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単純X線写真の読み方・使い方

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単純X線写真は、CT・MRIなど高度先端モダリティ隆盛の時代にあってなお、日常診療ではその簡便性や経済性などの点で利用価値は高く、すべての医師にとって必須の技術となっている。しかし、その技術習得はやさしいものではない。本書はそうした医療現場のニーズを踏まえ、単純X線診断の基本的な知識や使い方をわかりやすく解説。頭部から骨軟部組織までの豊富な画像に対して、エキスパートが読影のコツを伝授。
編集 黒崎 喜久
発行 2013年03月判型:B5頁:408
ISBN 978-4-260-01568-4
定価 7,480円 (本体6,800円+税)

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はじめに
たかが単純X線写真,されど単純X線写真


 医学書を購入する際には書店の医学書コーナーの書棚に並んでいる本を数冊手にとってパラパラとめくって,最後に裏表紙に載っている定価を見て購入するかどうかを決める人が多いと思います.その際「序文」を読み比べる人はまずいないでしょう.刊行の意図が明確に示された序文が軽視されるのは誠に残念なことです.序文を読んでいただくにはそれなりの工夫が必要です.はじめに2つの症例をクイズ形式で提示しますので,それから本書の刊行の意図をくみ取っていただきたいと思います.

 症例1  図1 80歳代,男性.検診の胸部単純X線写真後前像

 症例2  図2 50歳代,女性.頸椎の単純X線写真側面像





症例1:解説
 胸部X線写真後前像(図1)は一見正常に見えますが,右側の横隔膜の輪郭(図3)に注目してください.その輪郭は平滑でなく,細かな凹凸を呈しています.左右の肋骨横隔膜角の鈍化はないので,過去の胸膜炎では説明できません.この所見から石綿曝露による横隔膜面胸膜のプラークの存在が疑われます.後日行われた胸部CT(図4)で一部石灰化した胸膜プラークの存在が証明されました.丹念な病歴聴取で石綿に曝露した職業に従事していたことが判明しました.

症例2:解説
 C4/C5,C5/C6で頸椎症があり,頸椎のすぐ前方の軟部組織がC1からC4で明らかに肥厚しています.この患者の鑑別診断として,感染性脊椎炎,咽後膿瘍,crowned dens syndrome,石灰沈着性頸長筋腱炎が頭に浮かんでくれば,合格点です.これらの鑑別疾患を頭に入れてもう一度X線写真を見てみましょう.そうです,淡い石灰化(図5)が環椎の前弓のすぐ下方にあります! この領域は頸長筋の上斜部が存在する部位に一致するので,診断は石灰沈着性頸長筋腱炎ということになります.確認のために行われたCT(図6)で頸長筋の上斜部に石灰沈着があります.

 特殊な医療機関を除けば,画像検査のなかでもっとも多いのは依然として単純X線写真です.このように日常臨床に定着している単純X線写真が正しく活用されているかというと疑問があります.明確な目的を確認せずに習慣的にオーダーが行われていないか? 撮影された単純X線写真を丹念に見て所見をピックアップしているか? 読影所見を誰が見てもわかるように診療録に記載しているか? 単純X線写真の読影結果が次に行うべき画像検査の選択や治療方針の決定に適切に反映されているか? 読者にはこれらの点を再点検していただきたいと思います.
 本来,臨床各科の若手医師に単純X線写真の活用法や読影の基本を教えるのは放射線診断医の責務です.しかしながら,これまで単純X線写真を読影して報告書を作成していた放射線科でも相対的な人手不足のためにMR,CT,interventional radiologyに重点を置かざるを得なくなり,単純X線写真の読影から撤退しています.この現状は放射線科医のトレーニングの観点からも大きな問題です.
 放射線科以外の診療科の若手医師を見ても,単純X線写真の読影法の正式なトレーニングを受ける機会は乏しく,先輩に教えてもらったり,必要に迫られた際に単行本や雑誌で自己学習したりしているのが実情です.
 このような背景のもと,全身を網羅した単純X線写真を対象とした単行本の刊行の意義は少なくないと考えています.内科臨床誌medicina2004年増刊号「臨床医必携―単純X線写真の読み方・使い方」が好評でしたので,それを基にして単行本として刊行することになりました.本書を精読して単純X線写真のオーソドックスな読み方を習得するとともに,その短所も知ったうえで日常臨床の場で単純X線写真を上手に活用してください.
 診療あるいは教育,研究に忙殺されるなかで執筆していただいた方々に感謝します.III-3-1)「感染性肺炎」(67頁)が最後の原稿となった故阿部克己氏に同じく陸上自衛隊に奉職した者として謹んで哀悼の意を捧げます.
 編者にとって大先輩と同輩の放射線診断医が筆を取られた「ビューワー」と名付けられたコラムの短文はいずれも含蓄のある名文ですので,ぜひ読み飛ばさずに味わってください.
 最後に,企画から校正までのすべての過程で尽力いただいた医学書院医学書籍編集部の天野貴洋氏にお礼を申し上げます.

