ふるえ[DVD付]

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振戦、ミオクローヌス、ジストニー、舞踏運動…。不随意運動の典型例から希少例に至るまで、神経生理学の第一人者が長年にわたって経験してきた豊富な症例をもとに、臨床医とともに語り尽くす鼎談。症候学や生理学的知見を駆使し、コモンな症候ながら診断に悩まされるであろう不随意運動を様々な角度からとらえ直す。付録のDVDには複雑な不随意運動の病態が一目でわかる50症例の動画を収録。
*「神経心理学コレクション」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 神経心理学コレクション
柴崎 浩 / 河村 満 / 中島 雅士
シリーズ編集 山鳥 重 / 河村 満 / 池田 学
発行 2011年10月判型:A5頁:152
ISBN 978-4-260-01065-8
定価 5,720円 (本体5,200円+税)

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はじめに

 「ふるえ」を訴える患者さんを前にして,その現象がどの不随意運動に相当するか,何とか既成の概念に当てはめようと必死に思案することは,読者のなかにもそのような経験をおもちの方がおられるに違いない。事実,私も比較的最近までそのような傾向をもっていた。しかしこの頃は,はっきりしない運動を既成の不随意運動と決めつけることはあまり意味をもたないように思われてきた。一つには,国際的にその道の専門と考えられる神経内科医が集まって,ある不随意運動を観察した場合に,それぞれ違った意見が出ることは驚くほどである。そのような意味で,不随意運動はその現象を正確に記載することが肝要であって,第一印象に基づいて診断することは実際的ではない。事実,不随意運動のなかには2種類以上の既成概念の特徴を兼ね備えたものもあるし,あるいはそれらの中間型あるいは移行型と考えられるものもある。また,これまでに記載されていないような新しい不随意運動に遭遇するかもしれないからである。
 今日知られている不随意運動の大部分は,いまから100年以上前に記載されたものである。なかでも,振戦や舞踏運動はすでに17世紀に記載された。ちなみに,筋電図と脳波が実用化されたのは1920年代の末であったから,それらの不随意運動は詳細な臨床的観察に基づいて記載されたものであって,生理学的検査はまったくない時代であった。私は,各種電気生理学的検査や画像検査が発達した今日でも,基本的には不随意運動は臨床的観察に基づいて診断されるべきものであって,検査所見が異なるからといってその臨床分類を変更する必要はないと考えている。例えば,表面筋電図で持続の短いミオクローヌス様の放電がみられても,臨床的に振戦に見えたら,それはやはり振戦であって,その発生機序としてミオクローヌスと同様の機序が関与していると解釈することもできる。
 本書の企画が持ち上がったのは,2007年10月初め,日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ)の第1回学術集会が東京で開かれたときである。その会場で,河村満先生および医学書院の編集者にお会いして,相談がまとまった。その時ご提案いただいたテーマが,私が若い頃から興味を持ち続けてきた不随意運動であったため,即座にお引き受けした次第である。実際には,2009年3月に医学書院会議室で1日半にわたって座談会を開き,その記録がこの本の基となった。出席者は河村満先生,中島雅士先生と私の3名に加えて,医学書院の編集者と速記者が出席された。しかしその後,出版社の都合でこの本の出版が今日まで遅れたため,最近の新しい知見や文献の引用について多少問題が生じたが,できる範囲でそれらも含めることにした。
 幸い私はこれまでに数多くの不随意運動を観察する機会に恵まれ,その現象をビデオに収めてきた。今回本書が出版されるにあたり,できるだけ個人情報が表に現れないようにするために,顔が映らないようにし,もしどうしても顔が映っている場合には目を隠し,また録音されている会話の内容も必要に応じて削除した。また,本書に収録したビデオは,私が九州大学医学部附属病院神経内科,佐賀医科大学(現在の佐賀大学)附属病院,国立精神・神経医療研究センター,京都大学医学部附属病院神経内科,米国NIHのNINDS,および医仁会武田総合病院のいずかの施設で診察する機会があった症例のものである。これも個人情報保護の目的で,各施設名を記載することはできるだけ差し控えた。
 本書はここ数年間にわたって医学書院から刊行されてきた『神経心理学コレクション』の一巻である。不随意運動は厳密な意味では本コレクションとは多少異質なものであるが,多くの不随意運動は運動調節中枢の機能異常に基づくこと,またほとんどの不随意運動は心理的影響を受けやすいことから,大きな矛盾はないものと思われる。とくに河村先生による肢節運動失行の動画が加わったことは,その懸念を払拭するのに有効であった。また,本書のタイトルとして「ふるえ」というポピュラーな言葉を用いたことも,神経心理学領域により親しい印象を与えるものと期待される。本書の企画と編集には医学書院の多くの方が参加された。なかでもとくに同書籍編集部の小南哲司氏と同制作部の筒井進氏のご尽力に謝意を表したい。なお,動画や本文をご覧いただいて,私たちとは異なったお考えをおもちの方がおられましたら,そのご意見を歓迎いたします。

