現象学的看護研究
理論と分析の実際
現象学的方法を用いた看護研究を理解するための1冊
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質的研究の代表的な手法の1つである現象学的研究について、基礎となる理論から具体的な分析の実際までを解説。カラー別冊「現象学的方法を用いたインタビューデータ分析の実際」では、実際の分析の流れがみえてくる。難解といわれる現象学的方法を用いた看護研究に取り組む研究者はもちろん、大学院生にも必読の1冊。
● 『週刊医学界新聞』 関連記事
〔鼎談〕 現象学的看護研究のMethodを追って(松葉祥一,西村ユミ,グレッグ美鈴)
(第3101号 2014年11月17日)
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- 目次
- 書評
序文
開く
はじめに
本書は,現象学的看護研究について学ぼうとする方々のために書かれたテキストである.現象学的研究についてはじめて学ぶ方から,本格的に研究を始めようと思っている方まで,多くの方々に読んでいただきたい.
現象学的研究の目的は,「生きられた経験」を明らかにすることである.例えば病と共に生きている人の経験をインタビューや参加観察などによって記述し,その記述を読み解くことによってその人の「生きられた経験」を明らかにするとともに,そこに場合によっては一般的構造を見出そうとするのである.
ただ,そのための方法は一つではない.現象学的研究が「開かれた方法」であることは,序論からすぐに理解していただけるだろう.この場合の「開かれた」というのは,誰でも手がけることができるという意味と同時に,あらかじめ手順が決まっていないという意味でもある.現象学的研究の場合,研究テーマによって,それに適した方法を見出さなければならないのである.
したがって,本書は標準的なマニュアルや手順書の類ではない.本書にあるのは,多様な現象学的研究の方法と,その理論的根拠についての議論だけである.この点が本書の特色の一つである.第2部の第1章ではジオルジやコレッツィらの研究方法が概観され,第2章では村上靖彦の研究方法が,第3章ではP・ベナーの研究方法が比較的詳しく紹介される.そして特に第3部には,西村ユミが行った現象学的研究の研究計画から倫理審査,インタビュー,データ分析までが,詳しい解説と同時に収められている.データ分析のノート(別冊参照)が公開されるのは,おそらく初めてのことであろう.また補章では,実際に現象学的研究を行った指導者や大学院生の方法や経験が紹介されている.資料編では,現象学的看護研究に基づく代表的な著作と論文の内容と方法が紹介される.
ただ,実際に現象学的研究を行うためには,こうした方法を参考にしながらも,研究対象によってそのつど方法を考える必要がある.そのために必要な考え方については,第1部が助けになるだろう.
本書のもう一つの特色は,看護学と哲学の研究者が6年間にわたって行った共同研究の成果だということである.哲学用語の解説にも力を注ぎ,なるべくわかりやすい記述を心がけたつもりである.現象学的研究が「開かれた方法」であるということは,これからも議論と修正を重ねなければならないということである.読者の皆さんのご意見をぜひお寄せいただきたい.
2014年10月
松葉祥一
本書は,現象学的看護研究について学ぼうとする方々のために書かれたテキストである.現象学的研究についてはじめて学ぶ方から,本格的に研究を始めようと思っている方まで,多くの方々に読んでいただきたい.
現象学的研究の目的は,「生きられた経験」を明らかにすることである.例えば病と共に生きている人の経験をインタビューや参加観察などによって記述し,その記述を読み解くことによってその人の「生きられた経験」を明らかにするとともに,そこに場合によっては一般的構造を見出そうとするのである.
ただ,そのための方法は一つではない.現象学的研究が「開かれた方法」であることは,序論からすぐに理解していただけるだろう.この場合の「開かれた」というのは,誰でも手がけることができるという意味と同時に,あらかじめ手順が決まっていないという意味でもある.現象学的研究の場合,研究テーマによって,それに適した方法を見出さなければならないのである.