 2013年3月
 黒崎喜久

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はじめに たかが単純X線写真,されど単純X線写真

I 総論
 CR(computed radiography)画像 CR画像を活用するための基礎知識

II 頭部・頭頸部
 1章 頭蓋骨 スカウトビューでの観察
 2章 側頭骨 CT・MRI時代における単純X線写真の意義
 3章 副鼻腔 単純X線検査の適応と限界
 4章 咽頭・喉頭 CT・MRIの時代での意義

III 胸部
 1章 胸部単純X線撮影 正常解剖と読影のコツ
 2章 無気肺 肺葉性無気肺を中心に
 3章 肺感染症
  1.感染性肺炎 単純X線写真でどこまで診断に近づけるか
  2.結核・非結核性抗酸菌症
 4章 肺腫瘍
  1.肺結節と間違えやすい正常構造や病変 偽病変を作らないために
  2.肺癌 肺癌を見逃さないために
  3.良性肺腫瘍と腫瘍類似疾患 各良性疾患の特徴
 5章 心不全・肺水腫
 6章 塵肺 珪肺とアスベスト関連肺・胸膜疾患肺
 7章 びまん性肺疾患
 8章 チューブ・カテーテルの評価 ICUポータブル写真
 9章 胸部外傷
   胸部外傷患者の単純撮影をどう読影するか~ピットフォールを含めて
 10章 縦隔腫瘍 縦隔胸膜線とサインの上手な利用法
 11章 胸水 的確に胸部単純X線写真から胸水貯留を診断するコツ
 12章 気胸・縦隔気腫 見落とし・誤診を減らす撮影法と読影
 13章 心大血管疾患 単純X線撮影でここまで読める

IV 腹部
 1章 腹部単純X線撮影 これだけは知っておきたい腹部単純X線正常像
 2章 腸閉塞 部位と原因,血行障害の有無を見きわめる
 3章 腹膜腔遊離ガス(free air) 腹膜腔遊離ガスを見落とさないために
 4章 腹部異常ガス その原因と読影のポイント
 5章 腹部石灰化をどう読むか 臓器別石灰化の鑑別

V 骨軟部組織
 1章 脊椎の正常解剖 脊椎単純X線撮影の読影のために
 2章 脊椎外傷 好発所見を覚えましょう
 3章 四肢の単純X線撮影 正常解剖と読影のコツ
 4章 病変と紛らわしい正常変異 偽病変を作らないために
 5章 骨膜反応 骨膜反応の種類と鑑別診断
 6章 骨折
 7章 骨腫瘍 その古典的解析法
 8章 骨転移 単純X線写真で見逃さないために
 9章 骨粗鬆症・骨軟化症
 10章 退行性脊椎病変 単純X線写真の応用と限界
 11章 骨壊死・骨端症 非外傷性の骨関節病を診たときに
 12章 副甲状腺・甲状腺・そのほかの内分泌臓器と骨軟部病変
   慢性腎不全,内分泌異常,成長障害のマネジメントに欠かせないポイント
 13章 関節リウマチと脊椎関節炎 典型例を確実に診断するために
 14章 血液・造血器疾患と骨関節病変
   単純X線写真から多くを読みとるクセをつける
 15章 結晶沈着疾患 石灰化の分布,関節破壊の形状より関節炎を診断する
 16章 軟部組織疾患 CT,MRIといかに組み合わせるか
 17章 児童虐待 あなたが第1発見者になる可能性も

索引


コラム “ビューワー”
 「単純X線写真」という用語について
 読影準備と後処理
 long but wrong report
 X線写真の今昔
 空気を読む
 胸部単純X線撮影の寄与
 議論の仕方
 画像診断の達人になる方法:その1 画像をよく観察する
 画像診断の達人になる方法:その2 はじめの一歩:所見を書く
 画像診断の達人になる方法:その3 達人への道:レベルアップを目指す
 apical cap
 病巣が教師
 costophrenic angleがdull?

