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非特異的腰痛の運動療法

症状にあわせた実践的アプローチ

著:荒木 秀明

  • 判型 B5
  • 頁 160
  • 発行 2014年05月
  • 定価 4,536円 (本体4,200円+税8%)
  • ISBN978-4-260-01971-2
非特異的腰痛の症状に応じた運動療法、痛みのある時からできる運動療法を紹介
ひと口に「非特異的腰痛」といっても、前屈時の痛みと、後屈時の痛みではメカニズムが異なる。本書は、こうした腰痛のメカニズムを詳細に解説。主に非特異的腰痛を対象に理学療法評価を行い、それぞれの症状に応じた運動療法とホームエクササイズの方法を具体的に述べる。特に運動療法については、豊富なイラストおよび写真でビジュアルに解説。
序 文
推薦の序(宮本 重範)/(荒木 秀明)

推薦の序
 我が国において,腰痛の理学療法について荒木秀明氏なしに語ることはできない.それほどまでに,荒木氏は腰痛に精通している.彼の臨床は,腰痛症に対する理学療法から始まり,現在もなお追求し続けている.彼が...
推薦の序(宮本 重範)/(荒木 秀明)

推薦の序
 我が国において,腰痛の理学療法について荒木秀明氏なしに語ることはできない.それほどまでに,荒木氏は腰痛に精通している.彼の臨床は,腰痛症に対する理学療法から始まり,現在もなお追求し続けている.彼が永い臨床経験と数々の研究成果を有しながらも,その成果を本書にまとめるにあたり,「これでよいのか? まだまだ不十分ではないのか?」と葛藤している姿は,これからも腰痛症を探究する情熱が秘められている証であり,したがって,本書はその出発点ともいえる.これから版を重ねることによって,内容に新しい発見を見出すことが,一読者として楽しみでもある.
 荒木氏とのこれまでの交流において一貫しているのは,毎日,海外の文献に目を通し,国際的情報を吟味し,報告された知見を臨床で検証すると同時に,臨床で得られたものをそれらの報告によって理論づけることを怠らない姿勢である.常にその謙虚さと情熱が,私を含め多くの理学療法士を惹きつけている所以と言える.
 荒木氏と私の出会いは1987年,熊本で開催された日本理学療法士協会主催の第22回全国研修会であった.私は「マッケンジー腰痛治療法の有効性」について講演した.荒木氏の質問で感じたのは,すでにその頃から,彼の関心が後部靱帯系に向いていたことである.
 その後,荒木氏は「徒手療法を学びたい」という強い希望により札幌に移った.4年間で,今日の札幌円山整形外科病院の発展に寄与した功績は大きい.また,1994年には荒木氏を含む仲間とともにマニュアルセラピー研究会を発足させた.彼の臨床における鋭い視点は,常に我々会員に大きな刺激を与えた.さらに,その頃,stabilization exerciseに有用な機器であるノルウェー製のTherapy Master(現在のRed Cord)が本邦に紹介された.我々は,機器熟達したキルケソーラ氏(ノルウェーの徒手理学療法士)を札幌に招き,臨床での使用法について熱心に取り組んだ.この体験は,荒木氏にも強いインパクトを与えた.その後はRed Cordを駆使して,臨床および研究に成果を挙げ,IFOMT(国際整形徒手療法連盟)主催の国際学会等でも評価されている.
 本書は,5つの章と付録で構成され,質の高い内容が図・表,写真を使って実にわかりやすくまとめられている.これは著者がいかに腰痛を理解しているかを物語っている.特に第3章のred flags sign・green light・yellow flags signの症例提示,第4・5章の理学療法評価と運動療法は臨床に非常に役立つ内容である.また,最後の付録は単なる付録ではなく,脊柱不安定症に関する国際的な治療理論の変遷およびシステマティック・レビューが凝縮されている.
 本書は,これまでにない腰痛理学療法の良書であり,日頃,腰痛に携わる新人およびベテラン理学療法士,教員および学生諸君に是非,一読をお薦めする.

