推薦の序(田中雅夫)/
序(奥坂拓志・羽鳥 隆)
推薦の序
本書は,研修医およびこれから肝胆膵専門を目指そうという若手の医師らに,膵癌の診療のポイント,コツを要領よくマスターすることができるように工夫されている.それぞれの項目は第一線で活躍しておいでの第一人者,それも実際の診療で指示を出したり化学療法のレジメンを考えたりしている方々の執筆によるので具体策に富み,特に化学療法などは投与法,副作用とその対策,休薬の判断などが具体的に記されていて実際の役に立つ.
検査の項目では,各検査法の限界も余すところなく語られ,処置の項目では処置後の患者に対するケアの仕方までが詳細かつ簡潔に記載されていて日々の苦労がにじみ出ているように思う.全体的に文章も簡潔で無駄がなく,読み進みやすい.各所に配置されたMEMOが,多少本筋を離れたポイント,執筆者の感想や思い出などを補完しているのも面白い.
一般的なマニュアル本と異なり,日本でも活動し始めたがん患者に対する相談支援センター,ソーシャルワーカーや,日本でも増えてきているがん看護専門看護師やがん領域の認定看護師の紹介,そして我が国でもようやく活躍するようになってきた患者支援団体など,まだこれから充実させていかなければならない局面についても述べられていて,本書を読んで膵癌専門医を目指そうという医師らに,将来に向かっての方向性まで示している.
最後にTOPICSとしてあげられているのは,臨床研究,一次抗癌剤が無効となった場合の二次治療薬,分子標的治療薬,悪液質症候群の治療,遺伝子治療,免疫療法,発癌因子や腫瘍マーカーについての研究などに関しての専門家の将来への展望である.膵癌診療ガイドラインをまとめたときにも感じたことであるが,膵癌の診療について語るときにはこの将来への展望が欠かせないように思われる.膵癌診療ガイドラインでは「明日への提言」と銘打ったが,執筆している専門家も日々の現実をもどかしく思っていて,それがここに表現されている.裏を返せば,それほど膵癌診療の現実はまだまだ低迷しているといえる.若い医師諸君は本書から膵癌診療現場でのコツを学ぶとともに,今後目指すべき方向性を読み取っていただき,一人でも多くの諸君ががん診療の難関である膵癌に立ち向かうようになって欲しいと願っている.
2010年3月
九州大学大学院医学研究院教授・臨床/腫瘍外科
田中雅夫
序
膵癌は最も予後不良ながんの一つであり,その罹患者のほとんどは本疾患により死亡しています.我が国の年間死亡者数はがん死亡数の第5 位に位置付けられており,依然増加傾向にあります.予防,診断,治療のいずれにおいても有効な方法が少ないとされる一方,我が国においてはこの疾患に多くの研究者が精力的に取り組んできた歴史があり,世界をリードする多くの知見が蓄積しています.しかし残念なことに,これまでに膵癌について総括的に記述した教科書はほとんど出版されておらず,この疾患に携わる医療者は体系的な知識を十分に得ることなくこの厳しい疾患と対峙しているといっても過言ではありません.このような現状にあって膵癌に携わる我々医療者は,より確かな情報を求めており,類書のない現在,本書の果たす役割は大きいと考えます.
本書は,膵癌診療に第一線で携わる医師を始め,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,患者会の方々によって執筆され,現場で活躍するそれぞれの職種の方々に即戦力となる情報がなるべくわかりやすく記載され,盛り込まれています.ポケットガイドという名前に反してその内容は教科書といってもよいほどの詳細な記載となっており,各執筆者のこの疾患に対する情熱が伝わってくるようです.また,この疾患に関する最新情報など,教科書には掲載されないような知見についてもTOPICSやMEMO といった形で要所ごとに挿入されて,読みやすく工夫が凝らされています.
がんをめぐる多くの問題がマスコミなどでも大きく取り上げられ,予後の不良な膵癌患者には他の疾患以上に質の高い医療を提供することが必要な時代になっているように感じます.しかし膵癌診療に携わる医療者は,その疾患が厳しいがゆえに非常に多忙な毎日にあり,まとまった知識・情報を入手することは容易ではありません.本書は膵癌患者のために日々格闘されている医療者の方々になるべく短い時間で多くの知識・情報を得る手段として活用していただくことを目指して編集されました.皆さんの日々の診療や活動に少しでも貢献することを心から願っています.
最後に医学書院の安藤恵さん,大西慎也さんに大変お世話になりましたことをこの場を借りてお礼申し上げます.
2010年3月
国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医長 奥坂拓志
東京女子医科大学医学部講師・消化器外科 羽鳥 隆