したがって,本書は標準的なマニュアルや手順書の類ではない.本書にあるのは,多様な現象学的研究の方法と,その理論的根拠についての議論だけである.この点が本書の特色の一つである.第2部の第1章ではジオルジやコレッツィらの研究方法が概観され,第2章では村上靖彦の研究方法が,第3章ではP・ベナーの研究方法が比較的詳しく紹介される.そして特に第3部には,西村ユミが行った現象学的研究の研究計画から倫理審査,インタビュー,データ分析までが,詳しい解説と同時に収められている.データ分析のノート(別冊参照)が公開されるのは,おそらく初めてのことであろう.また補章では,実際に現象学的研究を行った指導者や大学院生の方法や経験が紹介されている.資料編では,現象学的看護研究に基づく代表的な著作と論文の内容と方法が紹介される.
ただ,実際に現象学的研究を行うためには,こうした方法を参考にしながらも,研究対象によってそのつど方法を考える必要がある.そのために必要な考え方については,第1部が助けになるだろう.
本書のもう一つの特色は,看護学と哲学の研究者が6年間にわたって行った共同研究の成果だということである.哲学用語の解説にも力を注ぎ,なるべくわかりやすい記述を心がけたつもりである.現象学的研究が「開かれた方法」であるということは,これからも議論と修正を重ねなければならないということである.読者の皆さんのご意見をぜひお寄せいただきたい.
2014年10月
松葉祥一
目次
開く
序論 現象学的研究を学ぶために
1 現象学的研究はなぜ難しいのか
1.現象学的研究に必要な視点の変更
2.現象学的研究の看護学への適用
2 マニュアルではなく思考の筋道を
1.命題定立型の研究
2.「開かれた方法論的態度」としての現象学
3 本書の概要
第1部 現象学的看護研究の理論と歴史
第1章 現象学とは何か
1 なぜ現象学だったのか
直接経験とはどのようなものか
2 どうすれば直接経験に帰れるか-還元
1.どうすれば意識の外に実在する対象を正しく知ることができるか
2.意識の根本的な働きとしての志向性
3 現象学的研究は「役に立つ」か
1.現象学は主観的なのか
2.偶然の出来事の細部を明らかにする
3.個別性と一回性のなかにこそ興味深い構造が隠れている
4 現象学は看護研究に適用できるか
1.看護師の語りと分析者の視線が互いに浸透し合ったデータ分析
2.他者についての現象学
第2章 現象学の歴史
1 フッサール現象学の誕生とその背景
1.エトムント・フッサール
2.エルンスト・マッハ
3.フランツ・ブレンターノ
2 『危機』書と生活世界
生活世界へと回帰することの重要性
3 メルロ=ポンティとシュッツ
1.モーリス・メルロ=ポンティ
2.アルフレッド・シュッツ
【column】フェミニズム現象学
4 ディルタイと解釈学的心理学
1.ヴィルヘルム・ディルタイ
2.体験の理解とは
5 ハイデガーの解釈学的現象学
1.マルティン・ハイデガー
2.ハンス=ゲオルグ・ガーダマー
3.ルートヴィヒ・ビンスワンガー
第3章 現象学的看護研究の歴史と現状
1 思想としての,対人関係理解のための現象学
1.心理学者である早坂からの導入
2.哲学者の思想運動からの導入
2 現象学を導入した理論と現象学的方法の構築
1.パターソン&ズデラッドとその方法
2.パースィとその方法
3.ワトソンとその方法
3 多様な学術論文(現象学的看護研究)へ
4 日本の動向-学位論文と特集より
5 近年の動向
第2部 研究方法としての現象学
第1章 質的研究のなかの現象学
1 量的研究方法と質的研究方法
1.四つの探求レベル
2.量的研究と質的研究の違い
3.ミックスメソッドの使用について
2 質的研究方法のなかでの現象学的研究の位置づけ
1.質的研究の定義と特徴
2.現象学とグラウンデッド・セオリーの違い
3.看護学研究のうち,質的研究を用いた論文数の推移
3 多様な現象学的研究方法
1.ジオルジとその方法
2.コレッツィとその方法
3.ヴァン・マーネンとその方法
4.現象学的な研究の例
第2章 現象学的研究の方法-哲学の視点から
1 インタビュー
1.インタビュアーの機能
2.即興的反省
2 データ分析