 2014年4月
 神戸国際大学リハビリテーション学部長  宮本 重範



 これまで,理学療法士として,「解剖学・運動学・生理学に準拠した理学検査と治療は,5年,10年経っても決して色あせない」という確信のもと,再現性の高い理学検査と即効性のある理学療法のエビデンスを追求してきた.
 今回,自分の30年間の臨床経験をまとめる機会をいただき,もっとも葛藤したのが,「これでよいのか? まだまだ不十分ではないのか?」という不安であった.そんな折に,菊池臣一先生のご著書『腰痛』初版の序にある「本書は腰痛の教科書ではない.腰痛のすべてを過不足なく,そして一定のレベルを保って押さえているわけではないからである.本書は,腰痛に対する筆者の疑問を一つ一つ自分なりに解決していったロードマップであり,筆者が理解した腰痛の概念の提示でもある」という文章を読み,何かしら胸につかえていたものが氷解した.この言葉に背中を押されるように,「とりあえず,30年間積み重ねてきたものを一度整理する機会としよう」と本書をまとめさせていただくこととした.
 最初の取り組みが,フローチャートの第1段階でもある前屈時痛と後屈時痛の鑑別である.成尾整形外科病院(熊本市)の医局の先生方にご協力いただき,椎間板性疼痛と考えられる症例の椎間板造影と脊髄腔造影の機能撮影から検討した.
 その後,体幹筋力トレーニングに取り組んだ.腰痛再発のおもな原因は,脊柱の不安定性であることは認識されていたが,腹腔内圧理論による安定化のみでは不十分であった.そこで,その代替理論として“Spinal Engine”(1989)で提唱されていた広背筋と大殿筋を中心にした後部靱帯系理論の臨床応用を検討した.
 現在取り組んでいるテーマは,腰痛症例のサブグループ分けとそれに対応する理学療法である.再現性の高さが確認されている疼痛誘発テストを用いて,症例を腰椎由来,骨盤帯由来,股関節由来に分類し,急性期・亜急性期から積極的に行う安定化運動について検討している.以前,腰痛学会にて脊椎外科の医師から頂いた「痛みが落ち着いてから行う運動療法ではなく,痛みがあるときにこそ痛みを緩和できるような,自宅でできる効果的な運動療法が重要なのでは?」との問いに応えるべきものである.本書では,紙面の都合で積極的安定化運動を中心に記載し,モビライゼーションに関しては触れていないが,こちらも必要な手技である.ぜひ,成書を参考にしていただきたい.
 2013(平成25)年に発表された厚生労働省の第12次労働災害防止計画では,腰痛予防対策に重きが置かれている.現在,介護分野における腰痛の増加が指摘され,腰痛予防が重視されているが,予防はもちろんのこと,慢性化を防止して早期に社会復帰することも重要である.本書が,急性期・亜急性期から開始する理学療法として,早期社会復帰の一助となれば,望外の喜びである.

 最後に「わかりやすさ」を念頭に丁寧に編集してくださった医学書院編集部の金井真由子氏,制作部の高口慶輔氏に感謝の意を捧げたい.

 2014年4月
 荒木 秀明
書 評
  • 臨床実践を集大成した腰痛運動療法の指南書
    書評者:板場 英行(前・川田整形外科・リハ科診療統括部長)

     腰痛は,腰椎,椎間板,椎間関節,神経根,腰部関与筋と軟部組織などの病変が発症原因と考えられている。しかし,臨床的にみると,腰痛の約80%は,医学的診断と臨床症状が一致せず,痛みの原因が特定できない非特異的腰痛である。その意味で,腰痛症例の治療では,診断名や画像所見に固執せず,眼前の対象者から把握で...
    臨床実践を集大成した腰痛運動療法の指南書
    書評者:板場 英行(前・川田整形外科・リハ科診療統括部長)

     腰痛は,腰椎,椎間板,椎間関節,神経根,腰部関与筋と軟部組織などの病変が発症原因と考えられている。しかし,臨床的にみると,腰痛の約80%は,医学的診断と臨床症状が一致せず,痛みの原因が特定できない非特異的腰痛である。その意味で,腰痛症例の治療では,診断名や画像所見に固執せず,眼前の対象者から把握できる病態と臨床症状を包括的に評価分析し,的確な臨床推論と臨床判断を駆使した治療介入を行い,臨床考察により治療効果を確認するプロセスが重要である。学際的には,医学モデルに生物・心理・社会的要因に視点を拡充した包括的・多角的・集学的アプローチが強調されている。腰痛の運動療法における近年の動向は,腰部症状に起因した局所基盤治療から,骨盤帯や下肢関節,身体上位構成体との連結,運動機能障害連鎖を考慮したトータルアプローチへと変化している。