 2011年9月
 柴崎 浩

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第1章 振戦
 A.静止時振戦
 B.姿勢振戦
 C.動作時振戦
第2章 ミオクローヌス
 A.皮質起源のミオクローヌスと陰性ミオクローヌス
 B.脊髄起源のミオクローヌス
 C.脳幹起源のミオクローヌス
第3章 ジストニー
 A.全身性ジストニー
 B.局所性ジストニー
第4章 アテトーゼ
第5章 舞踏運動
第6章 バリズム
第7章 ジスキネジー
第8章 restless legs syndrome
第9章 末梢神経障害に合併する不随意運動
第10章 不随意運動のまとめ
第11章 肢節運動失行

参考・引用文献
和文索引
欧文索引


付録DVD動画一覧
第1章 振戦
 1 手の静止時振戦,パーキンソン病
 2 足の静止時振戦,パーキンソン病
 3 長期フェノチアジン投与によって誘発された静止時および姿勢振戦
 4 手の姿勢振戦,本態性振戦
 5 本態性振戦,視床Vim核の高頻度電気刺激(DBS)の効果
 6 長期存在した姿勢振戦に最近静止時振戦が加わった症例
 7 wing-beating tremor,Wilson病(1)
 8 wing-beating tremor,Wilson病(2)
 9 アステリクシス,肝性脳症
 10 視床梗塞の3カ月後に起こった動作時振戦
 11 心因性と考えられる下肢の振戦
 12 高血糖に伴った頸部と右上肢の不随意運動
 13 振戦様律動性皮質ミオクローヌス,良性成人家族性ミオクローヌスてんかん
 14 振戦様律動性皮質ミオクローヌス,皮質基底核変性症
第2章 ミオクローヌス
 15 皮質ミオクローヌス,Unverricht-Lundborg病(1)
 16 皮質ミオクローヌス,Unverricht-Lundborg病(2)
 17 皮質性陰性ミオクローヌス
 18 体幹・下肢の陽性・陰性ミオクローヌス,Lance-Adams症候群
 19 transient myoclonic state with asterixis in elderly patients
 20 アマンタジン投与によって誘発されたミオクローヌス
 21 尿毒症患者にみられた陰性ミオクローヌス
 22 脊髄髄節性ミオクローヌス
 23 固有脊髄性ミオクローヌス(propriospinal myoclonus)と考えられる
   背部のミオクローヌス
 24 腹筋のチック
 25 opsoclonus(眼球クローヌス)
 26 口蓋振戦(ミオクローヌス)
 27 横隔膜フラッター(diaphragmatic flutter)
 28 palatal and somatic tremor(myoclonus),橋出血の後遺症
 29 無酸素性脳症直後の周期性不随意運動
第3章 ジストニー
 30 周期性ジストニー性ミオクローヌス,Creutzfeldt-Jakob病
 31 ミオクローヌス・ジストニー症候群
 32 書痙
 33 斜頸とsensory trick
 34 遅発性ジストニー
 35 遅発性ジストニーの逆説性走行
第4章 アテトーゼ
 36 アテトーゼ,急性脳炎後遺症の疑い
第5章 舞踏運動
 37 Sydenham舞踏病
 38 家族性舞踏病
 39 片側舞踏運動,線条体梗塞
第6章 バリズム
 40 片側バリズム(1)
 41 片側バリズム(2)
第7章 ジスキネジー
 42 口唇・舌ジスキネジー
 43 発作性運動誘発性ジスキネジー
 44 心因性と考えられるジスキネジー
第8章 restless legs syndrome
 45 restless limb syndrome,対側頭頂葉梗塞
 46 periodic limb movement in sleep,パーキンソン病の疑い
第9章 末梢神経障害に合併する不随意運動
 47 painful legs and moving toes syndrome
 48 末梢神経炎による感覚性アテトーゼ
第11章 肢節運動失行
 49 肢節運動失行(左中心後回梗塞例)(1)
 50 肢節運動失行(左中心後回梗塞例)(2)