1.ビデオカメラのように
2.モチーフ-語りと経験の個別性
3.シグナル-語りの細部と経験の大きな流れ
4.ノイズ-複数の文脈の交差点
3 構造の取り出しと概念化
1.基本カテゴリー-時間,空間,身体,言語,制度
2.現象とは〈流れ〉である
3.概念化と哲学的概念との対話
第3章 ベナーの解釈学的方法
1 解釈学的研究の特徴-人間の時間性・社会性・実践性・身体性への注目
1.時間性への注目
2.社会性への注目
3.実践性への注目
4.身体性への注目
2 解釈学的研究と現象学的研究
3 解釈学的研究の妥当性
1.データに最良の説明を与えるものであること
2.解釈が検証可能で受けいれられるものであること
3.解釈が理解の増大をもたらすものであること
4.解釈の対象となる世界の実践,意味,連関,実践知を明らかにするもので
あること
4 解釈学的看護研究のプロセス
1.研究計画
2.インタビュー
3.解釈
5 解釈学的研究への批判
【インタビュー】解釈的看護研究の方法と教育-ベナー氏に聞く
第3部 現象学的看護研究の実際 “看護”はいかに語られ継承され得るか
第1章 研究動機から研究目的へ-何を明らかにしたいのか
はじめに-方法について
1 研究動機から研究目的へ
2 “探求しようとする事象”と“私”との結びつきを解きほぐす経験の記述
【column】事象との関係を解きほぐす
3 先行研究の検討
文献検討のポイント
4 共同研究のメンバーとの議論,および予備的な調査
5 予備的インタビュー
【column】参加者の志向性に関心を向けること
第2章 なぜ現象学を手がかりにする必要があるのかを検討する
1 事象の特徴の検討
2 事象そのものへたち帰ることの要請
第3章 調査の仕方を考える:インタビューとフィールドワーク
1 インタビューの計画
【column】現象学におけるインタビュー法
2 フォーカス・グループ・インタビュー
3 フィールドワーク
【研究計画書の作成】
4 倫理的配慮について
第4章 データを読み,分析し,記述する
1 データの準備
2 データを繰り返し読む
1.“文脈”に留意して読む
2.気になる表現をマークする
3 気になる表現を読んでいく
4 語り方が示すことを読む
1.「誰が」の繰り返し
2.逆説の表現
3.質問と応答のずれ
5 展開を読む
1.看護の視点を私の視点として探る
2.自分の言いたいことの探究
3.何が譲れないのか-普通に看護師だったらすること
4.「それがキーワードかも」へ
6 分析の視点を振り返る
1.主語を誰(何)として語っているか
2.何に関心が向けられているのか
3.経験はいかに更新されているのか
4.インタビュアーの質問に対してインタビュイーはいかに応答したか
7 記述を洗練する
8 記述の構成を定めて再記述する
9 考察を書き,「問題の所在」を見直す
補章
■現象学的看護研究における個人的経験
1 現象学との出会い
2 大学院生の研究の概略
3 分析における疑問
4 分析における注意点(指導を受けた内容)
1.語りのなかにキーワードとなる言葉や出来事を見つけ出す
2.核心となることは何かを読み取る
3.テーマについてわかったことを具体的な言葉でサマリーとする
4.解釈する
5.パラダイムケースの構造を明らかにする
5 大学院生とともに指導を受けた経験から思ったこと
■大学院生が現象学的看護研究を行った経験から
●構造を一つひとつ読み解いた,私の現象学的研究の経験の振り返り
1.研究テーマへの関心とその移り変わり
2.研究フィールドとインタビューの方法
3.データの分析・解釈方法
●学位論文において現象学を手がかりとした質的研究を行った経験
1.私が研究テーマへの関心をもったきっかけ
2.現象学,そして西村先生との出会い
3.インタビュー法とフィールド調査
4.データ分析
5.現象学を手がかりとして研究を行ったなかで
●私の研究経験
1.研究の問いを問い続けていたら,現象学がやってきた
2.研究計画を立てる
3.インタビューと分析・記述
資料編
・現象学に関する用語解説
・現象学的看護研究に関する著作紹介
・現象学的看護研究に関する国内論文紹介
・現象学的研究に関する海外論文紹介
