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看護管理者のコンピテンシー・モデル
開発から運用まで

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看護管理者が有すべき能力(コンピテンシー)について、看護管理初心者からベテランまでが段階的(レベル0~5)に理解して学び、自身の看護管理でのより高い成果を得るための実践的なモデルを示す。本書は、看護部門でコンピテンシー・モデルを開発し運用するための初めての手引き書。
虎の門病院看護部では、本書へのご意見、ご感想、ご質問を下記URLにて受け付けています。
 http://www.toranomon-nurse.com/nurse/competency
虎の門病院看護部
発行 2013年09月判型:B5頁:152
ISBN 978-4-260-01905-7
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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はじめに

 本書は,看護師長や主任看護師など看護管理者の育成を支援するためのツールとして開発したコンピテンシー・モデルを紹介するものである。
 看護管理者は経験を積むことによって,また研修などで知識を得ることによって職務を遂行する能力を獲得していくが,保有する能力を発揮したかどうかが評価され,フィードバックを受けることによりさらに能力が向上していく。そのときのフィードバックを客観的で妥当性のあるものにするため,評価の基準にコンピテンシーを取り入れた。コンピテンシーとは,「ある職務や状況において,高い成果・業績を生み出すための特徴的な行動特性」であり,目に見える行動によって能力を発揮しているかどうか,どのような行動を学習することで成長できるかを判断できるからである。ただし,「コンピテンシー」=「行動」という限定的な解釈ではなく,その行動を裏づける思考パターンにも焦点を当て総合的な能力を行動から分析していくという考え方をベースにしている。
 また,構築したコンピテンシー・モデルは人材育成,能力開発を目的としているため,看護管理者としての高業績の基準に限定せず,基礎的なレベルから高業績のレベルまで基準を6段階にして,レベルの変化(学習した部分)を評価することによってモチベーションを起こさせるものにしている。さらに,モデルの設計方法としては,実務に使用することを重視し,病院あるいは看護部組織にとって望ましいコンピテンシーを分析,抽出する演繹的な手法ではなく,看護管理者としての経験年数ごとに年数に応じて順調に成長している人の実際の行動からコンピテンシーを見つけていくという帰納法的アプローチにした。
 コンピテンシー・モデルを作成するにあたっては,まず手がかりとなる文献について検討を行なった。その結果,直接対象者に過去の経験について質問し,聞き取ったもののなかからコンピテンシーを抽出する方法を紹介しているスペンサーらの『コンピテンシー・マネジメントの展開』1)を参考にすることにした。
 その後,2年の歳月を経て虎の門病院のコンピテンシー・モデルが完成した。看護管理者の能力向上につながるようコンピテンシー・モデルが活用されることが本書の目標である。

 本書は5つの章から構成されている。
 第1章では,コンピテンシー・モデルを開発することにした経緯を簡単に記述し,スペンサーらのコンピテンシー・ディクショナリーをもとに各コンピテンシーの用語の定義を提示する。また,コンピテンシー・モデルの運用により得られた効果や変化,そしてモデルの活用方法を紹介する。
 第2章は,16のコンピテンシーについての概念ならびに6段階のレベルの違いを明確に理解できるよう各コンピテンシーの具体例を示す。
 第3章は,コンピテンシー・モデルの運用方法を紹介する。コンピテンシー・モデルは組織の事情により多様な運用,活用が可能であるが,導入するときの参考になるように,運用に向けての準備から,いつ,だれが,どのように実施するのかについて詳しく述べる。
 第4章は,コンピテンシー・モデル開発のプロセスを紹介する。インタビューの実施と,コンピテンシー・モデルの構築に向けてのデータ分析について説明する。実際にこれらの方法を実施するためには非常に手間がかかる。開発方法に興味のない読者はざっと読む程度でよい。
 第5章では,今後の展望と課題を3点挙げる。

 われわれは,2007年度からコンピテンシー・モデルを運用している。看護師長,主任看護師の育成に効果的に使うことができ,組織としても得るものが多いと評価している。本書が,多くの病院で看護管理者の育成のために多方面から活用されることを歓迎する。

 2013年8月
 虎の門病院看護部
 宗村美江子

【文献】
1)ライル・M・スペンサー,シグネ・M・スペンサー著,梅津祐良他訳:コンピテンシー・マネジメントの展開.21,生産性出版,2011.

