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質的研究実践ノート

研究プロセスを進めるclue とポイント

著:萱間 真美

  • 判型 B5
  • 頁 104
  • 発行 2007年09月
  • 定価 2,376円 (本体2,200円+税8%)
  • ISBN978-4-260-00464-0
質的研究のプロセスをオーバービュー、“要所”でつまずかないために
看護実践やさらなる研究の深化に資する成果を得るために、質的研究プロセスの各段階において何を考慮すべきか、自身の研究例を紹介しながら具体的に解説。質的研究およびその成果を踏まえた量的研究に多く取り組んできた著者の経験に基づいた「ポイント」や「実践へのclue」だけでなく、「質か量か」の二項対立でないコラボレーション(協働)の実際を提示してその方向性を指し示す。
序 文
はじめに
萱間 真美

 本書は,学位論文作成のための研究,またはプロジェクト研究の目的を果たすために,質的データをどのように活用するかの詳細について,実例を用いながら示すものである。質的データの収集,分析,結果の記述,論文のプレゼンテーションの各プロセスの詳細である。

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はじめに
萱間 真美

 本書は,学位論文作成のための研究,またはプロジェクト研究の目的を果たすために,質的データをどのように活用するかの詳細について,実例を用いながら示すものである。質的データの収集,分析,結果の記述,論文のプレゼンテーションの各プロセスの詳細である。

 質的データを用いた研究の目的は,それが学位論文作成でもプロジェクト研究であっても,リアリティをもって詳細に記述することを通じてその現象を理解することである。そして,場合によっては,質的データから得られた概念を量的研究に用いることによって,さらなる現象の理解に挑むことにもなる。本書は,そうした目的に沿って質的データを収集・分析して論文にまとめるまでの動的なプロセスの中で,研究者は何に注意をすればよいかを示すことを目的としている。

 学位を得たあとに研究者として活動する場合には,個人で行う小規模の研究とともに,競争的資金を獲得して行われる,あるいは行政的な必要から企画される比較的規模の大きい研究に参加することも多い。このようなプロジェクト研究における質的研究の役割と機能,さらにその過程における具体的な手順についても,これまであまり記されることがなかったことだけに,本書では意識してそれらを示した。もちろん,データ収集や分析の方法の基本は研究が担うべき役割によって変わるわけではない。しかし,例えば量的研究に活用できるような現象を説明しうる概念を抽出する研究と,研究対象となる現象をリアルに記述することをめざした研究とでは,引用するべきデータの量や分析の深さは異なる。それぞれの章では,意識的にこれらの違いを記した。

 なお,質的研究の具体的な方法に関しては,特にグラウンデッド・セオリー・アプローチの方法の詳細に関する成書が多くある。筆者は質的データの分析方法としてグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いるが,本書は特定の研究方法の詳細を述べるものではないため,ある研究方法に特定して詳しく知りたいと願う読者は,別の成書を参照していただきたい。

 もう1つの本書の特色は,質的研究論文を発表する際に,量的データをもどのように活用できるかを示した点である。質的研究方法が普及し,その価値についての議論が発展し,教育の中でも重要な位置づけを得るにつれ,「量か質か」という二項対立ではなく,コラボレーション(協働)という道筋が探られるようになってきた。研究の目的を果たすためにはどんな種類のデータも活用されるべきであることを考えれば,これは当然のことである。第8章に示した研究例は,米国の雑誌に投稿し,査読のプロセスで研究方法のトライアンギュレーションを用いることになったのだが,最初からそれを目的としていたのではなく,結果を明確に示そうとするプロセスの中での自然な経過として,そのような形に至ったのである。そうしたトライアンギュレーションを用いることの意味を,実例をもって示すことができたと考えている。

 質的研究をしたことがない,あるいはこれからはじめて質的研究をしようとしている方には,まず全体を通読して具体的な手順についてのイメージをもってほしい。イメージトレーニングは大切である。
 次に,すでに研究を始めている方は,それぞれの研究目的に応じて,自分はどこまで,どのような分析をするのかということを確かめながら,それに対応する方法に注意しながら読み進めてほしい。さらに,大規模な研究をデザインし,主導していく立場にある方には,その研究がめざすゴールに,質的データやその研究そのものがどのような貢献をできるのか,またそのゴールに向けてどんな資源を配分することが必要なのかを考えるために読んでいただきたい。