・現象学をもっと知りたい人のためのブックガイド
あとがき
索引
別冊:現象学的方法を用いたインタビューデータ分析の実際
1 現象学的研究はなぜ難しいのか
1.現象学的研究に必要な視点の変更
2.現象学的研究の看護学への適用
2 マニュアルではなく思考の筋道を
1.命題定立型の研究
2.「開かれた方法論的態度」としての現象学
3 本書の概要
第1部 現象学的看護研究の理論と歴史
第1章 現象学とは何か
1 なぜ現象学だったのか
直接経験とはどのようなものか
2 どうすれば直接経験に帰れるか-還元
1.どうすれば意識の外に実在する対象を正しく知ることができるか
2.意識の根本的な働きとしての志向性
3 現象学的研究は「役に立つ」か
1.現象学は主観的なのか
2.偶然の出来事の細部を明らかにする
3.個別性と一回性のなかにこそ興味深い構造が隠れている
4 現象学は看護研究に適用できるか
1.看護師の語りと分析者の視線が互いに浸透し合ったデータ分析
2.他者についての現象学
第2章 現象学の歴史
1 フッサール現象学の誕生とその背景
1.エトムント・フッサール
2.エルンスト・マッハ
3.フランツ・ブレンターノ
2 『危機』書と生活世界
生活世界へと回帰することの重要性
3 メルロ=ポンティとシュッツ
1.モーリス・メルロ=ポンティ
2.アルフレッド・シュッツ
【column】フェミニズム現象学
4 ディルタイと解釈学的心理学
1.ヴィルヘルム・ディルタイ
2.体験の理解とは
5 ハイデガーの解釈学的現象学
1.マルティン・ハイデガー
2.ハンス=ゲオルグ・ガーダマー
3.ルートヴィヒ・ビンスワンガー
第3章 現象学的看護研究の歴史と現状
1 思想としての,対人関係理解のための現象学
1.心理学者である早坂からの導入
2.哲学者の思想運動からの導入
2 現象学を導入した理論と現象学的方法の構築
1.パターソン&ズデラッドとその方法
2.パースィとその方法
3.ワトソンとその方法
3 多様な学術論文(現象学的看護研究)へ
4 日本の動向-学位論文と特集より
5 近年の動向
第2部 研究方法としての現象学
第1章 質的研究のなかの現象学
1 量的研究方法と質的研究方法
1.四つの探求レベル
2.量的研究と質的研究の違い
3.ミックスメソッドの使用について
2 質的研究方法のなかでの現象学的研究の位置づけ
1.質的研究の定義と特徴
2.現象学とグラウンデッド・セオリーの違い
3.看護学研究のうち,質的研究を用いた論文数の推移
3 多様な現象学的研究方法
1.ジオルジとその方法
2.コレッツィとその方法
3.ヴァン・マーネンとその方法
4.現象学的な研究の例
第2章 現象学的研究の方法-哲学の視点から
1 インタビュー
1.インタビュアーの機能
2.即興的反省
2 データ分析
1.ビデオカメラのように
2.モチーフ-語りと経験の個別性
3.シグナル-語りの細部と経験の大きな流れ
4.ノイズ-複数の文脈の交差点
3 構造の取り出しと概念化
1.基本カテゴリー-時間,空間,身体,言語,制度
2.現象とは〈流れ〉である
3.概念化と哲学的概念との対話
第3章 ベナーの解釈学的方法
1 解釈学的研究の特徴-人間の時間性・社会性・実践性・身体性への注目
1.時間性への注目
2.社会性への注目
3.実践性への注目
4.身体性への注目
2 解釈学的研究と現象学的研究
3 解釈学的研究の妥当性
1.データに最良の説明を与えるものであること
2.解釈が検証可能で受けいれられるものであること
3.解釈が理解の増大をもたらすものであること
4.解釈の対象となる世界の実践,意味,連関,実践知を明らかにするもので
あること
4 解釈学的看護研究のプロセス
1.研究計画
2.インタビュー
3.解釈
5 解釈学的研究への批判
【インタビュー】解釈的看護研究の方法と教育-ベナー氏に聞く
第3部 現象学的看護研究の実際 “看護”はいかに語られ継承され得るか
第1章 研究動機から研究目的へ-何を明らかにしたいのか
はじめに-方法について
1 研究動機から研究目的へ
2 “探求しようとする事象”と“私”との結びつきを解きほぐす経験の記述
【column】事象との関係を解きほぐす
