運動負荷心電図 第2版
その方法と読み方

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運動負荷心電図検査は、簡便な方法にもかかわらず、得られる生理的な情報は多い。本書は、具体的な検査方法(心電図の取り方)と、症状・疾患の心電図診断(評価)をプラクティカル、かつコンパクトにまとめている。ACC/AHA、日本循環器学会の新しいガイドラインに準拠。循環器内科医はもちろん、健診、心臓リハビリテーションに関わるコメディカルスタッフにも最適な1冊。
川久保 清
発行 2010年01月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-00873-0
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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第2版 序

 「運動負荷心電図―その方法と読み方」を出してから,10年近くがたちました。初版は5刷を重ね,医学書院の勧めにより第2版を出せることを幸甚に存じます。この間,私は初版を出版した時の所属である東京大学を辞し,共立女子大学に奉職し,7年になります。管理栄養士の教育に携わるようになりましたが,幸い,今日まで外見上健康人を対象とした運動負荷試験を続けておこなうことができ,運動負荷試験に関する関心を持ち続けることができました。
 循環器負荷については,初版のときからさらに変化を感じる9年間でした。負荷法では運動負荷より薬物負荷,心電図より画像診断,対象とする疾患は,冠動脈疾患からその他の疾患へと関心がシフトしてきたように思います。長年,わが国の循環器負荷のオピニオンリーダーであった「循環器負荷研究会」が,2008年8月の第58回をもって33年間の歴史を閉じたのは1つの時代が終わったことを思わせます。研究会の最多演題発表数の第2位の表彰を受けたのは嬉しいことでしたが,この研究会に演題を発表することで研究を続けてきた私にとっては,大変寂しい出来事でした。一方,日本循環器学会の一般演題のセッションでは,運動負荷テストのセッションよりも,リハビリテーションのセッションが多くなりました。この10年間の心臓リハビリテーションの領域の進歩は大きいものがあり,多くのコメディカルの方が参加するようになってきました。拙著第2版が,心臓リハビリテーションに関わるコメディカルの方々に利用されることを希望する次第です。
 第2版では,初版以降に発表された新しい文献を引用して,内容を追加,改訂しました。米国のACC/AHAの診療ガイドライン改訂に準拠して記載を追加しました。日本循環器学会のガイドラインも多数発表されるようになりました。日循のガイドラインにおける運動負荷心電図に関する記述には,拙著初版を参考にしている部分もあり,本書がガイドライン執筆に関して役立っていることで,自信を持つ次第でした。私が最初に班長を拝命した「心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運動許容条件に関するガイドライン(2003年)」(改訂版[2008年]では長嶋先生が班長)の記述も引用させていただきました。サイドメモについては,初版時に多すぎて読み難いとのご批判があったことを受けて,大部分本文に吸収する形をとりました。
 初版を出版したときには,諸先輩方から暖かい書評や,励ましの言葉をいただきました。辛口書評で有名であった日本心臓病学会誌(J Cardiology)では,思いもかけず励ましの言葉をいただき,大変嬉しく思いました。第2版においても,諸先生方からのご批判をお待ちしております。本書が,さらに版を重ねられることを祈ってやみません。
 最後に,本書の改訂をお勧めいただき,細かいところを修正していただいた医学書院の大野智志氏に感謝いたします。

 2009年12月
 川久保 清

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I 運動負荷試験の方法
A.運動負荷装置とプロトコール
 1.マスター2階段試験
 2.トレッドミル
 3.自転車エルゴメータ
 4.薬物負荷試験など
B.心電図・血圧記録法
 1.電極誘導法
 2.心電図のどの誘導に注目すべきか
 3.記録の実際
 4.心電図(ST部)計測法
 5.血圧測定法
 6.検査の手順
C.運動負荷心電図検査の適応と禁忌,負荷中止基準
 1.検査の適応
 2.禁忌
 3.負荷試験の中止基準
 4.負荷試験中の事故と安全管理
D.運動負荷試験時の循環・呼吸反応
 1.運動の様式による差
 2.循環機能の反応(動的運動)
 3.呼吸機能の反応
 4.最大酸素摂取量と最大心拍数
 5.動的運動負荷試験時の心拍・血圧応答とダブルプロダクト
 6.運動による心筋虚血とST下降の生理的機序
E.わが国における運動負荷試験の現状
 1.全国の循環器関連施設調査から
 2.負荷試験の費用について
 3.最近の運動負荷心電図解析装置の概要
付)運動負荷心電図検査報告書の書き方