 繰り返しになるが,本書は質的データや質的研究が至上であると述べるための本ではなく,その価値を前提とした上で,研究成果を通じて研究者が社会に貢献するために,質的データや質的研究をどのように活用できるかを詳細に述べたものである。質的研究方法をしっかりと,道具として,活用していただくための本であることを強調しておきたい。
 2007年 8月
書 評
  • 本書をもって「質的研究」に出会えたことの幸せ
    書評者:安藤 潔(東海大学教授/血液・腫瘍内科)

     萱間真美先生の『質的研究実践ノート――研究プロセスを進めるclueとポイント』を拝読した。筆者自身は「質的研究」に関してまったくの初学者であり,書評する資格があるのかあやしいところであるが,本書をもって「質的研究」に出会えたことは幸せなことであった。そのような視点から書評を書く意義もあるかと思い紹...
    本書をもって「質的研究」に出会えたことの幸せ
    書評者:安藤 潔(東海大学教授/血液・腫瘍内科)

     萱間真美先生の『質的研究実践ノート――研究プロセスを進めるclueとポイント』を拝読した。筆者自身は「質的研究」に関してまったくの初学者であり,書評する資格があるのかあやしいところであるが,本書をもって「質的研究」に出会えたことは幸せなことであった。そのような視点から書評を書く意義もあるかと思い紹介させていただく。

     本書は100頁強のスマートな体裁であり,一気に通読が可能である。通常の研究マニュアルをイメージして読み始めたところ,質的研究である所以か,萱間先生ご自身の研究生活と人生が豊かな言葉で開陳されており,読後感はむしろ芳醇な文学に接したような感慨を持った。読書の楽しみは読み手の内側にあるものがそこに明確に言語化されていることを見いだすことであるが,刺激されて私自身の初心を思い返すこととなった。筆者は医療コミュニケーション手法としての「コーチング」について研究し,いくつかの入門書を編纂しているが,その動機は萱間先生と同じく大学卒業直後の臨床経験における「熟練した臨床家が使いこなしている臨床技術の具体的な内容を記述し,人に伝えられる形にすること」,いわば「暗黙知の体系化」への関心であった。

     研究を長年続けていると,「客観的であれ」という生活態度が身に染みついてしまう。各人がそれぞれの臨床体験に根ざして始めた研究も,量的研究の手法で取り扱える問題だけを扱っているうちに,いつしか自分が本来やりたかったこととの間に距離を感じることもあるのではないだろうか。だから「追求したいと強く願うテーマは,時として研究者自身の抱える人生のテーマである」という本文中の記述は,もう一度読者を研究の原点に引き戻す力を持つ。研究者の個人的体験は動機にもなるが,バイアスになることもある。この微妙なバランスを保ちながら説得力のある研究に仕上げていく過程にこそ質的研究の醍醐味があるのであろう。

     質的研究の特色を最もよく表しているのはデータの分析(コーディング)の手法である。第4章では児童虐待をテーマとした母親との具体的なインタビュー内容からコーディングをいかに行うか,実際の手順が紹介される。会話の中から児童虐待という現象の核心を見いだすプロセスには迫力がある。「データを読んだときの印象が,実際に逐語録のデータをスライスし,意味のまとまりや背景要因を解釈した実証的なデータによって裏付けられてはじめて,質的データの分析から得られた分析結果として用いることができる」という質的研究の本質が鮮やかに示されている。

     医療面接においてインタビュー技法は最も基本的で大切なものでありながら,通常の教科書では単なる質問事項の列挙にとどまっており,筆者は不満であった。本書の「インタビュー技法のトレーニングとして自分を知ることが重要である」という指摘には強く共感した。より具体的には,自分の会話中の癖にとどまらず,研究テーマとの関わり,動機を知ること,自分の中にある意識,恐れ,などを知ることである。質的研究の実践を通してこのようなレベルにまでインタビュー技法が深められるなら,医療面接も豊かなものとなるであろう。医療従事者にとって,日々の医療における相手との関わりの中にこそ追求したい研究テーマが潜んでいるのではないだろうか? そして「既存の調査票や統計処理を持ち込まなければ研究には結びつかない」という思い込みが,研究への第一歩をためらわせているのではないだろうか?

