呼吸器診療において進むべき道のりを照らす暖かい光
書評者:中島 啓(亀田総合病院呼吸器内科医長)
日常診療は常に悩みの連続である.呼吸器診療だけでなく,多くの診療科で共通することかもしれないが,医学においては,確立されたエビデンスが存在しない領域も多々ある.呼吸器内科専門医であっても,臨床の中では,「分かれ道」に立たされることは少なくない.呼吸器診療における「分かれ道」に遭遇した臨床医は,自分の臨床経験,教科書・文献データに基づき,悩みながらも「目の前の患者の幸福につながる」と信じる決断をしていくことになる.
本書『呼吸器診療「ここが分かれ道」』は,呼吸器内科医から総合診療医まで,呼吸器診療に携わるものなら誰もが持つような設問に対して,著者の経験,現時点での最新文献に基づく答えと思考過程を,わかりやすく示してくれている.著者のブログ「呼吸器内科医」(
http://pulmonary.exblog.jp/)は質の高い文献情報が豊富で,呼吸器内科医なら誰もが知る人気ブログとなっているが,本書籍も最新文献と臨床情報を読者に提供する期待通りの内容である.
私が特に印象に残った設問とその答えを下記に記す.
● 「吸入薬はpMDIとDPIのどちらを使えばよいのか?」(p.99)
→ 若い患者さんはDPI,高齢者は使い勝手で好きなほうを.
● 「喘息発作・COPD急性増悪に対する全身性ステロイドは
全例リンデロン
®でよい?」(p.110)
→ 答えはないが,プレドニン錠
®でもよい.
● 「呼吸器内科におけるステロイドパルス療法のタイミングは?」(p.150)
→ エビデンスがないので経験則に基づいているのが現状である.
● 「肺がんが確定した後でも禁煙をすすめたほうがよい?」(p.180)
→ 生存期間を延長する可能性があるので,禁煙をすすめたほうがよい.
● 「喀痰から緑膿菌がずっと検出されている気管支拡張症に打つ手はあるか?」(p.217)
→ 現時点では根本的対策に乏しい.
設問ごとに,最新の文献や著者の経験に基づく,コンパクトな解説が掲載されている.若手医師が確実に押さえておくべきところは太字で示され記憶にも残りやすく,明日からの実臨床に役立つ内容になっている.
主な対象は初期研修医2年目から後期研修医までの若手医師と思われるが,呼吸器内科専門医が読んでも十分読み応えがあり,知識の整理に役立つと感じた.私は医師10年目の呼吸器内科専門医であるが,私自身も頭の中で何となく思っていたことが,わかりやすく整理され,シンプルな結論を導いており感動した.また,著者の「患者の幸福を実現したい」という思いが,ひしひしと伝わってきた.
本書は,呼吸器内科を志す者,そして,悩ましい呼吸器診療の「分かれ道」に遭遇する若手医師にとって,進むべき道のりを照らす光になるであろう.また,著者の呼吸器診療にかける熱い思いは,呼吸器内科の面白さや魅力を私たちに教えてくれる.呼吸器診療に携わる若手医師にとって,必読の1冊と言える.