II 運動負荷心電図の読み方
A.診断的試験の感度,特異度,Bayesの定理
B.冠動脈狭窄の診断基準
 1.マスター2階段試験
 2.トレッドミルあるいは自転車エルゴメータ試験による多段階負荷
 3.偽陽性
 4.偽陰性
C.既知の冠動脈疾患における病態評価,重症度評価
 1.冠動脈狭窄例の心筋虚血の部位の推定(ST下降)
 2.重症度指標
 3.冠動脈疾患における運動許容条件
 4.異型狭心症と運動負荷試験
D.心筋梗塞後の患者
 1.急性心筋梗塞後のステージ別運動負荷試験の意義と方法
 2.心筋梗塞例の運動負荷心電図の読み方
 3.予後・重症度判定の指標
E.無症候者の評価
 1.スクリーニング検査における運動負荷心電図検査の行い方
 2.スクリーニング検査の予後的意義
 3.スクリーニングとしての運動負荷心電図検査の実態
 4.スクリーニング試験としての運動負荷試験の適応について
F.不整脈と運動負荷試験
 1.不整脈例における運動負荷試験の意義
 2.運動による不整脈変化の機序
 3.各不整脈における運動負荷試験との関連
G.その他の適応における運動負荷試験の読み方
 1.抗狭心症薬の評価
 2.血行再建術後
 3.血圧反応
 4.肥大型心筋症
 5.弁膜症
H.コンピュータによる自動診断
 1.自動診断システムの開発
 2.ST偏位以外の指標

索引

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この分野で唯一の専門書
書評者: 牧田 茂 (埼玉医大国際医療センター心臓リハビリテーション科科長)
 川久保清先生執筆の『運動負荷心電図 第2版』が発刊された。本書は川久保先生のライフワークともいえる心電図学と運動循環器病学の集大成である。2000年に刊行された初版は多くの関係者に読まれたものと思われる。

 循環器領域における運動負荷試験は,かつて大学病院でも運動負荷研究班があったほど隆盛を誇っていたが,今日徐々に研究の対象になりにくくなってきており,そのことは大変憂うべきことである。また,臨床的にその重要性が薄れたわけでは決してないにもかかわらず,運動負荷心電図に焦点を当てた専門書がほとんど刊行されなくなってきており,そういった意味で本書の果たす役割は非常に大きいと考える。第2版の発刊を私同様心待ちにしていた方も多いと思われる。

 第2版は,184ページと若干ページ数が増えているものの,定価は5250円(税込)と初版の4700円(税抜)とほとんど変わらず,コメディカルにも購入しやすい価格となっている。紙質はより薄く良質となり字が大変読みやすくなっている。また,新たに2色刷りとなっており,大項目や図表などが見やすくまとまっているのもうれしい限りである。

 第2版の内容は読者の意見を参考に,例えばサイドメモを大きく割愛したり,ACC/AHAや日本循環器学会のガイドラインに準じた内容,さらには心臓リハビリテーションに関する項目を取り入れるなど,最新の情報が盛り込まれている。これを読めば運動負荷心電図に関するわが国の標準的な知識はもちろんのこと,エビデンスや専門的な内容にも触れているため専門医であっても十分満足できるテキストとなっている。

 初版と比較しながら読んでいくと,新たに登場した項目が多いのに驚く。例えば,負荷心エコー,PCI後の負荷試験,冠スパスム,Brugada症候群,QT延長症候群,弁膜症,ペースメーカといった専門用語の解説が加筆されている。これらは初版以降循環器領域でトピックになった項目であり,随所に川久保先生の細かい配慮がうかがわれる。

 あえて言わせていただくとすれば,運動負荷試験における緊急時の対応面で,緊急薬品や配備すべき器具についての記載が足りないことぐらいではないだろうか。また,わが国における運動負荷試験の状況(実態調査)内容が,1994年の調査をもとにしているため古い内容になっていることも残念である。しかし,これは日本循環器学会や日本心臓リハビリテーション学会等が指導力を発揮して,川久保先生を中心にわが国の運動負荷試験の実態調査を再度実施してくれることを切望する次第である。

