見逃し症例から学ぶ
神経症状の“診”極めかた

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大学病院や市民病院で神経内科診療に約40年に渡り携わってきた著者が、重大疾患の見逃し、ヒヤリハット、最終的な診断に難渋した約60症例を提示。外来でみられた神経症状から類推した初期診断から、入院後の経過を経て最終診断に至るプロセスを解説することで、神経内科の奥深さがわかる「“診”極めかた」を伝える1冊。神経内科専門医をめざす若手医師や研修医、またさまざまな症状に出合う総合診療医にも勧めたい。
平山 幹生
発行 2015年11月判型:A5頁:284
ISBN 978-4-260-02415-0
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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 筆者が約40年間の日常臨床の間に経験した症例のうち,見逃し症例やヒヤリハット症例または診断・治療に難渋した症例を提示し,神経内科疾患診療に携わっている研修医や若手~中堅医師に医療情報を提供・共有し,今後の適正な患者診療の一助となることを願って,本書をまとめた.
 本書は症例集の形をとることで,できるだけわかりやすい記載を心掛けたが,不十分な内容もあることをご容赦願いたい.
 61症例のうち,30例は救急外来で研修医が担当していて,脳梗塞やてんかんなどの common disease や,診断・治療が遅れると予後の悪い疾患である細菌性髄膜炎,感染性心内膜炎,てんかん重積,くも膜下出血などが含まれている.また,31例は神経内科指導医が担当し,まれな疾患であるが,適正な診断と治療を行うと予後が改善される症例(PML,ライム病,頭板状筋の局所性筋炎など)も含まれていて,指導医を含む中堅医師にも有益な情報を記載した.若手神経内科医や中堅医師が担当した症例は約10例ずつであり,一部は重複して受け持っていた.他の診療科からの紹介患者は12例含まれている.
 ところで,医学書院から2003年に出版された 『見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール』 は画期的な内容で感銘を受けた.このシリーズで神経内科編がそのうちに出版されるのではないかと期待していたが,いまだ出版されていない.本書がそれに見合うものになればと念願している.また,2012年に同社から出版された 『内科救急 見逃し症例カンファレンス-M&Mでエラーを防ぐ』 は,死亡症例などを提示するという画期的な著書であり,神経疾患が多数を占めていた.本書の企画は,この著書のチャレンジに沿った,神経内科診療に特化したM&Mカンファレンスでもあると考えている.
 最後に本書の企画に賛同していただいた医学書院の皆様には深謝申し上げる.また,春日井市民病院の研修医の指導で大変お世話になり,本書を企画するきっかけを与えていただいた山中克郎先生や,名古屋大学医学部神経内科学教室の先輩,同僚,後輩,および,お世話になった赴任先の病院の先生方に感謝申し上げる.

 2015年10月
 平山 幹生

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本書の読みかた
神経内科診療の達人をめざすには
誤診(診断エラー)の原因と対策

第1章 意識障害
 1 一過性意識消失と頭痛,嘔気,その後めまいを呈した患者
 2 意識障害で発症し,不穏,高次脳機能障害を呈した1型糖尿病の患者
 3 意識障害,左顔面けいれんを認めた結核性髄膜炎後遺症患者
 4 辺縁系脳炎症状を呈し,完全房室ブロックをきたした患者
 5 意識消失発作,認知症,軽度の歩行障害を呈した患者
 6 内頸動脈閉塞による広範囲の右脳半球梗塞の翌日に死亡した患者
 7 嘔吐,四肢麻痺があり,意識障害が高度であるとされた患者
 8 意識障害の変動がみられた重症筋無力症の患者
 9 しびれ,脱力,嘔気・嘔吐,嚥下障害が出現し,低Na血症がみられた患者
 10 意識障害と右片麻痺を発症した患者
 11 自宅の玄関で倒れていた患者
 12 意識レベル低下と右不全麻痺を呈した患者

第2章 頭痛
 13 腹痛,下痢,嘔吐,頭痛があり,来院時に過換気症候群を呈し,
   夜間に神経症状が悪化した患者
 14 頭痛,発熱と,単核球優位の髄液細胞増多を呈し,無菌性髄膜炎が疑われた患者
 15 頭痛,発熱,難聴で初発し,その後に著明な不随意運動を呈した患者
 16 急激な後頸部痛で目覚め,胸部以下のしびれが出現した患者
 17 肝障害後に頭痛,発熱,構音障害を呈した患者
 18 近医にて高血圧性脳症の診断を受け,頭痛が改善しなかった患者