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デジタル時代における単純X線写真の役割を再認識する必読の書
書評者: 松永 尚文 (山口大大学院教授・放射線医学)
 これまで,胸部や骨軟部の単純X線写真の本は多数刊行されてきたが,全身の単純X線写真をカバーする本は刊行されて久しい。

 現在でも優れた基本的診断法である単純X線検査では,1枚のフィルム上で全体像を概観でき最初に行われる検査の1つであり,経過観察においてもその簡便性・再現性などの点で優れている。さらに,1枚のフィルムから得られる全体的な情報量の多さから診療の現場で最も多く施行されている。医療経済および患者への負担という観点からも,このような検査を最大限に活用することは大切なことである。しかし,CT・MRI検査の普及により,やや影が薄くなっているのも否めない。単純X線写真の所見を十分に評価しないで安易にCT検査が行われている現状もある。初心に返って単純X線検査の役割と限界を再認識する必要がある。そのような背景の元,本書は刊行されたと思われる。

 序文の冒頭は,「たかが単純X線写真,されど単純X線写真」で始まっており,まさに「単純X線写真revisited」といえる。忘れられがちな単純X線写真の重要性を再認識する最適の書であり,編者の熱意が感じられる。本書は,総論,頭部・頭頸部4章,胸部13章,腹部5章,骨軟部組織17章から構成されており,1冊に重要なポイントが過不足なくかつ簡潔明瞭に網羅され,かつ最新の知見も盛り込まれている。総論では,デジタル時代らしく,従来の単純X線写真の説明は消え,電子カルテ・フィルムレスに対応して普及しつつあるCRの説明がなされている。厳選された豊富な画像を基に読影のポイントを丁寧にかつコンパクトに解説されている。

 各領域で現在活躍中のエキスパートで執筆されている「ビューワー」と名付けられたコラムの短文は,囲み記事で13項目あり,いずれも名文で,長年単純X線写真に造詣の深い先生方の含蓄のあることが記載されており,かみしめて読みたいものである。

 392ページとボリュームがある割には,手頃な厚さで,つい手に取って読みたくなる本である。今回装いも新たに,親しみやすい2色刷りで,図は典型例を厳選してある。代表的な文献も厳選してあり,参考に調べるとさらに理解が深まるであろう。

 医学の本は進歩が著しく,刊行されたらすぐ内容が古くなってしまいがちであるが,CT・MRIが21世紀にどんなに発達しようとも単純X線検査がなくなることはなく,そして臨床的重要性・役割は何ら変わることはなく,本書は長く読み続けられる本であろうと思われる。本書は,医学生・研修医・医師に必携の書として,推薦したい1冊である。
単純X線写真の読み方をわかりやすく説明した一冊
書評者: 木村 文子 (埼玉医大国際医療センター教授・画像診断学)
 本書の特徴は,単純X線写真の所見を記し,その所見を得るために必要な解剖や疾患の知識が簡潔にまとめられていることである。最初にCR画像の基礎知識,次に領域別の各論(頭部・頭頸部,胸部,腹部,骨軟部組織)を掲載し,単純X線写真が最も威力を発する胸部と骨軟部組織領域に多くのページを割いている。各項目はコンパクトにまとまっているが,最新の疾患概念にも言及し,さらに,単純X線写真の横に答えとなるCTやMRI画像を掲載した理解しやすい本である。研修医必携の一冊であるとともに,放射線診断,内科,外科のスタッフも,楽しく知識を確認することができ,日常の臨床に役立つ良書である。大先輩の先生方により執筆された「ビューワー」(フィルムレス時代に合わせて「しゃーかすてん」から変更になったとの記述あり)と名付けられた10編のコラムは,画像診断のうんちくや読影力向上の極意が含まれ,読んで楽しく,大変ためになる。