     質的研究の方法論に多くの医療従事者が関心を持ち,医療の初心者であった頃の体験から一つのゴールを設定して,それに向けて継続して行動し,具体的な達成を得ること。そのような努力は日本の医療を豊かにするために,次代の医療の担い手を育てるために,最も大切なことだと考える。本書は読者に行動を促す一冊である。
  • 質的研究の魅力に迫る書 (雑誌『看護教育』より)
    書評者:小山 眞理子(神奈川県立保健福祉大学教授)

    まずは目次だけ目を通そうと思って開いたが,最初から最後まで一気に読んでしまった。索引を含めて104ページとあまり厚くはないものの,これほど引き込まれるように読んだ研究法の本は初めてであった。本書は一つの特定の質的研究方法について論じた本ではなく,質的データを用いた研究のデータ収集から,分析,結果,論...
    質的研究の魅力に迫る書 (雑誌『看護教育』より)
    書評者:小山 眞理子(神奈川県立保健福祉大学教授)

    まずは目次だけ目を通そうと思って開いたが,最初から最後まで一気に読んでしまった。索引を含めて104ページとあまり厚くはないものの,これほど引き込まれるように読んだ研究法の本は初めてであった。本書は一つの特定の質的研究方法について論じた本ではなく,質的データを用いた研究のデータ収集から,分析,結果,論文の発表までの各プロセスについて書かれた本である。質的研究のプロセスについての本であるのになぜ引き込まれたのか?

    ◆研究上の実践的ヒントがいたるところに

    研究の各プロセスで記述されている例が実にリアリティがあり,研究例とはいえ現象を理解するための説得力がある。著者は豊富な質的研究の経験から,吟味しつくした例を適材適所に用いている。読者は研究のステップの理解を促すための「例」とは知りつつも,事例から現象を推察し,いつのまにか本に引き込まれていく。随所に「データを大切にして,現象から真実を得たい」という著者の,研究者としての熱意や探究心が垣間見られる。
    他の研究方法の書との違いは,あるべき方法を論じているのではなく,研究を通してそれぞれのデータに真摯に向き合いつつ「現象の本質」を探求する上での知見や価値観を創りあげた著者が,自分のデータを例としながら質的研究の各プロセスでの実践的なヒントを惜しげもなく書いている点であろう。

    そこには,質的研究に取り組む人々が,自分と同じ苦労をしないで研究をスムーズに進めることができるように,この本に書かれていることを「道具」として質的研究の実践に使ってほしいという著者の願いがあり,本著のタイトルの「実践ノート」につながっているような気がする。

    ◆本書の構成とその特徴

    本書の構成は「質的データを用いた研究のステップ」「研究テーマの絞り込み」「質的データの集め方」「質的データの分析」「質的データを用いた論文のまとめ方」「質的研究結果のプレゼンテーション」と各ステップでの留意点について,研究の目的が「概念を抽出する」ことか「現象の核心を記述する」ことかに分けて明記してある。また,質的研究には欠かせない「質的データ分析のスーパービジョン」について,スーパービジョンを受ける人,行う人がそれぞれ注意すべきことについても書かれており,最善の研究成果を得るために両者にとって必読の章である。最後に「質的データと量的データのコラボレーション」についてその重要性を示唆している。

    各章で「実践へのclue」や「ポイント」が明記されているために,急ぐ場合,あるいは読んだあとに要点を押さえやすい。B5判で300グラムというハンディさは,質的研究の「道具」として持ち運びしやすい。

    本書は,質的研究をしたいがどのように進めればよいかについて迷っている人,あるいは面接や参加観察でデータ収集はしたもののどのようにデータを整理し,分析すればよいかについて自信がない人々だけでなく,質的研究の魅力を知るためにも,大学院生,看護基礎教育の学生,教員,研究者,研究指導者,すべての看護職の方々に,待望の書として推薦したい。
目 次
第1章 質的データを用いた研究のステップ
 質的データにできること
 質的データを用いた研究に求められること
 研究のステップと本書がめざすもの
第2章 研究テーマの絞り込み
 学位論文,主任研究者として研究テーマを絞り込む
 プロジェクト研究にメンバーとして参加する場合
第3章 質的データの集め方
 インタビュー法
 参加観察
 アンケートの自由記載
第4章 質的データの分析
 コーディングとは
 研究目的に応じた分析の視点の違い
 コーディングの実際
 現象の核心を見出す
第5章 質的データを用いた論文のまとめ方
 論文執筆をどう捉えるか
 研究の背景の示し方
 文献検討の示し方
 研究方法論の示し方
 結果の示し方
第6章 質的研究結果のプレゼンテーション
 研究方法論の示し方
 研究結果のプレゼンテーション
第7章 質的データ分析のスーパービジョン
 質的データ分析におけるスーパービジョンのステップ
 質的データ分析におけるスーパービジョンのポイント
第8章 質的データと量的データのコラボレーション
 トライアンギュレーションによる論文の執筆
 質的データを量的データで補う場合
 尺度開発研究における質的研究結果の活用
おわりに
索引