第3章 めまい
 19 回転性めまい,嘔吐で初発し,入院翌日に急変した患者
 20 耳鼻科にて末梢性めまいにて入院した患者
 21 めまい,嘔吐,左耳鳴を呈した患者
 22 複視,めまいが出現した患者

第4章 発熱
 23 発熱,頭痛,嘔吐で初発し,その後意識障害や麻痺を呈した患者
 24 発熱と右眼が見にくいため救急車にて来院した患者
 25 食思不振,嚥下障害で初発し,その後に発熱,全身の筋肉痛を呈した患者
 26 発病初期に髄液多形核白血球の増加を呈した患者

第5章 嘔気・嘔吐,不定愁訴
 27 嘔気が1週間持続し,めまいがなかった患者
 28 急激な胸苦後に嘔吐,冷や汗を呈した患者
 29 嘔吐後に意識レベルが低下した患者
 30 不安神経様症状で発症,その後に異常行動,異常言動を呈した患者

第6章 しびれ,痛み
 31 両下肢の痛みと不定愁訴が多かった患者
 32 糖尿病に対するインスリン治療の開始後から下肢筋の硬直,痛みが出現した患者
 33 自前の味噌汁を飲んで,口唇のしびれと呼吸困難が出現した患者
 34 左下肢のしびれ感で発症し,その後,微熱,頭痛,高次機能障害を呈した患者
 35 両足底の感覚障害で発症し,近医で腰椎椎間板ヘルニアが疑われた患者
 36 高カロリー輸液と制酸薬投与中に多彩な神経症状を呈した患者
 37 足のしびれと脱力,尿失禁で発症した患者
 38 両下肢のしびれ,痛みを呈した患者
 39 背部痛があり,その後に両手のしびれが出現した患者
 40 左下腿腫脹と疼痛を呈したパーキンソン病患者
 41 腰痛で初発し,その後に軽度の意識障害と歩行障害が出現した患者

第7章 けいれん,高次脳機能障害
 42 A型劇症肝炎の経過中に脳浮腫をきたし,けいれん発作を呈した患者
 43 めまい,けいれんで初発し,同日にけいれんが再発した患者
 44 歩行障害,認知症が亜急性に進行し,経過中に急性小脳梗塞を発症した患者
 45 多彩な症状後に異常言動,行動を呈した患者
 46 進行性に高次脳機能障害を呈した患者
 47 逆行性健忘と微熱を呈した患者

第8章 脱力
 48 短期間のうちに,脳卒中様発作の再燃を繰り返した患者
 49 一過性に右片麻痺と意識障害を呈した患者
 50 一側の手指の脱力を急にきたした患者
 51 心原性脳塞栓症で入院し,ヘパリンを中止した5日後に
   著明な血小板減少をきたした患者

第9章 錐体外路症状
 52 片側パーキンソニズムを呈し,その後,神経症状が悪化した患者
 53 手のふるえ,感冒様症状で初発し,辺縁系脳炎症状を呈した患者
 54 パーキンソン病の経過中に首下がりを呈した患者

第10章 脳神経症状
 55 右視野狭窄と嘔気があり,その後に左後頭部痛が出現した患者
 56 視野障害で初発し,脳梗塞が多発性に進行した患者
 57 フェニトイン服用中に転倒,その後,構音障害が出現した患者
 58 高血圧があり,構音障害,歩行障害を呈した患者
 59 右小脳微小梗塞後に難聴が出現した患者
 60 左耳鳴と頭痛で初発し,その後に複視が出現した患者
 61 頸椎症手術前の頸椎MR画像にて異常が見逃されていた患者

索引

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診断に対する凄まじい情熱に脱帽
書評者: 山中 克郎 (諏訪中央病院総合内科/院長補佐)
 著者の平山幹生先生を私はよく知っている。名古屋近郊にある春日井市民病院という人気の研修病院で,3年間ほど研修医教育を一緒にさせていただいた。実直かつ臨床能力の高い臨床医である平山先生は当時,副院長(研修医教育担当)をされていた。神経内科だけでなく,全ての医学領域において貪欲な探究心をお持ちである。ケースカンファレンスの後で,参考になる論文はこれです,と何度も重要論文をお送りいただいた。私はそのように真理を探究する平山先生の姿勢に大変敬服している。

