序
「臨床各領域の専門医たるものは臨床試験の基礎知識を有しているべき」との理念のもと,わが国において適正に臨床試験(治験を含む)を行える医師を養成する目的を掲げ,数年間の準備期間を経て,2010(平成22)年2月に「臨床試験を適正に行える医師養成のための協議会(臨床試験医師養成協議会):Physicians' Education Council of Japan for Clinical Trials(PECJCT)」が高久史麿氏(日本医学会会長)を会長として設立されました。
その後,わが国の専門医制度を統括している日本専門医評価・認定機構理事長・池田康夫氏のご協力を得て,認定機構加盟75学会に2回のアンケート調査を実施しました。その結果,第1回目の調査(回答率82%)で上記の理念に賛成との回答が90%,統一した教育プログラムが必要との回答が93%の学会から得られました。続く第2回目の調査でも数多くの学会から本協議会の活動に協力していただける旨の回答をいただくことができました。
そこで,本協議会として「臨床試験計画の立てかた,基本的な必須事項について分かりやすく解説したテキスト」を作成し,臨床試験を適正に実施できる医師養成の一助とする方向で話がまとまりました。高久氏から,臨床薬理学に造詣の深い先生方が本テキストを作成したほうがよいとのご助言を受け,臨床薬理学教育に深く関わっておられる日本臨床薬理学会の先生方や臨床試験(治験)に実際に関わっている多方面の方々に執筆をお願いし,刊行に至るまで幾多のディスカッションを重ねてまいりました。
本書は,臨床各現場で先生方がクリニカルクエスチョンを感じ,臨床試験を通してそれを検証する際のプロセスに沿ってまとめられています。つまり,
クリニカルクエスチョンに基づき,プロトコール(臨床試験実施計画書)の作成順序や記載内容に沿って,必須事項や考慮すべき事項をわかりやすく解説している点が特徴です。
臨床試験の実施におけるナビゲーション的役割をもつ本書は,臨床試験を初めて実施してみようとする先生方(研修医)にとっては非常に参考になるものとなりましょうし,またすでに臨床試験を実施されている指導的立場の先生方(指導医)にも教育のツールとしてお使いいただけるものであると確信しています。
前述のアンケート調査の結果を受け,今後,臨床の各専門分野の医師が臨床試験の基本的知識を有し,臨床試験を適正に実施できるようになるために,本書に提示されている事項が多くの学会において専門医取得のための教育研修項目の一つとなることを期待します。加えて,第一線で日常診療に関わる先生方においても臨床試験を適正に実施するための基礎知識を有していることが必要であると考え,わかりやすく簡潔に解説していますので,ぜひご一読を願います。
日常診療におけるクリニカルクエスチョンに対する適正な研究方法を多くの医師が理解し,わが国の医療の発展に貢献できるようになるため,本書がその一助となれば幸いです。
まずは,本書の最初の数頁を読んでみてください。
最後に,本書の作成にあたり,ご助言,ご協力をいただいた日本医学会,日本専門医評価・認定機構,日本医師会,日本製薬工業協会をはじめ多くの方々に深謝申し上げます。
2012年1月
臨床試験医師養成協議会副会長
日本臨床薬理学会元理事長
昭和大学医学部臨床薬理学教授
小林 真一