 本書の編集者である黒崎喜久先生は,頭頸部領域や超音波診断の第一人者であり,多くの著書や論文を執筆されている。しかし,私は,黒崎先生はそのような分野にとどまらず,あらゆる領域の画像診断に造詣が深い,general radiologistの代表選手だと思っている。黒崎先生は,私に画像診断の楽しさと奥の深さを教えて下さり,画像診断の「いろは」をたたき込んで下さった恩師である。私が研修医であったころ,黒崎先生から読破するように勧められた本は,『Paul and Juhl’s Essentials of Radiologic Imaging』であった。本書『単純X線写真の読み方・使い方』を読み終えたとき,Paul and Juhlを思い出した。本書は,名著Paul and Juhlをコンパクトにし,さらに最新の疾患概念を付け加えた本であるといえるのではないだろうか。

 医学は急速に変化し,現在では,画像診断にCT・MRI診断の占める比重が大変大きくなった。特に多列検出器CTが出現して以降,画像診断を専門とする放射線科医が,CT・MRIの件数の増加のため,単純X線写真を読影できなくなった施設が多い。しかし,単純X線写真は,簡便,安価,低被曝であり,さらに,病変を一目で俯瞰でき,前回検査と簡単に比較できるという利点がある。患者さんが外来受診された際に,最初に行われる画像診断であることは周知の事実である。本書は,単純X線写真のみでなく,CTやMRI診断にも造詣の深い各領域のエクスパートにより分担執筆されている。1枚の単純X線写真からここまで診断してやるという執筆者の意気込みを感じることのできる一冊であり,本書精読後には,単純X線写真の良さを再確認し,日常臨床の姿勢が変わってくることは間違いないと思われる。
すべての領域をカバーした手元に置いておきたい一冊
書評者: 村田 喜代史 (滋賀医科大学教授・放射線科)
 最近,『単純X線写真の読み方・使い方』(黒崎喜久編)という書物が出版された。約400ページとコンパクトな本にもかかわらず,編者の意図がよく組み込まれた充実した内容となっているので紹介したい。本書は全身の単純X線写真を対象としていて,臨床現場に役立つことを意識した内容構成となっている。編者が序文で述べているように,現在の画像診断はCTやMRIが中心となってきており,放射線科においても,その診断から撤退している施設も多く,現在どの診療科においても単純X線写真読影トレーニングの機会が著しく少なくなってきている。しかし一方,臨床の現場を見てみると,簡便な単純X線写真は依然として最初の画像診断法として数多く撮影されていて,それらが適切に読影され,情報が臨床現場で生かされているかどうか,不安を覚えるところである。本書の出発点もそこにある。

 単純X線写真の役割はもう終わったというような極論も一部には聞かれるが,しっかりと読影する能力があれば,診療の方向性を決めるような重要な情報を簡便に単純X線写真から拾い上げることができる場合も少なくない。また診療現場で単純X線写真の撮影が今も変わらず続いているという現状を考えるならば,画像診断医は,その読影能力を維持し,その有効な利用に向けて努力していく責任があるように思われる。現状の画像診断の読影環境はそう簡単には改善しないと考えられることから,単純X線写真の読影に関しては各個人の努力に依存せざるを得ない。自ら単純X線写真を読影する環境を模索する必要があるが,その際に,コンパクトで充実した内容の教科書は非常に心強い味方になると思われる。

 今まで,「胸部X線写真の読み方」といった限られた領域の単純X線写真の読影法に関する教科書は数多く出版されているが,本書のように,すべての領域をカバーした単純X線写真読影法の教科書はこれまでなかったのではないかと思う。また,本書を読んでいくと,各分担執筆者が編者の意図をよく理解されていて,現在の臨床現場で役立つポイントを意識して単純X線写真の読影法を記載されているのがよく伝わってくる。結果として,これが臨床現場にあると単純X線写真の読影に役立つことが多い,というような一冊に仕上がったのではないかと思う。

 これを読めば単純X線写真の読影はすべてOKというようなものではないが,通して読み,また症例に当たって読み返すことができる,手元に置いておきたい一冊として推薦したい。

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