 平山先生が40年間の臨床経験に基づいて書かれたのがこの書である。示唆に富む教育症例は全部で61あり,「意識障害」「頭痛」「めまい」「発熱」「嘔気・嘔吐,不定愁訴」「しびれ,痛み」「けいれん,高次脳機能障害」「脱力」「錐体外路症状」「脳神経症状」の10章に分類されている。症例ごとに誤診(診断エラー)の原因と対策が分析されている。どうして診断を間違えたかを,認知エラーとシステム関連エラーに分け,さらに細かいカテゴリーから考察されている。

 私にも経験がある。自分が判断を誤った,または考察が少し足りなかったというケースを書くのは非常に心が重い。できれば思い出したくない。不幸な転帰を辿った場合にはなおさらである。しかし,人は失敗から多くのことを学ぶ。医師もまた然りである。事実に基づいて症例を深く振り返り,どこで思慮が不足していたのかを分析することは重要である。また同じような患者が現れるかもしれない。本書で学んだ医師が,同じピットフォールに陥ることを防いでくれる。

 「神経内科診療の達人」になるための12か条が書かれている(p. vii)。「患者から学ぶ姿勢を貫く」「疾患の診断のポイントを覚えておく」「問診で鑑別すべき診断を頭に浮かべ,要領良く所見をとっていく」……書かれていることの多くは,全ての内科医が心掛けるべき重要事項だ。

 「辺縁系脳炎症状を呈し,完全房室ブロックをきたした患者」(p.15)の診断過程が非常に興味深い。MEDLINEでencephalitis,myocarditisのキーワードを入力し類似症例を検索する。その後に確定診断のため,冷凍保存されていた9年前のペア血清を用いて外注検査を依頼したそうだ。診断に対する,凄まじい情熱に脱帽である。

 最終診断後の文献的考察を交えた疾患に関する詳細な解説が非常に勉強になる。NMO spectrum disorderは最新の診断基準が紹介されている(p.158)。小脳・脳幹の血管支配についてのシェーマは秀逸でわかりやすい。「首下がり患者で鑑別すべき疾患」(p.230)など,キーワードから連想される疾患についての整理は日常臨床で非常に役立つだろう。これから神経内科医をめざす若手医師はもちろんのこと,神経疾患の診断が得意になりたいプライマリ・ケア医にも強く購読を勧めたい素敵な医学書なのである。
経過を深く詳細に粘り強く観察することを説く一冊
書評者: 高橋 昭 (名大名誉教授)
 「こんな本があったら」と,かねて願っていた本が出版された。勘違い,手落ち,不手際,不覚,思い込み,などさまざまな誤りは,神ならぬ人にとって避けて通れない性〈さが〉である。しかし,医療には,誤りは許されず,細心の注意と配慮が求められる。

 誤り(誤診)の原因は,患者側にある場合と診察者側にある場合とがある。本書の序論に相当する「誤診(診断エラー)の原因と対策」の章では,原因を(1)無過失エラー,(2)システム関連エラー,(3)認知エラーの3種に類型化し,さらにそれらを細分した分類を引用し,本書で扱われている各症例の誤診原因をこの分類と照合させている。本序論は必読の価値がある。

 診療の第一歩である病歴聴取は,診断上重要な要素であるが,患者の訴え(complaint),症状(symptom)が完全無欠であることはまれである。詳細で慎重な病歴聴取であっても,誤診の原因になり得ることがあり,上記の「無過失エラー」に属する。診断の正否は病歴聴取が分岐点となることが多く,初診時から誤りが起こり得る(症例33,フグ中毒,p.138)。

 本書は,主訴に基づく10章から構成されており,症例数は61例の多きに達する。「初期診断」(多くは正しい診断ではない)はさまざまな検討を経て「“診”極める(最終診断)」に至り,その間の試行錯誤,苦心,そして最後の解説,教訓(反省)が本書の核心である。引用された参考文献には「解説」が付記されており,これが大変有用である。「Memo」欄には症例や疾患に関する著者の備忘録が記されている。著者の豊富な経験,慎重な態度,博覧強記には圧倒されるばかりである。