 先ほども述べたが,近年運動負荷心電図に関する詳細なテキストが発刊されていない状況下,本書はこの分野で唯一の専門書といっても過言ではない。運動負荷試験を担当している循環器科やリハビリテーション科の医師のみならず,リハビリテーションに携わる理学療法士,作業療法士や看護師,臨床検査技師はもちろんのこと体育系の運動指導者にもぜひとも読んでいただきたい良書であることを保証する。
心臓リハビリテーションに携わるすべての医療従事者に
書評者: 井上 博 (富山大大学院教授・内科学)
 畏友・川久保清君の運動負荷心電図のテキストが改訂された。著者は運動負荷心電図を専門とし,また一般市民を対象としたメディカルチェックにも長らく携わってきた。その経験を基にまとめられたものが本書である。

 初版は2000年6月に上梓された。当時,そして現在も,運動負荷心電図に関する教科書で本書ほど実践的な内容を備えたものを評者は知らない。単著であるため,内容・記述が統一されていて,遺漏がない。多くの読者を得たとみえ増刷されること4回に及んでいる。初版は本文148頁のモノクロ印刷であったが,第2版では本文が163頁に増え2色印刷となった。初版で多くみられたSIDE MEMOの大部分が,第2版では本文として記載されており,2色化とあいまって読みやすくなった。初版より約10年が経過し,この間の進歩や新たなガイドライン,文献が追加されている。

 章立ては初版に倣い「運動負荷試験の方法」と「運動負荷心電図の読み方」という2部構成になっていて,方法の部は「運動負荷装置とプロトコール」,「心電図・血圧記録法」,「運動負荷心電図検査の適応と禁忌,負荷中止基準」,「運動負荷試験時の循環・呼吸反応」,「わが国における運動負荷試験の現状」からなる。読み方の部は「診断的試験の感度,特異度,Bayesの定理」,「冠動脈狭窄の診断基準」,「既知の冠動脈疾患における病態評価,重症度評価」,「心筋梗塞後の患者」,「無症候者の評価」,「不整脈と運動負荷試験」,「その他の適応における運動負荷試験の読み方」。「コンピューターによる自動診断」からなっている。冠動脈疾患に関する項で最も頁数が増加している。

 評者は本書を特に次の関係者に推薦したい。当然であるが,循環器の診療に携わる医師である。現在は,冠動脈造影が簡単に行え,CT装置も進歩して冠動脈に関する情報が比較的容易に手に入る。そのため,胸部症状がある患者さんはCTで冠動脈をみて,狭窄がなければ「狭心症ではありません」と説明する。あるいは極端な場合にはいきなり冠動脈造影を行うことすらある。心筋虚血発作の有無の評価は運動負荷心電図ではなく,核医学検査をまず行ってしまう。

 評者はこのような診断過程に疑問を持つ者である。安価な心電図や運動負荷試験から有意義な情報が引き出せるのに,より高価で,しかも視覚的に直感しやすい検査法に頼ってしまう。視覚に訴える検査法の意義(虚血範囲の定量的評価は運動負荷タリウムシンチが優れる)を否定するつもりはないが,もう少し費用対効果(患者側の)にも目を配った診断過程があるのではないかと思う。

 次に,運動負荷検査ばかりでなく心臓リハビリテーションにかかわる検査技師・看護師の方々である。初版への杉本恒明先生の書評(週刊医学界新聞,2000年9月11日号) は,見出しを「運動負荷検査と心電図に関わる全ての医療従事者に」とし,末尾近くで「運動負荷検査に携わる医師,臨床検査技師あるいは看護職の方々」に一読することを薦めている。当時もすでに心臓リハビリテーションが保険で認められていたが,現在ほど広く行われてはいなかった。現在,心臓リハビリテーションの施設認定を受けている医療機関は格段に増えている。初版が出た当時に比べ,心疾患のリハビリテーションに携わる医師・看護職員にとって本書の意義は一層大きくなったはずである。

 運動負荷試験に携わる医師,検査技師ばかりではなく心臓リハビリテーションに携わる関係者にとって,本書はバイブルといえよう。本書が多くの関係者の座右に置かれて,参考にされることを願うものである。

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