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第1章 コンピテンシーの概要
 コンピテンシー・モデル開発の必要性
  ◆看護管理者を育成する意義
  ◆看護管理者に求められる能力とは
  ◆看護管理者の能力を向上させるために必要なこと
  ◆進む看護管理者のコンピテンシー研究
  ◆看護管理にコンピテンシーをどう活用するか
 「コンピテンシー」とは
  1)「コンピテンシー」とは
  2)「コンピテンシー・ディクショナリー」とは
  3)コンピテンシー・モデルを活用する意義
 コンピテンシー・モデル導入後の変化
  1)被評価者(主任)の声
  2)評価者(管理看護師長)の声
  3)組織全体の変化
 コンピテンシー・モデルの活用
  1)管理者自身が活用する
   (1)看護管理者として備えておくべきコンピテンシーを知る
   (2)自己の実践を振り返って事例を書いてみる
   (3)自己の強み・弱みを知る
   (4)自己のレベルを知る
   (5)自己の目標を定める
  2)組織全体で活用する
   (1)組織として必要なコンピテンシーを決める
   (2)役職ごとにレベルの設定を行なう
   (3)運用方法を決める

第2章 コンピテンシー・モデル
 コンピテンシーの概念を理解する-事例の読み方
  事例を読むポイント
 コンピテンシー・モデル(解釈つき)一覧
 クラスター《達成とアクション》
  1)コンピテンシー〈達成重視〉
  2)コンピテンシー〈イニシアティブ〉
  3)コンピテンシー〈情報探求〉
 クラスター《支援と人的サービス》
  1)コンピテンシー〈対人関係理解〉
  2)コンピテンシー〈顧客サービス重視〉
 クラスター《インパクトと影響力》
  1)コンピテンシー〈インパクトと影響力〉
 クラスター《マネジメント能力》
  1)コンピテンシー〈他の人たちの開発〉
  2)コンピテンシー〈指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用〉
  3)コンピテンシー〈チームワークと協調〉
  4)コンピテンシー〈チーム・リーダーシップ〉
 クラスター《認知力》
  1)コンピテンシー〈分析的思考〉
  2)コンピテンシー〈概念化思考〉
 クラスター《個人の効果性》
  1)コンピテンシー〈セルフコントロール〉
  2)コンピテンシー〈自己確信〉
  3)コンピテンシー〈柔軟性〉
  4)コンピテンシー〈組織へのコミットメント〉

第3章 コンピテンシー・モデルの運用方法
 運用の流れ
  1)運用を開始する前の準備
  2)コンピテンシー・モデルの共通理解
  3)運用マニュアルの作成
   (1)レベル0~5に相当する職位の決定
   (2)評価者の決定
   (3)評価の頻度の決定
   (4)評価方法の決定
  4)実例紹介
  5)コンピテンシーレベル判定基準
  6)評価会議のポイント
 運用にあたってのQ & A
  1)事例が書けないときはどうすればよいか?
  2)事例がコンピテンシーの内容と合っていないときはどうすればよいか?
  3)被評価者の自己評価と上司の他者評価が異なる場合はどうすればよいか?
  4)レベル決定に迷う場合はどうすればよいか?
  5)導入したが,コンピテンシーが共通認識できていない場合はどうすればよいか?
 コンピテンシー評価結果の活用
  1)実践場面への活用
  2)看護管理者選出への活用
  3)院内教育プログラムへの援助者選出への活用