3 先行研究の検討
文献検討のポイント
4 共同研究のメンバーとの議論,および予備的な調査
5 予備的インタビュー
【column】参加者の志向性に関心を向けること
第2章 なぜ現象学を手がかりにする必要があるのかを検討する
1 事象の特徴の検討
2 事象そのものへたち帰ることの要請
第3章 調査の仕方を考える:インタビューとフィールドワーク
1 インタビューの計画
【column】現象学におけるインタビュー法
2 フォーカス・グループ・インタビュー
3 フィールドワーク
【研究計画書の作成】
4 倫理的配慮について
第4章 データを読み,分析し,記述する
1 データの準備
2 データを繰り返し読む
1.“文脈”に留意して読む
2.気になる表現をマークする
3 気になる表現を読んでいく
4 語り方が示すことを読む
1.「誰が」の繰り返し
2.逆説の表現
3.質問と応答のずれ
5 展開を読む
1.看護の視点を私の視点として探る
2.自分の言いたいことの探究
3.何が譲れないのか-普通に看護師だったらすること
4.「それがキーワードかも」へ
6 分析の視点を振り返る
1.主語を誰(何)として語っているか
2.何に関心が向けられているのか
3.経験はいかに更新されているのか
4.インタビュアーの質問に対してインタビュイーはいかに応答したか
7 記述を洗練する
8 記述の構成を定めて再記述する
9 考察を書き,「問題の所在」を見直す
補章
■現象学的看護研究における個人的経験
1 現象学との出会い
2 大学院生の研究の概略
3 分析における疑問
4 分析における注意点(指導を受けた内容)
1.語りのなかにキーワードとなる言葉や出来事を見つけ出す
2.核心となることは何かを読み取る
3.テーマについてわかったことを具体的な言葉でサマリーとする
4.解釈する
5.パラダイムケースの構造を明らかにする
5 大学院生とともに指導を受けた経験から思ったこと
■大学院生が現象学的看護研究を行った経験から
●構造を一つひとつ読み解いた,私の現象学的研究の経験の振り返り
1.研究テーマへの関心とその移り変わり
2.研究フィールドとインタビューの方法
3.データの分析・解釈方法
●学位論文において現象学を手がかりとした質的研究を行った経験
1.私が研究テーマへの関心をもったきっかけ
2.現象学,そして西村先生との出会い
3.インタビュー法とフィールド調査
4.データ分析
5.現象学を手がかりとして研究を行ったなかで
●私の研究経験
1.研究の問いを問い続けていたら,現象学がやってきた
2.研究計画を立てる
3.インタビューと分析・記述
資料編
・現象学に関する用語解説
・現象学的看護研究に関する著作紹介
・現象学的看護研究に関する国内論文紹介
・現象学的研究に関する海外論文紹介
・現象学をもっと知りたい人のためのブックガイド
あとがき
索引
別冊:現象学的方法を用いたインタビューデータ分析の実際
書評
開く
「開かれた方法」である現象学的研究方法への重い扉を開く待望書 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 高橋 照子 (徳島文理大学大学院看護学研究科)
日本の看護界に現象学が紹介されたのは1960年代であり,1980年代の,「ゲンショウガクとは,どういう字を書くのですか」と問われたときを経て,今日看護師らの現象学への関心は高まっている。それに呼応して何冊かの解説書が出版されているが,「いいのかな?」という思いが続いていた。そんな評者にとって,本書はまさに待望の書である。
「現象学的方法は哲学だけのものではなく,看護を含む経験諸科学に開かれているという立場」に立つ哲学者である松葉と,現象学的研究を続ける看護学者である西村が編者である本書は,看護研究のあり方を具現化しているといえる。すなわち,看護現象の量的研究に統計学者が加わり,実験研究では医学者・工学者等の自然科学者との共同研究がなされているように,看護における現象学的研究には哲学者との協働が必要だということである。