     このたび,医学書院から荒木秀明著『非特異的腰痛の運動療法——症状にあわせた実践的アプローチ』が発刊された。著者の荒木氏とは,2001年から3年間,徒手理学療法関係の講習会で,ともに講師を務めたことがある。臨床家としての鋭い視点から理論と実技を展開される姿勢に共感したことを覚えている。

     自己の治療技術の向上と発展のために,積極的に国内外で臨床研究結果を報告され,整形外科医と激論を交わし,問題解決の糸口を見つけるためには海外渡航も厭わなかった荒木氏が,臨床家としての集大成といえる1冊を執筆された。常に最新の情報を入手し,得た情報を自己実践し,検証する臨床家としての姿勢が凝縮された腰痛運動療法の指南書である。

     本書は5章から構成されている。第1章の序説と第2章の基本的事項を確認した後,第3章から第4章にかけての理学療法学的診断学を理解し,治療の中心である第5章の運動療法とホームエクササイズへとページを進める。理学療法評価をベースとした臨床推論,臨床症状に則した臨床判断に基づく治療の展開が,明確に紹介されている。運動療法では,骨盤帯正中化手技,過緊張筋に対する筋リリース手技,深層のコアマッスルに対する積極的安定化運動が,症状にあわせた実践的アプローチとして紹介されている。治療者主体の従来的治療体系から,対象者の自己認知に基づいた自己治癒を促進する臨床実践の結果は,国内外の関連学会で報告され,高い評価を得ている。

     参考文献232編のうち,日本語文献はわずか2論文である。これらの文献を背景とした付録の各項目を精読し,腰痛治療のエッセンスを理解していただきたい。

     荒木氏の長年の臨床に基づいた理学療法評価・診断を臨床で適用するには,相応の時間と各自の研鑽が要求されるが,“腰痛”という巨大な怪物を理解して退治するための,先輩セラピストからのメッセージが込められていると認識し,本書を最大限に活用した臨床実践を構築してほしい。
  • 腰痛を多面的に理解するために
    書評者:福井 勉(文京学院大教授・理学療法学)

     著者は,「非特異的腰痛」の定義として,臨床における腰痛の80%以上において画像所見と臨床所見が一致しないこと,これらは慢性化しやすく,医療・患者個人の生活・労働力の損失などの社会制度の3つの観点から問題となると述べている。理学療法としての評価・治療を「構造」と「機能」に分類することがよく行われるが...
    腰痛を多面的に理解するために
    書評者:福井 勉(文京学院大教授・理学療法学)

     著者は,「非特異的腰痛」の定義として,臨床における腰痛の80%以上において画像所見と臨床所見が一致しないこと,これらは慢性化しやすく,医療・患者個人の生活・労働力の損失などの社会制度の3つの観点から問題となると述べている。理学療法としての評価・治療を「構造」と「機能」に分類することがよく行われるが,「機能的」という言葉の背景には,曖昧な点が多いのも事実である。著者はこの点に関して「解剖学・運動学・生理学に準拠した理学検査と治療は5年,10年経っても決して色あせない」と確信して,長年,取り組んできた。

     本書の大きな特徴は,まず,広範囲にわたるレビューである。巻末の「付録」には36ページにわたる丁寧な「非特異的腰痛の治療理論の変遷とシステマティック・レビュー」の掲載がある。理学療法士として学ぶべき,現在までの流れを把握するには,むしろこの付録から入ることをお薦めしたい。

     次に,腰痛を理解するために,椎間板,椎間関節,仙腸関節,股関節に分類し,それぞれを「疼痛発生のメカニズム」「臨床解剖」「バイオメカニクス」として,各国の腰痛ガイドラインなどとともに綿密にレビューしている。