第4章 コンピテンシー・モデル開発のプロセス
 コンピテンシー・モデル開発のステップ
  1)組織として,管理者に求める能力(コンピテンシー)を定義する
  2)定義した能力をもつ管理者を選出する
  3)選出した管理者にインタビューを行ない,データ収集する
   (1)面接の準備
   (2)面接の実際
  4)収集したデータからコンピテンシーを抽出する
   (1)コンピテンシーの抽出
   (2)コンピテンシーのグループ分け
  5)抽出したコンピテンシーをレベルづけする
  6)コンピテンシー・モデルを作成する
 コンピテンシー・モデルの妥当性の検証
  1)抽出したコンピテンシーの妥当性を検証する
  2)コンピテンシーレベルの分類について妥当性を検証する
  3)予見的妥当性によって検証する
 コンピテンシー・モデルの改訂

第5章 今後の展望と課題
 評価者の質の担保について
 キャリアラダーとの連動について
 抽出されていないコンピテンシーについて


付録 コンピテンシー・モデル一覧

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活用しやすいコンピテンシー評価の手引き書 (雑誌『看護研究』より)
書評者: 菅田 勝也 (藍野大学医療保健学部長,日本看護評価学会理事長)
 コンピテンシーとは,「高業績者の行動特性」を示す能力概念として1970年代に提唱され,組織の人材マネジメントに実用化されたものである。本書は,このコンピテンシーの概念を基盤として,看護管理者に求められる能力を職位のレベル別に定義し,選任や育成のためのフィードバックに活用している,虎の門病院看護部の取り組みである。モデル開発のプロセスから実際のモデルの内容,運用方法まで具体的に紹介されている。

 看護管理者が役割を遂行するために必要な能力は多岐にわたるため,知識・技術のレベルであげようとすると,どこまで細分化したらよいのか,どこまで詳細に表現したらよいのか迷うのではないだろうか。本書で紹介されるコンピテンシー・モデルを活用することで,看護管理者の能力の定義と評価において,コンピテンシーを発揮する実際の行動と,それによる成果の生成という軸が与えられる。

 本書では,スペンサーらのコンピテンシー・ディクショナリーを基盤とした,6クラスター,16項目によるコンピテンシー・モデルの職位レベルごとの定義だけでなく,各レベルのコンピテンシーを表わす行動がどのようなものであるのか,読者の理解を促す事例がほどよく示されている。

 また,コンピテンシー・モデルの運用方法で紹介されているように,評価場面ではこれらの事例を題材として,被評価者の実践がそのコンピテンシーとみなせるかどうかについて具体的なフィードバックが行なわれており,評価者と被評価者の間のコミュニケーションツールとなっていることがわかる。これは,「よい管理とはどのようなものか」についてのコミュニケーションともいえるであろう。看護管理も看護実践と同様に,優れた実践を文脈と切り離して考えることができないので,このような事例の蓄積は,組織にとって資産となる。

 本書は実用的なものであるが,コンピテンシー・モデルの開発プロセスは,人材マネジメントにおいて成果を上げている理論に沿った,きわめて研究的な過程である。特に,コンピテンシーの抽出過程では,分析の偏りをなくすために丁寧な手順が踏まれたことが,簡潔な記述であるにもかかわらず十分に伝わってくる。また,モデルの妥当性の中で最も強力だが証明が難しい予見的妥当性を満たしていることがさらりと述べられている。理論と結びついた実践という点がしっかりしていて,研究者にとっても学ぶべき取り組みといえる。

 本書では,虎の門病院看護部の取り組みという視点にとどまらず,他の組織がコンピテンシー・モデルを開発し活用する上で助けとなるポイントも,組織の特性によってアレンジしやすいようにその余地を残して示されている。日本の看護管理者によって開発されたコンピテンシー評価の方法を紹介したこの本には,海外のこの種の本から受けるような押しつけられる感じがなく,私好みのほどのよさがある。

