腰痛のない身体介助術

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医療・介護施設や自治体から年間200を超える身体介助技術の講習依頼を受ける著者が、腰痛のリスクを劇的に減らす介助技術と身体の使い方を徹底解説! 300点以上のカラー写真と図解で「腰を痛めない身体介助」の秘密、教えます。
シリーズ 看護ワンテーマBOOK
岡田 慎一郎
発行 2013年09月判型:B5変頁:128
ISBN 978-4-260-01844-9
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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  • 序文
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はじめに
やればやるほど、腰痛がなくなる身体介助術

 「身体介助で腰を痛めた」という話を耳にしたことのある人は、少なくないと思います。逆に、「10年以上フルタイムで身体介助の仕事をしてきましたが一度も身体を壊したことはありません」という人がいたら、「よほど頑丈な人なんだろうな」と思われるのではないでしょうか。それくらい「身体介助は腰を痛める」ということが“常識”となってしまっている現状があります。
 実際、医療・介護の現場では、身体介助に携わる人の多くが腰痛を患っているといわれています。看護師や介護職員はもちろん、要介護者を自宅等で身体介助されている家族の方々も、その多くが腰痛に悩まされた経験を持っています。
 本書は「身体介助は腰を痛める」という常識を疑い、むしろ身体介助をやればやるほど、身体の使い方がうまくなり、腰痛がなくなる方法やヒントを提案したいと思います。これはささやかな、しかし挑戦的な試みです。
 筆者自身は、重度障害者施設と高齢者施設で10年あまり介護福祉士として勤めた後、理学療法士の免許を取り、縁あって現場の方向けに身体介助法を指導するようになって10年以上が経ちます。介護・医療現場に足掛け20年あまりかかわってきましたが、その間、幸いにも腰痛をはじめとした身体の故障に悩まされたことはありません。
 それは、解剖学やバイオメカニクスの基本的な知識に加え、武術やスポーツやダンスなど、さまざまな分野の知識をヒントとして、自分の身体介助術に取り入れてきたことにあると考えています(※)
 本書では、筆者が全国各地の医療・介護施設や一般の方を対象とした身体介助の講習を通じて受けた質問や、実際の患者さん、利用者さんを身体介助させていただく中で得た知見をもとに、「腰痛のない身体介助」についてまとめています。
 身体介助には、被介助者と介助者の体格や状態によって、無限のバリエーションがあります。そのため「絶対に正しい方法」はありえません。しかし、すべてに共通するような「原理」や、さまざまな場面で応用可能な「ヒント」ならあります。
 本書では、まずPart 1でどのような場面でも通用する「原理」を紹介したのち、Part 2では、シーン別に「ヒント」をまとめています。すべてを活用する必要はなく、読者の皆さんが使えそうなものを取り入れてください。

※筆者は武術の身体運用と発想をヒントにした介助技術“古武術介護”を提唱し、新聞、雑誌、テレビ、書籍・DVDなど、さまざまなメディアで紹介しています。関心を持たれた方は著者のウェブサイト(http://shinichiro-okada.com/)をご覧ください。

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はじめに-やればやるほど、腰痛がなくなる身体介助術

Part 1 腰痛を起こさないための3原則
 「被介助者の身体」だけでなく「介助者の身体」に注目する
 原則1 骨盤ポジションをコントロールする
 原則2 体幹をニュートラルポジションに保つ
 原則3 全身の連動性を高める
 3つの原則を統合する

Part 2 腰痛を起こさない身体介助のヒント55
 シーン1 体位変換
 [ヒント1] 膝を立てる
 [ヒント2] 肩甲骨と太腿を逆ハの字に開く
 [ヒント3] ベッドの高さを上げる
 [ヒント4] 骨盤ポジションを下げる(1)体位変換
 [ヒント5] 上半身をロックする
 [ヒント6] つま先を開く
 [ヒント7] 腹臥位にする

 シーン2 ベッド上での並行移動
 [ヒント8] 手順を分ける
 [ヒント9] たすきがけに腕を差し入れる
 [ヒント10] 腕を返す
 [ヒント11] 骨盤を正確に捉える
 [ヒント12] 骨盤ポジションを下げる(2)ベッド上での並行移動
 [ヒント13] ベッド面についた手でバランスコントロール
 [ヒント14] 片膝をついて被介助者と一体化する
 [ヒント15] 支点を変える
 [ヒント16] 骨盤だけを移動させる

 シーン3 ベッド上方への移動
 [ヒント17] 被介助者の足の筋力を活用する
 [ヒント18] 被介助者と一体化する
 [ヒント19] 股関節を働かせる
 [ヒント20] レジ袋で滑らせる
 [ヒント21] 片麻痺の人の自力移動から学ぶ(1)ベッド上方への移動

 シーン4 起きる・寝る
 [ヒント22] 手前に弧を描くように起こす
 [ヒント23] 骨盤ポジションを下げる(3)上体起こし
 [ヒント24] 片麻痺の人の自力移動から学ぶ(2)起き上がり
 [ヒント25] 手は甲からつく
 [ヒント26] 「たすきがけ」で弧の動きを引き出す
 [ヒント27] 骨盤ポジションを下げる(4)寝かせる
 [ヒント28] 骨盤を寄せて座位を保つ