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すべての臨床神経内科医にとっての必読書
書評者: 廣瀬 源二郎 (浅ノ川総合病院脳神経センター常勤顧問/金沢医大名誉教授)
 神経心理学コレクションシリーズとして出版された『ふるえ』は極めてユニークである。神経心理学とは大脳皮質の高次機能を脳の構築と関係づける学問であり,医学書院のこの神経心理学コレクションも言語,行為,知覚から意識や記憶まで多岐にわたる人間の高次機能を新しい切り口でとらえ直すシリーズとして発刊されたものである。

 今回の『ふるえ』は振戦のみならず,ミオクローヌス,ジストニー,舞踏運動などいわゆる不随意運動について臨床神経生理学の第一人者である柴崎浩先生が経験された症例の動画を呈示して説明し,二人の聞き手が問いかけ,コメントする形でつくられている。多くは基底核,小脳の機能障害である不随意運動を神経心理学シリーズで取り上げた点は今までに無い発想である。ただ不随意運動はすべて運動障害であり,その多くはどこに原因があろうと運動野を中心とする運動調節中枢が最終的に関与して脊髄前角細胞を発火させるfinal common pathを考えればこのユニークさも理解できる。

 不随意運動はその異常運動を観察して今までの分類に従い診断するのが一般的であるが,その病態生理は複雑であり,最近の電気生理学的検査法や画像診断を加えることでその発生機序をも解明できる時代となってきている。柴崎先生はjerk-locked averaging法を開発して皮質性および皮質反射性ミオクローヌスの病態生理を明らかにされた神経生理学者である。そのためこの本ではミオクローヌスはもちろんのこと,振戦や他の不随意運動についても,表面筋電図,脳波,脳磁図などから筋放電スペクトラムなどを記録して,多彩な臨床神経生理学的手法により解析している。それらのデータを駆使して,それぞれの不随意運動を動画による臨床症状だけでなく病態生理学を詳しく解説することで正確に診断できることを教えてくださっている。今までの神経心理学コレクションシリーズの読者にはやや異なるアプローチで解説されており,取っ付き難いかもしれないが,不随意運動を持つ患者を診察する立場にある神経内科医には不随意運動を病態生理学にのっとり理解するには極めて優れた教科書である。内容は他にジストニー,アテトーゼ,舞踏運動,バリズム,ジスキネジーがあり,さらにrestless leg syndrome,末梢神経障害に合併する不随意運動にもおよび動画48例が同じアプローチで鼎談〈ていだん〉は延々と進んでいく。最後にこのシリーズ編集者の一人である河村満氏の肢節運動失行の2症例の動画も加えられている。

 この鼎談の導師である柴崎先生は最近ではすべての不随意運動を無理やり既存の分類に当てはめようとはせずに,その臨床像を正確に記載することこそが肝要であると巻頭で述べられており学会などでも同様の考えを話しておられる。まさにすべてを極めた臨床生理学者の述懐である。

 神経心理学に興味を持つ人だけでなく,むしろすべての臨床神経内科医必読の書であり,その刊行が神経心理学領域だけでなく広く知れ渡ることを願うものである。
著者らの神経内科医としての豊富な経験がにじみ出た一冊
書評者: 宇川 義一 (福島医大教授・神経内科学)
 今回,医学書院から『ふるえ[DVD付]』が,神経心理学コレクションの一つとして出版された。この題名のコレクションに,“ふるえ”を入れる出版社と河村満先生のセンスに感激するとともに,柴崎浩先生を著者に迎えられたことにも感謝する。柴崎先生は,私自身が若いころから目標としてきた先輩であり,自分が書評を書くことに躊躇する感じがあるが,せっかくの話なので光栄と思いお引き受けした。

 まずは本の題名に同感した。内容からすると,“不随意運動を10倍深く理解する”とでもいえるものなのだが,あえて“ふるえ”としている。患者は,ほとんどの不随意運動を,時には筋力低下の症状の一部を“ふるえ”と言って来院する。そこであえてこの題名にされたのではないかと推察する。このように,あえて一般的な言葉を題名に使われたことには,3人の著者の臨床家としての真摯さが表れているように私には感じられる。