(『看護研究』2014年2月号掲載)
全体的視点を強化する看護管理者の学びのツール (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 竹内 幸枝 (日本赤十字社医療センター副院長兼看護部長)
 病院の全職員数に占める割合が多い看護職員の活動は,質の高い医療・看護サービスの提供,経営基盤の確保に大きな影響を及ぼす。職員がやりがいを感じ定着して病院の理念を実現していくために,看護部組織の柱となる看護管理者の存在は重要である。

 日本赤十字社医療センターの主な診療機能の1つである周産母子・小児医療では,昨今の出産医療環境の変化により,分娩件数が年々増加し年間3000件以上に及び,助産師は看護職員数の約4分の1を占める。

 そのようななかで,急性期医療を担う総合病院の役割を果たすため,看護管理者は職種にかかわらず全体的視点で院内の情報を共有し,自部署の運営だけでなく病院運営に貢献する必要がある。そのため,看護管理者育成においては,看護師・助産師の区別はせず,院内の横断的な委員会活動や関連部署の異動を積極的に行なっている。同時に,看護管理に関心をもち,研修の企画運営や業務改善等の看護部活動に参画し,リーダーシップや赤十字関連の研修を修了して一定の条件を満たした者には,院外の看護管理研修の機会を提供している。そして,所属部署における管理活動や管理者代行の経験を経たのち,組織状況に応じて昇任させている。さらに,積極的に管理者を育成するため,「主任マネジメントスクール」「フォローアップ研修」を企画・運営し,3年目を迎えている。

 また,日本赤十字社看護部は,「赤十字施設の看護管理実践能力向上のためのキャリア開発ラダー」の導入を2010年度に開始した。看護管理実践能力は「赤十字」「管理過程」「意思決定」「質保証」「人材育成」「対人関係」「セルフマネジメント」の7領域で構成し,レベルIからIVまで段階的な指標を示している。経験的に「対人関係」「セルフマネジメント」「意思決定」を看護管理者の資質として注目している。

 以上のようにさまざまな管理者育成の取り組みを行なっているが,本書の意図もまさしく,看護管理者に求められる,期待される能力の明文化であり,看護管理者個人の学びのための有効なツールであるのは間違いない。表現は異なるが目的とするところは同様であり,コンピテンシーのレベルそれぞれに示されている事例は理解しやすいものとなっており,おおいに共鳴するところである。コンピテンシー・モデルの開発は綿密な検討結果であり,これを利用するためには,まずは自施設の看護管理者像について共通認識をもつことであり,コンピテンシー・モデルの示している内容を理解していく場をもつところから始めればいいだろう。

(『助産雑誌』2013年12月号掲載)
看護管理マインドの育成に (雑誌『看護教育』より)
書評者: 手島 恵 (千葉大学看護学部/大学院看護学研究科 病院看護システム管理学教授)
◆めざすべき姿がレベルごとに明らかに

 本書には,虎の門病院看護部が,看護師長や主任などの育成支援を目的として,卓越者の行動特性(コンピテンシー)に着目し開発した,コンピテンシー・モデルの開発のプロセス,モデル,運用方法が詳細に述べられている。

 コンピテンシーは,ある職務や状況において,高い成果・業績を生み出すための特徴的な行動である,と解説されている。コンピテンシー・モデルは,看護管理者が自律して能力を向上させる手がかりとして,そのめざすべき姿を明らかにし,自己評価を行ったうえで他者評価を受け,自らの長所や短所を再認識することを可能にする。

 ロールモデルを見つけたり,メンターに指導を受けたりすることで,一歩でもその人に近づく努力をしてきた時代から,これからは本書を片手に,自分の看護管理者としてのコンピテンシー・レベルをアセスメントし,上位のレベルに向かって努力を重ねることで成長が促されるというように,看護管理者育成の方略も変わっていくことだろう。