現象学的研究に関心を持つ人には,第1部「第1章 現象学とは何か」「第2章 現象学の歴史」をしっかりと読んでいただきたい。なぜ自分が現象学に関心をもったのかわかるだろう。それはまた,看護学が諸科学の発展の一端にあることを知ることにもなるはずである。「第3章 現象学的看護研究の歴史と現状」は,現象学が看護へ導入された経緯と現状を理解するためにも有益である。
第2部「第1章 質的研究のなかの現象学」では,特に,現象学とグラウンデット・セオリーの違いが分かりやすく示されている。また,ジオルジ,コレッツィらの現象学的研究方法が具体的に示されており,現象学を理解している編者らの血の通った記述である。「第2章 現象学的研究の方法─哲学の視点から」「第3章 ベナーの解釈学的方法」は,初学者にとっては難しいかもしれないので,自分で1度現象学的研究を試みた後に読むと参考になるだろう。
「第3部 現象学的看護研究の実際」は,現象学的研究に取り組もうと考えている人たちにとっては必読であるが,これが唯一の方法であると読むことを,編者らは恐れているはずである。ここでは,特に最後の「私の研究経験」にある,「研究の問いを問い続けていたら,現象学がやってきた」との記述は,現象学的研究方法の真髄をついている。
本書全体が,「研究をはじめる前にあらかじめ現象学的研究をすることを目指したのでは本末転倒」,研究方法自体も「事象そのものから」定められるものであるのが現象学的研究であり,だからこそ現象学の理解が必要なのだという姿勢に貫かれている。また,用語解説や関連書,研究の紹介などもあり,必読書として自信をもってお勧めする。
(『看護教育』2015年4月号掲載)
書評者: 高橋 照子 (徳島文理大学大学院看護学研究科)
日本の看護界に現象学が紹介されたのは1960年代であり,1980年代の,「ゲンショウガクとは,どういう字を書くのですか」と問われたときを経て,今日看護師らの現象学への関心は高まっている。それに呼応して何冊かの解説書が出版されているが,「いいのかな?」という思いが続いていた。そんな評者にとって,本書はまさに待望の書である。
「現象学的方法は哲学だけのものではなく,看護を含む経験諸科学に開かれているという立場」に立つ哲学者である松葉と,現象学的研究を続ける看護学者である西村が編者である本書は,看護研究のあり方を具現化しているといえる。すなわち,看護現象の量的研究に統計学者が加わり,実験研究では医学者・工学者等の自然科学者との共同研究がなされているように,看護における現象学的研究には哲学者との協働が必要だということである。
現象学的研究に関心を持つ人には,第1部「第1章 現象学とは何か」「第2章 現象学の歴史」をしっかりと読んでいただきたい。なぜ自分が現象学に関心をもったのかわかるだろう。それはまた,看護学が諸科学の発展の一端にあることを知ることにもなるはずである。「第3章 現象学的看護研究の歴史と現状」は,現象学が看護へ導入された経緯と現状を理解するためにも有益である。
第2部「第1章 質的研究のなかの現象学」では,特に,現象学とグラウンデット・セオリーの違いが分かりやすく示されている。また,ジオルジ,コレッツィらの現象学的研究方法が具体的に示されており,現象学を理解している編者らの血の通った記述である。「第2章 現象学的研究の方法─哲学の視点から」「第3章 ベナーの解釈学的方法」は,初学者にとっては難しいかもしれないので,自分で1度現象学的研究を試みた後に読むと参考になるだろう。
「第3部 現象学的看護研究の実際」は,現象学的研究に取り組もうと考えている人たちにとっては必読であるが,これが唯一の方法であると読むことを,編者らは恐れているはずである。ここでは,特に最後の「私の研究経験」にある,「研究の問いを問い続けていたら,現象学がやってきた」との記述は,現象学的研究方法の真髄をついている。
本書全体が,「研究をはじめる前にあらかじめ現象学的研究をすることを目指したのでは本末転倒」,研究方法自体も「事象そのものから」定められるものであるのが現象学的研究であり,だからこそ現象学の理解が必要なのだという姿勢に貫かれている。また,用語解説や関連書,研究の紹介などもあり,必読書として自信をもってお勧めする。
(『看護教育』2015年4月号掲載)