 内容は,柴崎先生の貴重な臨床経験に基づくビデオを中心に,河村先生,中島雅士先生が鋭い質問をしていく展開になっており,3人の著者の神経内科医としての豊富な経験がにじみ出ている。ある程度の経験を有する神経内科医にとっては興味深い読み物という印象を持つ。そして,臨床神経学だけでなく,著者らの神経生理に基づく考察のレベルの高さが,内容をさらに濃いものとしている。加えて,序文にも書かれているが,その内容を最近の文献も含めてup dateしている。本文の内容の中で,著者の先生方を目標にしてきた神経内科の後輩として,感激・同感した点がいくつかあったので,それらを紹介して私の任務を全うしたいと考える。

 不随意運動の触診:一般的に不随意運動の診察では,患者をよく観察しなさいという。その成果として今回ビデオを伴った本が出版されたわけである。その上で,本文の何か所かで“不随意運動を触ってみてください,触れてみてください”という表現が使われている。これは,私も日ごろ実感していたことで,回診でも時々不随意運動の触診をしている。この手法は,特にミオクローヌスと振戦の区別に役立つ。先輩の先生方と同じことを自分が実感できていることに感激するとともに,これから神経内科医として育つ,若い先生方にぜひ不随意運動の触診をしていただきたく思う。

 不随意運動の複雑さ:不随意運動というと,多くの種類がありわかりにくく,親しみにくいというイメージが医師全体にあるとともに,神経内科医の中でもその印象があると考える。そのような中で,本書53ページ,図20に示された不随意運動を診る手順は,多くの初学者にとって役立つものと考える。わかりにくい概念を,まず大まかにとらえる指南といえるであろう。大まかにとらえた後で,一つひとつ詳しく診ていくことになるであろう。また,一連の記述の中で,不随意運動も随意運動と同様に,その内容の複雑さによって発生機序も考慮しながら診察していく姿勢にも同感した。ミオクローヌスが最も単純で,振戦が次にあり,その他舞踏運動,ジストニー,ジスキネジアなどが複雑になっていく。そして発生機序を考えると,単純なものほど運動のcommon pathwayに近いレベルで発生していて,感覚運動野や小脳が関与し,複雑な動きになると大脳基底核が大きく関与するという印象にも同感した。もともと正常の運動を起こす機序の破綻が原因で不随意運動が起きるのであり,正常運動生理を極めた著者だからこそ言える内容であろう。

 そして興味深いのは,不随意運動の中でも振戦とミオクローヌスのビデオが多い点である。ある意味,単純で生理学的解析がしやすいこの2つの不随意運動の内容が増えるのは当然の帰結と考える。私自身が書いたある本の書評で,やはりこの2つの占める割合の多さを指摘されたことがあり,それを思い出した。

 どれかに当てはめずに記述したほうがよい:物事を知り始めたときには,それが何であるかを判断できることが重要で,判断したら解釈したと思ってしまう傾向は誰にでもある。同じことが不随意運動の診察でも起きる。患者を診て,その不随意運動に名前をつけたらわかったと考えてしまう。しかし,一人の患者にある不随意運動は一つではないことも多く,さらに今までに記述のないものかもしれない。そこで,十分納得できないときは,無理矢理何かに当てはめるのではなく,その内容をよく記述し,ビデオに撮っておくことを推奨している。これも同感で,無理矢理当てはめるのはやめるべきである。しかも記述では十分伝わらないこともあり,ビデオ撮影が重要であろう。このことは,以前私が所属した東大神経内科の教授であった金澤一郎先生からも教えられたことである。皆さんも肝に銘じてほしい。

 最後になるが,不随意運動の本の中に肢節運動失行が含まれている点が,特徴の一つである。河村先生,中島先生の意向であろう。確かに,しばしば不随意運動と失行の区別が難しいことがあり,興味深い企画と考える。

 ビデオという手段がない時代には,職人芸として“見て学べ”と言われてきた内容を,ビデオのおかげでこのように出版物として後世に伝えられる時代になった。神経内科の初学者には少し難しいがためになり,経験を積んだ神経内科医には深みのある,非常に優れた本になっていると判断する。ぜひ,ビデオを見ながら通読していただきたい一冊である。

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