続いている。その中に新たな材料や機材が開発され進化したことや臨床経験が世界的に集積されたことで,より精度の高い理論や技術が構築されている。

     本書では,基本事項の中に頭蓋顎顔面骨格のバイオメカニズムや骨の生物学的反応などの骨学とインプラント材料の材質や機能などの材料学も記されているので,これから専門医として修練を始めようとする若者にとって有益である。

     実際の臨床の章では,下顎骨骨折の章ではプレートによる内固定,スクリュー単独による固定などバットレスに沿った臨床外科解剖と手術手技の原則が述べられており,顔面多発骨折の章では,順序だった治療を行うことよりも,解剖学的に適切な位置へ配置することが重要となるので,そのためのフェイシャルバットレスが明示されている。この理論に沿って手術を進めると術中に手が止まり,考え直すことが少なくなると思われる。

     本書はこれから頭蓋顎顔面骨の手術を手掛けようとする者にとって格好の指南書であり,また経験者にとっても外科医の大切な心構えとして,手術前に術式の再確認をするための座右の書として最適である。
  • 顔面骨骨折と顎矯正手術を的確に行うための教科書
    書評者:平野 明喜(日本赤十字社長崎原爆病院・院長)

     顔面骨骨折などの頭蓋顎顔面骨領域での20世紀の最大の進歩は,診断分野におけるCTの開発と,治療分野におけるプレート固定法の開発である。頭蓋顎顔面骨のプレートによる内固定によって顔面骨骨折などの治療成績が飛躍的に向上し,1980年代に広く普及した。整形外科領域で培われたノウハウを基にAOは頭蓋顎顔面...
    顔面骨骨折と顎矯正手術を的確に行うための教科書
    書評者:平野 明喜(日本赤十字社長崎原爆病院・院長)

     顔面骨骨折などの頭蓋顎顔面骨領域での20世紀の最大の進歩は,診断分野におけるCTの開発と,治療分野におけるプレート固定法の開発である。頭蓋顎顔面骨のプレートによる内固定によって顔面骨骨折などの治療成績が飛躍的に向上し,1980年代に広く普及した。整形外科領域で培われたノウハウを基にAOは頭蓋顎顔面骨領域で使用できるプレートの供給を早期から行い,同時に頭蓋顎顔面領域での内固定法の普及を目的とした教育研修会を開催してきた。そういったこともあってか,本書は顔面骨骨折と顎矯正手術を的確に行うためのシラバスのような構成となっている。基本事項の顔面骨格の解剖や生理から頭蓋顔面外傷治療の一般的な原則,各種顔面骨折と顎矯正手術の固定法に関してそれぞれに単元を設けて,多くの図表を用いて簡潔に記述されており,完成度の高い教科書である。

     ただ,原書に忠実に翻訳がなされているためか,多少難しい表現になっている箇所が少しみられた。わが国のそれぞれの分野のエキスパートによる翻訳書でもあり,もっと大胆に意訳されてもよかったかと思えた。また,308ページの顎骨骨切り術後の安定に関する項では,下顎の前方移動(10 mm以下)が「最も安定」した術式であり,下顎の後方移動が「やや不安定」な手技とされている記述がある。このような記述ではどのようなデータもしくは文献に基づく結論なのかを知るためにも引用文献の提示が必要かと思われた。各単元では最新のものまで幅広く網羅された多くの参考文献が提示されている。原書どおりなのだと思うが,それらの参考文献には引用箇所を記載してもらったほうがよかったのではないかと思えた。

     いずれにしても,顔面骨骨折と顎矯正手術では強固な内固定が現在の治療の主流であり,これらの治療にあたる多くの形成外科医や歯科口腔外科医に本書は臨床現場で有用な一冊となりうる成書である。
目 次
日本語版の序

はじめに
謝辞
執筆者一覧

1 基本事項
 1.1 はじめに
 1.2 骨
 1.3 頭蓋顎顔面骨格の骨折
  1.3.1 頭蓋顎顔面骨格のバイオメカニクス
  1.3.2 骨折と血液供給
  1.3.3 骨の生物学的反応と治癒
 1.4 インプラントの材質と型
  1.4.1 金属,表面,組織相互作用
  1.4.2 生体吸収性材料による骨接合術:過去・現在・未来
  1.4.3 インプラントのデザインと機能
 1.5 頭蓋顎顔面外傷治療の原則
  1.5.1 頭蓋顎顔面外傷治療の目標
  1.5.2 頭蓋顎顔面骨折の手術療法,非手術療法,または無治療とする適応
  1.5.3 術前術後の注意点と治療計画
  1.5.4 骨折の手術治療の原則
  1.5.5 骨-インプラント構成体のバイオメカニクス
  1.5.6 安定化の原理:スプリント固定,接合,圧迫,ラグスクリューの原理
  1.5.7 歯と歯槽骨の外傷
  1.5.8 骨折線上の歯
  1.5.9 インプラントの除去と応力回避
  1.5.10 顎間固定のテクニック
 1.6 文献および推奨図書

2 下顎骨骨折
 2.1 下顎骨正中部・傍正中部骨折
 2.2 下顎体部・下顎角部骨折
 2.3 関節突起・下顎枝・筋突起骨折
 2.4 質低下骨の骨折
 2.5 文献および推奨図書

3 中顔面骨折
 3.1 中顔面下部(Le Fort I型骨折と口蓋骨骨折)
 3.2 中顔面上部(Le Fort II型およびIII型骨折)
 3.3 頬骨上顎骨複合体骨折,頬骨弓骨折
 3.4 眼窩骨折
 3.5 鼻篩骨眼窩骨折
 3.6 鼻骨骨折
 3.7 文献および推奨図書

4 頭蓋および頭蓋底骨折
 4.1 前頭洞・前頭骨・前頭蓋底骨折
 4.2 側頭蓋底骨折
 4.3 頭蓋冠骨折
 4.4 文献および推奨図書

5 顔面多発骨折

6 成長期の骨折

7 顔面の標準的骨切り術の固定法(顎矯正手術)
 7.1 定義,診断および治療計画
 7.2 下顎の標準的な骨切り術
 7.3 上顎の標準的な骨切り術
  7.3.1 Le Fort I型骨切り術
  7.3.2 手術支援口蓋急速拡大(SARPE)
  7.3.3 歯槽部(ブロック)骨切り術と区域骨切り術
 7.4 上下顎骨切り術の順序と考慮すべき点
 7.5 周術期管理と術後管理
 7.6 合併症とピットフォール
 7.7 文献および推奨図書

クレジット
用語集
索引

用語集について
・日本の読者の利便を図るため,日本語版オリジナルとして巻末に用語集を掲載した.
・用語集に掲載されている主な用語には,項目内の本文初出時にアステリスク(*)をつけて明示した.