 シーン5 立つ・座る・歩く
 [ヒント29] 前傾姿勢の邪魔をしない
 [ヒント30] つま先と膝を合わせる
 [ヒント31] 一部介助で立ち上がらせる
 [ヒント32] 椅子を使う
 [ヒント33] 端座位から抱え上げる
 [ヒント34] ファイヤーマンズキャリー
 [ヒント35] 骨盤ポジションを低く保って動きを引き出す
 [ヒント36] 寄り添い歩行は斜め後ろから
 [ヒント37] 「お辞儀」を引き出す
 [ヒント38] 股関節の動きを引き出す

 シーン6 車椅子の介助
 [ヒント39] 片麻痺の人の自力移動から学ぶ(3)車椅子への移乗
 [ヒント40] 円背を利用する
 [ヒント41] 足の位置
 [ヒント42] 全介助でも前傾は重要
 [ヒント43] 脚に乗せる
 [ヒント44] 2人介助の役割分担(1)ベッドから車椅子への移乗
 [ヒント45] シーティング(1)骨盤を引く
 [ヒント46] シーティング(2)車椅子を傾ける
 [ヒント47] シーティング(3)少しずつ動かす
 [ヒント48] キャスターを上げる
 [ヒント49] 車椅子ごと階段を降りる

 シーン7 床上での介助
 [ヒント50] 床上で寝た人を移動させる
 [ヒント51] 床上での上体起こし
 [ヒント52] 一度四つ這いになる
 [ヒント53] 膝に乗せる
 [ヒント54] 骨盤を抱え上げる
 [ヒント55] 2人介助の役割分担(2)床からベッドへの移乗

 プラス1
  無意識のうちにとっている「機能的な姿勢」
  「言葉かけしながらの身体介助」は全身の連動性が高まっている証拠
  「腕を返す」ことの効果
  ベッドに膝をついてはいけない?
  抱え上げてはいけない?

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腰痛が治った! かつてない健康な体へ (雑誌『精神看護』より)
書評者: 綾屋 紗月 (東京大学先端科学技術研究センター・特任研究員)
◆介助は毎日やってくる

 30代前半の頃、私は脳性まひの車いすユーザーと暮らすことになった。「幼い頃から虚弱体質の私には介助などとてもできない」と伝えると、「共同生活後も引き続きヘルパーを利用していく」と言うので安心していた。しかし、共に暮らし始めて数か月、入浴といった大きな介助はないものの、起床、トイレ、突然の失禁など、日々のちょっとした介助は積み重なり、慣れない私の身体は悲鳴をあげた。それは、ぎっくり腰のように突然ドカンとやってくる痛みとは異なる、にぶく、じわんじわんとまとわり続ける腰の痛みだった。

 「もう移乗を手伝うの、やだな」。介助のたびにどんよりとした気分になり、早くも行き詰まり始めた頃、本書の著者である岡田慎一郎さんに出逢った。紳士的にエスコートするような岡田さんの繊細な介助の動きと、細身の体で軽々と脳性まひのパートナーの身体を抱え上げる様子に驚き、「私になんかとても無理!」と思った。

 とはいえ腰痛を抱えながらの介助場面は毎日やってくる。私は少しでも楽になりたい一心で、岡田さんから教わったことを見よう見まねで意識しながら動いてみた。それが本書にまとめられている「原則1:骨盤ポジションをコントロールする、原則2:体幹をニュートラルポジションに保つ、原則3:全身の連動性を高める」の3原則である。

 それまで脇の下に手を入れて力任せに引っ張り上げてきた移乗介助を、お互いの骨盤の位置、重心の位置を確認して腰のあたりを持って抱え上げると、「あれ? なんだか楽だぞ」と不思議な感覚を得た。しかも介助後にやってくるじわじわとした腰痛が来ない。体は正直なもので、痛くないほうへと日々の体の動かし方を変化させていき、やがては筋肉のつきかたそのものが、3原則をすみやかに実行できる身体へと変貌を遂げた。虚弱だった私は介助を繰り返すうちに丈夫になり、今では体重差15キロのパートナーを一瞬ふわりと「お姫様抱っこ」できるまでになってしまった(!)。

◆応用技が実現する瞬間——トラブルは絶好のチャンス

 本書には3つの原則のほかに、それを踏まえたさまざまなバリエーションとしての介助方法がふんだんに紹介されている。難しそうな技を見るとつい「私には関係ない」と思いたくなるが、ある日突然、その技の出番はやってくる。それは「ずり落ちた!」「届かない!」「配置ミス!」など、慣れたはずの日常介助のなかに非日常のトラブルが発生してしまった時である。