◆コンピテンシー・モデル導入による成果

 特に興味深く読んだのは,クラスター(コンピテンシーの集合)ごとに例示されている事例である。例えば,「チームリーダーシップ」のコンピテンシー・モデルのレベル0では,「時間をコントロールし,役割を割り振る」からはじまって,最高水準のレベル5では「人を動かす強力なビジョンを伝え,チームの力を引き出す」まで,それぞれの段階で,そのコンピテンシー・モデルをイメージできるように,具体的な事例の内容が詳述されており,理解を促してくれる。これは,自分のコンピテンシー・レベルを知るうえでも役立つし,めざす方向を理解する際にも有用であろう。

 コンピテンシー導入による,組織全体の変化も興味深い。虎の門病院では主任の離職率が低下したそうである。これは漠然としかわからなかった「求められているもの」が理解でき,やりがいにつながったのだろうと解説されている。

 最初から組織で活用してもいいし,まず管理者が自分の実践を振り返り,自己の強みや弱みを知ったうえで目標を定め,レベル向上への手がかりにできる。1990年代に入り,学習者に焦点をあてた教育の必要性や自己主導の学習の重要性が広く認知されてきた。この流れのなかで,コンピテンシーを基盤とした教育は,医療者の質保証のニーズに応える教育として発展してきている。特に8~9ページに詳述されている説明は,看護基礎教育において習得すべき能力について示唆を与えてくれると思う。

(『看護教育』2013年12月号掲載)
効果的に成果を生み出す「行動や思考の方法」コンピテンシーを身につける (雑誌『看護管理』より)
書評者: 武村 雪絵 (東京大学医科学研究所附属病院副院長,看護部長)
 スペンサーらの著書『コンピテンシー・マネジメントの展開』(生産性出版,2011)によると,コンピテンシーとは,「ある職務または状況に対し,基準に照らして効果的,あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性」である。根源的特性とは,「さまざまな状況を超えて,かなり長期間にわたり,一貫性をもって示される行動や思考の方法」を指す。

 看護師長や主任などの看護管理者は,患者のために質の高い看護/医療サービスを提供すること,看護職のために生活と健康を守りながらキャリア発達を支援すること,組織や地域のために病床や医療従事者を含む医療資源を効果的に利用することなど,さまざまな成果を出すことが求められる。これらの成果を生み出す「行動や思考の方法」,すなわち管理者のコンピテンシーを身につけることは,成果を出すための効果的で効率的な手段だといえる。管理に必要な知識や理論,方法論を体系的に学び,日常の実践と関連づけることももちろん必要だが,知識を得ることとコンピテンシーを身につけることは別である。

 一般社団法人日本看護管理学会教育委員会は,私も委員の1人だが,「卒前・卒後の看護管理に関する教育・研修の充実をはかり,看護サービス提供システムの発展をめざすこと」を目的として,現任看護管理者の教育内容と教育方法の検討を行なっている。2013年にコンピテンシーの開発に焦点を絞った14日間の「コンピテンシーを基盤とした看護管理者研修プログラム」を開発した。2014年には試行事業を行なう予定である。本書と併せて,ぜひこちらにもご注目いただきたい。

 しかし,現場から離れて行なう研修では,仕事における実際のコンピテンシーは評価できない。また,コンピテンシーの開発はあくまでも手段であり,ゴールは成果を上げることだが,成果は所属組織でしか評価できない。研修の効果を現場の成果につなげるためには,現場でコンピテンシーや成果を評価することが不可欠である。

 また,コンピテンシー評価は,管理者選考や看護師長と主任の組み合わせなど人事に用いることでさらに効果的になる。本書では,虎の門病院看護部が,スペンサーらの著書を参考に看護管理者のコンピテンシー・モデルを開発する段階から,コンピテンシー・モデルを用いた評価や能力開発の方法,そして,導入後の反応までが詳細に紹介されている。コンピテンシーを能力開発や人事考課に取り入れることを検討中の施設,自らのコンピテンシーを高めたい管理者,管理者をめざすスタッフのそれぞれに大いに参考になるだろう。