     そして,本著の核である評価と治療に関しても,さまざまな情報を取り入れて,バイアスがかからないような配慮がされていると感じた。腹腔内圧理論,後部靭帯系理論なども取り入れ,積極的安定化運動を中心に,より具体的にしようとする著者の苦労をうかがい知ることができる。レッドコードを用いたエクササイズとホームエクササイズは,カラー写真でわかりやすく,具体的指導に有益であると考えられる。

     特筆すべきは,「腰痛の理学療法評価フローチャート」である。自動運動での分類が主体となり観察,疼痛誘発テスト,他動運動テスト,荷重伝達テストなどが枝葉となって,それぞれの対処方法が明確化されている。このようなチャートを提示することは,逆に逃げ道もなくなるため,臨床的確信がなければなかなか書けないものだと思うが,その部分に著者の勇気を感じることができる。

     腰痛を多面的に理解するために,ぜひお薦めの書籍である。
目 次
第1章 今なぜ腰痛が問題なのか?
 I 腰痛の実態
  1 疫学的観点から
  2 腰痛にかかるコスト
  3 腰痛の危険因子
 II 腰痛治療の戦略
  1 腰痛の自然経過
  2 これからの腰痛治療

第2章 腰痛を理解する-構造と機能
 なぜ,痛いのか?
 I 椎間板
  1 疼痛発生のメカニズム-神経解剖学的観点から
  2 臨床解剖
  3 椎間板のバイオメカニクス
 II 椎間関節
  1 疼痛発生のメカニズム-神経解剖学的観点から
  2 臨床解剖
  3 椎間関節のバイオメカニクス
 III 仙腸関節
  1 疼痛発生のメカニズム-神経解剖学的観点から
  2 臨床解剖
  3 仙腸関節のバイオメカニクス
 IV 股関節
  1 疼痛発生のメカニズム-神経解剖学的観点から
  2 臨床解剖
  3 股関節のバイオメカニクス

第3章 腰痛をみわける-診断的トリアージ
 I 腰痛の分類
  1 腰痛のガイドライン
 II 症例提示-red flags signに注意する
  1 red flags sign
  2 green light
  3 yellow flags sign

第4章 非特異的腰痛を評価する-理学療法アプローチ
 フローチャートでみる理学療法評価
 I 問診 
  1 一般的な質問
  2 病歴に関する特異的質問事項
  3 疼痛により長期休職中,または心理的問題が示唆される場合
 II 視診
  1 前額面の観察
  2 矢状面の観察
 III 自動運動テスト
  1 前屈動作
  2 後屈動作
  3 側屈動作
  4 回旋動作
  5 腿上げテスト
 IV 疼痛誘発テスト
  1 脊柱疼痛誘発テスト
  2 仙腸関節疼痛誘発テスト
  3 股関節疼痛誘発テスト
 V 他動運動テスト
  1 腰椎他動運動テスト
  2 仙腸関節他動運動テスト
  3 股関節他動運動テスト
 VI 荷重伝達テスト
  1 能動的下肢伸展挙上(ASLR)テスト
  2 片脚立位テスト
  3 歩行動作観察

第5章 非特異的腰痛の運動療法とホームエクササイズ
 I 運動療法をはじめる前に
  1 運動療法の目的
  2 トレーニングの基本方針
 II 運動療法の実際
  1 骨盤帯正中化
  2 過緊張筋に対するリリース手技
  3 積極的安定化運動
 III ホームエクササイズの実際
  1 自己モビライゼーション
  2 自己安定化トレーニング

付録 非特異的腰痛の治療理論の変遷とシステマティック・レビュー
 I 脊柱の不安定性とは
  1 機能的脊柱単位
  2 機能的脊柱単位の不安定性
 II 脊柱安定化運動の変遷
  1 腹腔内圧理論
  2 後部靱帯系理論
  3 体幹深層筋制御理論
 III 腰痛治療のシステマティック・レビュー
  1 運動療法と他治療法との効果の比較
  2 運動療法による身体機能と臨床結果間での効果比較
  3 特異的安定化運動療法の効果分析
 IV 深層筋群に関するエビデンス
  1 多裂筋
  2 腹横筋
 V 表層筋を含めた筋膜系のエビデンス
  1 胸腰筋膜(後部斜方向安定化システム)
  2 腹部筋膜系(前部斜方向安定化システム)
  3 大腿筋膜系(外側方向安定化システム)
 VI まとめ

索引