 日常診療でよく遭遇する「めまい」「頭痛」「しびれ,痛み」「脱力」などの章では,初診時には予期しない重大な疾患が潜んでいることが少なくないとの警告が心に響く。

 剖検にて初めて診断が確定された経験をもつ医師は少なくなかろう。しかし,本書に記載された大部分の症例では,病理診断ではなく,経過観察,適切な画像・髄液・血清学的検査の施行,文献検索などによって最終診断に至っている。当初診断不明例で,血清を保存,9年後に外注検査を行い,コクサッキーウイルスB4感染症であったことが確認された例(症例4,p.15)や,特発性正常圧水頭症が考えられていながら,脳神経外科医からその診断に賛同が得られず,4年後になって本症に診断基準が提唱され,本症と確認した症例(症例5,p.18)などは,強い教訓を与える。経過を深く詳細に,かつ粘り強く観察することは,正確な診断への王道であることが説かれている。

 本書は1回限りで読み捨てるものではなく,再読されるべきである。扱われた症例の,性,年齢,主訴,初診時の診断,最終診断が一覧表としてまとめられれば,さらに座右の書としての利便性,また再読の価値が高まるであろう。

 学生実習には経過観察の教育が欠けている。本書は,学生や多くの臨床医家にとって,必読の書であるとともに,さらにベテランの神経内科医にとっても多くの貴重な示唆を与える書であることを確信する。
神経内科の臨床に携わる全ての医師必読の書
書評者: 玉岡 晃 (筑波大学教授・神経内科学/筑波大学附属病院副病院長)
 2015(平成27)年11月末に開催された第33回日本神経治療学会総会(会長:祖父江元・名古屋大学教授)において,「症例から学ぶ」というユニークなセッション(座長:鈴木正彦・東京慈恵会医科大学准教授)に参加した。「神経内科診療のピットフォール:誤診症例から学ぶ」という副題がついており,春日井市総合保健医療センターの平山幹生先生(以下,著者)が演者であった。

 臨床医学のみならず基礎医学にも通じた該博な知識の持ち主でいらっしゃる著者が,どのような症例提示をされるか,興味津々であったが,予想に違わず,その内容は大変示唆に富む教育的なものであった。自ら経験された診断エラーや診断遅延の症例を紹介し,その要因を分析し,対策についても述べられた。講演の最後に紹介されたのが,この『見逃し症例から学ぶ 神経症状の“診”極めかた』であり,講演で提示された症例も含めた,教訓に富む症例の集大成らしい,ということで,早速入手し,じっくりと味わうように通読した。

 本書は,約40年間にわたる著者の臨床経験の中から,見逃し症例やヒヤリハット症例または診断・治療に難渋した症例を提示し,適正な診療の一助となるべく,その教訓となる点を明示した,気鋭の書である。著者は,医学書院刊の 『見逃し症例から学ぶ 日常診療のピットフォール』(生坂政臣著)に感銘を受け,その神経内科版をめざして本書を企画し,神経内科診療に特化したM&Mカンファレンスの体裁を採っている。

 その構成は極めてユニークであり,意識障害や頭痛,めまいなど,日常臨床で遭遇する頻度の高い症候で章立てされ,章別に分類された症例提示の後,初期診断から最終診断に至る経過の解説があり,問題点から抽出された教訓や過失の解析まで明確にしており,読者の印象に残るように工夫されている。文献も学術誌の症例報告並みに詳しく的確であり,重要なものには解説まで付けられている。各提示症例の空きスペースには,認知エラーを導く認知反応傾向や認知バイアスの矯正方略が紹介されており,神経内科医のみならず,臨床各科の医師に有益な内容となっている。

 本文以外にも,巻頭の「神経内科診療の達人をめざすには」では,著者の長年にわたる臨床経験から絞り出された珠玉のようなエッセンスが盛り込まれており,神経内科医にとっての貴重な指針となっている。また,「誤診(診断エラー)の原因と対策」では,無過失エラー,システム関連エラー,認知エラーの内容の解説とともに,誤診に至るピットフォールと是正対策も示されており,神経内科医のみならず臨床医全てが知っておくべき,臨床推論の基本が示されている。

 以上のように,本書は全編を通じて,著者の臨床経験から滲み出たclinical pearlsがちりばめられており,読者は提示症例を追体験し,自らの臨床推論を試みながら,主な神経疾患の診断時に陥る可能性のあるピットフォールを学べるようになっている。神経内科の臨床に携わる全ての医師必読の書であると言っても過言ではないだろう。

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