 「うっ、どう乗り切るこの局面?!」という危機のなかで、3つの原則を守りながら頭と体をフル回転させて無我夢中で切り抜けた時、「あれ、いつのまにかあの技ができた」ということを私たちは何度か経験してきた。困難のさなかにもかかわらず、新技を繰り出した時にはパートナーと思わず顔を見合わせ、「うわぁ!」「できた!」と声をあげてケラケラ笑ってしまう。そんな“いざ”という時のためにも、いろいろな技のイメージをインプットしておくことをオススメしたい。

◆日々うつろう2つの身体を探る

 「介助」というと、とかく「介助者が被介助者に対して配慮する」というイメージがあるが、本書の介助術に出逢ってからは、「介助者は被介助者の身体を探ると同時に自分の身体も探るものなのだ」と実感するようになった。

 たとえ毎日介助する相手が同じでも、介助をする側/される側ともにコンディションは日々変化しており、いつも同じということはない。冬の寒い日にパートナーの筋肉が硬直して思いのほか足が伸びないこともあれば、夏の冷房にやられた私の膝の古傷が痛んで踏ん張りきれないこともあるなど、毎日が初対面の身体と身体の組み合わせであり、そこにはいつだって油断できない緊張感が走る。

 しかしそのような日々の変化に対しても柔軟に対応できるようになるところが、本書の3つの原則の醍醐味であろう。そろそろ私たちにも「老化」という予測の立たない変化がしのびよってきているが、この介助術ならそれすらも巻き込みながらもう少し頑張らせてくれるのではないかと期待している。

(『精神看護』2014年11月号掲載)
腰痛予防の「3つの基本原則」は生き方のヒントとしても読めます (雑誌『看護管理』より)
書評者: 中島 美津子 (南東北グループ 教育看護局長)
 看護に限らず,管理職というポストはデスクワークや会議で座っている時間が増えてくる。その結果,座位による腰痛負担が増えることは間違いない。しかも重たい案件と格闘する日々。こんなはずじゃ……という管理職の皆様のために,生き方と腰痛軽減のヒントがスッと頭に入ってくる一冊の紹介です。

◆3つの基本原則を日常場面に応用

 少し大げさに表現すれば,腰痛のない生き方ができるということは,全ての行動の軸がしっかりしているということにつながり,それは人生を有意義に楽しく過ごす必要条件とも言える。一見優柔不断に見える行動をとる人も,自分の軸に確固たるものがあれば,実はその表層を変えているだけであり,どんな文化や環境にも適応的行動をとることができる。つまり一度しかない人生を悩み苦しみながら生きることは少ないと推察する。

 「は? 人生? 何を『腰』に関係のないこと言っているの?」とお叱りを受けそうだが,この本を読めばその理由が分かる。生き方が行動に表れるとよく言われるが,まさにこの本には,変幻自在に生きるが如く体を動かす極意が詰め込まれているのである。「腰」は文字通り体の「要」であり,行動の軸である。その腰を痛めないようにする教えは,まるで,できるだけ人生でつまずかないようにする生き方のヒントのようでもある。

 しかし,哲学的な小難しい文章が並べてあるのではない。腰痛予防の3つの基本原則が明確に示され,その基本原則を,日常で遭遇する介助行動場面の1つひとつにいかに応用していくのかが,実に分かりやすい方法で解説してある逸本である。少し中身を見てみよう!

◆写真とイラストによる学習効果

 「パート1」では,3つの基本原則,すなわち「1.骨盤ポジションをコントロールする」「2.体幹をニュートラルポジションに保つ」「3.全身の連動性を高める」の本質的意味が丁寧に分かりやすく説明される。この部分を読むだけでも人生が変わると言っても過言ではない。

 「パート2」では,基本原則を受けて,具体的な事例が盛りだくさんに紹介される。写真とイラストが多用されていて実にイメージしやすく,さまざまな状況を具体的に想起することができる。小難しい解剖学的な薀蓄〈うんちく〉よりも経験学習とのつながりを最大限活かし,ビジュアルから理解を可能にする。

 まずは本文の「ポイント」を写真で確認し,さらに動きの要素だけに絞って描いてある分かりやすいイラストでイメージトレーニングもばっちり! そして,写真にはこれでもかというほど,愛らしい「骨盤くん」(拙者が勝手に名づけたのであるが)の絵が添えられている。つまり,それだけ3つの基本原則のうち骨盤に関わる「原則1」が重要だということだ。これを文章ではなくイラストで反復学習できるという,憎らしいほど教育工学的に学習効果を狙った構成となっている。充実した事例の特に最後の方は,在宅看護場面でもその効果を十二分に発揮できる。

 「腰」は格言や四字熟語などで枚挙にいとまがないほどよく使われる言葉であり,それだけ人間をつかさどる大事な部分である。冒頭にも述べたが,この本は,ただ単に「腰痛防止」だけでは終わらない,実に奥の深い重みのある「ぶれない生き方」まで感じさせる内容でありながら,スッと頭に入ってくる軽快さを持っている。不思議と引き込まれる秀逸な類まれなる本である。なぜだろう?と考えた。でも,答えはすぐに分かった。著者岡田先生ご自身の真摯で実直な生き様そのものが詰まっているからだ,と。

(『看護管理』2014年8月号掲載)

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