 本書のなかで,ある主任が,「自分が得意なのは『対人関係理解』で,すごく苦手なのは『指揮・命令』だとすぐにわかった。だから『指揮・命令』のコンピテンシーを発揮しなければならない場面では,意識して行動するようにしている」と述べている。まさに,これが,コンピテンシー評価導入の効果の1つである。
医療現場へのコンピテンシー・モデル導入に向けた実践書
書評者: 高瀬 浩造 (東京医歯大副学長/東京医歯大大学院教授・研究開発学)
 本書は,虎の門病院看護部が中心となって開発した看護管理者用のコンピテンシー・モデルの紹介と解説である。他業種において職員,特に管理者の育成・配置・評価の場面で利用されているコンピテンシー・モデルではあるが,国内の医療現場への適用は進んでおらず,看護管理者への適用可能なモデルの開発と実運用の経験に基づいて執筆された本書の内容は極めて画期的なものである。

 医療においてもしばしば経験されることであるが,ほぼ同じレベルの知識および技能を有する職員が,成果に注目すると大きく異なる実績評価を受けることがある。これは,成果を出すためには,知識と技能に加えて,それらを有効活用する何らかの「能力」が必要であることを示しており,この「能力」を「コンピテンシー」と呼び,その定義は高い成果を出している優秀な人材の行動・態度・思考・判断・選択における傾向や特性を反映し,聞き取り,あるいは観察から確認可能な要素であるとされている。

 本書では看護管理者に要求されるコンピテンシーを概念的に構造化し,それぞれの職種レベル(主任候補・主任・看護師長・管理看護師長など)で必要とされる取り組みレベルを盛り込んだコンピテンシー・モデルを策定した。モデル化はスペンサーのコンピテンシーディクショナリーを参照して,6クラスター,16項目を選択し,さらに評価項目を細分化した。また,職位に応じた取り組みレベルを0から5の6段階で設定し,具体的に評価判定に必要なキーワードおよび必須要素を規定した。

 本書におけるコンピテンシー・モデル運用の要点は,モデルの妥当性評価,情報の収集,評価方法であり,評価対象者および評価者の双方がコンピテンシーへの理解を有していることが肝要である。コンピテンシー評価に必要な情報は,「コンピテンシー事例記入用紙」と「コンピテンシー・モデル評価用紙」に基づいて収集されるが,前者については職位に応じて記入者は評価対象者であったり,評価者であったりするが,後者は両者により記入される。これにより,事例の収集効率が上がると同時に,評価については自己評価と他者評価が比較されることになる。昇進などの判断では,すべての評価項目を満たした場合にその該当レベルにあると判定しているが,各コンピテンシー項目がバランス良く発揮されていることが望ましいという立場をとっている。このプロジェクトにより,評価対象となる管理者には,自分の得意なコンピテンシー,あるいは不得意なコンピテンシーを自覚し,その場面で必要とされるコンピテンシーを意識化して取り組みを行うという意識改革が起こったという。

 本書の利用方法としては,まず一般論および看護管理者育成におけるコンピテンシー・モデルへの理解を深めることが挙げられるが,モデル策定作業時に収集されたと思われる豊富な事例集が理解の助けとなるであろう。次に,看護現場でこのコンピテンシー・モデルをそのまま用いた評価・育成への運用応用に移るが,これも実例と運用上のQ&Aが用意されているため,スムーズに導入に向かうことが期待される。

 本書で提示されているモデルはすでに完成度が高く,このままでも多くの医療現場で利用可能と考えられるが,モデルの策定手順についても詳しく記載されているので,さらに本書を参考にして各医療機関独自のモデルを策定し導入することも可能である。コンピテンシー・モデルを有効活用するためには,コンピテンシーの定義と選択が重要であるが,本書の内容はこの点において最も成功した事例の一つであり,広く読まれることにより,これからの医療現場へのコンピテンシー・モデル普及に大きく寄与するものと信じて疑わない。

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